29.神級アイテム『魂の簒奪』
俺が魔王との戦いに参戦するため、
現地に着いた時には、
全てが終わっていた。
全員、回復薬を使ったのだろう。
目立った外傷はない。
しかし、グランだけは目をつぶって、
横たわっている。
息をしているみたいだから、
寝ているだけだろうか。
だが、なんだ、この感覚は…。
存在感が薄くなっている気がする。
ウィズ、グランの症状を教えてくれっ!
『報告:魂を維持できるほどの残量がないようです。』
「魂!?
ジャックさん、インパルス!
何があったんだ、教えてくれっ。」
俺はことのあらましを聞く。
神級アイテム 魂の簒奪だと!?
『提案:ウルティアを呼ぶべきです。』
「グランさんを病室に連れて行く。
そこにウルティアを呼んできてくれっ!」
すぐにウルティアは、
俺たちが待つ病室に駆けつけてくれた。
部屋にウルティアと二人にさせてもらう。
そして、俺は気づいた。
ウルティアの指輪から、
神力が消えていることを。
「ウルティア、
グランと何があったんだ?
頼むっ、教えてくれっ!」
ウルティアは、
申し訳なさそうに話し、
その時のことを話してくれた。
【1週間前のウルティア】
「女神ウルティア様、
どうかお願いがあります。」
グランと非常食の準備をしていると、
二人の時を見計らって、
グランは話し掛けてきた。
「私は、人間ですよ。
女神ではありません。」
グランは、答える。
「どういう理由で人間となられているかは分かりませんが、
あなたが女神ウルティア様であることに変わりはありません。
その上で、お願いがあります。」
グランは、真剣な顔だ。
どうやら、わざわざ二人の時に話してきたということは、
女神であったことは確信しているらしく、
内緒にしてくれてるらしい。
普段、何かをお願いするような人ではない。
話だけでも聞くことにした。
「叶えられないことの方が多いですが、
話してみて下さい。」
グランは話す。
「おそらく、1週間後、
妻の体を奪った魔王と会える可能性があります。
その時に、なんとしてでも妻の体を取り戻したいのです。」
「魔王に奪われた妻の体を取り戻したいのですか…。
残念ながら、不可能です。
奪われたものは、取り戻せません。」
グランは、諦めない。
「それでは、魔王の魂を奪うことはできませんか?」
発想の転換をしたようだ。
取り戻せないようなら、
逆に奪ってやればいい。
「できなくはないかもしれませんが、
条件が揃わない限り無理だと思いますよ。」
「条件?」
「まず、魔王の力が衰弱寸前であること。
術者は、魔王級の魔力を持っていることです。
そして、相手の魂だけを奪う神級アイテムが必要となります。」
「神級アイテムは、
どのようにすれば手に入りますか?」
「現在、そのアイテムは存在しません。」
「なるほど、現在は存在していないということは、
過去か未来にあるんですね?」
「お察しの通り、過去と未来には、
点のように存在しています。
使い切りのアイテムなので、
神が気まぐれに作らない限り、
存在しません。」
「創造の女神ウルティア様、
お願いがあります。
作っていただけないでしょうか?」
「残念ながら、
私の種族はハイヒューマンとなっています。
作れませんよ。」
「なんとかならないでしょうか?
例えば、指輪に隠している神力を使っても!」
!?
まさか気づいているとは…。
一体、どれほどの修練を積めば、
そこまでたどり着けるのだろうか。
普通の生き方では、
絶対にたどり着けない領域だろう。
だが、それとこれは別問題なのだ。
ユニコーン様より、
あくまでも神界に戻るために神力を封じたと言われている。
使ってはいけないものだった。
「これは、使用できません。」
「怒られる事を承知の上でお願いがあります。
その指輪の神力を使って、
アイテムを作っていただけないでしょうか?
お願いします。」
グランは、土下座をした。
実は指輪の神力は、いざというときに使ってもいいと思っている。
私は、この世界で戦ってはいけない。
神の決まり事だ。
正直、今のカインが魔王と戦っても、
まだ勝てないと思う。
なので、まだ戦わせたくないのが本音だ。
カインは、グリードとの戦いで、
私のために神力を使ってくれた。
そうであるならば、
これからカインを助けるであろう、
グランに使うのは、いいと思う。
そうすると、アイテムを使用するための魔力だが、
皆の魔力を合わせれば何とか足りるかもしれない。
アイテムさえあれば、何とかなるはずだ。
ただ、問題なのは、
神界に戻れなくなることだが、
それは、時が解決してくれることだ。
極端な話し、
1000年もいれば、神たちの神力は回復する。
それに父であるクロノス神は、
どうやら神力をまだ隠し持っていて、
好き勝手やってるようだ。
そう考えると、
何とかなるかもしれない。
「分かりました。
ただ、残念ながら、
指輪の神力の残量は乏しいのです。
私は形にすることに力を注ぎますので、
足りなくなるアイテムのイメージは、
グランさんが行って下さい。」
魔方陣が浮かび上がる。
グランは、思いをアイテムとなるものに込める。
石だ。
魔王の魂を奪う石がいい。
封印なんて、生温い!
消し去りたい!
武器だと警戒されるだろう。
だから、石がいい。
絶対に妻を取り戻したい!
わずかな時間でかまわないから、
妻ともう一度、話したい。
もし魔力が足りなくなるならば、
自分の魂を捧げても構わない。
願いを叶えてくれるのならば、
俺の魂なぞ捧げてもいい!
「ちょっ、グランさん!」
神力を解放してしまって、
流出が始まっているので、
願いのやり直しは聞かない。
そして、神級アイテムは完成した。
魂の簒奪…
使用された相手と使用者の魂を簒奪する、神が創造したアイテム
そして、簒奪された魂は天に昇る…。
使用魔力、使用者の魂を変換。
アイテムと自分と相手の一部を同時に鋭利なもので刺すことで使用可能。
本来、必要となる魔王級の魔力の変わりに、
自らの魂を魔力に変換する神級アイテムが創造された。
【カイン】
俺は悲痛な面持ちで、
ウルティアの話を聞いていた。
「何故、俺に声をかけてくれなかったんだ?」
虫のいい話しかもしれない。
俺だってウルティアにクロノス神のこととか秘密にしていることはある。
だが、言わずにいられなかった。
ウルティアは、
申し訳なさそうに話す。
「グランさんに、アイテムの使用方法を見るなり、止められました。
私は人となり、
そしてあなたの妻となり、
人の愛の大きさを知りました。
カインは、知ったら止めると思い、
あえてグランさんの思いを優先させました。
ごめんなさい。」
確かに俺は、知っていたら、
グランさんを止めていただろう。
対象者だけでなく、
使用者の魂も奪ってしまうなら本末転倒だ。
恐らく俺が戦いに行った。
そして、グランは自分で決着をつけられなかったはずだ。
でも、せめてウルティアは、
ウルティアだけは、
俺に言って欲しかった。
俺は、この戦いで誰一人、死なせる気はなかった。
そのため、自責の念に襲われる。
俺はウルティアに文句を言おうとした。
そして気づく。
ウルティアが震えているのを。
そうか…。
俺に嫌われるのを恐れているのか。
バカだな、俺は。
「ウルティア、
グランさんの想いに応えてくれて、
ありがとう。
でも、次からは俺に内緒はしないでくれな。」
主張したいことは、主張したが、
ウルティアを安心させたかった。
こんなことで嫌いになんかなる訳がない。
「ウルティア、愛してるよ。」
俺はウルティアをそっと抱きしめた。
俺は落ち着きを取り戻す。
さて、これからのことを考えよう。
「ウルティア、
グランさんの魂を取り戻すことはできるか?」
「ごめんなさい。
今の私には、できないの。」
ウィズ、グランの魂を取り戻すことはできるか?
『報告:不可能です。』
「我もムリだぞ。」
黄龍リュクレオンは、
聞くより先に答えてくれた。
ウィズ、お願いがある。
失敗してもかまわない。
グランの魂を取り戻すための演算をしてもらえないか?
『報告:可能性がないことに賛同はできません。』
ウィズ、ウルティアは、
今の私にはできないと言った。
つまり、神なら可能ということだ。
だとしたら、方法はある。
無謀なことだとは分かっている。
それでも、お願いしたいんだ。
『回答:分かりました。
精霊ウィズの名のもとに、
グランの魂を取り戻すための演算をはじめます。』
ウィズ、ありがとう。
「グランさん、
あなたを取り戻せるかは分かりません。
でも、俺は信じています。
いつかまた笑って話せることを。」
俺は、グランさんとの笑い合った日々を思い出す。
それと同時に、自責の念に襲われるが、
とりあえず、今は頭を切り替えるしかない。
「グランさん、
お疲れさまでした。
また会える日まで…。
それまでは、ゆっくり休んでいて下さいね。」
俺は、そっとグランのいる部屋から出ていった。
さて、戦後処理をしなくては。
まず、捕虜とした兵は、
聖騎士エレナとの約束に基づき、
客人として扱う。
まぁ、そのままというわけにはいかないので、
暴力行為禁止と島外への外出禁止の腕輪は付けさせてもらおう。
これは、奴隷契約の劣化版だ。
一般的には、呪いの腕輪と同じ分類だろう。
まぁ、言葉とはうらはらに、
平和的な利用だ。
次に食糧問題だが、
これは既に解決している。
実は、この島での生産量は需要と供給を、
大きく上回ってしまっている。
このままでは腐らせてしまうだけだったので、
ちょうどよかった。
後は調理だけだ。
物凄い量だが、
グランに仕込まれた料理人たちに頑張ってもらおう。
とりあえず、今日は疲れた。
ジャックやインパルスは、特に疲れてるだろう。
敵の司令官との面会は、
疲れを回復させた明日にするべきだ。
ジャックやグラン、
戦いにおもむいた兵に休むよう指示出し、
俺は、明日の面会に備えて、
準備を始めた。
◇◇◇
【クロノス神】
さぁて、今日は、どこに行こうかな~。
ん?
ウルティアが力を使っている??
う~ん、気になるな。
ちょっと、覗いてみるかな。
おやっ?
ウルティア、さすがにそれはマズいよ…。
神が魔王討伐のアイテムを作って渡すのは、
協定違反じゃないか。
そういや、ウルティアに協定のこと話したことないな。
遥か昔だもんなぁ。
まだ、ウルティアが生まれる前か。
あー、魔神が怒るかもなぁ。
あいつら怒ったら、面倒くさいんだよなぁ。
何回、喧嘩した余波で星が滅んだんだか。
まぁ、怒ったら怒ったで仕方ないか。
その時はその時だ。
でも、他の神は、神力回復まで1000年かかるし、
相手するの僕かぁ。
まぁ、分かってはいたことだけど、
やっぱり、めんどっ。
そういや、朝霧海斗くんにお礼しなきゃ。
素晴らしいメイド喫茶を教えてもらったんだった。
よしっ、お礼もかねて、そろそろ彼にプレゼントしよう!
それと、もし面倒ごとになったら、
彼に押し付けれるようにしとかないと。
僕って、頭いいなぁ。
うんうん。
その日、クロノス神は教会に神託を行った。
「我、この世を憂いてるなり。
よって、我が思いをかの者に託す。
12の時のことわりより、更に先へ進むものの。
13の数字を与えし存在。
カイン・レオンハルトを、
クロノスナンバー13とし、
我が代行として世界の変革を命じる。」
クロノスナンバー13
カイン・レオンハルトがここに誕生した。
次回、『30.会見前夜 』へつづく。