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ようこそ、異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語  作者: 蒼井 Luke
第2章 破滅円舞曲
57/120

57.リコリスの花言葉

【グラン】


「聞いてくれ、リコリス。

インパルスがな…。」


「ふふっ。

さすが、私たちの子ね。」


グランとリコリスは、

二人が昔、住んでいた家で話していた。


昔過ごしたままの家だ。

台所も本棚も服も、思い出のままになっている。


あたりは霧で霞んでいる。


お互い何も言わないが、

もう現世でないのは分かっている。

二人とも、死んでしまったのだろう。

でも、今は凄く幸せだ。


リコリスは、魔王に体を提供することで、

グランやインパルスたちを守ろうとした。

そして、その代価として死んでしまった。


グランは、魔王に体を奪われたリコリスを取り戻すための代価として、神級アイテム『魂の簒奪』によって、魂が昇天してしまった。

それはもはや、死んでいると変わらない。


そんな二人は死して、ようやく会うことができたのだ。

失われてしまった16年間を急速に取り戻していく。



コンコン。


ふと扉を叩く音がした。


「入るわよ。」


この気配は知っている。

色欲の魔王だ。


リコリスは、驚くと同時に声をかけた。


「魔王ラクリア!?

何故、ここにいるの?」


魔王ラクリアは答える。


「あなたたちを迎えにきたわ。

急ぎなさい。

現世に戻るわよ。」


グランが話す。


「どういうことだ?

俺たちは、死んだんじゃなかったのか?」


「えぇ、死んでるわよ。

だけど、今なら生き返れるわ。

早くしなさい。

ぐずぐずすると、チャンスを失うわよ。」


リコリスは、怪訝な顔をする。


「どうして、私たちに声をかけたの?

一人で戻ることもできるでしょう。」


魔王ラクリアは、少しだけ微笑んだ。


「私は今回の件で借りを作りたくないの。

グランを連れて行くことで、貸し借りはなくなるわ。

そして、リコリスを連れていくことで、

恩を売ることができる。

あの方のために、私がそうしたいのよ。」


グランとリコリスは不思議そうな顔をした。

魔王の考えることは、理解に苦しむ。

だが、リコリスは、発言以外のことも見抜いた。

16年も共に過ごした歳月がなせることだろう。


「ついでに、あなたは、私の体をこっちに持ってきてしまっている。

私がいないとその体は使えないのね。

向こうでの体を探すのが大変だから、私も連れていきたいんでしょ?」


グランは、その発言に驚いた。


「魔王復活の手助けになってしまうなら、

俺たちは、戻らんぞ。」


そんなグランにリコリスは話した。


「いえっ、どちらにせよ魔王は復活可能なのだから、一緒に行った方がいいわ。

ラクリア、交渉よ。

次は体の全部を奪うのではなく、互いが主導権を持つようにしなさい。」


「分かってるわ。

平等でかまわない。

むしろ主導権は譲るわ。

それに、グラン。

リコリスの言うとおりよ。

私はこのままでも復活可能なの。

ただ、できればあの子より、リコリスがいいのよ。

これは、ただの私のわがままだわ。」


リコリスは、インパルスの傍にいた女の子を思い出した。

そして、ふと疑問に思う。


「初代と先代の色欲の魔王も復活するの?」


魔王ラクリアは、答えた。


「いえっ、誘ったけど、元魔王たちは実体化できないみたいなの。

復活できないらしいから、ここでの生活を楽しむらしいわ。」


グランの顔は、もはや不思議や驚きを通り越して、無表情になっていた。


「俺には、何の話しをしているか、

さっぱり分からんぞ。」


リコリスは、そんなグランを見て微笑む。


「とりあえず、向かいながら、話すわ。

時間がないらしいし、急ぎましょう。」


魔王ラクリアは、その発言に頷く。


「えぇ、いつまで橋が安定しているか分からないからね。

だから、リコリスの力を使って、

一気にここから橋を渡り復活します。

(そうすれば、あいつとは会わなくてすむわ。)」


リコリスは、不思議な顔をした。


「私の能力?

そんなの持ってないわよ。」


「まぁ、見てなさい。

まず、あなたに取り憑いた後、

能力を使用するわ。」


そして、二人は手を取りあう。

二人の体が光り出し、魔王ラクリアとリコリスは一体化した。

しかし、その姿はリコリスのままだ。


「魔王ラクリアの名において、

リコリスの名に秘められし、能力を使用する。

能力に基づき、世界よ、応じなさい。

『再会』!」


グランとリコリスは光の泡となって、

現世へ飛んだ。


その衝撃からか、本棚から一冊の本が落ちる。

花図鑑だ。

落ちたひょうしにページが開いている。

リコリスの花について書かれていた。

そのページには、花言葉も書かれている。


リコリスの花言葉…『再会』。


リコリスは、現世で再び会えることとなる。

最愛の夫と、息子に。



【インパルス】


「エレナ、急ぐぞっ!」


ジャパンの防衛網は破られ、魔獣に街中への進出を許してしまっている。


「バカインパルス!

ちょっと待って!

なんか、体が変だわ。」


「まさか、欲情したのか!?」


インパルスは、色欲の種が暴走しかけたのかと思い慌てる。


そんなインパルスをエレナは叩いた。


「ばかっ!

そんなのあるわけないでしょ!

急に私の力が強くなりはじめた気がするわ。」


「へっ?

レベルがあがったとかなのか?

って、めっちゃ無双してるじゃないか!」


二人に襲いかかってきた魔獣たちがいた。

その魔獣たちに対して、エレナは瞬殺していく。


驚きつつも、そのままジャパンに溢れた魔獣を掃討していく。

しかし、まだまだ数が多く、先が見えない。

そう思っていたが、急に魔獣が少なくなってきた。


「ん?

なんか、急に魔獣が少なくなってきたぞ。」


まだ闘っている音が聞こえる方へ向かう。

そこには、いるはずのない二人がいた。


「父さん!?

それに魔王ラクリア!?

何でお前がここに!」


「よぉ、久しぶりだな。

元気にしてたか、息子よ。」


「母に向かって、

その発言はないでしょう。

後でお仕置きです。」


女性は、少し頬を膨らました。

インパルスは不思議そうな顔をする。


「いや、意味が分かりませんよ。」


グランは、女性の肩に手を回し答えた。


「まぁ、なんというか、そういうことだ。」


「本当に母さんなのですか?」


エレナが会話に入った。


「いえ、その女性からは間違いなく魔王ラクリアを感じるわよ。」


「あら?

エロエロボディちゃん、久しぶり。」


魔王ラクリアは、リコリスの体から、幻の姿を出して話す。


「父さん、何が何だか、

サッパリなのですが…。」


「とりあえず、ここにいる魔獣を片付けようや。

この女性は、間違いなくお前の母だよ。」


グランは苦笑して話した。

エレナは微妙な表情をしている。


「インパルス、この二人が両親なの?」


「そうみたいだ。

どうやら、俺の両親で間違いないらしい。」


「おかしくない?

だって、お母さんの方は、

あきらかに私たちと同じ年ぐらいよ。」


「あぁ、分かってる。

もはや、中年の男性が物凄い若い女の子を騙して、

結婚したような形になってしまってる。」


グランは自分でも少し思っていたらしく、少しだけ落ち込んだ。

リコリスは、目を大きくし嬉しそうに話す。


「あら、お義母さんだなんて。

インパルス、この子はあなたのお嫁さんなの?」


エレナは慌てて否定する。


「えっ!?

いや、違いますっ!

つい、言葉のあやで…。」


「俺のいない間に、

何をしてたんだ!

後で詳しく聞かせてもらおうか。」


グランは先程のお返しとばかりに怖い笑顔で話す。


その後、この4人と一体の魔王によって、

ジャパンを侵攻していた魔獣は一気に駆逐された。


インパルスは、ふと骸骨軍団を見る。

さっきまで、すぐに復活していた骸骨軍団だが、

どうやら、もう復活はしてこないらしい。


「カインが上手くやったのかな?」


エレナはその疑問に応じる。


「きっと、そうよ。

さすがカインね!」


その受け答えに苦笑しつつも、インパルスもその通りだろうと思っていた。


そして、母を見て思う。


どう見ても母というより、姉ぐらいの年齢差だ。

なんだか違和感があるが仕方がない。

まぁ、ゆっくり親交を深めていこう。

それにしても、あの様子じゃ、すぐ弟か妹が出来そうだな。


グランとリコリスは、仲むつまじく会話をしていた。


そして、インパルスは、これからの温かい家族生活を思い描き、

ついつい照れくさくなってしまう。

思わず、自分の頬を軽くかいてしまう。


とりあえずだが、復興作業に入るか。


「エレナ、死傷者を把握したい。

救えるだけ、救うぞ。」


エレナは、ふと気づく。

インパルスは、顔に出してはいない。

だけど、本当に嬉しい時、

彼は昔から表情を隠していたのを知っている。

そして、必ず頬をかくクセがあるのだ。


「インパルス、よかったね。」


エレナは聞こえるか、聞こえないかの声で話した。


「なんか言ったか?」


「なんでもないわ。」


「そうか。

…。

……。

(ありがとう。)」


エレナは、その言葉が聞こえたが、そっと胸の内にしまっておくことにした。

少しだけ、胸の内に温かいぬくもりを感じるエレナだった。



各地の戦いは、一気に終わりに近づく。

骸骨軍団は、自ら土にかえる。

土に帰った場所からは、花が咲いていた。

ジャパンとフィーナ国の各地で花が咲き乱れていく。


人々は、少しずつ笑顔を取り戻していくのだった。



次回、『58.王の最後』へつづく。

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