83.絶望的な戦い
俺はインパルスと離れた後、魔王ラクリアの元へ尋ねた。
「グランさん、リコリスさん、お邪魔します。魔王ラクリアはいますか?」
「どうしたんだ、カイン!?そんな顔をして。」
「何があったの!?少し休みなさい。」
よく見るとリコリスさんのお腹が膨れている。
そうか…、新しい生命の誕生か。
喜ばしいことだな…。
「すいません、事情は言えません。ただ、至急でラクリアと会いたいんです。」
「残念ながら、ラクリアはどこかへ出かけているわ。呼び出しにも応えないの。」
「そうでしたか。すいません、それでは失礼します。」
二人は幸せそうな顔をしていた。
巻き込むわけにはいかない。
俺は二人に何も言わず去った。
「なぁ、リコリス。
あいつはもう一人の俺の息子みたいな奴なんだ。だから…。」
「えぇ、何も言わなくても分かるわ。カインを追ってあげなければ、むしろ私があなたを叱っていたところよ。」
グランはリコリスへ微笑んだ。長い時間を離れていた二人だが、そこは幼なじみ。
二人の距離はすぐに縮まったのだ。
グランは、カインを追いかけ、家を出た。
「おい、カイン。ちょっと待ちなさい。」
「グランさん、どうしたんですか?」
「お前の力になるために来た。俺は魔王のことが少しばかり詳しい。お前にとって必要なのは、ラクリアか?それとも魔王か?」
「話せる魔王です。」
「話せる魔王か。
なら心当たりがある。転移転送して、獣人国の近くの村へは行けるか?」
「本当ですか!?もちろん、行けますよ。」
「なら、そこへ飛んでくれ。」
「分かりました。」
ウルティアとの思い出の村に来る。
少しばかり、胸が痛む。
「こっちだ、着いてこい。」
「分かりました。」
一つの建物に着く。
「魔王アセディアよ、入るぞ!」
「魔王がいるのですか!?まったく何も感じませんよ!」
すぴーすぴー。
グランは、ボソッとつぶやいた。
「寝床を壊すかな。」
「ぎゃー、やめてっ!」
魔王アセディアは起きた。
「久しぶりだな。頼みがあってきた。」
「いやよ、面倒くさい。私は寝たいの。」
「さぁて、寝床を燃やすかな。」
グランの目が妖しく光る。壊す気まんまんだ。
「ぎゃー、やめてっ!あなた、本当に人間なの!?何度も魔王を脅す人間なんて、あなた以外いないわよ!」
「えーっと、何度も脅してるんですか?」
「そうよっ、この男は何度も何度も私が嫌がることを嫌がらせするのよ。殺すほどのこともしてないし、むしろ殺すのも面倒くさいし、嫌な男なのよ。」
「グランさん…。」
ニコッとグランは妖しく笑う。魔王も人間も、時と場合によっては、大差ないようだ。
「話しを聞いてくれるみたいだぞっ。」
「はいはいっ、それでどうしたの?」
「冥界へ行きたい。俺を悪魔界へ飛ばしてくれ。」
「なっ!?カイン、何を言っている!?」
「あなた…、正気?ん?あぁ、そういうことね…。」
「頼めるか?」
「条件があるわ。私にこの男に邪魔されないような鉄壁の睡眠所を作りなさい。」
「戻ってこれたら、するよ。」
「いいわ、ただしあなただけね。精神だけを飛ばすけど、今すぐやる?」
「いやっ。別の場所でやる。」
「グランさん、ありがとうございました。」
「カイン、俺は悪魔界や冥界がどんなところか知らない。大丈夫なのか?」
俺は少しだけ悲しげな顔で微笑んだ。
「止めても聞かないんだろうな。必ず無事に帰ってこい。」
「もちろんです。」
俺はグランをリコリスの元へ転送した。
そして魔王アセディアとジャパンへ戻る。
「ツヴァイ、ウィズ、リュクレオン、後は頼んだ。行ってくる!」
『ご武運を。』
『戻ってくるんじゃぞ。ゼリアンは、我々に任せておけっ。』
『悪魔は希望に弱い。そして絶望が好物だ。それを忘れるな。』
「皆、ありがとう。
魔王アセディアよ、頼む。」
魔王アセディアから多重魔方陣が浮かび上がる。
「分かったわ。ちなみに冥界へ行くには、悪魔界の中心から行けるわよ。
注意して行きなさい。
いくわよっ、フォールダウン!」
俺の精神は、悪魔界へ飛んだ。
イメージ通りの世界だ。
空は暗い。
花や木々は咲いていない。
ただ、荒野が広がっている。
いや、遠くから黒い何かが近づいてくる。
悪魔たちの群れだ。
「久々の人間だっ!」
「美味そうだぞ。」
「あれは、俺のものだ。」
俺は一応、交渉してみる。
「悪魔どもよ、俺は冥界へ行きたい。
通してくれないか?」
悪魔たちはゲヘヘと笑った。
「そんなことさせるわけないじゃないか。」
「お前はここで俺に食べられる。」
ざっと悪魔たちの群れの数を見る。
約一万まで群れが大きくなっていた。
「先手必勝だ。
広域殲滅魔法メガフレア!」
極大の爆発が、悪魔の群れを襲う。
これで一気に削れるはず!
!?
なんだ!?普段は魔力の消費とともに回復を始めるのに機能していない!?
爆発が収まると、悪魔たちは笑う。
「馬鹿めっ、人間の魔力はここでは回復しないぞ。
自分で死期を早めやがった。」
「一つ聞いていいか?広域殲滅魔法だったんだが、何故、そんなに数が減っていない?」
「私が説明しましょー。んー、ジェントルマンですからな。
我が輩は悪魔の中級貴族。我が輩にとっては、爆発は好物なのである。」
「おいおい、悪魔にも等級があるのかよ。」
「もちろんですよ、我が輩の上には上級貴族もいます。更にその上もね。」
「先が見えない話しだな。」
「さぁ、では食べさせていただきましょー。」
俺は光の闘気を使う。
「魔法が駄目なのは、分かった。
なら、光の力で戦う!
さぁ、かかってきやがれ!」
悪魔たちは笑う。
「光の闘気ですか。
だが、この世界ではその力は弱まります。
さぁ、いただきます。」
絶望とも言える戦いが始まった。
…。
……。
………。
いくら斬ったのだろうか。
いくら悪魔を滅ぼしたのだろうか。
記憶が曖昧だ。
意識がもうろうとしている。
「何故、あなたはそこまで粘れる!?」
「…。」
「そのダメージ、何度も死んでいるはずだ。何故、死なない!?」
「……。」
「ぎゃー。」
悪魔たちの断末魔が遠くの方で聞こえる。
俺はひたすら斬り続けた。
…。
……。
何かとてつもない強い者が現れた気がした。
「お前ら、もうやめろっ!」
「サタナキア様!」
「カインさん、こちらへ。」
俺は意識がなくなりかけている。
だが、この者へは攻撃しなくても良さそうだ。
俺はこの男を知っている気がする。
「カインさん!大丈夫ですか!?」
「ルシファー様、マズいです!カインさんの意識がもう…。」
「…。
お、俺は冥界へ行くんだ…。」
「無茶です!今すぐ人間界に戻って休まないと精神が崩壊します。」
俺はふらふらとなりながら、悪魔界の中心へ向かう。
「分かりました。せめて入り口までは連れて行きます。」
「カインさん、こちらです。」
神殿があった。
その神殿には、地面に丸い渦がある。
その渦こそが冥界との入り口だった。
俺はふらふらになりながら、その入り口へ飛び込んだ。
「カインさん…、ご無事で。」
ルシファーとサタナキアは、心から祈るのだった。
「それにしても、カインさんは凄まじかったですね。」
「そうだな。」
カインが人間界から通ってきた道をみる。
そこには無数の悪魔だったなれの果てが横たわっていた。
「悪魔の数が激減しましたね。」
「まぁ、管理しやすくなったということにしておこう。」
「他の悪魔長たちが不在で助かりました。」
「あぁ、いたらとんでもないことになってたろうな。」
ルシファーとサタナキアは、カインの力を知っている。しかし、それでも道は困難であろうと知っていた。
できれば、一緒に行きたいが、盟約に縛られ冥界へはいけない。
カインの無事を願うばかりであった。
次回、『84.神の呪い』へつづく。