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ようこそ、異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語  作者: 蒼井 Luke
第3章 戦場の姫巫女
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78.獣人国との同盟

「カイン、ごめんなさい。」


「いや、いいんだよ。俺も悪かったのだから。」


全員、ラフな恰好で広間でくつろいでいる。

その広間の隅っこで、カインとウルティアは話していた。

ただ、会話はつつぬけである。


「ううん、私こそ勝手に勘違いして、ごめんね。」


「そんなことはないさ。嫉妬するウルティアも可愛かったよ。」


カインとウルティアは花が飛んでいるような雰囲気だった。

周りは明らかに気まずそうだが、二人は気づかない。

そんななか、勇気を出してアルテミスが声をかけた。


「あの~、お姉さま。そろそろ、皆でお話ししませんか?」


ウルティアは慌てる。ようやく、二人の甘い空気に周りが気まずい思いをしていたことに気付いたのだ。

カインは、まだお花畑モードになっている。


「ご、ごめんなさい。」


獣王は安堵した。ウルティアの気分だけは損ねたくなかったのだ。

もしかしたら、タイロン様よりも強いかもしれないとさえ、思っている。

獣王のその姿を見て、カインもようやくいつもの調子に戻った。


「さて、そろそろ本題に入るか。獣王よ、人間国を無闇に襲うのは、止めてくれないか?」


獣王は険しい顔をした。


「あなた方には感謝している。だが、同胞を手にかけた報いを受けさせねばならない。」


俺はひかない。


「何も手をかけた者まで、襲うなとは言っていない。無関係の人は襲わないで欲しいだけだ。なぜなら…。」


俺は幻術がかかったペンダントを外した。


「獣人国を傷つけたのも人間なら、助けたのも人間なんだ。人間全員が悪いやつじゃない。そこを分かってもらえないだろうか?」


アテナもペンダントを置き、幻術を解いた。

ウルティアも幻術を解く。


「なっ!?人間だったのか!?」


獣王は驚く。

タイロンは、そんな獣王を叱った。


「気配を探ればすぐ分かるはずですよ。まだまだ修行が足りませんね。この後、久々にしごいてあげましょう。」


獣王は顔がひきつる。タイロンのしごきか…。相当きつそうだな…。


「そ、それでは、我々は誰を報復したらいいんだ?」


俺は答える。


「今回の元凶は、神聖ゾルタクス国の奴らさ。」


アルスがが話しに入ってきた。


「正確には、神聖ゾルタクス国の一部です。」


俺と獣王は、キョトンとする。何故、そんなことが分かるのだろうといったような顔だった。

アルスは、少しだけ躊躇した後、続けて話す。


「申し遅れました。私の名は、アルテミス。神聖ゾルタクス国の月の姫御子です。」


「へっ?」


俺は驚いた。

ウルティアの顔を見ると、知っていたようだ。

この流れは、大丈夫か?アルテミスを危険に晒すかもしれない。

俺は少しだけ警戒した。


「ツヴァイ、大丈夫ですよ。我々は、アルテミスに何もしません。」


タイロンは優しく話し掛ける。


「しまった。まだ、俺のことを話していませんでした。俺の本名は、カイン。

カイン・レオンハルト。

ジャパン国の首相だ。」


今度は、獣王が驚く。

そうだろう。以前、降伏勧告をした国の首相が、目の前にいるのだ。


その時、ジャパンに大使として向かっていた獣人国の三連星が戻ってきた。

「父上、戻りました!あの城門のヤリ、見ましたか?あのカインが投げたものですよ!」

「カイン首相は、臆病者なんかじゃなく、真の強者でした!」

「もう二度と会いたくないです!」


3人はカインの顔を見る。


「「「ぎゃーー!!!」」」


失神して倒れた。


「どういう教育をしてるんですか?」


獣王は、頭を抱えている。

よく見るとタイロンも同じだ。


「と、ところで息子たちの様子から、カイン首相本人であることは分かった。

それで、何故こちらに?」


「いや、単に偶然、通りかかっただけだよ。」


獣王はあっけにとられている。だが、事実なのだから仕方ない。本当にたまたまなのだ。ツヴァイがウルティアから逃げようとして転移した先がこの国だっただけなのだから。


「偶然か…。だが、何か見えない手に導かれたような気もするな。民主主義国家ジャパン国のカイン・レオンハルト首相よ、望みはないか?我ら獣人国はお主とウルティア様への恩を忘れん。」


ウルティア…様?

めっちゃ、ビビられてるな。


「ならば、同盟を結びたい。お互い助け合いたいんだ。」


アテナは、このやり取りを苦々しく見ることしかできない。


「同盟か…。

よかろう、共に歩もう。」


カインと獣王は握手した。ここに民主主義国家ジャパン国と獣人国は同盟を結んだ。


「さて、それじゃあ、カインにかけられた暗示を解きましょう。」


ウルティアはカインへ近づき、頭に手をかざす。ウルティアの手が輝き始めた。


それと同時に使用不可になっていた数々の能力が使えるようになっていた。


「ありがとう。よしっ、元通りだ。」


ウィズ、検証してくれ。


『報告:ほとんどの能力が消失しています。』


なっ!?

そんなバカな!?


俺はアテナを見る。鑑定してみた。

そして驚愕する。

アテナの能力もほとんど失われていた。

一般的なものが、ほとんどだ。

何より驚きなのは、クロノス神から授かった能力『究極進化』もなくなっている。


「どうした、カイン?」


「言いにくいんだが、俺もアテナも能力のほとんどを失っている…。」


「そんなバカな!?

ウルティア、私も解いてくれっ。」


「分かったわ。」


ウルティアはアテナに俺と同じことをしようとした。しかし、驚く。


「能力にかかっていないわ。でも、変な洗脳を受けているみたい。」


アテナは嫌な予感しかしない。


「頼む、それを解いてくれっ。」


アテナは洗脳を解こうとしたが、更なる障壁が現れ、ウルティアをドアへ吹き飛ばした。

そして、アテナから、女神アテーナーが顕在する。


「余計なことをするな。」


一同は驚く。

タイロンがいち早く反応した。


「女神アテーナーなのか?どういうことなのだ?」


「白虎か。久しいな。

アテナは私とソラトとかいうものが、精神を一定方向へ導いているのだ。

余計なことをされては困るのだよ。」


俺は女神アテーナーを見る。


「それは、精神汚染の間違いだろっ。」


「見解の違いだな。

それにしても、アテナよ、無様だな。

なんだ、その様は。まったく情けない。

白虎とカインが戦ってる最中に『きゃっ』だと?

情けなさを通り越して、同情すらしたくなるレベルだよ。」


アテナは女神アテーナーの指摘された事について、自分でも思うところがあったのだろう。

唇を噛み締める。

だが、もっと聞きたいことがあった。

思わず涙が出てしまう。答えを知っているからだ。だが、聞かずにはいられない。


「私の感情も…。

カインへのこの感情もあなた達が作ったものなのですか?」


「当然だ。今のアテナの感情のほとんどは、私とソラトとかいうものが作っている。

感謝するんだな。」


アテナは部屋から飛び出してしまった。


「女神アテーナーよ、お前は人の感情を何だと思っているのだ?」


女神アテーナーは鼻で笑った。


「ただの埃と同じだろ?何を怒っている。今のお前は、たかが人間風情のくせにな。」


その一言に俺は頭にきてしまった。


「お前は、どこまで傲慢なんだ!」


カインに神力が集まり出す。

城が揺れ始めた。


「我と戦うというのか?

面白い!貴様とは戦ってみたかったのだ。だが、いいのか?私は勝利の女神。お前の勝ちはないぞ。」


女神アテーナーに神力が集まり出す。

カインだけでなくタイロンと比べても圧倒的な強さだ。

だが、カインにとっては、今はそんなことは関係ない。


「勝てるなんて思っちゃいないさ。

だが、人の心をもてあそぶお前は許せないんだよ!」


女神アテーナーは、構えた。


「負け犬のお前らしい発言だな。何代目かは知らんが、ここがお前の最後だ。」


二人は一触即発になる。

攻撃を使用とした瞬間、また別の女神が現れた。


「およしなさい!」


アルテミスが口を開いた。しかし、その声はアルテミスではない。

アルテミスの中から女神アルテミスが顕在する。


「あなたは、こちらの世界にまで来て、まだそんなことをしているのですか?

私たちがいた世界での過ちを再び繰り返すつもりですか?」


女神アテーナーは、臨戦態勢を解いた。


「過ちなどではないよ。私は何度でも勝つまで繰り返すさ。

どうせ、お前らなどは…。」


話の途中だが、俺はブチ切れた。

神の福音を拒みし者よ、目覚め…。

俺の中に潜む神を呼び起こそうとした時、それは起こった。


バチン。


ウルティアが女神アテーナーの頬をはたいた。

女神アテーナーは少し沈黙した。

ウルティアとアルテミスは無言だ。


「すまない、少々やりすぎたようだ。少しの間、静観することとしよう。」


女神アテーナーは、神妙にしている。

しかし、ウルティアの怒りはまだとけない。


「それだけじゃ、ないでしょ?」


女神アテーナーは、ようやく申し訳なさそうな顔をした。


「ふぅー。カインよ、すまなかったな。アテナの精神はもう戻らん。せめて、詫びの言葉だけでも入れるとしよう。」


女神アテナは、消えようとした瞬間、ウルティアを見た。

そして、驚いた後、ウルティアの耳元で一言二言つぶやき、そして消えていった。


女神アルテミスだけは聞こえたようだ。そして同様に驚き、少ししてアルテミスの中へ戻っていった。


ウルティアは少しだけ目をつむり、カインへ向きなおる。


「カイン、お願い。アテナを追いかけてくれる?相当、傷ついていると、思うの。」


「分かった。」 


俺はアテナを追いかけた。

そして、この日のことを一生、忘れることができない日となった。

後から振り返ると、この瞬間が分岐点だったのかもしれない。


後世、最もカインを批判することとなる出来事へと、この先、続くこととなる。



【ゼリアン】


「とてつもない神力を感じたな…。

これは、獣人国の方面か。

あの時いた女神か、また別の者か…。

何も知らないうちに倒すべきか。

そして、その力を手に入れる!」


ゼリアンは右手に『神威の剣』を携え、獣人国へ単騎で転移した。



次回、『79.アテナの涙』へつづく。

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