インタビュー
テレビのドキュメンタリー番組の、インタビュー。
あなたのお話を聞かせて。
え? なに、いきなり‥‥‥。今日は何を買いに来たのって?
これテレビなの? ‥‥‥ああ‥‥‥ドキュメンタリーね。たまに見るわ。
今日はボタンを買いに来たのよ。ずいぶん熱心にって、あんたね、ボタンは高いのよ。
知らなかった? ま、たいがいの人は知らないわよね。ボタン一個がこんな値段するなんて。
考えてもごらんなさいよ、高っかいブランドの服についているボタンが百均でも買えるようなものだったらどう? 釣り合いがとれないでしょ? ストラディバリだって、町中の楽器店で売ってる弦で弾けるわけないわ。そういうこと。
仕事は、お針子。デザイナーなんて、そんな違うわ。ただのお針子。頼まれたものを作るだけ。ふだんはショウとかレビューの舞台衣装がほとんどね。たまに、パーティー用のドレスも縫うわ。
ほら、わたしたちって既製品がほとんど合わないでしょ? だから、需要はあるのよ。
でも、今日は自分のジャケットのボタンをさがしに来たの。
久しぶりに自分の服を作ることにしたから。うん、これからの季節用に縫うの。
すごい楽しみ。ワクワクする。
ご出身って、生まれたとこのこと? 北国。でも、高校中退して飛びだしてきて、もう何十年って帰っていない。向こうに帰っても、わたしのしたいことはできないし‥‥‥。こんなに大きな手芸店だってないわ。
ネットで何でも買えるかも知れないけど、直接見てみたい。
ほら、ほんの数ミリ違うだけでこんなにニュアンスが違うのよ。実際に見たりさわったりしないとイメージ通りのものが作れないじゃない?
子どものころから好きだったわ。服は母親がほんど縫ってくれた。見よう見まねでね、特別学校で習ったわけじゃないわ。
ほら、これ。わたしのお洋服。素敵でしょ? ドラァグクイーンっていうのよ。長いドレスの裾を引きずって。
びっくりした? みんな凛として美人さんでしょ。
そりゃスパンコール、縫いつけるの大変よ。一個一個、気が遠くなるくらい縫い付けるんだもの。
でも出来上がりを見ると、そんな苦労も吹っ飛んじゃう。喜んでもらうとなおさら。
だからやめられないのよねえ。
うん、これにする。
高いけど、お金を惜しんで譲歩した服を作ることなんてないわ。わたしは好きなものを、ステキって思うものを作るの。
あ、これいつ放送されるの? そう、必ず見るわ。
でも、わたしのインタビューなんてほんどカットされちゃうんでしょ? いいの、いいの。構わないわよ。
こちらこそ、話を聞いてくれてありがとう。
こんど、お店のほうに来てみて。『お姉さんたち』がわたしの縫った衣装で渾身のショウを見せてくれるわよ。
じゃあね。
NHKの番組、「ドキュメント72時間」のとある回。
それに出ていた方、ほんどそのままなんですが。
素敵だなあと思ったので。