62.【外伝1】そうだ、海へ行こう!
コンコン。
執務室の扉をノックする音が聞こえた。
エレナが執務室に入り、近づいてきた。
「カイン、夏よっ!
何か忘れてない?」
突然のエレナの発言に、俺は驚く。
「ん?
この国に夏なんて、あったか??」
まだ夏の暑さを味わってない気がするんだが…。
「この前、花火をしたでしょう。
だから、今は夏なの!」
「そ、そうか。
夏なんだな。
それで、忘れていることとは?」
エレナが、ぐいぐいと話してくるので、夏だと認めてしまった。
そう、今は夏なのだ。
「夏といえば、海よ!
海に行きましょう!」
その時、タイミングよくインパルスが執務室に入ってきた。
エレナは、突然のインパルスの入室により動揺した。
カインと二人で海に行きたかったので、
今の発言を他人に聞かれるのは恥ずかしかったのだ。
「お疲れ-。
ん?
学級委員長、そんな真っ赤な顔して、どうしたんだ?」
「いや、エレナが海に行きたいらしいぞ。」
インパルスはエレナの顔を見る。
そして全てを察知した。
「ぶはっ。
なんですか、そのイベント!
こりゃ、やるしかない!
皆を誘って行きましょう!」
エレナはインパルスに考えを見抜かれたのが分かり、顔を真っ赤にする。
「インパルス-!
私の気持ち、分かって言ってるんでしょ!」
「はいー?
何のことだか。
さぁ、海の準備だ!
さぁ、水着を用意しないとな!」
「帰ってきたら、仕事は倍です。」
「かんにんして。」
2人は言い争いをしながら、部屋を出て行く。
俺は一人、部屋に残された。
えーっと、これは海に行くことは確定なのか!?
二人のやり取りに圧倒され、聞きそびれてしまった。
どうしよう、この書類の山…。
徹夜が確定した瞬間だった。
そして、翌日、海にくる。
「うん、気持ちいい海風だな。
こんなところに、こんないい海岸があるなんて知らなかったよ。」
俺は海を見ながら、呟いた。
遠くの方でエレナがインパルスに文句を言っているのが聞こえる。
「インパルス、
ど、どういうことなの!?」
インパルスも気まずそうだ。
インパルス自身にとっても、この事態は想定外だったらしい。
「いや、それが。
昨日、ジャックに話したんだよ。
そうしたら、海といえば酒だから着いて行くって話しになって…。
さらにジャックが酔った勢いで、
酒は大勢で飲むのが楽しいんだから、たくさん誘おうって話しに…。
まさか蓋を開けてみると、こんなメンバーになるとは…。」
皆がいる方向を見る。
「ふふふっ、お兄様!
どうですか、私の水着姿!
悩殺されますでしょう。」
マリーナは、青系の水着を着ている。
記憶を失っているはずなのに、カインのことが好きみたいだ。
「満里奈、ちょっと派手すぎですよ。
この水着ぐらいが、ちょうど可愛いの境界線でしょ。」
セレンは緑系の水着だ。
マリーナと話せるのが嬉しそうにしている。
「いやいや、これぐらいは普通だと思うぞ。」
赤色の水着でアテナは、二人に話し掛けた。
それにしても、皆スタイルがいい。
「わ、私の存在が霞む…。」
その三人を見てエレナは思わず、自分の水着を見る。
どちらかといえば、スクール水着のような地味な水着なのだ。
「大丈夫、あなたはエロエロボディなのよ。
逆にそそるわ!
自信を持って!」
色欲の魔王ラクリアがそんなエレナを励ます。
相変わらず、きわどい紫色の恰好だ。
「なんで、あなたがここにいるの!?」
「あなたの煩悩が凄すぎて、気になって来ただけよ。」
インパルスは、エレナに対して冷たい目をする。
「学級委員長、魔王まで呼び出してしまうほど、
煩悩まみれだったんだな。」
エレナは右手を振り上げ、
インパルスにビンタをしようとした。
しかし、インパルスは避けて逃げ出した。
エレナは、顔を真っ赤にして追いかける。
ザバーン。
そんななか、海からクレアが顔を出した。
「カインさまー。
お魚、とれました!」
どうやら、素潜りで魚を捕まえてきたらしい。
1メートル級の魚だ。
魚を手に持ち、浜辺までやってくる。
クレアは動きやすいオレンジ色の水着だ。
「ふふふっ、斬りがいがある魚ですね。
次元斬りっ!」
そこにグリードが、包丁で魚をさばく。
「あっ、何をするんですか!
煮魚にするためにとったんですよ。」
怒るクレア。
つまみ食いをしようとするグリード。
そこにジャックも混ざる。
「いや、魚といえば刺身だろう。
このわさび醤油は、天下一品だぞっ。
上からかけてやる。」
「あぁー!
私、ワサビが苦手なんですよ!
なんてことを!」
クレアの尻尾は怒りのあまり、そり立った。
「みなさーん、
ご飯できましたよー。」
天使の羽根で飛びながら、
ミカエルがやってきた。
天衣無縫の天女のような水着?だ。
やってきた方向からは、ルシファーとサタナキアが楽しそうに料理を皿に運んでいる。
ミカエルの姿に見とれてしまい、
インパルスは足を止めてしまった。
そして、エレナに水際へ追い詰められる。
「ふふふ、もう逃がさないわよ。」
追い詰められたインパルスは、閃いた。
「もしや、俺の能力って水の上を走れるんじゃね?
音速っ!」
インパルスは、右足が沈む前に左足を出し、左足が沈む前に右足を出して、海の上を走った。
そして、当然、衝撃波が起こる。
その結果、大きな波が発生した。
海辺で砂遊びをしていた弱々しいグラトニーが波に対して、対処する。
「なんの!
反転!」
筋肉モリモリとなり、波も反転した。
水着がビッチビチでブーメランパンツのようになる。
み、見たくない。
波は全て、インパルスへ戻った。
そして、そこにエレナが追い打ちをかける。
「言霊!
インパルスを、かなづちに!」
インパルスは一時的にかなづちとなった。
「ぎゃー!
お、溺れるっ。
た、たすけてー。」
セレンがそれに気づき、アテナに話した。
「インパルスが溺れそうみたいよ。
水が邪魔みたい。
なんとかしてあげて。」
「セレン、自分で何とかしなさい。
まぁ、今回はいい。
フレアっ!」
アテナは、インパルスに向かって爆裂魔法を放つ。
インパルスの周りの水は、一瞬で蒸発した。
「「いや、もっと波くるから!」」
エレナとグラトニーは思わず、ツッコむ。
そして、対処に間に合わず、
大きな波が皆を襲った。
バシャーン!
ミカエルは、防御結果を張ったため、料理フロアは無事だ。
しかし、クロノスナンバーたちは全員、波でびしょぬれになっている。
最初にクレアの怒りが爆発した。
「もう我慢できません!
どうやらここで決着を付けないといけないようですね。
憤怒の魔王、降臨!」
クレアに憤怒の魔王が降臨する。
アテナは対抗した。
「ふっ、それではこちらも対抗させてもらおう。
傲慢の魔王、降臨!」
降臨した衝撃で砂が舞う。
他の人達が砂まみれになる。
セレンも砂まみれで嫌になった。
「もー、いやっ!
ゆっくりさせてよ!
怠惰の魔王降臨!」
グリードも、負けじと乱入した。
「面白そうだね。
血が騒ぐよ。
こいっ!四獣、朱雀!」
グリードに朱雀が舞い降りる。
戦ったことのあるジャックが驚く。
「ちょっと待て!
なんだよ、それっ!」
『カイン、危ない!』
ウィズが具現化した。
「強欲の魔王、降臨!」
「「「誰よっ、その女性!」」」
へっ!?
それよりも、強欲の魔王!?
またもや、衝撃波で砂が舞う。
エレナも砂まみれだ。
「せっかくのカインとのデートだったのに!
もうー嫌っ!
ラクリア、力を貸しなさい!
色欲の魔王降臨!」
「はいはいっ、協力しますよ。」
エレナに色欲の魔王が降臨すると、
水着がきわどくなった。
「きゃー!!
なんで、水着も変わるの!?」
マリーナも混ざる。
「ふふふっ。
カインお義兄さまは、渡さないわよ!
嫉妬の魔王。再びよっ!」
特大のエネルギーの嵐で、砂塵が吹き荒れる。
そこにウルティアが、やってきた。
どうやら、今まで建物の中にいたため、外でのやり取りを知らなかったらしい。
「みんなー、フルーツを切ったわよー。」
ウルティアはフルーツの盛り合わせを手に持っていた。
そこに砂が吹き荒れ、フルーツが砂まみれになる。
「…。」
ウルティアは、下を向いて沈黙した。
誰も表情は見えない。
そんなウルティアに神力が集まり出す。
ウルティアの周りに光の文字が浮かび上がった。
皆、立ち止まって焦る。
圧倒的な力の差を感じたからだ。
ウルティアが顔をあげると涙目だった。
「あなたたち、はしゃぎすぎです!
反省しなさいっ!!!」
神力の嵐が全員を襲う。
ズドーン。
クロノスナンバーもミカエル達も、
全員が吹っ飛ばされ砂浜に埋まった。
皆、元の姿に戻った。
俺とウルティアは、二人で夕日を見る。
夕日の景色は、キレイだった。
ただし、風景の中に首だけ砂から出ているのが数体なければ。
「あの~、ウルティアさん、
そろそろ出していただけないでしょうか?」
インパルスは、泣きそうに話す。
「カイン、夕日がきれいね。
このジュース、手作りだけど、どうかな?」
ウルティアは、ムシをした。
「あっ、あぁ。
とっても、美味しいよ。」
俺の顔は引きつっている。
あたりから声がする。
しくしくしく。
魔王ラクリア。
「うぅ、どうして私が。」
ジャック。
「やばい!
満潮だ!」
クレア。
「た、助けて下さい。
カインさまっ!」
俺はクレアの声に応える。
「ウルティア、そろそろ、皆を…。」
ウルティアの目が光る。
こ、こわい。
す、すまん。
俺には何も言えない。
『私が何でこんな目に…。』
「カインの薄情者-!」
「そんな、お兄様も好きです。」
「ふむっ、意外と砂の中は気持ちいいな。」
「あっ、夕日がきれー。」
「これも、いい経験ですね。」
「私、何もしてないのにー。」
「海は広いなぁ。」
「あっ、カニが鼻を!」
「酒をくれー。」
「ぐぅぐぅ。」
なんだか、俺も眠くなってきた。
むにゃむにゃ。
ぐぅぐぅ。
すぴー。
ハッと目が覚める。
執務室だ。
どうやら、夢を見ていたらしい。
はぁ、とんでもない夢だった。
それにしても、幸せな光景だったな。
いつか、そんな日がくるといい。
俺は、そんなことを思う。
コンコン。
執務室の扉をノックする音が聞こえた。
エレナが執務室に入り、近づいてきた。
「カイン、夏よっ!
何か忘れてない?」
えっ!?
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