20.断罪の刃グリードvsマリーナ姫
【グリード】
んー、何か懐かしいものが浮いてるな、
昔、よくデパートに浮いていたやつだ。
何か文字が書いてある。
なになに?
日本語?
「9へ。Kは9を倒すために特訓中。
貴族の邪魔が入ると完成が遅れるので、考慮されたし。」
うわっ!
嬉しいなぁ。
僕を満足させてくれるために、
カイン君は特訓中なのかぁ。
確かに貴族が邪魔すると、
特訓遅れそう。
楽しみが先延ばしになるのは、
ヤダなぁ。
でも、それはそれ。
僕が何か動くのは、
フェアじゃないね。
まぁ、ルッソニー宰相に
カイン君を生かすことにしたことだけは、
伝えておいてあげるか。
ん?
宰相宅に誰か立っている。
「おかえり、グリード君。
なんで、手ぶらで帰ってきたのかな?」
なんだ、この生意気そうなやつ。
あっ、でも、なかなか強そうかも。
じゅるり。
思わず、唾が出る。
「カイン君を殺すのは、
しばらく延期にしたので、
その報告にきたんだよ。」
高らかに男は、笑った。
「任務を失敗したのかい?
ぶざまだね。
君はそこまでの男だったということだ。
断罪の刃
クロノスナンバー9 グリード!
クロノスナンバー10である私ミドリーズが
君を断罪する!」
やった!
強そうなやつと闘える!
ズハンッ!
ん?
斬られた?
「能力 不可避切断!
俺の切断は、誰にも避けられない!
さぁ、グリードよ!
私の刃の錆となるがよい!」
んー。
なんだ、こいつ。
随分、能力に依存してるな。
太刀筋も美しくない。
能力は、避けられない、
必ず切断されるってところか。
1対1なら、かなり有効だろうなぁ。
幾つか対抗策があるけど、
まぁ、時間をかけるまでもないか。
「次元転送!」
当たった瞬間、
切断の力を次元へ飛ばす。
これだけ技能に差があれば、
余裕だろう。
「何故だ!?
何故、当たらない!?!?」
焦るグリード。
どうやら、グリードが何をしているか分からないようだ。
「そんなことも分からないのかい?
君は弱いなぁ。
もう、終わりにしよう。」
ミドリーズに一瞬で近づき、
切り刻むグリード。
「(マズい!
殺される!
くそったれ!
不可避切断!)」
ミドリーズは、
グリードの緊張の糸を切った。
グリードは、
何かされたことに気がついたが、
肉体面以外の切断は気づかなかったようだ。
「あれっ?
なんか、君のこと、
もうどうでもよくなったや。
もういいや。
ルッソニー宰相のとこに行こっと。」
その場を立ち去るグリード。
残されたミドリーズ。
「くそー!!
何でだ!
俺の方がナンバーは上のはずだ!!」
後に残されたミドリーズは、
しばらく放心して動けなかった。
ルッソニー宰相宅を歩き出すと、
たくさん兵が出てきた。
つまらないから、
すぐ殺してしまう。
ルッソニー宰相の部屋に着いた。
「バカな!?
ここに来るまで、100人はいたはずだぞ!」
「そんなにいたかなぁ。
弱いのなんて、
いちいち覚えてないよ。」
(信じられん!
ミドリーズとの闘いを上から見ていたが、
同じクロノスナンバーで、
こうまで差があるのか!?
それに私の私兵は精鋭揃いを集めたんだそ!
歩く時間と変わらないまま、
ここまで来たのだと!?)
「何が望みだ?」
ルッソニー宰相は、
冷や汗が止まらない。
会話をして場をつなぎ、
打開策を考えなくては…。
「それがさ。
カイン君は、僕とヤルために、
特訓中らしくて…。
…。
ん?
なんだ、この気配?
城から放たれてる??」
ちょうど、その頃、
魔王マリーナは、城の兵士に魔力を当て、
気絶させているところだった。
「ごめん!
ちょっと急用!
強いやつがいる!!」
ここまで心が躍るのは、初めてだ!
あのカイン君と闘った以上に
心が躍る。
後に残ったルッソニー宰相。
「助かったのか…?」
ルッソニー宰相は、
訳が分からなくなっていた。
グリードは、王城にきた。
何故か兵士に誘導される。
闘技場のようだ。
闘技場には、一人の女が立っている。
「ようこそ、グリードさん。
お城を壊されたらたまりませんので、
こちらに来ていただきました。
私は、クロノスナンバー7。
マリーナと言います。」
!?
「どうして、僕がこちらに来ると??」
「グリードさんほどの方が動けば、
すぐに分かりますよ。」
なんなんだ、この女は。
とてつもない魔力を感じる。
本当に人間なのか?
まあ、細かいことは気にしなくていいか。
強いやつとヤレるんだ。
「じゃあ、ヤロう♪」
この相手に、中途半端な攻撃はダメだ!
「次元斬り!」
カキン!
斬撃がはじかれる。
!?!?
障壁に止められた!?
なんだ?
能力が無効化されて、
ただの斬りに変わっている!?
魔力弾が襲ってくる。
属性もない、ただの魔力弾だ。
手を抜いているのか?
確かに凄い威力だけど、
次元に飛ば…
能力が発動しない!?
「ぐはっ。」
吹っ飛ぶグリード。
そしてグリードは、大ダメージを負った。
そんなバカな!?
能力が使えないばかりか、
この僕が避けられないだと!?
マズい!
「うふふっ。
もう終わりですか?」
ふざけるな!
「ディメンションワールド!」
異なる次元を複数発生させ、
一斉に切り刻んでやる!
パリーン。
グリードの作った全ての次元が吹き飛んだ。
「そんな、バカな!?
くっ、いったん距離をとるしかないか!」
グリードは、この場を全速で、
いったん退却しようとする。
しかし、途中で見えない壁に阻まれた。
なっ、障壁にふさがれた!?
「うふふっ、
ご存じでなかったのですか?
前の世界のゲームと同じですよ。」
ゲーム?
ハッとするグリード。
「そういうことか…。
魔王からは逃げられない…。」
「正解です。」
パチパチと手を叩くマリーナ。
僕は、ここで死ぬのか…。
まさか魔王だったとは。
どう考えても、ここから挽回は難しい。
なら、最後まであがいてやる。
力の限りを次の一撃に込める。
剣に魂をこめるイメージだ。
「うぉぉぉぉぉ!」
「さて、あなたは、
カインお義兄さまが倒すと決めていられるようです。
私が倒すのは、やめておきましょう。」
「聖魔人同一!」
聖も魔も人も、
魔王マリーナの前では全て平等に能力が無効化される。
グリードは、魂を込めるほどの一撃を
無効化された。
ただの一撃となる。
「なかなかの一撃でした。
それでは、グリードさん、ごきげんよう。」
マリーナは、魔力弾をグリードに放つ。
グリードは、街の外まで吹き飛んだ。
「うふふっ。
今のうち、国王陛下となった皇太子殿下の嫉妬を煽って、
ルッソニー宰相にでもけしかけるかしら。
あぁ、楽しいわ。」
妖艶な姿をしたマリーナは、
また更に艶のある表情をして、
新国王陛下のもとへ向かうのだった。
【ルッソニー宰相】
「くそっ!
国王軍が攻めてくる!
何故だ!国王軍は国王しか動かせない!
たとえ、皇太子殿下であってもだ。」
グリードに私兵をやられ、
ルッソニー宰相には追い詰められていた。
そこに、ぼろぼろとなったミドリーズがやってくる。
「父上!
一時撤退を進言します。
他の貴族を取りまとめ、
再起を図りましょう!」
ルッソニー宰相とミドリーズは、
王都より脱出した。
【国王陛下】
「ふははははっ。
もう、誰にも私を邪魔はさせない!
酒だ!
そして、王国中の美女を連れてこい!」
近くでマリーナは、
妖艶な姿で微笑んでいる。
だが、マリーナは思う。
ルッソニー宰相への攻撃までは
煽ったが、その後の言動…
これが、生来のこの男の姿なんだろう。
フィーナ国第27代国王
フィリックス・フィーナリオン。
歴史に残る暗君は、
こうして、ここに誕生した。
次回、『21.黄龍リュクレオン 』へつづく。