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ようこそ、異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語  作者: 蒼井 Luke
第3章 戦場の姫巫女
84/120

84.神の呪い

ここはどこだろう…。

一歩を踏み出す。


「ぐはっ。」


カインは死んだ。

神の呪いが発動する。

カインは生き返った。


ここはどこだろう…。

一歩を踏み出す。


「ぐはっ。」


カインは死んだ。

神の呪いが発動する。

カインは生き返った。


ここはどこだろう…。

一歩を踏み出す。


「ぐはっ。」


カインは死んだ。

神の呪いが発動する。

カインは生き返った。


ここはどこだろう…


…。

……。

………。


幾万回くり返すのだろう。

『カイン』にとっては、それが当たり前となっていた。



その昔、神はアダムとイブを作った。

アダムとイブは、楽園の園で平和に暮らしていた。

しかし、ある時、人の言葉を話す蛇にそそのかされ、禁断の果実を食し、楽園の園を追放されてしまう。


その後、アダムとイブには、二人の子供を授かった。

その子供たちには、『カイン』と『アベル』と名付けた。


カインの意味は『得た』。

アベルの意味は『空虚』。


二人の子供たちは成長する。


やがて、カインは農作物を育てて暮らすようになった。

やがて、アダムは畜産物を育てて暮らすようになった。

二人の兄弟は、仲むつまじく暮らしたのだった。


ある時、二人の兄弟は、神へ捧げ物をすることとなる。


カインは、自分で育てた農作物を。それは、全ての人に捧げた物と同じ平等な捧げ物だった。


アベルは、自分で育てた特別な子羊を。それは神のためだけに捧げた特別な捧げ物だった。


神は、カインの捧げ物を見向きもしなかった。

そして、アベルの捧げ物をたいそう喜んだ。


カインは、嫉妬した。


「何故、神は私の捧げ物に見向きもしなかったのだ。」


アベルは、そんなカインへ話した。


「兄さんのは、誰にでも平等だった。特別な捧げ物に叶うわけがない。」


カインは悲しんだ。

神は平等だと思っていた。

しかし、神は平等ではなかった。


「それでも俺は、平等を貫きたい。」

「それは、神の行為を否定している。」

「そんなことはない。」

「そんなことはある。」


二人の話しは最初はささいな内容だった。

しかし、やがて口論となり、最悪の事態となる。


カインはアベルを嫉妬から殺してしまった。

人類で最初の殺人である。


神は、カインへアベルの行方を問う。


「私は知りません。私は弟の番人ではありません。」


カインは神に対して嘘をついた。

人類で最初の嘘である。


神は、カインへ話した。


「汝の弟が流した血は地へと流れた。その地より、汝を呪う声が聞こえてくる。」


アベルはカインを呪った。

そして、カインは呪われた。


「汝は、これより何をしても地に嫌われる。汝は、さまよい歩くことになる。」


そしてカインは自分の愚かさを思い知った。

彼がいる限り、農作物は育たなくなる。

人から疎まれるのは当然であろう。


「私は何と罪なことをしたのでしょう。私は私の罪を背負いきれません。全ての人は私を呪うでしょう。皆が私を殺しにくるはずです。」


カインは後悔していた。

そして、神はカインの嘘と殺人を許した。

これにより、神は人の嘘と殺人を許してしまうこととなる。


「汝の死を守ろう。」


カインは死なない体になった。

いや、カインは死んでも甦る体となった。


それからカインは幾万の月日の中で、何度も死んでは生き返った。


始祖となるカインの心は途中で擦り切れた。

そして、カインはカインと知らずに人格を変え、その都度、死を繰り返しては生き返る。


新たなカインの心も途中で擦り切れ、また新たな人格のカインが生まれる。

そして、心が擦り切れるまで死と生を繰り返す。


カインは、何度も何度も断末魔をあげた。


その姿を見て、アベルは満足をした。

アベルは、その名のとおり、空虚な存在となった。


しかし、いくら満足しようとも怨みは忘れない。

幾万の月日を越えて、空虚の中から、悪意が生まれた。

その悪意は地より空へと昇る。

そして、幾万の月日が積み重なった悪意は、この世で最も邪悪な悪霊となった。

その名をソラトと言った。


カインは、何度もソラトの攻撃を受け、また死んでいく。


そして、時を司る神はずっとその光景を見てきた。


「幾万回、繰り返せば気が済むのだろうか。」


時を司る神は決意する。

全ての神を敵に回しても、カインの終わりなき輪廻を終わらせてあげたいと。

カインは、主神に逆らった悪として認識されている。

他の神はカインを嫌うだろう。

彼らは知らない。

何度もカインの断末魔が聞こえ、耳から離れなくなってしまうようなこの状況を。


時を司る神『クロノス』は動き出す。


まずは、カインをこの○○の世界へ飛ばす。

きっとソラトもすぐに追ってくるだろう。

ソラトは精神体だ。

どの世界でも追って来れてしまう。

ならば、最初から動きをコントロールするために、ある程度の協力者にしておいた方がいいだろう。


カインを異世界へ転移させ、能力者たちの中で能力を使えない状況を作り出す。

ソラトは大喜びだった。


そして、カインにこっそりクロノスナンバーとしての力を授ける。


その能力とは、『心のあり方』。


カインは、能力によって、心が擦り切れることはない。

最後のギリギリで心は残る。


カインは、いつもそうだった。

贖罪の旅に出かける。

あと少しで自分の罪を許せそうになる。

しかし、心が擦り切れ、また最初からやり直す。


主神に聞いたことがある。

今もカインが呪われているのは何故かと。

答えは簡単だった。

呪いの解呪方法は、ただ自分を許すこと。


なら、今度のカインこそ、自分を許せるようにして、贖罪の旅を終わらせてあげたい。

だが、始祖となるカインは、深い眠りについており、この世界に認知されていない。

今のカインは、始祖のカインの思いに気づいていないため、何もできない状況だった。

何度も転生を繰り返して、ようやくカインなカインだと気づくのである。

今のカインでは、気づくまでに何度も転生をしなければならなかった。


そうこうしていると、神の何人かがカインの存在に気づき始めた。

カインは、神話の人間だ。

カインの動きは、他の神たちも気づきやすかったのだろう。

他の神たちは、カインが嫌いだ。何故なら、主神に逆らった愚かな神として認識していた。

もはや何をしても、おかしくはない状況だった。


仕方が無く、始祖となるカインを起こすためにも、そして、他の神を止めるために戦いを始めた。

できれば、この戦いで始祖となるカインを今のカインへ降臨させたい。

そして、うまくいった。

まぁ、少し中途半端に統合しているようだが仕方ない。


これで、ソラトを迎え撃つ準備も出来た。

ソラトをこの世界へ連れてくる。


眠る前にヘスティアのことを思い出す。

ヘスティアは、転生できなかった。

向こうの世界にいた多くの神は既に失われ、また人へと戻り生活をしている。

しかし、ヘスティアは感情が欠けていたため、転生できなかった。

七つの感情がヘスティアには足らなかったのだ。

しかたなく、新たな神として足りないもの得ることを願い『ウルティア』と名付け、自分の娘として育てることとした。


それにしても、ウロボロスが嫌がらせに七つの大罪を司る魔王を創ったのは笑えた。

彼は嫌がらせをしているつもりだが、常に楽しませてくれたのだ。

カインのこともそうだ。彼は王になんかになるはずがない。

主神にすら、平等に扱った人間なのだ。

皆と歩む道を進み続けるカインへの発言には笑ってしまった。

まぁ、もしかしたら、ウロボロスは気付いていて、少しだけカインがカイン自身を思い出すように協力してくれたのかもしれない。


そして、もう一つ僕を楽しませてくれた出来事が起こる。

何の因果かは分からないが、得た者『カイン』と得る者『ウルティア』は出会い、恋に落ちた。


本当に嬉しかった。

お互い足りていなかった物が、これで埋まるかもしれないと期待した。

ウルティアは人となり、人としての感情がどんどん芽生え、立派な人の女性となった。

カインは、そんなウルティアと共に過ごすことにより、優しさに溢れ、贖罪の旅に終わりが見えてきた。


これで安心して眠れる。

そう思っていた。

次に会う時には、もしかしたら全てが終わっているかもしれない。

そう思えるほど心を弾ませながら寝た。


しかし、寝ててもまだ聞こえてくる。


カインの声だ。

それは、カインの悲痛な悲鳴だった。


ウルティアは何をしている?


ウルティア。

ウルティア!

ウルティア!?


ウルティアが地上にいない?


クロノスは目が覚めた。


「何が起こっているんだ?

ウルティア…。

冥界!?

カインもだと!?」


クロノスはその事実を知った瞬間、激怒した。


「ふざけるなっ!

何故、二人が冥界にいる!!!!!」


クロノスは神界を飛び出した。



カインは、ひたすら歩いている。


意識はギリギリのところでつなぎ止めている。

だが、自分がどこへ向かっているのか、それすらもよく分からなくなってきていた。


「カイン!」


女性の声が聞こえる…。


「カイン!」


その声は涙声だった。


俺は何のためにここにいる…?

俺は何がしたい?

俺は何者だ?


その問いかけには誰も答えてくれない。


「カイン、お願い。もう戻って。これ以上は見てられない!」


俺は…。


その時、クロノスナンバーの称号が輝き出した。


ウルティア…

ウルティア…。

ウルティアを助け出したいんだ!


「ウルティア、助けに来たぞっ!」

「カイン!」


ウルティアは泣いている。

よく見ると、鎖で縛られたままだ。


「冥王ハーディスよっ、ウルティアを返してもらいたい。」

「驚きました。まさか意識を保ってここまで来るとは。しかし、ウルティアは返せませんよ。」

「いや、何がなんでも返してもらう!」

「なら、力づくて私から奪ってみなさい。」


神の福音を拒みし者よ、頼む!

今だけ力を貸してくれ!


…。

……。

………。


頼むっ、返事をしてくれっ!


「いきなり人頼みですか?底が浅いですね。

まぁ、一歩、踏み出せば死ぬ。

そんな状況では戦いにすらならない。

まぁ、心が擦り切れるまで何度でも殺してあげましょう。

いや、呪いごと全てを消滅させてあげましょう。」

「なめるなっ!半神半人モード!」


ハーディスの攻撃に一瞬で俺は死ぬ。


「ぐはっ。」

「いいことを教えてあげましょう。

仮にウルティアをここから助け出しても、神界にはいれますが、人間界にはもう戻れませんよ。」


復活しかけた俺を更に殺す。


「あなたの願いは、もはや達成できない。

ウルティアにとっては神界にいるか、冥界にいるかの差だけしかない。」


また、復活しかけた俺を殺す。


「あなたのやっていることは無意味だ。」


更に復活しかけた俺を殺す。


「あなたは、無意味なことをして、無意味に消える。

クロノスの能力ごと、消え去りなさい。

『たゆたう世界』」


俺の存在が不安定になる。


「カイン、あなたの旅路もこれで終わる。

ゆっくり休みなさい。

『散りゆく世界』」


俺の存在が消えてゆく。

ウルティアがずっと泣いている。

必死に鎖から抜け出そうともがいている。

その手から血が見えた。


初めて会った時を思い出す。

お互い一目惚れだった。

カインなんて、関係ない。

俺自身がウルティアに惚れたんだ。

俺には何もなかった。

全てを無くし、ただ命一つが俺に残された物だった。

あの時、ウルティアが目の前に現れ、俺の心の支えになってくれたからこそ、今の俺がある。


「俺は…。

例え消えても、俺はウルティアの助けになりたい。

ウルティアは俺にとって、世界で一番の大事な人なんだ!」


「カイーン!」


ウルティアが泣き叫ぶ。

ハーディスは、つまらなそうに笑う。


俺は反撃もできないまま消えそうになった。

しかし、攻撃が完全に決まる瞬間、別の角度からハーディスへの攻撃があった。


「なっ!?」


ハーディスは驚きの声をあげた。


「お兄様、助けにあがりましたわ。」

「まったく、無茶ばかりなのよね。」


そこには、冥界にいるはずのない魔神となった嫉妬の魔王マリーナと、色欲の魔王ラクリアがいた。



次回、『85.また会う日まで』へつづく。

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