50.嫉妬vs憤怒
【クレア】
クレアとサタナキアは、
カインと離れて西の塔へ向かう。
「サタナキア、命令します。
私と嫉妬の魔王が闘っている間、
外に漏れないように結界を張りなさい。」
「お断りします。
なぜ、私があなたの命令に従わなくてはならないのでしょう。」
クレアは、目をいったん閉じて、
能力を一瞬だけ使った。
大気が震える。
「その力…。
なるほど、そういうことでしたか。
それでは、あなたの命令に従いましょう。」
クレアとサタナキアは、西の塔へ向かった。
サタナキアは、塔の入り口で結界を張った。
クレアは、最上階の扉を開ける。
「あらっ、クレアじゃない。
カインお義兄さまはどうしたのかしら?」
「カイン様は、国王の相手をされていますよ。」
「ふふふ、そう。
敵を倒し、
姫である私を助け出す。
そして私たちは結ばれるのね。
これ以上はないほど、
素敵な物語だわ。」
「いえっ、あなたのことは私に託されています。」
マリーナの顔が歪む。
「はいっ?
何を言っているのかしら。」
「言葉の通りですよ。
嫉妬の魔王の相手は、
憤怒の魔王である私の役目です。」
「ふふふ。
あなたが憤怒の魔王?
魔王というものは、
自ら名乗るものではなくてよ。」
「私には憤怒の魔王の資質しか持っていません。
ですが、私の能力があれば関係ありません。
能力『獣の証』!」
クレアの姿が変わった。
マリーナと同じ妖艶な格好をしている。
胸に666の数字が現れた。
「驚いたわ。
憤怒の魔王そのものの力じゃない。
666…。
ビーストナンバーね。
魔王の力を降臨させることができるという能力かしら。」
クレアは答える。
「少し違います。
私の能力は、悪魔王の力を借りることができるのです。」
「なるほどね。
悪魔王…。
あなたは憤怒の魔王の資質を持っているから、憤怒の魔王と同様の力を使えるのね。
でも、あなたは憤怒の魔王ではないわ。」
「その通りです。
でも、今は憤怒の魔王と同様の力を使えれば十分です。
お覚悟を。」
「ふふふっ。あなたは魔王の力の本質を分かっていないわ。
でも、一つ聞いていいかしら?
クロノス神は聖なる神のはずよ。
何故、邪な力を貴方は与えられているの?」
「私に神の考えは分かりません。
行きますよ。
サタンフレイム!」
青い炎が、マリーナに襲いかかる。
「聖魔同一人!」
あたり一体の能力が無効化される。
西の塔の結界は崩れ去った。
近くで使用された能力は、王都上空も含めて
無効化された。。
しかし、青い炎は消えず、
マリーナに襲いかかる。
「どういうこと?」
クレアは、厳然として答えた。
「マリーナ様の能力は強力です。
ただし、その能力を超える力で攻撃すれば、
能力が相殺されても止めることはできません。」
「まさか、あなたが私の力を超えてるというの!?」
「魔王のみを焼きます!
マリーナ様、今、お救いします。」
マリーナの体は、青い炎に包まれた。
しかし、平然としている。
「ふふふっ。
クレア、あなたは大きな勘違いをしているわ。
私は嫉妬の魔王よ。
先ほどの能力は、クロノスナンバーとしての能力。
魔王としての能力を貴方は計算に入れていないわ。」
クレアは、必死に力を使用している。
だが、マリーナには効いていない。
「何故、燃えないのですか!?」
「私は嫉妬の魔王。
嫉妬の炎の使い手よ。
炎では、私を倒せないわ。」
クレアは動揺している。
「それに、貴方の能力は、時間制限付きでしょ?
その力に制限がないなんて考えられないわ。
先ほどの666から数字が減っているわね。
その数字が有効時間かしら。」
マリーナの指摘は図星であった。
クレアは更に動揺する。
「あらっ、顔に出てるわよ。
やはり、そうね。
この勝負は、純粋に魔王としての力の差が勝負の決め手になるわ。
でも、あなたは種をもつ眷属の力までは使えない。
その時点で勝負はついているのよ。
もしくは、私は貴方の力が弱まるまで逃げればいい。
ちょうど結界も破れてるしね。」
マリーナは逃げだそうとし、
姿を消した。
「お待ち下さい!」
クレアは、マリーナが逃げ出したと思った。
扉へ向かおうとする。
そして、油断した。
「貴方は戦い慣れていないわね。」
蜃気楼のように、突然、景色が歪む。
クレアの傍に現れた消えたはずのマリーナが現れ、
無数の魔力弾をクレアに打ち込む。
「きゃぁ。」
クレアは、魔力弾を無防備に受けた。
マリーナがふと気づく。
「あらっ?
また嫉妬の力が増したわ。」
ふと窓の外を見ると、
カインが国王へ、
サンレーザーを使用していた。
「お義兄さま、それは悪手ではなくて?
死んでしまいますわよ。
ダメッ!魂が霧散してしまうわ!」
マリーナは、カインのもとへ向かおうとする。
「させません。」
クレアは這いつくばっている。
なんとかマリーナの足にしがみついている状況だ。
「クレア、カインお義兄さまが危ないの。
離して下さる?」
マリーナは、極大の魔力弾を作り出す。
そして、足元のクレアに放とうとした。
しかし、全身に痛みが起こり、放てない。
心臓付近に手が生えている。
後ろを見る。
「セレン…、何故あなたがここに…。」
「油断したね、嫉妬の魔王。」
セレンの姿をしている。
しかし、瞳の中に∞のマークがある。
「ウ、ウロボロス…」
「様をつけたまえ。
君が油断してくれて助かったよ。
さて、魔王の力を回収させてもらうよ。」
セレンの姿をしたウロボロスは、
笑みを浮かべる。
「相変わらずですね、ウロボロスは。
時の輪廻に囚われ、進歩がない…。
しかし、私は違いますわ。
無限の可能性を秘めた人間と一体となって、
新たな力を手に入れた!」
あたりが光った。
ウロボロスは、いつの間にか倒れている。
「何が起こった…。
何故、僕は刹那の間に負けている?」
「嫉妬の炎の対価として、
氷の力に目覚めましたわ。
氷炎地獄
そして、その派生形を手に入れました。」
「そういうことか…。
君は時を凍らせたんだね。
時を操る僕の時すら止めるとは…。
ぐっ…。
まさか、神殺しを誕生させてしまうとは…。」
「本体は神界にいるのでしょう?
まぁ、それほどの力を使ってしまったのだから、
しばらくは出て来れないでしょうけど。」
「見事としか言えないな。
だが、終わる前にせめてもの土産だ!」
ウロボロスから、光が放たれた。
マリーナと魔王アウレリウスの間に楔が打ち込まれた。
クレアが憤怒の魔王の後継者となった。
セレンが怠惰の魔王の後継者となった。
「また僕は復活する。
それまでの日々を、精々楽しむがいい。」
セレンの中からウロボロスが消えた。
「さて、カインお義兄さまの元へ向かうとしましょう。
セレンとクレアは…。
…。
このままにしましょう。」
マリーナは、西の塔を去り、
カインの元へ向かった。
残されたセレンは話す。
「最後にウロボロス様が、
マリーナと魔王の間に楔を打ち込んでいました。」
クレアも答える。
「最後に私達を生かしました。
きっと、人間の心が僅かながら戻っているのかもしれません。
早くマリーナ様を追いかけましょう!
空斗様の言いつけどおり、
海斗様を助けなくては。」
下で待っているはずのサタナキアと合流し、
カインの元へ向かおうとする。
しかし、サタナキアは見当たらない。
その時、王城から二人の天使が空に向かって、
飛び出したのを誰も気づかなかった。
次回、『51.神界での戦い 』へつづく。