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ようこそ、異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語  作者: 蒼井 Luke
第4章 英雄の落日
95/120

95.軍神

『会議は踊る、されど進まず。』


後世、オルヴィスの世界にとっては、連合軍の会議から生まれた言葉である。

各国の首脳は、それぞれの利権や名誉を競って、主張を曲げようとしなかった。


「議長、もはや強行採決すべきだ!」

「そんなことをしたら、わが国は連合から脱退しますよ。」

「なんだと!?」


事務方の者たちは、繰り返される会話に嫌気がさしていた。

そして、最後に決まってまとまる話しがある。


「今日は一時中断して、また明日、再開しましょう。」


連日、この繰り返しだった。

作戦が決まらなかったため、やることがない部下たちは、他国へ連合へ参加するよう要請するのみだった。

そして、要請に応じた国の票を取り込んでいく。


会議は再開された。

しかし、またもや利権が絡み合い、会議は進まない。

そんな最中、会議場に轟音が鳴った。


ドゴーーン。


「なんの音なのだ?ここは、安全なのか!?」

「前線で、小競り合いがあったと思われます。

敵国の攻撃を防いだ音なのでしょう。」

「そうであったか。まぁ、心配はいらぬか。我々の身に危険がないよう、十分に、いつも以上に、念入りに、細心の注意をはらっておくのだぞ!」


各国の首脳は、自己保身に走る。

部下たちも、だんだんと嫌気がさしてきた。

この連合軍が負ければ、祖国を失う可能性があるのだ。


「前線の状況は、逐一入っては来る。あの国が率先して戦っているのに、我々は何をしているんだ。」

「隊長、お願いがあります。」

「言うまでもない。だから、発言を控えてくれっ。我が軍は、偵察として複数部隊を動かす。たまたま、前線で敵と遭遇し、前線の味方の指示を受けることになっても、事情が事情だ。やむを得ないだろう。」


各国の軍幹部は、そうやって少しずつ自軍を前線へ送っていく。

首脳の中には、当然その動きに気付く者もいた。しかし、あえて気づかないふりをする。それは良識のある首脳だった。このままでは負けてしまうため、何も発言をしないことで、前線を支援した。

いや、そうせざるを得ない程、会議にまとまりがないのだ。


第1回目の会議は、まとまりがあった。

それは、クロノスナンバー13であり、クロノス神より世界の変革を命じられたジャパン国の首相がいたからだ。

何より決定的だったのは、会議前にローマ帝国軍との撤退戦で、見事な指揮をとったことで、会議の主導権はどこがもつか決まってしまった。そう判断した。このままでは、利権も名誉もジャパン国のものになると勝手に思ってしまった。


ジャパン国が突出してしまったからこそ、各国首脳はジャパン国を蹴落とすために一致団結したのだ。

満場一致でジャパン国を前線へ送り出してしまったのだ。

誰も会議の場に残させずに。


カイン首相は、当然、抗議をした。

しかし、民主的に決まったことなのだ。カイン首相は、従うしかなかった。

あくまでも、条件付きであるが。


その条件とは、前線での全権委任だった。

それは、現場の判断で好き勝手にやってよいといった権限だった。

各国首脳は悩む。しかし、前線の指揮官より、総司令官が名誉を手にするものだ。そして、利権の会議にはジャパン国はいない。しぶしぶであるが了承したのだ。

この権限により、カイン首相は前線をコントロールすることができるようになった。


前線は、各国の混合軍となる。

しかし、カイン首相がその権限により、まとめることとなったため、統一的な動きを見せることができた。

だが、それだけではない。

カイン首相のカリスマに、全員が従ってしまったのだ。


実は、カイン首相の評判はあまり良くなかった。

獣人国の王子がカイン首相のことを話した時、『臆病者』と罵ったように、フィーナ国の王位を放棄したと思われる行動を取ったのは、臆病者だからと思われていたのだ。


人の心理とは不思議なものである。

普段、悪いことばかりしている人が、たまに良いことをすると、実はいい人なのだと思われ、普段から同じ行いをしている人以上に良い人と思われることが多々ある。

ギャップは、自身が持つ物差しを狂わしてしまうのだ。


この時、噂に聞いていた思い描くカイン首相と、実物のカイン首相は、あまりにもかけ離れていた。

実物のカイン首相は、覇者の威圧を持ち、明瞭な知性の元で軍をまとめ上げているのだ。


カイン首相と会った人や、見かけた人は、カイン首相に惚れ込んでいく。

そして、熱狂的な信者となっていく。


カイン首相は、その熱狂的な支持に応えるだけの力があった。

現在の戦況は、常識とかけ離れた状況となっている。

あまりにも常識外の戦いとなっているにも関わらず、カイン首相の指示は的確だった。

そして、圧倒的な力を見せつけているのである。


以前、ローマ帝国軍は、空戦部隊で大打撃を各国に与えた。

空戦部隊へ各国は攻撃ができないため、無敵の部隊だった。

そこへ、ジャパン国にいた冒険者ツヴァイが、転移魔法を使った質量攻撃を仕掛ける。

空戦部隊は、大打撃を受け、壊滅状態となった経過があった。


にもかかわらず、ローマ帝国軍が新たに空戦部隊を投入した。

今度の目的は、直接攻撃のためではなく、偵察用だ。

数人しか乗らない飛空艇を使用しているため、転移魔法による質量攻撃は、攻撃しても効果は少なく、魔力の無駄遣いになるため、攻撃できなかった。

空から、連合軍の状況を簡単に把握されてしまう。

軍には重要な部隊がある。司令部と補給地点である。

この二つが欠けると、戦線の維持が難しくなる。

ローマ帝国軍は、ジャパン国にあった遠距離魔導砲を戦場へ導入し、一気に超長距離による一撃を連合軍へ放った。放った先は補給地点であった。

各国首脳がいる地点を狙っても、頭がなくなれば身体がどう動くか分からなかったため、先に生命線である補給地点を狙ったのだ。


だが、それはカイン首相が読むところだった。

事前に用意していた反転魔法で、その超長距離の魔導砲を弾き返す。

しかし、ローマ帝国軍には、クロノスナンバーの中に『反転』の能力を持つグラトニーがいた。

更に弾き返す。


戦場は、広い。カイン首相は、転移魔法が使えるため、全体をカバーできるが、グラトニーできない。

そこで、カイン首相は更に反転して戻ってきた攻撃をグラトニーのいない場所へ放つ。


この反転攻撃は、ローマ帝国軍を率いるアテナたちにとって予想外だった。

カイン首相の評価は、人を犠牲にせずに勝つというものだった。

しかし、カイン首相のこの攻撃は、人を犠牲にしても勝つという攻撃なのだ。

ローマ帝国軍の軍師であるグラウクスは、作戦の根底が覆ったことを自覚する。


だが、ローマ帝国軍にはクロノスナンバーの最強の能力を持つ戦いの女神と呼ばれたアテナがいた。

アテナは、素早く転移し攻撃を吸収する。能力『究極進化』によって、反転した力を倍にして返し、さらに自由に形を変えることができるようになった。

そして、遥か上空からその攻撃を百万に分割して攻撃を放った。

たちの悪いことに、その攻撃は全てが致死性を持つほどの攻撃だった。


多くの者が、空から降る攻撃を見た時、死を覚悟する。

それほどの脅威だったのである。

だが、カイン首相が更に立ちはだかる。

百万の攻撃を、百万の攻撃で全て打ち落としたのだ。

それは、人々の理解を超えた攻撃だった。


本来であれば、防御結界で事足りたはずだが、カイン首相は人心掌握のために、あえて派手な攻撃を選んだ。


この一連の攻撃により、連合軍の人々はカイン首相へ完全に心酔することとなる。

カイン首相は、一番前でこの一連の攻撃を受け止めたのだ。

連合軍の人々にとって、カイン首相の後ろ姿しか見えていないものもいる。

カイン首相からは何も号令を発していない。

しかし、カイン首相の後ろ姿から連合軍の人々は、覇者の後ろ姿として見ており、心酔するには充分であった。


その姿を見た連合軍の人々は、思わず口にする。


「この連合軍が負けるわけがない。連合軍には、『軍神』がいるのだから。」


連合軍は、負ければ祖国を失う可能性がある。その二つの要素が、連合軍の人々の士気を高めた。


一方、ローマ帝国軍にとっても軍神とまで呼ばれた存在は脅威であった。

しかし、ローマ帝国軍にはアテナがいる。

アテナが指揮した戦いは、無敗であった。

そして、個人で見せた能力も、人々を圧倒させた。

魔導砲は、魔導士1000人の魔力をもって発射されている。

その魔力を弾き返した力も脅威であったが、アテナが見せたのは、その魔導砲を遙かに超える力で敵国を攻撃したのだ。

さらに、アテナの声はよく通った。その姿は遙か遠くから見ても、一枚の絵画を思わせるような絵になる女性だった。

敬愛・崇拝・信仰…。

そんな言葉では言い表せないほどの思いを味方に与えていた。

『現世に舞い降りた女神』と呼ばれる由縁である。

当然、士気は高い。


後世、この戦いは専制ローマ帝国軍 対 類似民主主義連合軍の戦いと呼ばれている。

連合軍とは、形ばかりは民主的に運営された形になっていたのだ。

そして、多くの人々が民主主義を知るきっかけとなる集まりだった。

後に民主主義国家が爆発的に増える要因となる戦いと言えるだろう。


だが、違う見方も意見としてあった。

結局のところ、アテナ対カインの戦いであったとの意見だ。

二人の戦いに世界を巻き込んだとの辛辣な意見もあった。


それも間違いではない。

何故なら、アテナは世界を巻き込むことで、カインに勝とうとした。殺さずの精神をもつカインに足かせを増やそうとしたのだ。

そして、カインは、アテナに勝つために、世界を巻き込んだ戦争から、アテナとの個人的な戦いへ格下げしようと目論んでいた。

そして、オルヴィスの人々へその戦いを見届けさせようとしていたのだ。


ここまでは、後世の評論家も推測される出来事となる。

しかし、アテナとカインにとって、第三者であるソラトの介入がやっかいであった。

二人はこの時点で、戦端の発端となったのはソラトが関与したと分かっている。

そして、アテナは自身がソラトに行動を縛られている可能性を考えていた。

カインはアテナがソラトに縛られている可能性を考えていた。

カインはアテナをソラトの呪縛から解き放つことができるかが勝負所になると考えており、アテナはカインに勝つためにはソラトの介入が邪魔になると考えていた。

お互いの思惑は一致しているものの、そこに協力関係はない。


更に二人は、行方不明となった何人かがソラトに操られている可能性も考える。


クロノスナンバー6

憤怒の魔王の後継者、クレア


クロノスナンバー8

怠惰の魔王の後継者、セレン


クロノスナンバー9

断罪の刃、グリード


月の姫巫女

アルミテス


空の姫巫女

ウィンディーネ


この5名については、なんとなくソラトの傍にいそうな気がした。

そして、戦端となった襲撃は、この5名が関与していると直感で分かってしまう。

さらにソラトの力は未知数であるため、やっかいであった。


アテナは、ソラトに操られている可能性が高いと自覚している。

だからこそ、必死に自身の心で動くために、もがき苦しんだ。

そして、何がなんでもカインに勝ち、ソラトにも勝ちたかった。

それが、ソラトの思惑とは知らずに。


一方、カインはというと…、

のんびり、紅茶を飲んでいた。



次回、『96.乱戦』へつづく。

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