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公務員が異世界に転生したら、ただの役立たずでした  作者: M
20章:混乱の会議室

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 リラは会議室に入って来るなり叫んだ。


「そこでよ!」


 バルボアもいきなりの事に驚いて返す言葉がない。

 リラは正面に向かって歩きながら話し続ける。


「キンユーへ援軍を送ろうって作戦よ。」

「リラ様は本当に…」


 バルボアはため息まじりにそう呟くと、一歩下がる。

 リラは颯爽とバルボアの前に立つ。スタイルが良いから軍服の着こなしもキレイだ。


「さて、キンユーの状況は分かってるわね。もう被害が出ている。すぐにでも援軍が必要だわ。」


 リラは水晶玉に手を当てて、投影された地図に矢印を書き込む。キンユーに向かってくる青いシヘーの線に、南の方から赤い矢印を正面からぶつける。


 そうだ。キンユーを守る部隊が必要だ。

 だが、どうやって援軍を送るのか。赤い矢印はどこから伸びているのか。

 隊員たちは固唾をのんでリラのセリフを待つ。


「このコーカ将軍府は、緊急時に敷地ごと瞬間移動できる移動要塞でもあるのよ。」


 リラの説明に室内がざわつく。それを知っていた者、知らなかった者、次にリラが言うであろう作戦に気付いた者。それぞれが驚きの声を上げる。


「そ、こ、で。将軍府に援軍を乗っけて、キンユーまで飛んでいくの。」


 ざわつきが大きくなる。


 バルボアもソルも動かない。何も言わない。

 つまり、リラの思い付きというわけではない。調整済みの内容で、決定事項なのだ。


「将軍が、現地へ行って作戦指揮を執るための瞬間移動機能よ。二百年前に使われたのが最後。これは、正式な籠城軍将軍にしか発動できない魔法なのです。」


 リラは少し深い呼吸し、間をとる。


「こうしている間にもキンユーは攻撃を受けているわ。今、これを使わないでいつ使うの?」


 ドヤ顔。

 リラは「今でしょ」と言い出さんばかりの勢いだ。

 と言う事は…。この作戦、リラが発案したんじゃなかろうか。


「今、リラ将軍から作戦説明のあったとおりだ。この将軍府をキンユーまで瞬間移動させる。将軍が発動すると言う事は、将軍自らキンユーに赴かれると言う事だ。」


 バルボアがリラの説明を復唱する。なんで彼は同じ事を繰り返したがるのだろう。


「つまり。我々、将軍直轄部隊も戦場に出る可能性がある。」

「………」


 途端に会議室が静かになった。

 空気が凍るというやつだ。


***


 市役所の頃にも似たようなことがあった。


 税金担当では毎年十二月に法律改正に関する大きな発表がある。与党の税制改正大綱というやつだ。

 ある程度事前情報が出ている事もあるのだが、ギリギリまで折衝されているため、発表になって初めて分かる事実というのもある。


「大綱が出たよ。来年四月以降は、取得後初めての年だけ減税するんだとさ。」


 係長が資料を読みながらぼやく。


「また、ややこしい事を。」

「政府は税金が安くなれば国民が喜ぶと思っているんでしょうけど、こんな複雑な条件だけ減税されてもねぇ。」

「これ、説明するの大変だわ。」


 別堂さんたち係員が絶望する。


「でも、取得後初めてっていったら翌年度の課税だし、一年かけて準備できるから何とかなるでしょ。」


 係長は楽観的な顔をして、資料を机の上に放り投げる。

 私はその資料を拾って軽く目を通す。そして気付いてしまった。


「あの…四月一日取得の人は今年度課税ですよ。」

「あ…じゃあ、税額計算や通知書や全部、あと三ケ月で対応してしまわないといかんのか!?」

「………」


 係長の発言に税務課の空気が凍った。


 そして、その後は地獄だった。対応に残業しまくって…


***


「まさか、俺たちが戦場に…!?」


 私の周囲が隊員たちの困惑で充満する。

 戦争なんだから、兵士が戦場に出るのは当たり前の話。だが、この直轄部隊の中の何人がその覚悟をしていただろうか。


「実戦に投入されるのか?」

「我々に何ができるんだ。」

「爵位順に戦えとか言わないよな。」


 怯えた声が聞こえてくる。

 名称は「将軍直轄部隊」と大層な名前がついているが、基本はリラ将軍のお婿さん候補。やってることは貴族の軍隊ごっこ。

 プラも「直轄部隊が戦場に出るような事態になったら、この国も終わり」だなんて言っていた。

 故に、最後の最後で仕方なく戦う以外に自分たちの出番はないと高を括っていた人たちなのだ。


「まさか、将軍府を動かすとは…」


 そう言うけれど、タラは落ち着いて見える。内心は推し量れないが。


 対して隣のフォリントはあからさまに挙動不審。周りに「どうする?」と聞きまくっている。

 タラがフォリントの肩を掴む。


「落ち着け。どうするもこうするも、命に従うしかないだろう。」


 将軍が戦場に向かうというのに、その直轄部隊が留守番するというのはありえない。考えなくても分かる。

 だから、どうしたら私だけでも留守番できるかを考えていた。


 突然、私の体調が悪くなったりしないかな。

 クーナやレウに無理矢理呼ばれたりしないかな。

 親族に不幸が出たりしないかな。


(…きっと駄目だ。)


 私はため息をつく。


「はーい、静かにっ!」


 リラが静粛を求めるけれど、先程のバルボアのように上手くはいかない。


「しーずーかーに!」


 状況が状況だけに、なかなか落ち着くのは難しい。

 リラやソルだけでなく、ゲンみたいなリラのポイントを稼ぎたい人たちが再三注意を繰り返し、やっと静かになる。

 バルボアはその様子を静かに眺めていた。


 将軍自らが注意しているのに、なんて忠誠心のない部隊なんだろう。

 いや、将軍に威厳がないのか?


「静かになるまで何分無駄にしたと思っているんですかっ!」


 まるで小学校の先生のような言い方に場の空気が和む。

 確かに威厳は感じられない。やはり、リラではしょうがないか。


「安心しなさい。」


 リラは今までになく優しい口調になった。


「あくまでも援軍を運ぶために将軍府を動かすだけであって、運び終わったらすぐに帰って来ますから。」


 その言葉を受けて、隊員たちから安堵の声が漏れる。

 リラが念を押す。


「大丈夫!」


 リラの大丈夫は本当に大丈夫なんだろうか…。


登場人物紹介

市役所の人たち

「市長」訓示をいう人。

間倉(まくら)」保護課時代の先輩。リーゼント。

別堂(べっど)」税務課時代の先輩。素敵なおば様。

椎津(しーつ)」仕事にまじめすぎる同期。

根牧(ねまき)」お調子者の後輩。

「係長」税務課時代の上司。苦労人。

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