99.戦争の天才
連合軍の新たな総司令官となったエンリケ王とは、中堅国家の王だった。
エンリケ国王の名は、エドワード・エンリケと言う。
エドワードがエンリケ王となるまでの道のりは、困難な道のりだった。
わずか7才で王位に就く。しかし、当然、7才の子供には政治などできるわけもなく、権限は宰相に全て奪われてしまった。
そして、数年たつと、弟が他の家臣にかつがれ反乱を起こす。その反乱は成功した。
しかし、宰相率いる一団は抵抗をかさね、内乱は泥沼へと落ちる。
その際、宰相は人気が低いエドワードより、妹を担ぎ出した。
つまり、エドワード自身は不要となったのだ。そのため、暗殺の危機に陥る。
エドワードは一部の家臣の手で逃亡とした。その結果、身一つで、国外へ逃げ出すこととなる。
しかし、エドワードは後に戦争の天才と呼ばれる王だった。
貴族に自治権を持つ者の中に、圧政を行う者がいた。
そして、そこに住む人々に目をつけ、貴族へ反乱を起こす。
エドワードは、勝利へと導いた。そこから、周辺の民を味方に率いれる。
しかし、圧倒的に兵数が少ない。軍人ではないため、圧倒的に弱い。
だが、エドワードは、その弱点を智略ではねのけ、勝利する。
エドワードは、エンリケ王として再び即位した。
各国首脳は、その事実を知る。常勝ではないものの、負けたのは幼少の頃だけであるし、それは状況が状況なだけに仕方ないことだった。
だが、少し兵が少ないぐらいであれば、戦争の天才と呼ばれたエドワードは負けなかった。
そして、中堅国家であるため、大国家にとっては、御しやすいと思える相手であった。
ここに連合軍の総司令官は誕生する。
そして、ジャパン国を除く各国首脳にて軍事会議が始まった。
「エンリケ王よ、どのように攻める?」
「ローマ帝国を倒すのは、実に簡単だ。一本の矢をもって、ローマ帝国を瓦解させる。」
その発言を聞いたものは、主旨が分からなかった。
だが、エドワードは烏合の衆をまとめる必要があった。
そのため、説明を続ける。
「アテナ女王を倒せば、誰が次の王となるかを決めるために内乱が起こるだろう。
弟のセトは王位継承を蜂起している。
長期決戦は補給に難があるため、短期決戦で挑み、アテナ女王を討つ。
そのために、各国の精鋭を100人ずつ出していただきたい。
飛矢のように、戦場を駆け、アテナ女王を討つとしよう。」
エドワードは、自信に満ちていた。
そして、その自信を持つに足る資格を持っていた。
「エンリケ王は、天才だ。」
各国首脳も勝ちのビジョンが見えたのだろう。そう評された。口々に、「エンリケ王を見いだしたのは我が国だ。」と言い始める。
エンリケ王は、そんな言葉を冷笑しながら、自国を更に強国にすると野心を抱え、戦いに挑むのであった。
この戦いに勝てば、間違いなくエンリケ国に民が集まる。強国とは、そういう物だ。誰だって安寧な日々を欲しいだろう。
そして、エドワードは、ローマ帝国軍と対峙することとなる。
兵力は互角だった。
互いの兵力は、開戦当初よりも膨らみ、20万対20万となっている。
開戦は、正攻法に進む。
連合軍の布陣は、右翼、中央、左翼に分かれ、遊軍として後方へ回り込むことができるように配置されていた。
ローマ帝国軍も同様の布陣となる。
「右翼より、前進!」
連合軍の右翼から攻撃が開始される。そして、自然と斜めの陣形となり、中央と左翼も攻撃を始めた。
戦況は、一進一退であった。エンリケ王は、互いの軍が烏合の衆であると理解している。
だからこそ、瓦解しやすいのだ。
そして、そのリスクは、連合軍の方が高かった。
そのため、先手を打ち続けるしかない。
「遊軍、左側面より回り込み、後方を討て!」
互いの遊軍が左側面へ、移動し、攻撃態勢に入る。
この瞬間がエドワードにとって、勝負の瞬間だった。
当初より予定していた秘密裏の1000の兵の部隊が、右側面より、一陣の矢のようにローマ帝国の本陣へ突撃した。
各国の精鋭で組織された部隊である。各国が自身を持って送り出した部隊であるだけあって、
手薄となったローマ帝国軍の本陣へ一気に突撃した。
それはまさに、1本の矢が本陣へ飛来したようだった。
しかし、精鋭部隊は驚愕する。本陣には、人のように動く石がいたものの、人はいなかった。
「なんだ、これは!」
それは、ゴーレムと呼ばれる存在だった。
しかし、遠くからは、その差異は分からない。
連合軍は本陣へ突入した味方を見て、勝ちを確信する。
その時、円形の光の柱が本陣に立った。
昔、カインが使った技である。太陽光を使ったレーザーである。
精鋭部隊は、魔法攻撃に備えて、魔法防御の結界が張ってある。
しかし、その攻撃は、物理攻撃であった。
サンレーザー。太陽光を収束した一撃により、精鋭部隊は文字通り、一瞬で消滅した。
「何が起こっている!?」
「ただの光さ。」
「ただの光なわけないだろう!」
エドワードは、その時、気づく。
部下の声ではない。女性の声だった。
後ろを振り向くと、そこには紅い髪の女性が立っていた。
他の者は、全員が地面に伏せているように見える。
「なっ!?」
「チェックメイトだ。一応、聞くが、降伏の意志はあるか?」
エドワードは思わず剣を抜いた。そして、構えかけようとした。
「残念だよ。」
エドワードが剣を構える前に、アテナに斬られ、エドワードは地面へ倒れる。
「な、何が起こったんだ…。」
その問いに答えるものは、エドワードの周りにはいない。
その問いの答えを聞くべき者は、既に聞くことができなくなった。
エドワード、いや、エンリケ王は、ここに没することとなる。
【アテナ】
「ふむっ、この程度か。」
アテナの作戦は、エドワードと類似していた。
いや、エドワードの作戦を見抜いて、あえて類似させたのだ。
人は上手くいっている時ほど、油断する。そこを見事についたのだ。
エドワードは、1000人の精鋭部隊を弓矢に見立てて突入させた。
アテナは、ローマ帝国軍最強である自身を弓矢に見立てた。
それは、狙うべきはずの的が、弓矢となっているのだから、攻防一体であった。
そして、光の柱を出現させる派手な攻撃を演出し、全員をその攻撃に注目させた。
その隙に、一気に連合軍の本陣へ忍び込み、エドワードを討ったのだ。
それは、アテナの武勇があってこそ成せる作戦であった。
「さて、掃討戦を始めるとするか。」
アテナは、狼煙を上げた。その合図で、ローマ帝国軍の動きが変わる。
今までは連合軍の動きに合わせて、ゆっくりと動いていたのだ。
しかし、合図をきっかけに速度が上がる。
ローマ帝国軍は、スピード重視の布陣だったのだ。
騎馬隊が、連合軍に突撃する。その位置は各国の軍同士の境目となる場所だった。
そこから、包囲網を完成させ、殲滅していく。
それは、両翼で起こった。
右翼は、セトの指揮のもと、殲滅していく。
左翼は、グラウクスの指揮のもと、殲滅していく。
遊軍は、グラトニーの指揮のもと、殲滅していく。
そして、中央はアテナによって、殲滅していく。
指揮すべき者が戦いの序盤で討たれてしまったことにより、連合軍は混乱状態となった。
各国の軍が、各自で戦い始めたため、連携など何もない。
小軍の抵抗など、戦況に影響を与えることはなかった。
ローマ帝国軍と連合軍の戦いは一方的な戦いへとなっていく。
もはや、挽回の余地もなく、連合軍は絶体絶命の危機だった。
しかし、またもや状況が一変する。
それは、カインが魔王に放った一撃が戦場の上空を横切ったためだ。
アテナは、それを見た瞬間、カインが自由になったことを悟った。
「全軍、撤退する!」
ローマ帝国軍は、あっさりと引き下がってしまった。
十分な余力さえあれば、攻撃の好機である。
しかし、もはや連合軍には追撃するだけの余力はもうなかった。
こうして、ローマ帝国軍と連合軍は、一方的なローマ帝国軍の勝利となる。
グラウクスは、アテナをこう評した。
「猛将は、退くべき時にあえて退かずに戦う。智将は、退くべき時に退くことができる。こアテナ女王は、猛将と智将を兼ね備えた名将である。アテナ女王こそ、戦争の天才と呼べるだろう。」
後世も同じ評価をしている。
エドワードは、実績や智力は普通の将を遥かに上回っていた。
人より秀でていたのだ。エドワードは、後世の評価として秀才と呼べるだろう。
しかし、アテナ女王はその秀才を上回った。
秀才を、上回るのは天才しかいない。
アテナ女王は、戦争の天才と評された。
この戦いにより、連合軍は混乱を極めた。
もう連合軍に勝ち目はないように見えた者もいたのだ。
大幅に兵を失った国は、慌てて補強する。しかし、軍人はいない。自国の兵が少ないせいで負けたとなれば、面子にかかわる。
軍人がいないのであれば、一般人を参加させればいい。
国民総動員で、連合軍へ参加をする国が現れ始めた。
勝ち目のないと判断した国は、連合軍から離れローマ帝国軍へつく。
しかし、兵が少ないと冷遇されるのは、目に見えている。
そこで、形を整えるため、国民総動員で兵数を整える。
アテナは、当然、冷遇をしようとするが、家臣に止められたため、他の離反者を増やすように仕向けるため、あえて厚遇した。
そして、両軍は一般人を巻き込んだ愚かな軍へと変質を始める。
この愚かな戦争を止める者は、やはりカインとなるのだった。
本来であれば、連合軍はこの時点で瓦解するはずだ。
しかし、カイン個人への味方が到着した。
同盟を結んだ獣人国である。
本来であれば、獣人は卑下されていた。しかし、こんな状況である。
一人一人が人間より圧倒的に強かった。そんな獣人国より、10万の軍勢が応援にやってきたのだ。
この軍勢を見て、各国はまたもや心が揺れ動く。
どちらが勝つか、まったく分からない状況となってしまった。
各国の混乱は、まだまだ続く。
次回、『100.神龍リュクレオン』へつづく。