57.リコリスの花言葉
【グラン】
「聞いてくれ、リコリス。
インパルスがな…。」
「ふふっ。
さすが、私たちの子ね。」
グランとリコリスは、
二人が昔、住んでいた家で話していた。
昔過ごしたままの家だ。
台所も本棚も服も、思い出のままになっている。
あたりは霧で霞んでいる。
お互い何も言わないが、
もう現世でないのは分かっている。
二人とも、死んでしまったのだろう。
でも、今は凄く幸せだ。
リコリスは、魔王に体を提供することで、
グランやインパルスたちを守ろうとした。
そして、その代価として死んでしまった。
グランは、魔王に体を奪われたリコリスを取り戻すための代価として、神級アイテム『魂の簒奪』によって、魂が昇天してしまった。
それはもはや、死んでいると変わらない。
そんな二人は死して、ようやく会うことができたのだ。
失われてしまった16年間を急速に取り戻していく。
コンコン。
ふと扉を叩く音がした。
「入るわよ。」
この気配は知っている。
色欲の魔王だ。
リコリスは、驚くと同時に声をかけた。
「魔王ラクリア!?
何故、ここにいるの?」
魔王ラクリアは答える。
「あなたたちを迎えにきたわ。
急ぎなさい。
現世に戻るわよ。」
グランが話す。
「どういうことだ?
俺たちは、死んだんじゃなかったのか?」
「えぇ、死んでるわよ。
だけど、今なら生き返れるわ。
早くしなさい。
ぐずぐずすると、チャンスを失うわよ。」
リコリスは、怪訝な顔をする。
「どうして、私たちに声をかけたの?
一人で戻ることもできるでしょう。」
魔王ラクリアは、少しだけ微笑んだ。
「私は今回の件で借りを作りたくないの。
グランを連れて行くことで、貸し借りはなくなるわ。
そして、リコリスを連れていくことで、
恩を売ることができる。
あの方のために、私がそうしたいのよ。」
グランとリコリスは不思議そうな顔をした。
魔王の考えることは、理解に苦しむ。
だが、リコリスは、発言以外のことも見抜いた。
16年も共に過ごした歳月がなせることだろう。
「ついでに、あなたは、私の体をこっちに持ってきてしまっている。
私がいないとその体は使えないのね。
向こうでの体を探すのが大変だから、私も連れていきたいんでしょ?」
グランは、その発言に驚いた。
「魔王復活の手助けになってしまうなら、
俺たちは、戻らんぞ。」
そんなグランにリコリスは話した。
「いえっ、どちらにせよ魔王は復活可能なのだから、一緒に行った方がいいわ。
ラクリア、交渉よ。
次は体の全部を奪うのではなく、互いが主導権を持つようにしなさい。」
「分かってるわ。
平等でかまわない。
むしろ主導権は譲るわ。
それに、グラン。
リコリスの言うとおりよ。
私はこのままでも復活可能なの。
ただ、できればあの子より、リコリスがいいのよ。
これは、ただの私のわがままだわ。」
リコリスは、インパルスの傍にいた女の子を思い出した。
そして、ふと疑問に思う。
「初代と先代の色欲の魔王も復活するの?」
魔王ラクリアは、答えた。
「いえっ、誘ったけど、元魔王たちは実体化できないみたいなの。
復活できないらしいから、ここでの生活を楽しむらしいわ。」
グランの顔は、もはや不思議や驚きを通り越して、無表情になっていた。
「俺には、何の話しをしているか、
さっぱり分からんぞ。」
リコリスは、そんなグランを見て微笑む。
「とりあえず、向かいながら、話すわ。
時間がないらしいし、急ぎましょう。」
魔王ラクリアは、その発言に頷く。
「えぇ、いつまで橋が安定しているか分からないからね。
だから、リコリスの力を使って、
一気にここから橋を渡り復活します。
(そうすれば、あいつとは会わなくてすむわ。)」
リコリスは、不思議な顔をした。
「私の能力?
そんなの持ってないわよ。」
「まぁ、見てなさい。
まず、あなたに取り憑いた後、
能力を使用するわ。」
そして、二人は手を取りあう。
二人の体が光り出し、魔王ラクリアとリコリスは一体化した。
しかし、その姿はリコリスのままだ。
「魔王ラクリアの名において、
リコリスの名に秘められし、能力を使用する。
能力に基づき、世界よ、応じなさい。
『再会』!」
グランとリコリスは光の泡となって、
現世へ飛んだ。
その衝撃からか、本棚から一冊の本が落ちる。
花図鑑だ。
落ちたひょうしにページが開いている。
リコリスの花について書かれていた。
そのページには、花言葉も書かれている。
リコリスの花言葉…『再会』。
リコリスは、現世で再び会えることとなる。
最愛の夫と、息子に。
【インパルス】
「エレナ、急ぐぞっ!」
ジャパンの防衛網は破られ、魔獣に街中への進出を許してしまっている。
「バカインパルス!
ちょっと待って!
なんか、体が変だわ。」
「まさか、欲情したのか!?」
インパルスは、色欲の種が暴走しかけたのかと思い慌てる。
そんなインパルスをエレナは叩いた。
「ばかっ!
そんなのあるわけないでしょ!
急に私の力が強くなりはじめた気がするわ。」
「へっ?
レベルがあがったとかなのか?
って、めっちゃ無双してるじゃないか!」
二人に襲いかかってきた魔獣たちがいた。
その魔獣たちに対して、エレナは瞬殺していく。
驚きつつも、そのままジャパンに溢れた魔獣を掃討していく。
しかし、まだまだ数が多く、先が見えない。
そう思っていたが、急に魔獣が少なくなってきた。
「ん?
なんか、急に魔獣が少なくなってきたぞ。」
まだ闘っている音が聞こえる方へ向かう。
そこには、いるはずのない二人がいた。
「父さん!?
それに魔王ラクリア!?
何でお前がここに!」
「よぉ、久しぶりだな。
元気にしてたか、息子よ。」
「母に向かって、
その発言はないでしょう。
後でお仕置きです。」
女性は、少し頬を膨らました。
インパルスは不思議そうな顔をする。
「いや、意味が分かりませんよ。」
グランは、女性の肩に手を回し答えた。
「まぁ、なんというか、そういうことだ。」
「本当に母さんなのですか?」
エレナが会話に入った。
「いえ、その女性からは間違いなく魔王ラクリアを感じるわよ。」
「あら?
エロエロボディちゃん、久しぶり。」
魔王ラクリアは、リコリスの体から、幻の姿を出して話す。
「父さん、何が何だか、
サッパリなのですが…。」
「とりあえず、ここにいる魔獣を片付けようや。
この女性は、間違いなくお前の母だよ。」
グランは苦笑して話した。
エレナは微妙な表情をしている。
「インパルス、この二人が両親なの?」
「そうみたいだ。
どうやら、俺の両親で間違いないらしい。」
「おかしくない?
だって、お母さんの方は、
あきらかに私たちと同じ年ぐらいよ。」
「あぁ、分かってる。
もはや、中年の男性が物凄い若い女の子を騙して、
結婚したような形になってしまってる。」
グランは自分でも少し思っていたらしく、少しだけ落ち込んだ。
リコリスは、目を大きくし嬉しそうに話す。
「あら、お義母さんだなんて。
インパルス、この子はあなたのお嫁さんなの?」
エレナは慌てて否定する。
「えっ!?
いや、違いますっ!
つい、言葉のあやで…。」
「俺のいない間に、
何をしてたんだ!
後で詳しく聞かせてもらおうか。」
グランは先程のお返しとばかりに怖い笑顔で話す。
その後、この4人と一体の魔王によって、
ジャパンを侵攻していた魔獣は一気に駆逐された。
インパルスは、ふと骸骨軍団を見る。
さっきまで、すぐに復活していた骸骨軍団だが、
どうやら、もう復活はしてこないらしい。
「カインが上手くやったのかな?」
エレナはその疑問に応じる。
「きっと、そうよ。
さすがカインね!」
その受け答えに苦笑しつつも、インパルスもその通りだろうと思っていた。
そして、母を見て思う。
どう見ても母というより、姉ぐらいの年齢差だ。
なんだか違和感があるが仕方がない。
まぁ、ゆっくり親交を深めていこう。
それにしても、あの様子じゃ、すぐ弟か妹が出来そうだな。
グランとリコリスは、仲むつまじく会話をしていた。
そして、インパルスは、これからの温かい家族生活を思い描き、
ついつい照れくさくなってしまう。
思わず、自分の頬を軽くかいてしまう。
とりあえずだが、復興作業に入るか。
「エレナ、死傷者を把握したい。
救えるだけ、救うぞ。」
エレナは、ふと気づく。
インパルスは、顔に出してはいない。
だけど、本当に嬉しい時、
彼は昔から表情を隠していたのを知っている。
そして、必ず頬をかくクセがあるのだ。
「インパルス、よかったね。」
エレナは聞こえるか、聞こえないかの声で話した。
「なんか言ったか?」
「なんでもないわ。」
「そうか。
…。
……。
(ありがとう。)」
エレナは、その言葉が聞こえたが、そっと胸の内にしまっておくことにした。
少しだけ、胸の内に温かいぬくもりを感じるエレナだった。
各地の戦いは、一気に終わりに近づく。
骸骨軍団は、自ら土にかえる。
土に帰った場所からは、花が咲いていた。
ジャパンとフィーナ国の各地で花が咲き乱れていく。
人々は、少しずつ笑顔を取り戻していくのだった。
次回、『58.王の最後』へつづく。