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公務員が異世界に転生したら、ただの役立たずでした  作者: M
20章:混乱の会議室

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 コロンが私の侍女の任務を離れて三日。

 私の部屋には、直轄部隊のゲンが起こしに来てくれている。


  ベシっ!ベシっ!ベシっ!


 ゲンは、コロンのように反睡眠魔法ではなく、往復ビンタという暴力で起こしてくる。

 私は少しだけ赤くなった頬をさすりながら起きる。


「うぅ…おはようございます。」

「寝起き悪いっすね。」


 ビンタはそんなに痛くはないのだが、鬱陶しい。

 まあ、悪夢で目覚めることはなくなったから良いんだと考えよう。


「…オーガは夜行性らしいです。」

「ああ、どおりで。」


 夜行性のことは、オーガ研究の第一人者であるクーナに教えてもらった。

 他にも、アルコールが分解されてできる毒(ホルムアルデヒドだっけ?)も効かないからどれだけ酷い酒を呑んでも悪酔いしないだとか、血の匂いと仲間の臭いにだけ敏感だとか、色々とどうでもいい知識を得た。


「今日は、朝一からミーティングに変わったっす。」

「そうなんですか。」


 この数日で、ゲンはだいぶ砕けた話し方をするようになった。

 本当にこれが貴族だろうかという話しぶり。

 私は簡単に身支度をすると、ゲンと食堂へ移動して朝食をいただく。一息ついてから会議室へと出勤する。


 将軍直轄部隊は他の部隊とは違う。朝礼前の筋トレもないし、業務後はそれぞれに解散。

 貴族の子息が集まっているからか、その辺は他の部隊と比べても緩いのかもしれない。軍隊というより会社員に近い気がする。


 会議室にはずらりと椅子が並べてあった。

 ゲンは下っ端なので、一番前の椅子に座る。対して、私は一番後ろに座る。私の体が大きくて、後ろから前が見えなくなるからだ。


「ここ空いてる?」


 タラが隣にやって来た。


「こんな後ろに座るだなんて、珍しいですね。」

「そんな時もあるよ。」


 タラはそう言うが、きっと私に何か用があるのだろう。何聞かれるか分かんないし、当たり障りのない話しをする。


「全員集合させてのミーティングなんて、珍しいですね。」

「今回は北部要塞の戦況について説明があるらしい。どうやら動きがあったようだ。」

「援軍が到着したんですかね?」

「…だけでは、ミーティングはしない。」


 タラは複雑な顔をする。


「そう言えば、なぜ戦争になったんですか?」


 私はこの戦争の始まりについて何も知らない。


「シヘー連邦と戦争しているのは知っているか。」


 私は頷く。

 さすがに戦争相手の名前くらいは知っている。


「四年くらい前かな。シヘー連邦がコーカ北部を取り戻そうと軍を動かしたのが始まりだ。」

「北部は、シヘーの土地だったんですか?」

「もともと北部にはゴブリンの国があったんだが、二百年前に内乱で壊滅したんだ。そこへコーカ王国が進出して統治したという歴史がある。」


 進出なのか進攻なのか。

 統治なのか征服なのか。

 タラの言い方は、あくまでも勝者を正当化する表現だ。


「内乱で北へ逃れたゴブリンたちは新たな国を興した。そのゴブリンの国は、現在シヘー連邦の一部となってる。」

「昔のゴブリンの国土を取り返そうとして、戦争を仕掛けてきたということですか。」

「そだろうな。シヘーのゴブリンにとっては、自分たちの土地だという意識が強い。」


 どこでも、戦争の動機は領土問題が絡むんだな。


「なんで二百年前のことを今更…。」

「シヘーと言うのは不思議な国家体制なんだ。種族ごとに国があって王がいる。複数の種族の国々で一つの連邦なんだよ。」


 いうほど不思議かな? この世界では連邦国家は珍しいのだろうか。


「そのためシヘーは不安定な政権となっている。」

「つまり、政府の支持率を上げようとして攻撃してきたんですかね。」

「理解が早くて助かる。」


 戦争も政争の手段の一つってことか。


 その時、後ろから声がかかる。


「俺は理解が遅かったからな。」


 フォリントだ。

 タラは振り返って否定する。


「いや、君のことじゃないさ。」


 フォリントは、分かっているよと笑い、回り込んでタラの隣に座る。

 そして、彼も解説を始めた。


「初めは格好をつけるだけの威嚇攻撃だったんだ。やることはやってるよと国民向けのアピールのためのね…」


 フォリントがため息を吐く。

 その後をタラが補足する。


「ところが、シヘー軍部の暴走に近い形で戦端が切られた。」

「あれはゴブリンの部隊だったに違いない。」

「奇襲に近い戦いで初戦に勝ってしまったから、シヘーでは支持率が急上昇。」

「後に引けなくなって戦線が拡大していったって状況だな。シヘー軍も疲弊しているが、辞め時を失ってしまったと。」


 二人は交互に説明をしてくれる。フォリントは少し食い気味に話す。

 仲良いなこの二人。


「今ではペンス山脈の北側は全部シヘーになってしまった。」

「それ以上の南下を北部要塞で抑えていたというのに、とうとう陥落してしまった。これを奪還できなきゃ、キンユーは時間の問題だ。」


 地理を言われても、あんまり分からないのだけれど。だれか地図をくれませんか。


 そんな話しをしているうちに、隊員全員が揃っていた。

 タラがこちらに向き直す。


「そうだ。君の侍女だったコロン氏と何か話をしていないか?」


 ああ、これが話したかった本題なのだろう。


「コロンさんと?」

「これからどんな仕事をするとか…」

「いえ、特に。『きっとすぐにお会いできますよ』とだけしか…。」


 プリンを食べた翌日、つまりコロンに辞令が降りた日の事を思い出す。

 一緒にご飯を食べて、私は泣きまくった。


 あの日以降、念話魔法で連絡をしたのは一回だけ。

 コロンが預かってくれていた、服や鎧などを部屋に置いてくれたのだが、どうしても箸が見当たらなかった。これではご飯が食べられない。

 枕が変わると寝られないみたいな精神的なものではなく、ダマスカス鋼の箸でないと物理的に食べられないからだ。


「あ、でも。そう言えば、あの時…」


 私がそう言いかけた時、隊長のソルと将軍補佐バルボアが部屋に入ってきた。

 全員が起立する。


「ゲン」

種族:人間(コーカ人)

年齢:22

身長:170

体重:77

所属:第一籠城軍将軍直轄部隊

特技:電撃魔法

座右の銘:我田引水

備考:

 コーカ西方の山間にあるコインという町に領地を持つ子爵家の次男。直轄部隊で一番若い。

 田舎暮らしにうんざりしており、リラの夫になって一発逆転を狙っている。

 とはいえ、本当はリラのような年下なんかよりもかなり年上が好き。熟女キラーでもある。

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