73.赤と黒の饗宴
【ツヴァイ】
はぁ。
ウルティア、強すぎだろう。
俺のスペックは、カインと全く同等なんだぞ。
もはや、チートの権化にもかかわらず、全くレイピアの軌道が見えなかった…。
ウルティアは、もはや強さの次元が違いすぎる。
「えーっと、ツヴァイ?
そろそろ事情を教えてくれるかな?」
アテナはカインを心配していた。
夫婦喧嘩をしたと思ったのかもしれない。
アテナの弱点だ。
恋愛経験がないため、色恋には滅法弱い。
しかし、実はツヴァイも同じだ。
人の汚い部分は詳しいのだが、純粋な気持ちはサッパリ分からない。
ただアテナと違って、それを自覚している。
ツヴァイは、考える。
事情を話す。
アテナはあのお方に喧嘩を売る気がする。
カインのことになると感情の抑制がきかないからだ。
事情を隠す。
あとでカインが困る。
真実を知るまでに誤認を与えていくことになるからだ。
偽情報を与える。
あとでウルティアが怒る気がする。
カインの体で、女神に神の偽情報を与えるのは、不敬とか言いそうな気がする。
今の女性3人は、地球にいた女神の生まれ変わりなのだろう。
もう今は人間であるとはいえ、不用意なことはしない方がいい。
よしっ、選択肢は一つだけだ。
カイン、すまん。
「夫婦には人に言えないこともある。
そういうことだよ。」
「そ、そうか。
雰囲気が変わったのは、悲しい気持ちがでてるからなのかな?
私でよければ話しを聞くぞ。」
ツヴァイは思う。
カインもアテナを気に入っている。
先ほどの信頼できるといった発言からも、読み取れるだろう。
そんな二人が何故、戦うことになるのかが分からない。
お互い確信しているのが気になるが、まぁ、俺が気にする必要はないか。
「アンは、優しいのですね。
ありがとう。
それなら、今夜はいっし…。」
ウルティアの呪縛が発動した。
発言できない。
なっ!?
ヤバい!
言葉が制限された!
そして、ウルティアにアテナを口説こうとかながバレた。
逃げ出さないと命の危機だ。
もう、転移はできるか?なんとか、大丈夫そうだな。
「アン、転移するぞ!
こいっ!」
アテナの手を取り、転送と転移する。
アテナは驚いた。
今まで、自分にここまで強引に接する人は少しばかりはいた。
しかし、強引にさせ続けた人は一人もいない。
それにもかかわらず、アテナはツヴァイに逆らうことなく身を任せてしまった。
ツヴァイは適当な場所の上空へ転移転送する。
そして、二人は惨劇の上空にきてしまった。
「こ、これは…。」
一方は獣人だ。
もう一方は人の軍隊である。
旗を見る。
「神聖ゾルタクス国?
相手は、兵士でもない!
ただの住民じゃないか!」
俺は目を細めた。
死者の魂が天に昇らず、一カ所に集められている気がする。
感知能力の高いウィズを連れてこなかったのが悔やまれる。
「アテナ、この戦いを止めたい!
やつらの目的は、神級アイテム『賢者の石』を作ることに間違いない!」
「それは、なんだ?
とにかく、マズいということだな。
分かった。
幸い二人の恰好は、本来の姿とかけ離れているし、問題ないだろう。
行こうっ!」
赤と黒のエルフが戦場に舞い降りた。
よく見れば、あの二人と分かるであろう。
しかし、絶対にない組み合わせなのだ。
誰も気づくことはありえない。
ただ、一人を除いて。
「お前ら、それでも人か!
虐殺をやめろっ!」
「覚悟してもらおうか。」
ツヴァイとアテナは、背中を合わせ、襲いかかってくる敵を斬っていく。
「俺はアインとは違う!
覚悟しろっ!」
ツヴァイは、つい本音を言ってしまった。
アテナは戦場で感覚が向上している。
ツヴァイの発言で全て分かった。
アインとツヴァイ。
そうか、アインは1で、ツヴァイは2という意味だ。
カインの2人目の人格がツヴァイなんだな。
次々に襲っても、一撃で斬り捨てられてしまうため、敵兵はひるんだ。
「アテナ、チャンスだ。
攻勢に出るぞ!
『黒の闘気』!」
アテナは、驚く。
見たこともない。
そして、究極進化の能力でも真似できなかった。
黒の闘気…闇の王の固有スキル。
全能力20倍
ツヴァイは黒のオーラに包まれた。
一撃で20人が斬り捨てられていく。
小隊長が現れた。
「われこそは、しょ」
「もっと、強くなってから言えっ!」
一撃だ。
「我こそは、中隊長の」
「黙れ。似たような顔しやがって!」
またもや一撃だ。
アテナは、ツヴァイの背中を追いかけることしかできない。
お互い魔法を使っていない。
剣技だけなのだ。
それなのに、ここまで力に差があるのか!?
この男はカインではない。
道は違えど、カインと共に歩もうと憧れた。
決して背中を追いかけるためではない。
傲慢だろう。
でも許せないのだ。
アテナの傲慢の種が芽吹き、究極進化の力で大輪を咲かせた。
これならっ!
…。
それでも、追いつけないだと!?
ありえない!魔王の力を宿しているのに、それでも背を見ることしかできないのか!?
嫌だっ!
そんなのは、絶対に嫌だ!
私は天翔院アテナだぞ!
そんなの!
アテナは涙が出てくる。
悔しかった。
カインに前を歩かせたくなかった。
もしかしたなら、マリーナなら共に歩むことができるかもしれない。
そう思うとなおさら悔しかった。
「私は…。」
内なる声が聞こえてきた。
『アテナ。
あなたは、私と同じなのね。
あなたに、負けは許されない。
あなたの、その想いに応えましょう。』
アテナは輝き出す。
半神半人となった。
アテナの一撃は、神力と魔王の力が含まれる。
その一撃は、多くの人を吹き飛ばした。
そして爆風が戦場を駆け抜ける。
「や、やりすぎじゃね?」
ツヴァイは、若干、ひいてしまった。
アテナも自分の力に驚く。
「や、やりすぎた…。」
目の前の兵は吹き飛ばされたため、敵の指揮官らしき人が見える。
「た、たったの3分で我が兵の半分が全滅だと!?
くっ、撤退だ!」
その指揮官は撤退しようとした。
しかし、傍にいた者が止める。
男女だ。
その二人は、ゆっくりと近づいてきた。
この光景を見ても闘おうとするのだ。
警戒した方がいいかもしれないとツヴァイとアテナは目で合図する。
しかし、その瞬間、ツヴァイは斬られた。
!?
二人は、驚く。
全く見えなかったのだ。
「太陽の姫御子、アマテラスの名において、世界へ命じる。
いにしえの盟約に従い力をかしたまえ。
灼熱」
灼熱の炎が二人を襲う。
アテナは、灼熱の炎を切り裂いた。
そして、その瞬間にアテナは斬られた。
「ぐっ。バカな…。」
「大丈夫か、アン!」
二人は、大ダメージを負っている。
特にアテナは、重傷だ。
「おやっ、今のに耐えるとは、なかなかですね。」
「えぇ、さすがアテナ女王とカイン首相ですわ。」
二人は驚く。
「ぬかせっ!
能力『究極進化』!
灼熱!」
しかし、究極進化は発動しない。
それを見て、ツヴァイは撤退を決断する。
「転移転送!」
しかし、転移転送は発動しない。
「なんだと!?」
「ふふふっ。
無駄ですよ。しかし、あなたたちは素晴らしいスキルの持ち主ですね。」
!?
離れていたはずの男が突然、目の前に現れた。
そして、上空から舞い降りる存在がいた。
「離れろっ!
龍の咆哮!」
男は吹き飛ばされる。
ウィズが二人に話しかけた。
「大丈夫ですか?
今、回復魔法をかけます。」
アテナとツヴァイは体力を回復した。
「お主たち、何故あんな不用意に接近させておる!」
ツヴァイは驚く。
「不用意!?
警戒していたぞ!」
「いえっ、あの男はゆっくり歩いて、あなたたちに近づいていましたよ。
それと、何故、能力を使って避けなかったのですか?」
ツヴァイもアテナも訳が分からなくなっている。
「能力が何故か使えなくなってしまったんだ。」
そんなやり取りを見ていたゼリアンは不敵に笑った。
「これはこれは、なかなかのメンバーですね。
アマテラス!
賢者の石を使いますよ。」
アマテラスは驚く。
「ゼリアン!?
まだプロトタイプですよ。一度、使えばそれっきりで失ってしまいます。」
ゼリアンはアテナを見る。
「それほどの価値がある相手ですよ。」
アマテラスは良く分からなかったものの、ゼリアンの指示に従った。
ゼリアンとアマテラスは、懐に忍ばせた賢者の石を使う。
二人は、半神半人になった。そして、賢者の石は砕け散った。
「アテナ女王、いいことを教えてあげましょう。
あなたの能力は使えなくなったわけではないですよ。
ただ使えないと思い込んでいるだけです。」
「なんだと!?」
またもやゼリアンは、いつの間にかアテナの目の前に立っていた。
「今まではね…。」
ゼリアンはアテナを斬った。
「ふふふっ。あーはっはっは。
素晴らしい!
なんと、素晴らしい能力なんだ!」
「呪文がいらなそうね。
灼熱!」
全員を灼熱の炎が襲う。
リュクレオンは、翼を広げ全員を回収し、空へと逃げ出した。
「やむを得ん!
一時撤退じゃ!」
!?
全員が驚く。
空にいると思ったのに地面にいた。
「リュクレオン、右45度に龍の咆哮を!」
何が何だか分からず、龍の咆哮を放つ。
「次!
左15度に!」
言われるがままに龍の咆哮を放つ。
長い付き合いなのだ。
ウィズが何も根拠なく言うわけがないと信じている。
「マズいです!
どんどん誤差が広がっています。
少しずつ撤退しますよ。
ツヴァイ、アテナを抱えて、後ろ36度の方面へ交代を。」
ツヴァイもウィズの指示に従う。
「くっ、面倒ですね。
能力『究極進化!』
灼熱!」
ゼリアンの手のひらに小さな太陽が生まれる。
「強欲の魔王、降臨!
電磁砲!」
ウィズは、あさっての方向へ攻撃した。
そして景色が歪む。
その先にはゼリアンがいた。
光の渦がゼリアンを襲う。
ゼリアンは小さな太陽を放ったが、その太陽を突き抜けゼリアンを突き刺した。
小さな太陽はその場で爆発する。
全員が大ダメージを負った。
特にリュクレオンは、ツヴァイとアテナをかばい負傷がひどかった。
遠くから軍勢の音が聞こえてくる。
獣人国の軍だ。
「ぐっ、ダメージが大きすぎるか…。
まぁ、いい。
それ以上の収穫はあった。
アマテラス、退きますよ。」
「あなたたちの側にアルテミスはいるかしら?
もしいたのなら、私へ差し出せばあなたたちだけは助けてあげるわよ。
それでは、ごきげんよう。」
ゼリアンとアテナは撤退した。
ウィズとリュクレオンは力を振り絞ってツヴァイとアテナをギリギリ生命をつなぎとめるだけを回復させた。
そして、体力の限界を迎え、カインの体へ戻っていき意識を失った。
ツヴァイとアテナは獣人国の兵士へ囲まれる。
「エルフ?
この二人が我が国民を救ってくれた二人か?」
ツヴァイとアテナは幻術の能力を失っている。
しかし、二人のペンダントが幻術を付与していたため、周りからはエルフに見えた。
他の獣人が誤認する。
「王よ、そのようです。
どうやら、国民を助けていただいたエルフのつがいのようです。」
お揃いのペンダントをしているため、誤認したようだ。
「そうか、この二人を国賓として迎えいれろ。
二人よ、感謝する。」
アテナは赤いペンダントを見る。
正直、今のまま獣人と戦うのは不可能だ。
カインのプレゼントのおかげだ。
アテナはただ嬉しかった。
そして、自分に危険がないと分かった瞬間、ツヴァイとアテナは気を失った。
「なんと!
早く二人を城へ運べ!
それにしても、人間よ、許さんぞ!
フィーナ国といいゾルタクス国といい、我が同胞を何だと思っているのだ!」
「王、もう我慢ができません!」
「王、我が軍へ人間国への攻撃命令を!」
獣王は、兵を一喝する。
「ふざけるな!
我が軍だけでは、我が怒りはおさまらぬ!
同胞100万の獣人へ伝えよっ!
我等の敵は魔族などではない!
人間だ!
全同胞へ伝える!
人間を滅ぼせっ!」
獣人たちは歓喜する。
彼らは単純な命令を好んだ。
制限を受けない命令。
ただ人間を殺せばいい。
簡単な命令なのだ!
「うぉー!!!」
「滅ぼせっ、人間!」
【カイン】
「爺さん、そろそろ勘弁してくれっ。」
「いいや、今日という今日は、聞き分けるまでとことん説教じゃ。」
「何万回も同じことを聞いていれば、言いたくもなる!」
「儂のセリフじゃ!
何万回、同じことを言わせるんじゃ!
そろそろ、自分を許せっ!」
「自分が納得したならな!」
「お主、そう言って、何万回、転生を繰り返しておる!」
「他のカインだったものは、知らん!
俺は朝霧海斗とカイン・レオンハルトだから、たったの2回だけだ!
それに、俺はついこの前まで、あのカインとはは別者だったんだ!」
「だったら、関係ないに近いじゃろ!
ほれっ、自分自身を許せっ!」
「絶対に嫌だ。
贖罪の旅は、まだまだ続ける。」
「中途半場に統合しよって!
もう、分かった。
実力行使じゃ!」
「実力行使!?
俺は、この世界で戦い続けた男だ!
逆に痛い目を見せてやるぜっ!
光の闘気!
そして、半神半人モード!
いくぞっ!」
カインは、圧倒的な力をまとった。
次回、『74.続『全知全能の男』』へつづく。