86.三つ巴の戦い
「ツヴァイ、ところで何をしていたんだ?」
『ん?もう、いいのか?』
「あぁ、もう大丈夫だ。」
『そうか…。
あの後だが、とりあえず連合を結んでおいたぞ。』
「おー、連合か…。
へっ?」
『おー、連合だ。まぁ、まだ軍を出し合う協定は結べてないから、協力し合う程度のものだけどな。』
「いったい何をしていたんだよ…。」
『はっはっは。
まぁ、道中にでも話そう。リトビア国へ飛ぶぞ。そこに数カ国の首脳が集まっている。』
「リトビア国?。」
『あぁ、ローマ帝国へ滅ぼされそうになった国だ。
ちなみにウストニア国には、ローマ帝国軍が占領していて、
ルトアニアには神聖ゾルダクス国が占領している。
この三国は隣接していてな、まぁ、戦争手前の状態だ。』
「おいおい、なんて状況なんだ…。
ゼリアンとアテナも、その国にいるのか?」
『ゼリアンは、間違いなくいないな。
だが、アテナはいる。
それと、グラウクスはいないようだ。』
「分かった。
とりあえず、リトビアに行こう。」
『それとな、全員が今はジャパンを出てしまっているぞ。
ところでゼリアンは倒せそうか?』
「分からないな。ゼリアンとの戦いは、神の福音を拒みし者は手伝ってくれないだろう。
手を考えないとな。」
俺は執務室へと向かう。
何か情報が入ってきているかもしれないからだ。
執務室へ直接、転送をせずに、受付を通ることとする。
「やぁ、レスティア。
どうだい、何かあったかい?」
受付のレスティアへと声をかけた。
レスティアにも俺へと連絡がつくようにしていたが、念のため声をかけてみる。
「特に何もありませんでした。
…。
カイン様、ウルティアさまは、眠られたのですね…。」
俺は驚く。
レスティアには、何も言っていないはずだ。
その顔は確信に満ちた顔をしていた。
「どうして分かったんだい?」
「当然ですよ。わたしたちエルフの里は、ウルティア様の恩恵を受けていました。
エルフの里では、ウルティア様の恩恵が無くなったと大騒ぎになっていますよ。」
「そうだったのか…。」
そういえば、どことなくウルティアとレスティアは名前が似ている。
きっとウルティアを讃え、その名前をつけたのかもしれない。
ウルティアの足跡を知れたのが少しだけ嬉しかった。
「カイン様っ、エルフの長が会いたいとのお話しがきていますが、いかがですか?」
「あぁ、予定を入れておいてくれ。
だが、しばらくは長期不在になると思う。」
「かしこまりました。では、また戻られたら、アポイントを入れます。
あの…、また、戦いに行かれるのですね…。」
「あぁ、行ってくるよ。」
「女神ウルティア様のご加護があらんことを。」
レスティアは俺のために祈ってくれた。
「ありがとう。」
俺は執務室へと入る。
「カインお兄様、おかえりなさい。」
「そんな影のある表情も素敵よ。」
マリーナと魔王ラクリアがいた。
「二人とも、本当に助かった。
ありがとう。」
「カインお兄様、私はご褒美が欲しいのです。」
「なんだい?」
「また一緒に暮らさせて下さい。」
マリーナの本心だろう。
ずっと寂しかったのかもしれない。
フィーナ国の王女として過ごしたマリーナ姫を知っている人はまだまだいる。
恨みを持っている人もいるだろう。
だけど、それでも受け入れよう。
「人前では、俺のことを兄と呼んではいけない。それと俺は君のことをマリアと呼ぶ。それでもいいか?」
マリーナ、マリアは嬉しそうにしていた。
「もちろんです!カイン。」
その瞬間、満里奈だった頃の面影と重なった。
ダメだな…。
どうも涙もろくなっている。
「私もおねだりしていいかしら?」
「ラクリアもか!?
何を願うんだ?」
「一晩、私に時間をくれない?」
「な、何がしたいんだ…?」
「もちろん、あんなことやこんなこと…。」
俺はラクリアの頭にチョップした。
「却下だっ!」
「あん、いけず。でも、時間をちょーだいね。できれば、今夜にでもお願いしたいわ。」
「至急の何かが迫っているんだな。」
「えぇ、今夜は新月。新月は神の月ともいうわ。おそらくウロボロス様が降臨してくるわ。」
「だったら、毎月のことだろう?何故いまさら…。そうか、クロノス神が復活したからか。」
「えぇ、おそらくだけど、セレンにちょっかいを出してくると思うわ。これ以上、問題ごと増やしたくないでしょう?」
「分かった。なら、今夜はセレンの護衛をしよう。」
「セレンの居場所は分かるか?エレナとともにいると思うんだが。」
「えぇ、エレナの居場所は分かるわ。」
「よし、なら転移転送を手伝ってくれ。いくぞっ!」
俺たちは、エレナの元へ転移転送した。
そして、カオスの状態に驚く。
「インパルス…。これはどういう状況なんだ?」
「カイン首相、ちょうどいいところに…。」
「まだよ、まだ足りないの…。もっと欲しいわ。」
「暴食の魔王が暴走したんだ!」
「失礼ね、暴走なんかしてないわよ。
さぁ、もっともっと料理を食べ尽くすわよ。
あらっ?ラクリアじゃない。」
俺たちは、ポカンとしてしまった。
暴食の魔王?らしき巨人が広場のテーブル席に座っている。
そこには、旗が掲げられていた。
よく見ると司会らしき人もいる。セレンだ。給仕担当にはクレアがいる。
「ワールドレコード更新中?」
「あっ、カイン!」
「エレナ、どういうことなんだ?」
「それがね、暴食の魔王と取引したらしく、インパルスがご馳走様することになったの。
でも、お金が足りなくなっちゃって…。
そこで町おこしの一環としてワールドレコードに挑戦していて、更新すれば食費をタダにしてくれることになったんだけど…。」
「それで、あの様子か…。」
暴食の魔王が暴食している。
まぁ、悪さをしているわけではないから、別にいいか。
「まぁ、町の人が可哀想だし、食材を調達しに久々に狩りにでも行くか。」
「あっ、なら私も行くわ。」
「よしっ、行くぞ!」
カインとエレナは二人で狩りにでかけた。
しばらくして、大量の食材を町に届けた。
そして、かなり感謝された。
「記録はどうだったのかな?」
「前人未到だったらしいわよ。もう永久にたどり着くことはない記録みたいね。」
「町おこしどころか、この町の食材がなくなって傾くところだったらしいわ。」
「なるほどね。」
ふと町はずれを見る。
さっきまでなかった丘ができていた。
地鳴りのような声が聞こえる。
「た、食べ過ぎたー。」
インパルスも叫んでおる。
「た、食べ過ぎだ-!」
まぁ、結果オーライなのでいいとしよう。
そして暴食の魔王を残して、全員が集合した。
インパルス
ジャック
マリア
ラクリア
エレナ
セレン
クレア
アルテミス
アマテラス
ん?
アマテラス!?
「アマテラスは、どうしてここに?」
「ゼリアンの元から誘拐してきました。」
「いや、誘拐ではなく救出されたに近いわよ。」
「私はゼリアンと話し合っていただけだ。」
「裏切られたくせに…。」
「うるさいっ、アルテミス!
必ず仕返ししてやる。」
「何があったんだ?」
「簡単ですよ。ゼリアンにとって用済みになっただけです。」
「まさか、姫巫女の能力を奪われそうにな?とは。」
「なるほどな。あの時、ソラトに力をあげられていた。だから姫巫女の能力を奪えるようになったわけか。」
「基準が難しいですね。」
「能力にも等級があるんだろう。強い能力は、より強くないと奪えないんだと思う。」
「まさか、こんなことになるとわ…。
まったく口惜しい。」
「アマテラスはやり方が強引すぎたんですよ。だからゼリアンに付け込まれたんです。」
「強引?革新的と言ってくれ。我々の悲願である神からの脱却の主旨とは一致しているぞ。」
「そのために全員を神にするなんて、神からの怒りを買うとか考えないんですか?」
「神は無関心だろう?」
「そんなところは神を信じてるんですね。」
「だって歴史が証明しているじゃないか。
今のままでは何百年たっても悲願成就はできんさ。
なら、アルテミスが妙案を出してくれ。」
「それは…。もう少しだけ時間を下さい。」
場が沈黙してしまった。
話しを切り替えようとして、インパルスが俺に話しかける。
「ところで、ウルティアさんは?」
俺は思いっきり、暗い顔をしたあと、慌てて表情を隠して話した。
「ウルティアは救出できた。
今は長い眠りについてるよ。
しばらくしたら、目覚めるはずさ。」
その時、扉が開いた。
「目ざめるのは、何百年後だろうけどね。」
「ウロボロス?それにセトも!」
「久しぶり。ゼリアンの攻略法を見つけてきたよ。」
「僕はただの送り届けにきただけさ。
あっラクリアが考えているようなことはする気がないから大丈夫だ。
すぐ帰って寝るよ。」
「本当かしら?いつもこそこそ動き回っているウロボロス様らしくないですわね?」
「まぁ、そういう気分の時もあるのさ。」
「カインさん、この方は?」
「あぁ、邪神だよ。」
アルテミスとアマテラスは固まる。
神からの脱却を目指している二人なので。罰が下る可能性も否定できないとでも思ったのだろう。
「あぁ、神からの脱却を目指す二人よ、気にしなくていい。
何もする気はないよ。」
それを聞いて二人は安心したようだ。
ウロボロスは二人を見る。
そして、俺を見て話し掛けた。
「人族の王よ。いや、神の福音を拒みし者よ。
次はゾルダクス国を導くつもりか?
まぁ、神が弱まったこの時代に、どれだけやれるか楽しみにして見ているよ。」
ん?
急にどうしたんだ?
ウロボロスは、そのまま消えてしまった。
そして、ふと目線に気づく。
アルテミスとアマテラスだ。
「カインさん、今のはいったい…。
神の福音を拒む者として過ごしているのですか?」
「カイン首相、あなたの存在は神に認知…、いや、認められた存在なのか?」
否定もできないな…。
俺は肩をすくめた。
「まぁ、明言はさけておくよ。
ちなみにジャパンは神の恩恵を受けないことを前提として国づくりをしている。ジャパンは、そういう国だ。」
アルテミスとアマテラスは跪いた。
そして、俺の顔を見る。
その目は明らかに羨望の眼差しだ。
「カイン首相、あなたは私たちの悲願を達成していらっしゃる。敬意を払わないわけにはいかない。」
「カインさま、あなたこそ、ゾルダクス国の悲願を達成していらっしゃる国の王です。」
アルテミスとアマテラスは跪く。
「ゾルダクス国の姫巫女として、これよりあなたの指示に従います。どうか、我々を導いて下さい。」
「どうか、人の自立をお導き下さい。私はあなたに全てを捧げます。」
…。
なんか変な流れになってきたぞ。
「第一の臣下として、あなたに望む全てを叶えます。」
「いえ、私こそが第一の臣下として、あなたに全てを捧げます。」
いや、正直、臣下はいらない。
俺は二人の考え方を訂正させようと口に出そうとした瞬間、新手が現れた。
「カイン様の第一の臣下は、私ですよ!古参のものの顔を立てなさい!」
クレアだ。
俺の元専属メイド。
尻尾の毛が逆毛になっている。
「私の方がカイン様のお役に立てます。」
「いえ、お姉様の妹分である私こそです。」
「古株の私こそですよ。」
あーでもないこーでもないと、女性三人が揉め始めた。
ウロボロスめ…。
絶対にこうなることを分かってて、さっきの発言を言ったな。
こっそりこの様子を眺めて笑っているに違いない。
「とりあえず、今日は情報交換も終わったし、それぞれ休むこととしませんか?」
インパルスが救いの手を差し伸べてくれた。
「そうだな、そうしよう。俺も少し休むとするよ。」
そして、夜中、カインの部屋の前は、またもや大騒ぎとなった。
「どういうことかしら、セレン。」
「そういうマリアも、なんでそんな恰好してるのかしら?」
「いえいえ、あなたたち二人ともよ。」
三者三様だが、可愛らしい寝間着だ。
「私は、カインさんが少し寂しいかなぁって思って…。」
「私は久しぶりに家族水入らずに話したいと思ってね。」
「私はカインが疲れてるだろうし、少し体をほぐしてあげたいだろうなぁって。」
この時、改めて三人は思う。
皆、ライバルだ。
ウルティアがいない今がチャンスなのだ。
この世界は、愛妾がいて当たり前の世界だ。
今こそ、大チャンスなのである。
「あっ、マッサージなら私がやっておくから大丈夫よ。カインさんも疲れてるだろうし、そのまま寝させてあげましょう。」
「家族で過ごした方が心やすまるはずだわ。私がやっておくわ。」
「私の体は、マッサージに適している体よ。だから私の方がいいわ。」
「「どんな体よ。」」
「えっ?あははー。じゃっ、私が入るということで。」
「させません。」
「私こそです。」
「早い者勝ちよ。」
そして、カインの部屋の扉を開けて、三人一斉に入った。
「カインさん!」
「カインお兄様!」
「カイン!」
「「「…。」」」
そこには、カインとインパルスとジャックがいた。
男三人で話しに花を咲かせていたのだ。
「ん?どうしたんだい?」
「おー、一人が三人に見えるぞー。酒のみすぎたかー。」
「エレナ、その恰好…。ぷぷぷっ。」
三人とも呆然としてしまっている。
そして、その姿はカイン以外に見られてしまうと、急に恥ずかしくなってしまった。
つまり…。
「「「きゃー!!!」」」
三人は逃げ出した。
こうして、夜もふけていく。
カインは少しだけ寂しさをまぎらわすことができたのだった。
次回、『87.ゾルダクス国の腐敗』へつづく。