88.ゼリアン革命
【ゼリアン】
「カインが来たか…。」
ゾルタクス国城の一室でゼリアンは呟いた。
すでに半神半魔人となっている。
ゼリアンは、この世界の秘密を知ってしまった。
今までは唯一神になるために全ての神を斬り、力を手に入れようとしていたが、もうそんなことをする必要はなくない。
もっと別の方法を見つけたのだ。
「さて、この国に用はなくなってしまいましたね。
カインが目の前に現れるとやっかいなことが起こる気がするし、逃げるとしますか。
まったく、こちらの能力が効かないとは、やっかいな存在ですよ。」
ゼリアンは獣王の城でカインに手痛い目に会わされたのを覚えていた。
そのための保険として用意したアルテミスを奪われた時、カインと会わないようにする方針へと転換したのだった。
そして、アマテラスも奪われたのは予想外だった。
アマテラスは、この後、うるさくなりそうだったので、洗脳し直そうとしていたのだ。
このゾルダクス国を使って実験をしようとしていたので、それだけが残念だった。
「よしっ、この国を去るか。今の検証結果を試してみたいし、別の国へ向かうとしましょう。」
ゼリアンは転移しようとした瞬間、強制的にキャンセルさせられた。
攻撃を受けたのだ。
驚くゼリアン。
ふと扉を見ると、そこにはセトとミドリーズが立っていた。
「ミドリーズ?生きていたのですね。」
ミドリーズ・ルッソニー。
フィーナ国滅亡の際、貴族連合のルッソニー宰相の子として、フィーナ国へ叛旗を翻した男だ。
何故か、侍のような雰囲気を醸し出している。その表情は傲慢だった表情ではなく、武士の表情だ。
おそらく本来の姿がこちらなのだろう。操った結果、人格まで変わってしまったのだ。
「あぁ、悪いがミドリーズに話しかけても、今は何も聞こえないようにしているよ。
君が余計なことを言って冥王が現れないようにね。
僕の名前はセト。
君を殺しにきた存在さ。」
ゼリアンはセトを見る。
力はゼリアンが上にも関わらず、セトは不敵な笑みを浮かべている。
どうやら、必勝の作戦があるようだが、その根拠が分からない。
ミドリーズの能力は、使えないようにしているはずだった。
しかし、何らかの対策をしてきたことだけは間違いないようだ。
能力『具現化』を使い、あたりの景色を歪めていく。
仮想世界も、現実味を増すことにより、現実となる。
例えば、死んだと思い込んだとしよう。
人は思い込みにより死んでしまうのだ。
仮想と現実の垣根は、そのリアルさの違いだけなのかもしれない。
ゼリアンは、そんなことを思うようになっていた。
自らがいた場所に疑似的な自分自身を作り出し、自らは仮想世界の景色に身を隠す。
そして、敵に近づいて攻撃するのだ。
接触さえしてしまえば、脳に直接、イメージを植えつけ、行動を縛ることができる。
上位の者には使えないが、同程度以下の者には有効だ。
そういえば、カインとの戦いでは、全くこの能力が意味をなさなかった。
何故だろう?と思った瞬間、ミドリーズからの攻撃で吹き飛んでしまった。
「バカな!?」
セトは笑う。
ミドリーズは、居合のような構えから斬撃をおこない、また居合の構えに戻った。
「予測はしていたろう?もしかしたら唯一、能力が効かない相手かもしれないと。」
「その能力は使用できなくなっているはず…。
洗脳を解いたということですね。」
「その通り。ミドリーズの新の能力『刹那』。
『1/10000000000000000000』の確率や時間すらも操れる能力さ。
その攻撃はたしかに不可避切断と同じ効果かもしれないが、君にとっては全く違うね。
不可避なら認識されなければ回避できる。
しかし、刹那の世界では、現実と仮想世界の 若干のズレすらも把握できる。
その世界の中では君の能力は無意味だよ。」
ゼリアンは、驚いていた。
「刹那の瞬間に攻撃はできても、自身では認識できなかったはずですが?」
セトは笑いながら答える。
「一時的に神の福音を与えたのさ。思考も加速しているんだよ。」
「時を止める攻撃はあるかもしれないと思いましたが、純粋な速度、いや処理速度で私を上回るとは…。」
「おっと逃がさないよ。ちなみに僕も同じ世界感でいるからね。」
ゼリアンは焦り始めた。
実はこの間、様々な能力を試していたのだが、その全てが能力の発動直前に攻撃を受け、発動しないのだ。
「まったく、やっかいなことこの上ない能力ですね。」
ゼリアンから、冷や汗が垂れる。
その汗が地面に垂れた瞬間、氷の世界を作り出し部屋全体を包んだ。
その中に刃を作り出していく。
空中に百の刃を作り出した。
カインの能力『錬金』。
さらにアテナの能力で能力の上位互換を行う。
鉄で出来た刃は、オリハルコンの刃へと変わった。
虚像に実像を混ぜ、攻撃を行う。
しかし、ミドリーズの能力の前に、刃は、全て打ち落とされていく。
そして、セトが繰り出した針の山がゼリアンを襲うが、ゼリアンは回避する。
しかし、針の山は広がり続け、ゼリアンを襲っていく。
たまらず、避けることをやめ、壊すことを選択した。
疑似太陽を作り出し、壊していく。
しかし、その瞬間、虚像が全て吹き飛んだ。
その瞬間をミドリーズは逃さなかった。
刹那の抜刀は真空斬りとなり、ゼリアンの左腕を切り裂いた。
セトは、更にトドメをさそうとする。
「仕方ない。ビックバン!」
ゼリアンが作り出した疑似太陽は、その場で爆発し、ゾルタクス国の城の半分を吹き飛ばした。
爆風でゼリアンは吹き飛ぶ。
セトとミドリーズは、吹き飛ぶゼリアンを追いかけ、空中から一撃を加える。
ゼリアンは、地面へ叩きつけられ、動けなくなった。
その場へセトとミドリーズが降り立つ。
「さぁ、終わりにしよう。」
セトとミドリーズは、ゼリアンへと迫り、トドメの一撃を放とうとした。
「仕方ありません。
試験もせずに本番ですが、やるしかありませんね。」
ゼリアンの右手から、小さな球が現れた。
「アクセス、『世界の理』!
マスター権限にてログイン!」
ゼリアンの周りに文字が羅列していく。
セトは焦った。
「まさか!?」
ゼリアンは続ける。
「このゼリアンを勇者に。」
『マスター権限を確認。世界の理を更新します。』
「そんなバカな!?
間に合ってくれっ!」
セトは最後の一撃をゼリアンへ放とうとした。
しかし、たまたま、複数のオリハルコンで出来た刃が空から降ってきて、ゼリアンへの攻撃を防いだ。
ゼリアンはまだ虫の息だ。
たまたま、そこに回復が奇特な精霊が通りかかった。
「あれっ?怪我人発見!助けなきゃ。」
精霊の力により、ゼリアンは全回復した。
腕も元通りだ。
ゼリアンは、手元にあった刃に力を込めた。
たまたま近くにいた精霊たちがゼリアンの想いに応え、力を貸す。
圧倒的な不利をも覆す勇者の一撃がセトを襲った。
セトは躱そうとした。
しかし、たまたま刹那の世界で動いたミドリーズとぶつかってしまい足止めされてしまった。
勇者の一撃がセトとミドリーズを切り裂いた。
「バカな…。」
そして、ミドリーズにかけられた能力が解除される。
「これが世界の真実ですよ。
なんとバカげた世界なんだ。
どんなに圧倒的な不利も不条理も、勇者のコードだけで全てを覆す。
ステータス?言われてみれば、そんなのはゲームの世界と同じだ。
今、この瞬間に全ての神も人も私の手のひらにのる。
そこで見ているがいい。
全ての者へステータスオープン!」
ゼリアンは、更に光の球に操作を始める。
そして、全ての異世界から来たもの以外の全ての、人・獣人・龍・悪魔・天使・神らにステータス画面が現れた。
「冥王が来てしまうぞ!」
鎖がゼリアン、セト、ミドリーズを襲う。
「それすらも、無意味だ。
『神の禁忌、破棄』!」
鎖はその場で分解した。
冥王ハーディスはやってこない。
「不可避切断!」
ミドリーズは、不可避の一撃を放つ。
刹那の攻撃を行おうとしても、意識がついていかないため、やむを得ず使い慣れた技を選んだ。
しかし、ゼリアンが作り出した仮想世界に飲み込まれ、ゼリアンに当たらない。
「マズい!」
セトは、慌てる。
「スキルドレイン!」
ミドリーズをゼリアンは斬りつける。
そして、その能力は、ゼリアンに吸収された。
ミドリーズは倒れ込む。
「刹那か…。
素晴らしい処理速度だ。」
セトは叫んだ。
「アンパイヤよ、審判せよっ!」
ゼリアンは驚く。
この場の全員が動けなくなったのだ。
そして、そこには無機質の人型の何かが現れる。
「異世界の神よ、何用だ?」
セトは叫ぶ。
「そこにいるものは、ルールを破った。違法に『世界の理』にアクセスをしている。審判を!」
無機質の者は、ゼリアンを見る。
そして見るだけだった。
「この者はルール違反ではない。
正規の手順でアクセスをしている。」
セトは驚く。
「バカな!?
『世界の理』の権限をそのまま付与するのか!?
この世界がおかしくなるぞ。」
無機質の者は答えた。
「他世界の神が口出しすることこそ、禁忌だよ。」
無機質の者はその場から消えた。
そして、全員の体が動く。
「世界に認められたということか。
なら遠慮はしない。
『世界の理』!
全ての役割を破棄せよ!」
「ゼリアン、やめろっ!」
セトもミドリーズも攻撃する。しかし、当たらない。
「そして、種族の制限を解除!神の種族を廃止!」
セトはゼリアンを攻撃する。
しかし、残像だ。
「今、この瞬間より世界は変わる!
人は、新たなステージへと進む可能性を手に入れる!
さぁ、人よ、踊れっ!」
「貴様の目的は、吸収するために、能力を上げさせたいだけだろうが!」
セトは攻撃することの無意味さを痛感しながらも、攻撃し続けるしかなかった。
「オルヴィスの世界よ、私の革命を受け入れよ!
そして、私は悲願成就する!
『オルヴィス』に秘められたルールよ、全て白紙に戻せっ!」
世界各地で異変が起こる。
目の前にステータス画面が現れた。
そして、そのステータスが更新された。
人には見えない役割があった。
その役割が消えていく。
一人一人が持っていた限界が消えていく。
そして見えないルールがなくなった。
神界では、眠りにつくオルヴィスで生まれた神たちに異変が起こった。
その神たちは、神から様々な種族へと変わっていく。
そして、人は役割を失い、この世界の神から授かった能力補正が消えていく。
後世、この瞬間を『ゼリアン革命』と呼ぶこととなる。
それは全ての種族が、見えない鎖から解放された瞬間だった。
見えない鎖から解放された種族は、自重をなくしていく。
特に人は、自由を手に入れた瞬間、無限の可能性と無限に湧き起こる感情を手に入れた。
「もうすぐだ。
もうすぐ、私の願いは成就される。
仕上げだ!『地球』と『オルヴィス』を繋げっ!」
各界を結んでいた橋のように、『地球』と『オルヴィス』の世界に急速に橋がかけられていく。
全てが消えかけ、そして『地球』と『オルヴィス』が繋がる瞬間、ゼリアンの作業は中断してしまった。
ゼリアンは、吹き飛ぶ。
「思わず殴ってしまったが、まぁ、いいよな?」
そこに、カインとアマテラスが現れた。
次回、『89.予期せぬ来訪者』へつづく。