30.会見前夜
【エレナ】
「なんなの!?
これはどういうことなの!」
カインの執務室の机を叩き、
エレナは怒っている。
「どうしたんだい、エレナ?
何をそんな怒っているんだ。
粗相があったのか?」
カインは、不思議そうに尋ねた。
「違うわよ!
どうして、ここで日本料理が食べれるの!?
おかしいでしょ!
あなたたちだけ、ズルいじゃない!」
目が点になるカイン。
「つまり、料理がおいしかったってことかな?」
エレナの態度は、
なんだかおかしい。
美味しいなら、それでいいじゃないか。
「私もずっと食べたかったんだから、
仕方ないじゃない。」
「そうか。
食べたいものを食べさせることができて、
よかったよ。」
カインは、エレナに微笑む。
エレナは顔が真っ赤になった。
色欲の苗が反応している。
コンコン。
窓に鳥がいる。
「伝書鳥だわっ。」
エレナは、伝書鳥につけられた
手紙を見て、驚いた。
「カイン、これを見て!」
そこにはクロノス神からの神託が書かれていた。
「我、この世を憂いてるなり。
よって、我が思いをかの者に託す。
12の時のことわりより、更に先へ進むものの。
13の数字を与えし存在。
カイン・レオンハルトを、
クロノスナンバー13とし、
我が代行として世界の変革を命じる。」
「この神託を受けて、
教会は、全面的にカインを支持することになったわ。
そして、私にカインを献身的に支援するようにと指示してきたわ。」
カインは、驚いた。
「クロノス神さま、
聞いているんでしょ?
ちょっと話しがあります。」
(はいはい、なんでしょ~?)
エレナは驚いている。
今までクロノス神さまと話せるなど、
考えたこともなかったからだ。
「要件は分かってるんでしょ?
神託のことです。
説明してもらえませんか?」
(この前、朝霧海斗くんに教えてもらった店、凄く楽しくてさぁ。
そのお礼だよ。
これから、やりやすくなるでしょう?
じゃあ、そういうことで~)
カインは逃がさない。
「そっちじゃありませんよ。
代行とした理由です。
どんな面倒ごとを押しつけたんですか?
それと、クロノスナンバーになったなら、
何か能力ください。」
(えっ!えっ?
ごめん、電波が悪くてよく聞こえないや~。
じゃあ、切るね~。
あっ、もし魔神がちょっかい出してきたら、
よろしく~。
ツーツー。)
電話を途中で切られたかのように会話が終わった。
「くそっ!
ただただ、面倒ごとを押しつけられた!
魔王討伐がクロノスナンバーの使命って言ってたろ!?
魔神って何だよ!
聞いたこともないぞ。」
黄龍リュクレオンにも聞いてみた。
「まさか、魔神が存在してるとはな。
我も伝承で聞いたことがあるが、
実在するとは思わなかった。」
最長命の龍が知らなきゃ、
誰も知らないだろ。
クロノス神、もし魔神が本当にちょっかい出してきたら、
覚悟しとけよ。
カインは心に誓ったのだった。
「す、凄い。
カインは、凄い!
凄すぎるよ。」
どうしよう、
私、本当にカインに恋してる。
胸のドキドキがおさまらないよ。
そこにインパルスが入ってきた。
「(お疲れさん。
おっ、学級委員長、元気しとるかー?
あっ、色欲さんだっけ?
ケラケラ。)」
どうしよう、
一気に胸のドキドキがなくなった。
変わりに胸がムカムカする。
「インパルス、
冗談はそこまでにしとけ。
エレナ、ちょっとインパルスと話したいんだ。
申し訳ないんだが、
席を外してもらっていいかな?」
私は、感情の落としどころが分からずにいた。
カインともっといたい。
インパルスとはいたくない。
そして、言葉を絞り出す。
「なんなのよー、もう!
カインのバカ-!!」
エレナは部屋を出ていった。
カインは、エレナの称号を見て、
ため息をつく。
エレナの称号:クロノスナンバー2、色欲の魔王の後継者
この世界では、鑑定石を使わない限り、
ステータスを見ることができないのが一般的だ。
そして、鑑定石は貴重だから、
教会が一括管理している。
まぁ、自分のステータスを見る機会は少ないだろうが、念のためだ。
とりあえず、魔王の後継者の称号は、勝手に隠蔽をかけておいた。
いるかは分からないが、偽装看破のスキルとか持っている人がいない限り、大丈夫だろう。
【カイン】
俺は、インパルスと話しはじめた。
「(もう体は大丈夫なのか?)」
死闘を繰り広げたばかりだ。
それに父と母のこともある。
俺はインパルスを気遣った。
その優しさにインパルスは、
気づいて言った。
「(こういう時は、
逆に何も考えられないよう
動いた方がいいんや。)」
「(そうか。
じゃあ、悪いけど色々と頼むよ。
ところで何か報告でも?)」
インパルスは、
おちゃらけた顔から真剣な顔をした。
「(フィーナ国王が崩御したそうや。
それと並行して、国王軍と貴族軍が衝突。
貴族軍が敗北したそうや。
今は貴族軍が再起を図るため、
西方に集結してるで。)」
驚くカイン。
「(なんだって!?
国王が崩御…。
貴族軍が敗北ということは、
ミドリーズとグリードが負けたのか…。)」
インパルスは続けて話す。
「(その後、新国王は圧政を行っているそうや。
国中の美女と、金を集めてるらしいで。)」
カインは、
マリーナを王家に預けたのを後悔した。
「マリーナは大丈夫だろうか。
すぐに助けに行かないと…。」
コンコン。
「カイン様、失礼します。
お客様がお見えになられています。」
「客?
今現在、この島は封鎖しているはずだが…。」
不思議そうにするカイン。
そこに現れたのは、
断罪のグリード、エルフのセレン、カイン専用執事だったクレアだ。
「グリード!?
それにクレア!?」
カインは、驚く。
インパルスは、グリードの名前を聞いて、
戦闘態勢に入った。
「やぁ、カインくん。
昨日の戦い見ていたよ。
実に見事だった。
君と早くヤリたいな。」
カインは思う。
相変わらずの変態だな…。
「何しに来たんだ?
それとクレア、どうしてここに?
それとマリーナは無事なのか??」
カインは、グリードとクレアに聞いた。
先にクレアが答える。
「マリーナ姫さまが、
私とセレン様をこちらにと、
ご命令され、ここまで来ました。
マリーナ姫さまの現状は、
分かりません。」
クレアは、カインと話すのが嬉しかった。
でも必死に隠そうとしている。
尻尾で丸わかりと知らずに…。
カインは、セレンを見る。
「あれっ?
セバスさんの娘ですか??
あっ、でも種族がエルフだし、
他人のそら似かな…。」
『報告:セバスの本体です。』
驚くカイン。
なにー!?
「あっ、はい娘です。」
顔が真っ赤になった。
何か事情があるんだろうと察して、
カインは、気付かないふりをした。
「そうですか。
それで、グリードは何故ここに?
闘いたいなら、もう少し待ってくれ。」
グリードは、話す。
「カインくんの修行方法を見に来たんだ。
この2人は途中で君に会うための旅をしてたから、護衛しながら連れてきたんだ。
その、ご褒美にお願いできないかな?」
グリードが俺の修行方法を見たい?
もう必要がないぐらい強いだろうに。
「実はさ、マリーナ姫にコテンパンにされちゃって。
一方的にボコボコにされちゃって、
途方に暮れちゃってるんだよね。」
「「「「えっ!?」」」」
グリード以外の全員が驚いた。
皆、グリードの強さは大なり小なり知っている。
正直、マリーナがそこまで強いとは思っていなかった分、衝撃だった。
「マリーナに負けたのか?」
「うん、正確には、魔王となったマリーナ姫にだけどね。」
「「「「え-!!」」」」
マリーナが魔王になった!?
意味が分からない。
「だから、マリーナ姫さまは、
間違いなく無事だね。
この国でマリーナ姫を傷つけられる人なんて、
いるのかな?ってぐらいの強さだよ。」
ダメだ。
方針が定まらない。
とりあえず、マリーナが無事なのは、分かった。
そして、ひとつ納得したことがある。
俺は軍備が整った段階で、何度もマリーナのもとへ転移しようとしたが、何故かできなかったのだ。
ウィズの報告では、何かに阻まれてるということだったが、魔王への転移は不可能だったということだろう。
「とりあえず、クレアとセレンは、
俺の手伝いをお願いしてもいいかい?
グリードは、落ち着いたら、
修行を見せるよ。」
「うん、よろしく~。」
「「喜んでっ!!」」
全員、席を外してもらった。
俺は部屋から出ていく皆の称号を見て、ため息をつく。
インパルスの称号:クロノスナンバー1、音速
グリードの称号:クロノスナンバー9、断罪の刃
セレンの称号:クロノスナンバー8
クレアの称号:クロノスナンバー6、憤怒の魔王の資質を持つ者、カインの視線に耐えし者
クレア…。
俺の愛する犬耳しっぽ女子クレア…。
カインの視線に耐えし者って何!?
それが嫌で憤怒の魔王の資質まで持っちゃったの!?
クロノスナンバーのことよりも、
そっちに驚きだよ!!
とりあえず、憤怒の魔王の資質を持つ者、カインの視線に耐えし者の称号は、勝手に隠蔽をかけておいた。
【ジャック】
ダメだ…。
酒がちっとも旨く感じない…。
グラン…。
いつの間に神級アイテムなんて手に入れていたんだよ。
ダメだ。
後悔ばかりしてしまう。
いつも、グランと酒を飲んでは、
ふざけていた。
そんな思い出が次から次へと出てくる。
そういえば、酔った時にグランは、
「発展していくこの島を見ていると、
国として建国してもいいかもしれない。」
って、冗談を言ってたな…。
建国か。
いいかもしれない。
そうするとカインが王様か。
嫌がるだろうなぁ。
絶対に拒否しそうだ。
それでも、俺はグランの意志を汲んでやりたい。
俺は街の顔役のところへ行くこととした。
次回、『31.【幕間】音速のインパルス』へつづく。