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一通り説明が終わり、会議室からリラとバルボアが退室していく。
「意外過ぎるというか、急転直下で何がなんだか。」
フォリントが眉間にシワを寄せる。それを聞いたタラも、頷いて肩をすくめた。
直轄部隊長ソルが、みんなに声をかける。
「聞いてのとおりだ。作戦時間の明朝夜明け前までに準備をせねばならん。」
部屋の空気がピリッとする。兵士たちの緊張感だ。
作戦は頭に入った。これからは実際に体を動かしていかねばならない。兵士たちの顔付きが変わる。
「では、隊を二つに分ける。第一班は、瞬間移動後の将軍府の守備計画を検討する。班長はタラ。」
「はいっ!」
タラが立ち上がり敬礼する。
「資料作成や他の部隊との調整力が必要だ。人選はお前に任せる。四、五人ほど連れていけ。」
「はい。」
「今夜は眠れぬと覚悟しておけ。」
「はい!」
ソルが手招きする。
タラは周囲を見回し、覚悟のありそうな人にあたりを付けながら、正面へと歩いていった。
私が指名されませんように。徹夜残業なんてやってられない。
…そもそも、このオーガの体では資料作成なんてできない。折衝なんてなおさらだ。だから、絶対に選ばれない。ちょっと自信ある。
ソルが再び全体に声をかける。
「残りの者は、第二班。将軍府から無用の物を処分したり、第一兵舎まで運び出してもらう。班長は俺だ。」
片付け担当らしい。
転生前なら、間違いなく頭脳労働である第一班を希望しただろう。でも、この体では力仕事のほうが向いている。
タラがソルの横に立つと、何人かの隊員が集まってきた。
「第一班に入れてくれ。キンユー市内の地理には詳しい。」
「キンユーの南方は俺の庭だ。俺に任せて欲しい。」
さっき、めちゃくちゃ狼狽えまくっていたキンユー周辺の貴族の子息たちだ。故郷の危機に、故郷への愛が目覚めたらしい。われもわれもと立候補する。
「任されたのは、あくまでも将軍府の守備であって、キンユー自体の防衛計画ではないんだ。」
タラが理性的に言うが、脳が沸騰してる連中には話が通じない。
どこかでみたな、こんな感じ。
ああ、あれだ。地下神殿で襲われた半魚の集団にそっくりだ。幻惑魔法かけてやれば、静かになるんじゃないかな。
「と、とりあえず、フォリント! 一人目はキミに決めた。それから…」
タラは自分と仲の良い(中でも能力の高い)隊員四人を選んで、さっさと出ていった。
当然、キンユーの連中は誰一人選ばず。
賢い。
そのうちの一人でも選べば、他の者が何故選ばれなかったかの説明がいる。そんな奴らを混ぜて引っ掻き回されるくらいなら、自分の信頼できる者だけで固めれば良い。
「さあ、残りの者は俺に付いてこい。」
ソルの号令で、残り全員が将軍府の前庭に集合する。キンユー組はしょぼくれている。
「瞬間移動魔法は、重量と距離に比例するということは知っているな。」
「「「はいっ!」」」
「だから、将軍府の中の物を減らして、兵士や物資を入れられるようにしなければならん。」
「「「はいっ!」」」
「援軍部隊は、日暮れから集合を始める。それまでに搬出を終わらせなければならない。」
「「「はいっ!」」」
みんないい返事だ。
「まずは、全員で建物内の装飾品や道具をここに運び出す。全ての部屋を壁と床だけにしなさい。」
「「「はいっ!」」」
「隊長、将軍の居室もですか?」
ゲンが聞く。
「うむ…短期間だ。仕方あるまい。」
「分かりました!」
早速、隊員たちは将軍府玄関のカーペットをはがし、カーテンを外し始めた。
「お前さんには、こっちの仕事をお願いしようと思ってな。」
私はソルに手を引かれて、玄関先から外を回って裏手に向かう。
「ここにある倉庫。全部運んでくれ。」
「はぁ。」
百人乗っても大丈夫そうな倉庫が六つ。
何が入ってるか知らないが、要らないものはとりあえずここに入れてます感のある倉庫だ。
これの中身を夜までに運び出すのか。
「できれば、倉庫ごと運んでくれないか。」
「はぁああああ!?」
まさかの倉庫ごと。
見てわかりますよね。私より大きいんですけど!
「ここに台車を用意してある。この上に倉庫を乗っけて、運び出してくれ。」
「ひっ、一人でですか?」
「お前さんならいけるだろ。はっはっはっ。」
ソルの高笑いが響く。
大きくて丈夫そうな台車が足元にある。
意味わからん。私一人でできると思う根拠を示せ、エビデンスを見せろ!
なんてこと、おくびにも出さない。出せない。
「とりあえず、やってはみます。」
できないのを見たら諦めるだろ。
腰を落とし、基礎の部分に手を掛ける。
「よっ。」
ズズズ
動いた。見た目より軽いぞ。
「ふぬっ!」
グググッ
倉庫が斜めに持ち上がった。
上がる。上がるぞ。
何だこの微妙な重さ。全力を入れれば持てるギリギリのライン。
というか、基礎に固定してなくて良いの?本当に、ステンレスの物置を地面に置いているだけのようだ。
一旦基礎の上に戻す。
呼吸を整え、一気に持ち上げる。
「ほぁ!」
変な声出た。ちょっと恥ずかしい。
でも何とか持ち上がる。すごいなオーガのパワー!!
「くっ…」
ゆっくりと台車の上まで持っていき、そっと下ろす。
ズシン
「ぷはぁー。」
「うん。行けそうだな。」
しまった。駄目な所を見せるんじゃなかったのか。失敗した。
「では、この倉庫を運動場まで運んでくれ。」
「は?」
台車は一つしかない。
これを運んで、戻ってきてまた乗せる。それを六往復しないといけないのか。
なんで出来てしまったんだ、私。
「こっちだ。」
ソルが運動場の方に歩き始める。
台車で運ぶのも重い。
ピラミッド作るのに巨石を運ばされた人たちって、こんな感じなんだろうか。
重機やトラックのある世界が懐かしいよ、全く。




