3.異世界『オルヴィス』
「あー、暇だ。」
俺は本当に暇だった。考えてみて欲しい。
大人の頭脳で体は子供なのだ。
勉強?
この世界は、ただでさえ文明知識は中世程度。
すぐにアクビが出るレベルだ。
たったの数か月で宮廷レベルの知識を手に入れた。
まぁ、本来なら神童として騒がれるはずだが、それ以上に他の転生者たちが騒がれているので、話題にもならない。
俺が知っているだけでも、4人の転生者が騒がれている。
もちろん、そのうちの1人は、妹のマリーナ・レオンハルトだ。
友達?
これだけ実年齢に差があると、同世代と話しが合うわけがない。
何より貴族の子供をあまり好きになれなかった。
どうも、貴族意識というものには慣れない。貴族は平民を下に見るものが多い。
平民がいなければ、貴族は成り立たないのに、彼らは逆のことを考えているのだ。
まぁ、地球での生活がなければ、俺も彼らと同じように思てしまったのかもしれない。
教育の恐ろしさだ。
もちろん転生者の友達がもいない。
話しは合うかもしれないだろうが、ステータスのことを話すと悲しくなるので、転生者に会いたくない。
そうなると、友達も少ない俺は、ただ暇を持て余したため、家にある本をひたすら読んだ。
さすがは公爵家。
魔法書から歴史書など実に様々な分野の本がある。
えっ?暇なら体を鍛えればいいだって?
インドア派にムリをいってはいけない。
必要があれば、その時に鍛えるさ。
(なんか、前世も同じこと言ってたような気がするな。)
まぁ、そんな生活なので、この世界の知識はある程度は頭に入っている。
本で得た知識なので、抜けているところも多々あるだろうが、それは仕方ないだろう。
では、この世界について、説明しよう。
まず、種族についてだ。
ヒューマン(人間)、獣人、ドワーフ、エルフ、竜族、魔族などの多種多様な種族がいる。
しかも、まだ確認されていない種族がいるようだ。
目撃談はあるものの、はっきりとしない存在のようだ。
天使や悪魔といった眉唾ものの存在も確認されている。
まぁ、普通なら天使や悪魔は信じないが、神がいるのだから、実際にいてもおかしくはない。
ちなみに俺の専属メイドは、獣人族だ。
同年代で犬耳にしっぽがあるのだが、実に可愛らしい。
つい、部屋の片隅にいるその姿を見てしまう。
「カイン様、いかがされましたか?」
専属メイドは話しかけてきた。その表情は、やはり愛らしい。赤茶の癖っ毛のあり、小動物のように見えてしまう。その服装は地球のメイド服と同じだ。
どれだけ見ていても、飽きない。
おっと、話しかけられていたのだった。
「いや、クレアは、実に可愛らしいなと思って見ていたんだ」
顔が真っ赤になる。明らかに恥ずかしがっているのが見てとれた。
「カイン様、ありがとうございます。クレアは感激であります。ただ、面と向かって言われると、お恥ずかしいです。」
しっぽがふりふりしてる。つい、そのしっぽを目が追ってしまう。
うん、さすが異世界!
いいね!
話しがそれた。
この世界、やはり奴隷もいる。クレアもそうだ。
契約主は父上なので、俺にではなく父上に絶対服従をさせられている。
個人的には、奴隷制度反対なので、いつか解放してあげたい。
そして、クロノス神が話していた魔王だが、なんと複数いるようだ。
もちろん、魔王が率いる魔族と他の種族は、原因が不明であるものの仲が悪い。
つまり、種族間による争いが起きているということだ。
ただ、人間だけは人間同士で争っているというのだから、みっともない話しである。
まぁ、魔王についてはチート能力をもらったであろうクロノスナンバーたちに任せるとしよう。
だが、気になるのは魔王討伐へクロノスナンバーが立ち上がったなんて話しは聞こえてこない。
クロノス神より、魔王討伐の使命を受けていると人伝いに聞いたのだ。神様の指示を守らないなんて、かなりの度胸がないとできないだろう。
そうなると、クロノスがうっかり指示を忘れたか、魔王討伐どころではない状況であるかのどちらかだ。
まぁ、クロノス神の言うことを守る気は、さらさらない可能性もある。
あんな感じで話されたら、言うことを聞かなくても不思議ではない。
次に人間の国家についてだが、大小様々に複数の国が存在している。
全て王政の国家だ。王が政治を行っており、王こそが絶大な権限を持っている。
ちなみに、レオンハルト公爵家は最古の王朝であるフィーナ国に属している。
そして、複数ある国の中でも要注意なのが、宗教国家ゾルダクスだ。
この国は、他の国の宗教を認めていないため、すぐに争いを仕掛けてくるらしい。
つまり、全ての国に喧嘩をふっかけているようなものだ。
また神様だが、この世界には何名もいる。
さすがに加護まで授けている神様はいないようだ。そのため、クロノスナンバーは特別な存在となっている。
クロノス神の位置づけだが、なんとこの世界ではナンバー1の神様だった。
文献を見る限りだと、一番古い神様のようだ。
さて、冒頭に戻る。
「あー、暇だ。」
何か暇を潰せることはないだろうか。
どうせだったら、異世界でしかできないことをしたい。
この世界にはギルドがあり、冒険者ギルドと商業ギルドの二つがある。
異世界といえば、冒険者ギルドに所属して旅に出ることが定番だ。
まぁ、俺のステータスから考えるとその線はない。
そうすると、答えは一つだけだ。
「よしっ、子供でもできる生産チートを始めよう!」
お金はたくさんあっても困らないのは、どの世界でも同じはずだ。
この世界で高価なものがいい。
子供だし、宣伝してくれる人は限られる。
父か母だが、母がいいだろう。どうも、父は最近、話しづらいのだ。
母に宣伝をお願いするのであれば、貴族の女性向けがいいだろう。
甘いものか美容、装飾…。
甘いものは危険な気がする。
貴族の世界では謀略など、当たり前だ。
そして、公爵には敵が多い。
つまり、食べ物系の場合は、毒薬混入などの疑いで暗殺容疑がかかる可能性があるので、なるべく避けたい。
それと、食べ物系を避ける理由がもう一つある。
そもそもだが、あまり料理を知らない…。
なんていうか、料理が得意で商売できるほどの大学生なんて、そんなにいないだろう。
それと、装飾は子供には初期投資が高すぎる。
そうすると、美容系か…。
石鹸、リンス、香水…。
簡単なのは石鹸かな。
マルセイユ石鹸なら作り方が分かるような、分からないようなレベルだ。
たしかココナッツとオリーブと精製水とetc.…。
昔、テレビ番組でやっていた素材と工程を思い出す。
工程はともかく、そんな素材なんて、あるのか?
「クレア、聞きたいことがある。今からメモをするから、この素材が手に入るか調べて欲しいんだ。」
「かしこまりました。私が調べて分からなかったものは、他の者へ聞いてもよろしいですか?」
「あぁ、もちろん構わないよ。」
数日して、クレアが調査結果を知らせてくれた。
どうやら、素材は全てあるらしい。
クレアは不思議そうな顔で俺を見ていた。
何に使うのか尋ねてきたので、概要だけ答えた。
何か言いたそうだったが、奴隷契約に抵触する内容らしく発言ができないようだ。
やはり、奴隷契約がうとましく思う。
さて、素材を手に入れるために、しぶしぶ父にねだってみたが、簡単に手に入った。
さすが公爵様!
ただ、普段はあまり物を欲しがらない俺が、急にそんなものを欲しがるから、苦笑された。
そして、材料を揃えて、いざ作成!
よしっ、やるぞ!
(1日目)
…。
……。
………。
できなかった…。
(2日目)
…。
……。
………。
できなかった…。
そして、一週間後。
やはり、できなかった…。
そりゃ、工程はうろ覚えだったさ。
何となく簡単にできるイメージがあったから、やり始めただけなのは自分でも分かっている。
だが、現実は甘くない。
石鹸って作るの大変だったんだな。
地球の職人さんを尊敬するよ。
できない理由すら分からないので、ただ素材を無駄にしてしまっただけになった。
大量に余ったオリーブの実。
どうしよう…。
ん?オリーブオイルなら、作れるんじゃないか!?
この世界には、まだオリーブオイルはない。
オリーブオイルなら、さすがに俺でも分かる。
工程は非常に簡単だ。
まぁ、結果として食用になってしまうが、仕方ない。
謀略にだけは注意して、生産するとしよう。
「クレア、料理長を呼んできてくれるかい?」
「かしこまりました。」
クレアには、カインが何をするか分からない。
ただ、予感がする。
きっと、何かとてつもないことが起こる。
カイン様は、他の貴族の方とは違う。
私を一人の女性と扱ってくれる貴族は他にはいない。
特別なお方なのだ。
クレアは気づいていないが、無意識にしっぽがフリフリしてるのであった。
それを見た俺は思わず、つぶやいてしまった。
「うん、しっぽ最高。」
ここに犬耳しっぽ女子にはまる一人のダメ男が誕生した。
しばらくして、料理長と同年代ほ使用人がやってきた。
料理長は、俺の傍においてある大量のオリーブに苦笑する。
料理として使うとなると、大変なことになると思ったのかもしれない。
俺は丁寧にオリーブを使った油であるオリーブオイルについて説明していくのだった。
料理長と使用人は、その説明を初めは苦笑しながら聞きつつも、途中から真剣な表情で聞き始める。
そして、より詳細を聞いていく。
何回、失敗しても素材が大量に余っているので、かまわない。
レオンハルト家の厨房では、しばらくの間、料理以外に熱中する料理長と使用人の姿を何人も見かけ、不思議そうに周りは見るのであった。
そして、その成果は俺を予想外の方向へ導くこととなる。
次回『4.どうしてこうなった!?』へつづく。