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ようこそ、異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語  作者: 蒼井 Luke
第3章 戦場の姫巫女
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93.第一次オルヴィス大戦の勃発

【アテナ】


アテナは当初、軍の指揮に四苦八苦していた。クロノスナンバーとしての能力を失ってしまったため、統率力が下がってしまっていたのだ。


アテナとしては、集結する連合軍との開戦を回避しようと撤退を考えていた。

何故なら、連合軍とは烏合の衆であり、補給物資に負荷がかかるため、時間をかければローマ帝国軍が有利になると考えたからだ。

短期決戦ではなく、長期決戦こそが勝率の高い戦略となる。そう判断した。


しかし、アテナにとって、予期せぬ形で開戦することとなってしまう。

それは、ローマ帝国軍が駐留するウストニア国と連合軍が駐留するルトアニア国の国境付近で事件は起こった。


国境付近には、少数のローマ帝国軍が駐留していたが、夜間に何者かが攻撃を仕掛けてきたのだ。

当然、その敵を追っていく。その先は国境だった。


同じ頃、国境付近に連合軍の少数の軍勢にも、何者かが攻撃を仕掛けてきた。

当然、連合軍もその敵を追っていく。


そして、同じタイミングでローマ帝国軍と連合軍は、出会ってしまった。


お互いが、敵と認識してしまったのは仕方ないのかもしれない。

夜であり、敵の正体が分からなかったのだ。


そして、ローマ帝国軍と連合軍は、小規模ながら衝突した。


更に、衝突する直前に、互いの中規模の軍勢に偽の援軍要請が届いた。

味方を助けようと、中規模の軍勢は、周りの軍勢へ応援要請を行い、援軍へと向かう。


少しずつ戦況を開いている軍勢は拡大していく。

その最中、ローマ帝国軍にとっては王家の血筋であるセトが戦場に突如、復帰したとの知らせがアテナに届いた。


アテナにとっては、セトの指揮力はありがたかったものの、セトを助けるために本隊を動かさざるをえなくなる。セトを失うわけにはいかなかった。

(セトを助け、そのまま撤退が上策か。)

しかし、ふと自身より、力が溢れているのを感じた。

いつの間にか、クロノスナンバーとしての能力が戻っていたのだ。


アテナは、以前、アルテミスと密談した時のことを思い出す。


「アテナ様は、ゾルタクス国を攻めようとしているのですか?」

「今はそんなことは考えていないさ。」

「今はというのなら、いつかは可能性があるのですね。

それならば、宣言しておきます。私はどんなことをしてでも、ゾルタクス国を守ります。」

「怖いな。よく覚えておくとしよう。」

「えぇ、それなりのご覚悟を。姫巫女というのは、矛盾している存在です。神から脱却しようと導いているにも関わらず、神に力を借りています。」

「そうだったのか!?」

「はいっ。私は月の女神に力を借りています。ゾルタクス国と戦うのなら、私は月の女神の力を使い、人を攻撃するでしょう。私にはその覚悟があります。」


アルテミスの覚悟にアテナは、自身をかえりみた。

クロノスナンバーの力を戦場に使うことは今まで一度も考えたことがなかった。

何故なら、人に使うには力が巨大すぎるのだ。

だが、カインと戦うには、今のままでは駄目だとも思った。


そして、決心する。

アテナはクロノスナンバーの力を持って、戦うことを決めた。

アテナは気づかない。その瞳には、ソラトの紋章である逆さ十字が現れていた。そして、好戦的になっている自分自身に…。


「グラウクスを呼べっ!出陣するぞ!」


従者がやってくる。


「恐れ入りますが、グラウクス様は、この前の敗戦の責を取られ、謹慎中です。」


何人もの従者がやって同様のことを発言した。

しかし、アテナは能力を使って威圧する。

それは、覇者の貫禄だった。


「私は間違えていたよ。」


従者は、グラウクスを呼ぶことをやめたのだと勘違いした。


「この国は専制君主だ。

もし敗戦の責があるとするならば、グラウクスではなく私にある。

グラウクスが責を取る必要などないのさ。

この際だから、改めて皆に告ぐ。

私がこの国の女王である。私の命は絶対である。私へ従え!」


その声を聞いたものは、ただただ、ひれ伏すだけであった。

そして、グラウクスはアテナの元へ復帰した。


「やれやれ、休暇はもう終わりですか?」

「休暇なぞ、してないだろう。戦略を練っていただろうに。さぁ、進言してくれ!」

「かしこまりました。本来であれば、ここは撤退をすべきですが、戦況からそうも行かなくなりました。そこで…。」


アテナとグラウクスは、戦略を練っていく。そして、ローマ帝国本軍は出陣した。

戦場に到着すると、衝撃を受ける。

ローマ帝国軍5万は、連合軍20万に防戦一方となっていた。


「セト、何をしている!何故、前線で膠着しているんだ?」

「ここまで、戦力差があるので、撤退をしたいのですが、向こうもなかなかやるようでして、簡単に退かせてくれないんですよ。」

「敵の将は誰だ?」

「ウォルト将軍です。智将とは聞いていましたが、これほどの智将とは思いませんでした。

こちらが嫌がる手を次から次へと行い、先手を打たれ続けています。」

「セト様がそれだけ敵を褒めるのも珍しい。しかし、本軍が到着した以上、15万対20万です。それでも厳しいですが、前よりは良いでしょう。」

「どうですかね。今のままでは、ジリ貧ですよ。今のうちに…。

あれっ、アテナお姉様、雰囲気が変わっていませんか?」


アテナは、覚悟を決めている。今までは少し甘えがあったのだろう。

今では専制君主者として、自覚を持っていた。何をしてでもこの戦いに勝つと。


「セト、グラウクス、今回は私の指示通りに動いてくれっ。」


グラウクスは恐れた。その結果を。しかし、断ることなどできない。

セトとグラウクスは、その指示に従った。


翌日、アテナは前線に出てきた。

敵の兵士は、圧倒的な数を従え、正攻法で戦ってくる。

多勢となっているため、奇策など必要ないのだ。

ウォルト将軍が智将と呼ばれる由縁であった。


そんな軍勢に向かい、アテナは魔法を唱える。


「アースクリエイト!」


通常の軍は、常に魔法防御がかけられている。しかし、アテナの魔法のレベルに防御結界は意味をなさなかった。


連合軍の軍勢は、アテナの魔法によって、沼地地帯の中となってしまう。

アテナは、たったそれだけの魔法しか使わなかった。

しかし、もともと戦い続けたローマ帝国軍にとっては、それだけで充分だった。


ただでさえ、女王が先陣をきったのだ。

当然、士気も高い。

ローマ帝国軍は、寄せ集めの軍であり混乱から立ち直れなかったため、一方的に蹂躙されまくった。

グラウクスが恐れたことは、まさにやり過ぎるのではないかということだった。

連合軍は、烏合の衆であるため、一度瓦解すると極端に弱くなる。

ウォルト将軍が元から率いていた軍は強く奮戦してはいるものの、多勢に無勢であった。


「ローマ帝国に勝利を!」

「ローマ帝国に栄光あれ!」


連合軍は完全敗北への道を歩み始めたかのように見えた。

そして、敵司令官を倒す直前にそれは起こった。

ローマ帝国軍の後方で、軍隊が現れたのだ。

その軍隊は、ローマ帝国までの道を封鎖するかのように陣を展開した。

ローマ帝国は、完勝直前のため、心に隙が出来る。


「マズい!ローマ帝国へ帰れなくなるぞ!」


ローマ帝国軍は動揺した。そして、足が止まる。しかし、アテナから激励が飛んだ。


「後方など気にする必要はない。目の前の敵を倒し、改めて大部隊をもって後方の敵を攻める。」


ローマ帝国軍は、アテナの激励で、すぐに我を取り戻す。しかし、立ち直るにはタイムラグがあった。

一瞬だけ、軍勢の勢いは弱まったのを、連合軍のウォルト将軍は見逃さない。

壊滅直前の軍を指揮しつつ、何とか撤退した。


その光景を見届けた後方の軍は、合わせて撤退していく。

グラウクスもセトも、その光景を見て唸った。


「勝ちの瞬間をつかれて、浮き足だちましたな。」

「そうですね。ですが、すぐに秩序を保つのはさすがです。ローマ帝国軍は、命令系統が確立されており、強いですね。」


命令がすぐに行き届いたのは、アテナの力に起因する。

アテナは、激励する際に、徹底するよう想いを込めた。

そして、それを聞いたものたちは、指示を徹底したのだった。


アテナは思う。

最後の後方で展開した軍は、ジャパン国軍の可能性が高い。

カインが参戦してきた可能性がある。そうであるならば、少しでも敵兵を減らしておきたい。


「追撃戦に入る。セトの部隊は、今までの苦汁でうっぷんが溜まっておろう。

徹底的に叩けっ!」


二人とも同じ考えだったようだ。


「「女王のお心のままに!」」


そして、ローマ帝国軍は追撃戦に入った。




【カイン】


途中でインパルスとエレナ率いるジャパン国軍と合流し、戦場へと向かった。

更にジャックも途中で合流した。

何やら話したいことがありそうだったが、今は時間がおしいため、戦場へ急行する。

しかし、戦況は既に終盤となっていた。


「カイン首相、もう戦いは決着しているようです。」

「いや、見てみろっ。まだ本陣は無事のようだ。」

「突っ込みますか?」

「この状況でも、本陣を保っているのだ。相当な将が率いているのだろう。

ならば、ローマ帝国方面へ軍を展開する。

恐らくそれだけで充分だろう。」


ジャパン国は、敵後方に陣を展開する。

そして、一瞬だけ、ローマ帝国軍の攻勢が収まると連合軍は一気に撤退した。

ジャパン国は、その撤退した連合軍と合流する。

カインは、司令官と会った。


「初めまして、ジャパン国首相のカインと申します。」

「完全敗北の淵から救っていただき、ありがとうございます。

私の名はルグラン国のフォルナーです。」

「これは、世界に武勇を轟かす智将ではありませんか。」

「もはや、この敗戦で過去系になりましたがね。

それにしても、一人の能力がここまで戦況を覆すことになるとは思いもよりませんでした。

私もこの様ですよ。」


ウォルト将軍を改めて見てみる。

その体は無数の傷だらけだった。


「そのお怪我…。よくご無事でした。

なぁに、再戦し名誉挽回すれば良いではありませんか。」


その時、急報が入った。


「敵襲です。ローマ帝国軍は追撃戦に入るようです!」

「なんと型破りな!?」


ウォルト将軍は、驚きつつも、指揮に入ろうとする。

しかし、その傷だらけの体では立ち上がることすら、ムリであった。

ウォルト将軍は、カインを見る。


「カイン首相を用兵巧者と見込んでお願いがあります。

この体では指揮は困難です。

撤退戦の指揮をお願いしたい。」


断る時間がもったいなかった。そのため、受けるしかない。


「お受けいたしましょう。」


右翼にジャック、左翼にインパルスを配置する。

そして、お互いに無線で連絡を取り合うようにした。


「左翼、一斉掃射!」


左翼から弓矢が一斉に放たれる。

ローマ帝国軍は、慌てて避けたため、中央と右翼に流れた。


カインとジャックが声をあげる。


「「アースインパクト!」」


大地が凸凹になり、ローマ帝国軍はその凸凹に激突していった。


「全軍、全速で撤退せよ!」


その声はまさに軍神のごとき声で、よく軍勢に響き渡った。

烏合の衆であった軍勢は、カインの指揮のもと、一糸乱れぬ動きで撤退する。

その撤退において、死傷者は0人であった。


そして、この戦いを静観していた各国は二手に分かれる。

アテナ率いる専制ローマ帝国軍に従属する道と、カイン率いる民主主義ジャパン国が参加する連合軍へ賛同する道だ。


中立ではいられなかった。

ローマ帝国軍もジャパン国が参加した連合軍も、どちらの陣営につくのかを再三、各国に尋ねたのだ。

それは最終局面で少しでも多くの軍勢を整えるための行動であった。


その結果、オルヴィスの世界各国の国が戦争へと突入することとなる。


そして、その戦いは世界中の人々が『英雄の誕生』と『英雄の落日』を知る戦いとなるのだった。




次回、新章『第4章 英雄の落日』へつづく。

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