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ようこそ、異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語  作者: 蒼井 Luke
第3章 戦場の姫巫女
65/120

65.漂流者

【ウルティア】


考え事をしたくて、つい海辺を歩いていた。

潮風が気持ちいい。

でも、心が晴れない。

少し前の戦後の出来事を思い出す。



時は遡る。


カインと二人で、助けられるだけ助けるための回復魔法と復活魔法を行使した後だ。

立つ気力もなくなってしまったので、二人で肩を寄せ合い、休んでいた。

そこにミカエルと、傷ついたユニコーン様がやってきた。


私は慌てて、ユニコーン様に声をかける。


「ユニコーン様、その傷はいかがされたのですか?

すぐ手当てをします。」


「ヒィヒィーン。

ヒィヒィーン。」


思わず目が点になる。

カインが話した。


「すいません、馬語はちょっと分からないので、人語をお願いできないでしょうか?」


「ヒィヒィーン。

ヒィヒィーン。」


ユニコーンは怒っているようだ。

ウルティアは、優しく声をかける。


「もしかして…。

神力が尽きてしまったのですか??」


ユニコーンは、首を縦にふって意思表示をする。


「いったい何が…。」


ウルティアは、それ以上の言葉が出なかった。

悪い予感しかしないからだ。


ミカエルは、申し訳なさそうに口を開き、その原因を話す。


「実は、神界で…。」


ウルティアは、言葉も出ない。

ユニコーンは、いまだに怒りが収まっていないようだった。


カインは、納得している様子だった。

これで、色々とつじつまが合うのだ。

通常、死んだ人間は生き返らない。

だが、各界が不安定になっている状況なら、どうであろうか。

そこにウィズが安定した橋をかけたら、そこに霊が殺到してもおかしくはないのだろう。


ただ、疑問に思う。

父であるクロノスの思惑は何なのだろうか。


今考えると、よく地球に出かけていた気がする。

何故?


ウロボロスはカインに話していた。

地球にとって、重要な年に、クロノスナンバーを転生させたのだと。


そうなると、地球のように変革を望んでいるのだろうか?

他の神々を敵に回してまで?


先ほどから父に呼びかけても、さっぱり反応がない。


カインも思考の海にのまれているようだ。

声をかける。


「カイン、大丈夫?」


カインは、ハッとした。


「すまない、考え事をしていた。

さて、ユニコーン様の神力を回復させる必要がある。

そして、ウルティアが女神に戻った時の神力も回復させておきたい。

神力とは信仰心の表れでもある。

そこでだ…。」


その後、カインの案により、神力を急激に回復させることとなる。


ジャパン国の国旗は、まだなかった。

そこで、ユニコーンと女神を表した国旗を作ることにした。

そして、国旗の女神は、『自由の女神』として人々に親しまれることとなる。


さらに、ユニコーンは数多くある物語の中で欠かせない存在として世に親しまれていくことになった。



時はまた元に戻る。


「お父様、何故、そのようなことを…。」


ウルティアは、自問自答を繰り返した。

しかし、答えは出てこない。


自分には答えを出せない。

それならば、カイン達、転生者に話していない、この世界の秘密を話し、一緒に考えてもらうべきだろう。

だが、それだけは決して許されない。


波打ち際を歩いていると、小船の残骸が流れついていた。


ふと近寄る。

銀髪の女性が倒れている。

慌てて、駆けだした。


脈は大丈夫なようだ。

回復魔法をかけ、容態を安定させる。


そして、服を見てみると驚く。

神聖ゾルダクス国の紋章だ。

そして、身なりから、かなり上位の人と思われる。

もしかしたら、姫巫女の可能性がある。

そうなると、国際問題に発展するかもしれない。


慌てて、カインへ連絡を入れ、迎えにきてもらうことにした。


目立たず、救護者を運びたいと。

転移してくると勝手に思い込んだが、全然、現れない。

心配になってしまった。


しばらくすると、遠くの方から音が聞こえてくる。


ポッポー。


ポッポー!?


ガタンゴトン、ガタンゴトン。


ガタンゴトン!?


黒い大きな車両は、遠くからやってきて、あっという間に目の前で止まる。

そして、中からカインが出てきた。


「おまたせ、ウルティア。」


「カイン…。

目立たずってお願いしたんだけど…。」


「これなら、中に入れれば、目立たずに運べるだろう?」


「転移してきて、転送してくれれば、それでよかったのに…。」


その瞬間、カインはハッとした。

思い至らなかったらしい。


ちなみに、ウィズはカインが興奮していたため、黙っていた。


「カインのバカ-!」


ウルティアは、思わず叫んでしまった。

色々と精神が不安定だったのだろう。


カインは、慌ててウルティアを抱きしめ、落ち着かせた。


リリアはその光景を見て、思わず声を出してしまう。


「あのー、いちゃついてないで、さっさと救護者を運びませんか?」


カインとウルティアは、慌てて離れる。


「そうだった、ウルティアと救護者を病院へ転送。

俺も転移っ!」


三人は、その場から消えてしまった。

残されたリリア。


「えっ!?

これ、一人で乗って帰るの!?」


リリアは、この後、一人で戻る。

歩く人々の好奇の目に耐えられず、恥ずかしい思いをすることとなるのだが、カインは気づかなかった。



【???】


まぶしい。

ここは、どこだろう。

お姉さま…。


だんだん意識がはっきりしてくる。

部屋は明るい。

だが、窓の外は暗い。


ろうそくを使っていない。

そんな光景は、あり得ない。


目の前には、絶世の美女が顔を覗いている。

「女神さま?」


思わず声を出してしまった。

そうか、ここは死後の世界なのかもしれない。


目の前の女性も女神様と呼ばれて、驚いているが、図星だったのだろう。 


私たちは、神からの脱却を目指して国を治めている。

その罰を与えにきたのだろうか。

でも、罰を与えるような顔をしてはいない。

むしろ、心配してくれているようだ。


その時、扉が開く音がした。


黒い髪の人が入ってくる。

死神だろうか。

でも、それ以前に…。


「男っ!」


全身から鳥肌が立ち、思わず飛び跳ね、女神様の後ろに隠れてしまった。


「へっ?」


男は驚く。

それは、誰でもそう反応してしまうだろう。

でも、仕方がない。

男は苦手、いや嫌いなのだ。


「えーっと、カイン。

ちょっと外で待っててもらっていい?」


女神様が気をつかっていただいた。

申し訳ないと思うが、まだ鳥肌がおさまらないので言葉に甘えたい。

男は、外に出ていった。


あれっ?

カイン…。

どこかで聞いたことがある名だ。


女神様が続けて声をかけてくれた。

「ところで、どうして海を漂流されていたのですか?

もう少しで死んでしまうところでしたよ。」


驚いた。

「私は、まだ生きているのですか?」


扉の向こうから声が聞こえる。

「目の前にいるウルティアが助けてくれたんだよ。」


「そうだったのですか!?

お礼が遅くなり、申し訳ありません。

ありがとうございました。」


「いえいえ、お気になさらず。」


「本当に、申し訳ありませんが、漂流した原因ですが、諸事情があり言えません。」


「そうですか。

もし、お国のことで何かあれば、扉の外にいるカインに相談するといいですよ。

彼はジャパン国の首相なのですから。」


!?!?


「カイン首相!?

もしかして、あの臆病者のカイン首相のことですか?」


「臆病者?

俺のことをそんな噂が回っているのか。

まぁ、心当たりはあるかな。

まぁ、落ち着いたら執務室においで。

助けられることなら助けてあげよう。

国に戻るにも援助が必要だろう。」


「一人で大丈夫です!」


「そんなに敵意を出さなくても、大丈夫ですよ。

ところで、お名前は何と呼べばいいですか?」


どうしよう。

悪意がないのは分かるけど、名前から身元がバレるとややこしいことになるかもしれない。

良心が痛むが偽名にすべきだ。


「アル…ス。

アルスといいます。」


ウルティアは、アルスをジーッと見た。


うっ、偽名ってバレてる。


「いい名前ですね。

私は、ウルティア。

どうぞ、よろしくお願いします。」


ウルティアの笑顔が眩しい。

なんて素敵な女性なんだろう。


「こちらこそ、よろしくお願いします。

ウルティアお姉さま。」


ハッとした。

つい、お姉さまと呼んでしまった。


ウルティアは、ただ優しく微笑んだのだった。



【カイン】


いつまでここに立っていればいいんだろう…。

カインは、しばらくドアの外で立ちっぱなしだった。



次回、『66.獣王の使者』へつづく。

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