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公務員が異世界に転生したら、ただの役立たずでした  作者: M
20章:混乱の会議室

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 ソルとバルボアは会議室の正面中央まで来る。その後ろに事務員のプラが、荷物を持って付いてくる。

 バルボアが挨拶をする。


「おはよう、諸君。」

「「「おはようございます!」」」


 バルボアが軽く手を上げ、「座ってくれ」と声をかける。

 全員が着席する。


「今日は重大な伝達事項があって、急遽集まってもらった。リラ将軍は遅れるそうだから、先に始めよう。」


 リラも来るのか。いよいよ大事(おおごと)なんだろう。タラの表情が険しくなる。


「プラ、頼む。」


 プラが水晶玉を使って、資料を壁に映す。

 地図のような図が描かれているが、書いてある字は読めない。


「北部要塞の件だ。本来ならば第四侵攻軍の本隊は今日到着する予定だったのだが、シヘー軍の妨害にあって遅れている。」


 まあ、そのくらいの事は想定されるよな。


 ソルが水晶玉に触ると、投影された地図に赤い線が書き足される。


 その場で書き足せるパワポみたいなものか。ということは、あの水晶玉って、この世界のパソコン+プロジェクター?


 赤い線は第四侵攻軍の進路のようだ。となると、大きめの菱形のマークが北部要塞か。

 ……あの地図、どっちが北だ?


 バルボアの説明は続く。


「そして、西ペンス山脈の向こうに集結していたシヘー軍の一個大隊。これが北部要塞に突入してくるものと想定していた。」


 黒い四角から、今度は青い線が菱形に伸びていく。黒マークがシヘー軍らしい。大小様々な黒四角が山脈の向こう側に描かれている。そちら側がシヘーの領域なんだろう。


「昨日、この大隊の約半分が山脈を越えてキンユーヘ直接向かった。」


 場内がどよめく。

 青い線が指す先は、北部要塞を示す菱形から大きな丸の方へと移動した。あの丸がキンユーか。


 先頭で聞いていたゲンが手を挙げる。

 ゲンはこういう所で目立って、お婿さんポイントを稼ごうとしているのだろう。


「なんだ?」

「西ペンス山脈はかなりの急峻です。北部要塞の前まで迂回しないと、そんな大部隊が山脈を越えられないはずです。どうやって…」


 確かに、シヘー軍の進路を示す青い線は山脈を突っ切っている。


「それが我々の盲点だったのだ。」


 ゲンが質問を言い終わらないうちに、バルボアが話し始める。


「山脈を西と東に分ける峡谷。ここにある北部要塞を通らないとシヘー軍は南下できないはずだった。だからこそ重要な防衛拠点なのだ。」


 バルボアが地図の菱形を指差す。


「故に、シヘーは南下の拠点として北部要塞を陥落させたはずだ。だからこそ、我々は籠城軍を使って峡谷を抑え、北部要塞への援軍が出来ないように包囲した。そして侵攻軍の到着をもって反撃に…」


 バルボアの話が長くなってきた。

 作戦の事はみんなが知ってる。今さらである。

 そもそも、彼はゲンの質問である「越えられないはずの山脈をどうやって越えてきたか」をまだ説明していない。


「ちょっといいですかな。」


 ソルが手を挙げた。バルボアが熱弁を止め、ソルが代わりに話し始める。


「斥候の報告によるとだな、部隊はバードマンとワイバーンが兵士や装備を運んでいるそうだ。」


 つまり空挺部隊。空を飛んで山を越えたのだ。

 ゲンは更に突っ込んで聞く。


「ワイバーンがいた事は分かっていたのではないですか?」

「ああ。司令部参謀は、ワイバーンを使って北部要塞の包囲を空から突破するためだと踏んでいた。まさか山越えに使うとは想定していなかったのだ。」

 

 ソルは眉をひそめつつ、話し続ける。


「恐らく、バードマンたちを何度か往復させて、部隊全体を山越えさせるに違いない。」

「要塞を包囲する籠城軍を山脈の東西から挟撃する可能性もありませんか?」


 さらなるゲンの質問に、今度はバルボアが答える。


「いや、それがだな。先行するワイバーンが既にキンユーを攻撃しているのだ。つまり、彼らの攻撃目標はキンユーで間違いない。」


 ざわめきが更に大きくなる。

 タラとフォリントも囁くように話し合う。


「キンユーを守備する籠城軍は要塞に出払ってしまっているはずだよな」

「ああ。だから、ほぼ無防備だ。」

「まずいな。」


 キンユー周辺を領地とする貴族の息子たちが狼狽えている。


「キンユーに居る家族が心配だ。」

「籠城軍を北部要塞から戻らせるべきじゃないか。」

「キンユーにいるゴブリンどもが手引したのでは?」

「そもそもこんな戦争がおかしいんだ。」


 会議室は騒然とし始めた。


「ゴブリンが手引?」


 騒ぎの中で、私は気になった言葉をタラに問う。


「ああ。キンユーをはじめとした北部には、コーカ進出後も残ってコーカ国民となったゴブリンも多いんだ。」

「キンユーのゴブリンの中にも、ゴブリン王国の復活を画策する勢力だっているとも聞くぞ。」


 フォリントが付け加える。


「ゴブリンがスパイってことですか?」

「キンユーでは、そんな考えではないゴブリンの方が多いはずだよ。」

「しかも、シヘーの本隊は人間とドワーフだ。この戦争に参加しているシヘーのゴブリンなんて、全シヘー軍の一割にも満たない。」


 タラとフォリントは実に様々な情報を持っている。正直、情報過多でもう理解が追いついていない。


「コーカ国民のゴブリンは悪くないだろう。ただ、他の人種の人々が疑心暗鬼になるのは容易に想像がつく。今後はそれを織り込んでおかなければ。」


 タラは政治家みたいな事を言う。


 そう言えば、彼は貴族の息子だ。

 将来家督を継げば、自分が領地を持つことになるんだろうし、為政者としての考え方ができないといけないんだろうな。


「皆、落ち着け。」


 バルボアが一喝する。かなり大きな声だ。

 かなり騒々しくなっていた室内が、一瞬で静まり返る。


 バルボアは周囲を見回すと、一呼吸置いてから口を開く。


「…我々は、キンユーを守りに行かねばなるまい。そこで…」


 そこで、突然会議室の扉が開いた。


「そこでよ!」


 リラの登場だ。


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