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ようこそ、異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語  作者: 蒼井 Luke
第2章 破滅円舞曲
42/120

42.アテナとの出会い②

「初めまして、カイン王よ。

私の名は、天翔院アテナ。

クロノスナンバー12だ。

こちらでの呼び名は、

アテナ・ローマネリオンという。

ローマネリオン公国で女王をやっている者だよ。」


凛と響く声だ。

遠くにいる人にも聞こえる声だろう。


俺は、目を奪われ、声を失っていた。

そして、俺は、直感した。


この女性は、この先、

最大の障壁になるのだろうと。


もちろん俺にとっても、

障壁になるだろうが、

そうではない。

最大の障壁となるのは、民主主義にとってだ。


俺の所に歩いていくるだけで、

目の前の女性は他者を圧倒した。


そして、俺は、思わず膝を折り曲げ、

頭を下げようとしてしまったのだ。


この女性は、間違いなく、

王の資質を持っている。


生まれながらに王となる存在だ。

そして、俺は王に使える側として、

生まれてきた。


これが生まれ持ったものの差なのか…。


だが、民主主義にとって、

それ以上に深刻な事態なのだ。


この女性から感じる王としての器。

きっと、何でも出来るのだろう。

間違いなく、善政をおこなってくれる。


この女性に困ったと相談すれば、

その有り余るエネルギーで全て解決してくれるだろう。

この女性に任せれば、

何もかもが上手くいくのだ。


何も考える必要はない。

ただ、任せればいいのだ。


そしてそれは、完全なる民主主義の堕落と言える。

自立性を失ってしまえば、それはもう民主主義とはいえない。

それだけは、避けなければならない。


「私は、王ではありませんよ。

この国の首相を務めております。」


かろうじて、それだけを発言する。


「首相か…。

まぁ、よいだろう。

カイン首相と呼ぼう。

さてっ、立ち話もなんだ。

あちらの席で余興でもしながら、話さないか?

ここは、ジャパンだ。

将棋でもしようじゃないか。

グラウクス、用意を。」


執事が将棋盤を、持ってきた。

隣にはセレンがいる。

そして、分かってしまった。

そうか、セレンは、この女性側に付いたんだな…。


それにしても、将棋か。

まぁ、演算の得意なウィズがいる。

人の悪意を、読み取るツヴァイがいる。

龍の知恵をもつ、黄龍リュクレオンがいる。


4人がかりだ。

負けるわけがない。


「では始めようか。」


俺たちは少し離れたところで

将棋を、指すことにした。


そして少し離れたところで、

俺たちの将棋について、

周りの人達にグラウクスは説明をしていく。


俺たちは差し始めた。

だが、すぐに俺は焦ることになる。


将棋は次の一手の平均が、

80通りあるとされている。


そして、俺は、その10手先まで計算しているのだ。

10737418240000000000通りの計算…。


それほどの計算の果てに将棋を指している。

にもかかわらず、この女性は、

俺と互角なのだ。

いやっ、俺の方が少し劣勢かもしれない。


そして、この執事もだ。

大きな将棋盤を用意して、

周りの質問に回答しながら解説している。

俺たちが指した手の意図を説明していくのだ。


「ここに指したらどうか?」

「いえっ、そうするとカイン首相がこう指し、アテナ様が、こう指すので詰んでしまいます。」


こちらの意図を正しく説明している。

俺と同等以上の力量があるということだ。


この女性が話してきた。

2人にしか聞こえない距離なので、

お互い遠慮せず話せる。


「カイン首相よ、

何故そこまで民主主義にこだわるのだ?」


「前世では、平和な民主主義の中で生まれ育ったのです。

当然、その考えに誇りを持っているからですよ。」


「平和か。

しかし、あの国は政治家の腐敗が横行した。」


「王政も同じですよ。

現にフィーナ国は乱れに乱れています。」


「そうだな。

愚王は存在する。

だから、立憲君主制にして、

君主の行動を縛れば問題ないではないか。

民主主義など、すぐに問題解決もできない亀のような政策速度にしか思えんな。」


「立憲君主制にしても同じですよ。

いくら法で縛っても運用する人によって、

変わってしまう。

たくさんの人たちが意見を出し合って決めるからこそ、

より良い社会が生み出されるのです。」


「その打ち合わせにどれほどの時間を費やしているのか。

その、時間を別の労力に使った方が、

よっぽど有意義だろう。

それに、王の名で指示をすれば、

皆の動きは早いぞ。」


「俺は、誰かに指示されて動く社会より、

自ら動く社会にしたいのです。」


「見事に話が噛み合わないものだな。

面白いものだ。」


女性は、俺のことを改めても見ている。

もしかして、ステータスを見てるのか?


「ところでカイン首相、

私と子供を作らないか?」


「ごほっ。

何故そんなことを?」


俺は一息つくために飲み物を飲んでいたため、

思わず、吹いてしまった。


「国のために、優秀な次代の王を作ろうとするのは、当然だろう?」


「そういうことですか。

私は、子を作りませんよ。」


そう、俺は子を作る気がない。

まず女神と人の間に子はできない。

当然だろう。

だから、ウルティアは俺に妾を勧めてくる。

正直、俺に心を寄せてくれている人が何人かいるのは知っている。


だが、俺は、全て気付かないふりをして、

スルーしている。


俺は、民主主義の首相となった。

もし、俺に子供がいたら、

今の状態では間違いなく、

周りの人達が、次の首相に指名する可能性が高い。

そうなれば、二世議員どころではない。

首相が血による世襲制になってしまう。

それは、民主主義ではなくなってしまうのだ。


少なくとも、首相であるうちは、

子供は作れない。


ふと女性を見る。

どうやら、俺の考えに気づいているようだ。


「理解できんな。

優秀な子に、幼い頃から政治を学ばせた方が、

よっぽど良い国づくりをするだろうに。」


「その子の自由がなくなります。

それに、民衆の中から、

より優秀な者が、国を治めればいいのです。」


「優秀な人材の立候補を待つより、

優秀な人材を育てた方が確実だと思うがな。



俺たちは、水と油だ。

基本は同じ液体なのに、合わさることはない。


お互い、国を良くしようと考えているのは同じなのだ。

だが、アプローチが違いすぎる。


どちらが、正しいのか俺には分からない。

だが、俺は国民に約束した。

平等にすると。


この国に王はいらないのだ。


「おやっ?

これは千日手だな。」


「そうですね、千日手ですね。」


俺は、冷や汗をかいて、

ようやく千日手、

つまり引き分けまでもっていった。


この間に、ウィズに演算の最適化を行い、

一手80通りのうち不要であろう手から始まる演算を捨て、10手先以上を読んだのだ。


一時、こちらが優勢になったが、

すぐに盛り返され劣勢となり、

なんとか盛り返すことで、

千日手へ持っていった。


「面白い結果だったな。

新しい飲み物でも取りに元の場所へ戻るか。」


グラウクスは、アテナへ声をかける。


「アテナ様、お疲れさまでした。

お見事でした。」


アテナは、満足そうにグラウクスへ向かって頷いた。


「そうだ、カイン首相よ、

そのうちグラウクスと知恵くらべをしてみるといい。

私ですら、将棋もチェスも、いまだにグラウクスに負け越しているのだよ。」


「あなたがですか!?」


俺は驚く。

つまり、俺よりも、いや俺たちよりも、

グラウクスという男は知恵者ということだ。


「さて、カイン首相よ。

ここからは、ローマネリオン公国の、

女王として話しがある。

わが国は、フィーナ国を救済するため、

軍事行動を起こすことにした。」


「侵略をされるのですか?」


周りがザワザワとし始める。


「いや、救済だよ。

かねてから親交のあったものの要請でな。

この女性からだ。」


なっ!?

俺は驚く。


「ジャパン国のカイン首相よ、

貴国に対して、

マリーナ姫の要請に基づき、

戦線協定を結んで欲しい。」


そこには、いるはずのない、

最愛の義妹であるマリーナ姫がいた。



次回、『43.戦線協定』へつづく。

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