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ようこそ、異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語  作者: 蒼井 Luke
第3章 戦場の姫巫女
82/120

82.音速の世界

【インパルス】


「はぁはぁ。

くそっ、またダメかっ。」


ジャックは、地面を殴った。


インパルスは驚かない。

ジャックが能力を使用したのが分かったのだ。

ジャック能力『闘神』。

勝てない相手には、過去へ遡って勝てるよう闘う。

闘えば闘うほど強くなるのだから、たいていは2巡目で勝つ。


「相手はゼリアンですか?」


インパルスは尋ねた。


「そうだ。もう10回以上、戦っているのに、まるで勝てるイメージが湧かない。」

「ジャックさん、もう今回は戦うことを諦めて下さい。」

「何を言っている!?」

「あなたの能力は、あなた自身の時間までは巻き戻らない。そのままでは、寿命が縮むだけで無意味です。」

「ふざけるな!」


ジャックはインパルスの胸ぐらを掴んだ。


「俺の能力は『闘神』なんだ!負けちゃいけないんだ!」

「ゼリアンがすでにクロノスナンバーの能力を上回っていただけです。もしかしたら、クロノス神すらも凌駕しているのかもしれません。」


インパルスは胸ぐらを掴まれたまま目を背けず、じっとジャックを見る。

それを見て、ジャックは気後れし、手を離した。


「どうする気だ?」

「今回の目標は、あくまでもアルテミスの救出です。何もゼリアンと戦う必要はありません。」

「救出だけをするんだな。」

「えぇ、その通りです。ゼリアンを倒しても、ジャックが倒れすることをカインは望みませんよ。」


インパルスは、カインとの出来事を思い出す。



「どうしたんですか!?ボロボロじゃないですか。」

「インパルス、頼みがある。アルテミスがゼリアンにさらわれたんだ。救出して欲しい。」

「カインはどうする気なんですか?」

「俺は冥界へ行き、ウルティアを助け出す。」

「カイン、なんて顔をしてるんだ…。」


カインの表情は今までにないぐらい追い詰められていた。


「それほど、ウルティアを助けるのは困難なのですか?」

「あぁ、同じクラスの相手と戦ったが、俺は1秒ももたなかった。」

「カインがですか!?」

「そのうえ、事前に悪魔界の連中と闘わないといけない。」

「危険です。あなた一人では行かせられません。」

「いや、俺しか行けないんだ。頼むっ、インパルス。こんなことはお前にしか頼めないんだ。」

「分かりました。ただし約束です。

…。

必ずウルティアと帰ってこい。」

「あぁ、約束する。」



あの時、カインはウルティアを助けるために、命をかけるつもりだった。

それほどの決意した顔だった。

思わず、立場を忘れて命令してしまったのだ。

なら、俺もアルテミスを助けるために命をかける。


「ジャック、アルテミスの居場所は分かりますか?」

「あぁ、ゼリアンのすぐ傍にいた。神聖ゾルタクス国城の南塔の最上階だ。」

「それだけ分かれば充分です。」


ジャックとインパルスは、神聖ゾルタクス国城の見える位置まできた。

その位置で、インパルスは空へ向かって叫ぶ。


「魔王よ、頼みがある。我の願いをききたまえ。」

「インパルス、何を言っているんだ!?」


その時、空間が歪みだした。


「どこかで聞き覚えがあると思ったら、あの時の坊やじゃない。」


そこにジャパン国にいた魔王アギーラが現れた。

ジャパン炎上の原因となった、暴食の魔王だった。

相変わらず太っている。


「魔王アギーラか。頼みがある。俺は今から音速と化す。思考の音速化を手伝って欲しい。」

「んー。いいわよ。ただし、魔王に願うということは分かっているわね。あなたは私の願いに何でも応えなければならない。あなたにその覚悟はある?」

「ちょっとまて、インパルス!魔王が魂が欲しいといったら、お前の命はそれまでだぞ!」

「魔王アギーラよ、俺はお前の望みを一つだけ叶えよう。だから、俺に力を貸してくれ。」

「やめろっ、インパルス!」

「契約は成したわ。さぁ、共に行きましょう。」

「馬鹿野郎が…。」

「すみません、でも、俺は何としても心友の願いを叶えたいんだ。」

「ふふふっ、今から願いを叶えてもらうのが楽しみね。どんな味なのかしら。」

「見ろっ、魂を食べようとしているぞ。」

「いくぞっ、魔王アギーラ!

能力 宣誓と誓約!

我、敵を滅ぼす者となる。

我をそのために音速にさせたもう。」


インパルスは、音速と化した。


「これはサービスよ。」


魔王アギーラの力を使って空中を飛んでいる。

そして、凄まじいスピードで魔王アギーラと二人で神聖ゾルタクス国城へ迫った。

近づくにつれ、ある疑問が湧く。


「これも幻覚を使っているのか?」


空間が歪んでいる。

インパルスは一瞬、止まってしまった。

その反動で衝撃波が城を襲う。


衝撃波とインパルスの間には一瞬だけ真空が生まれた。

インパルスは止まってしまったものの、再スタートする。

インパルスからの風圧により、その真空はカマイタチとなってはじけた。

電磁波を使った幻覚も全てはじけ飛ぶ。


「見えたっ!」


ゼリアンも、何かは分からなかったが、何かが近づいてくると認識した。

自分を防御する。

そして、自分を攻撃すると思ったため、自分以外の対処が遅れた。


「突撃っ!」


二人、女性がいる!?

どっちだ!?


「両手に華でいいじゃない。」

「それもそうか。」


城壁へ突撃し、そのまま両手に女性を抱えた。


「全員に防御結界を張ったわ。

遠慮なく行きなさい。」


インパルスは、また空を飛ぶ。

ゼリアンは、それを許さなかった。

魔力を込めた神速の魔力弾がインパルスに迫ってくる。


「くそっ、避けられない。」

「しっかりなさい。音速に上限はないわ。あなたはもっと早くなれる。

音速のまま、神速を超えなさい!」


カインの追い込まれた顔を思い出す。

少しだけ、力が湧いた。

しかし、まだ速度が負けている。

ゼリアンの攻撃はインパルスを消し炭にしてしまうほどの威力だ。


む、むりなのか?

インパルスは心が折れかかった。


『馬鹿インパルス!負けるなっ!』


エレナ?

いつも傍にいた女性を思い出す。


「い、いつまでも、

馬鹿馬鹿いうなー!」


インパルスのスピードがあがった。

そして、ゼリアンの攻撃をかわし、そのまま逃げ切った。


「はぁはぁ。」


両手には二人の女性が気絶している。

一人はアルテミスだ。

もう一人は誰だか分からない。


「お疲れさま。」


魔王アギーラは、すっかりと痩せている。

妖艶な恰好をしていた。


「ありがとう。おかげで助けることができた。」

「ふふふっ、契約だからね。さぁ、では次は私の願いを聞いてもらいましょう。」

「分かった。何でも聞く。俺の名はインパルス。インパルスの名に誓って男に二言はない!」

「楽しみだわ…。」


…。

……。

………。


「はぁはぁ、アギーラ、頼むからもう許してくれ。もう限界だ。」

「何を言っているの?男に二言はないんでしょ?まだまだ私は満足できないわよ。」

「頼むっ、もう限界なんだ。」

「だめよっ。まだ満足できないわ。もっと満足させてっ。」


ギシギシ。


…。

……。

………。


「もう、ダメだっ。」

「あと、もうちょっとだから我慢してっ!」


インパルスは思わず立ち上がった。


「もうムリだっ!店主、頼むっ!少しだけ、値引きしてくれっ!俺の財布がもうもたない。椅子だって、太りすぎてきしみっぱなしじゃないか!」


テーブルには5人が並んでいた。

アルテミスとアマテラスは絶句している。

ジャックは、既に酒で潰れていた。


「ぐごー。」


インパルスは泣きそうになっている。


「ジャック-!起きてくれっ!」

「ぐごー。んがー。」

「あらっ、男に二言はないんでしょ?あっ、店主!この焼き鳥あと50人前お願いねっ!」

「まだ注文するんですか!?」


店主がやってきた。


「あの-、もう食材がなくて、焼き飯ぐらいしか作れません。」


それはそうだろう。

テーブルの上には尋常ではない程の皿がのっていた。


「じゃあ、残りの焼き飯をあるだけちょーだい。」

「いやーー!!」


インパルスの悲鳴は、街に響き渡るのだった。


扉の外にはエレナたちが、こっそり様子を見ていた。 


「エレナ、よかったね。」

「なっ、何で私がよかったのよ!」


ウロボロスの元から戻る時、たまたまウロボロスが現世の様子を見せてくれたのだ。

それはインパルスが追い詰められた瞬間だった。

そして、思わずエレナはインパルスに叫んでしまったのだ。


「遠く離れてても声が届くなんて、よっぽと心が繋がってるのね。」

「繋がってるのは、ただのくされ縁だけよ。」


エレナはその時を思い出し、少しだけ嬉しそうにしていた。



次回、『83.絶望的な戦い』へつづく。

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