16.生涯の心友インパルス
コンコン。
「おはようございます。
インパルスと言います。
カインさん、いらっしゃいますか?」
「はーい。
主人から話しは聞いています。
どうぞ、こちらの椅子にかけて、
お待ち下さい。
今、主人は裏庭だから呼んできますね。」
しばらくして、カインはやってきた、
「すいません、お待たせしました。
カインと言います。
以後、よろしくお願いします。」
そこには、少しそばかすが残る、
短めの灰色髪の男がいた。
事前にウルティアから訪問者の名前は聞いている。
昨日の集会でジャックが話してたインパルスだろう。
なかなか頭が良さそうな理知的な顔をしている。
「(すんまそん。
インパルスといいます。
カインはん、以後、よろしゅう)」
「(えっ、日本語?)」
???
なんだっ!?!?
日本語だと!?
思わず日本語で返事をしてしまった。
「(やっぱ、元日本人かい。
カインはんは、
クロノスナンバーかな?
番号は幾つなん?
自分は、ナンバー1やで。)」
どうする?
しらばっくれるか?
いや、もうムリか。
「(いえ、私はクロノス神の加護を授かってないので、ナンバーはありません…。
ところで、どうして、私が元日本人だと?)」
「(えっ!?そうなん??
そういうこともあるんやなぁ。
まぁ、日本人って思ったのは幾つか理由があるで。
まず、昨日の集会で稲作を提案したんやて?
農業で最初に連想したのが、稲作って、
そりゃ、日本人以外ありえないやろ。)」
インパルスは、笑う。
いや、よだれを垂らしていた。
どうやら、米の味を思い出しているようだ。
「(なるほど。
そうかもしれませんね。)」
「(そうや。
まぁ、実はまだ半信半疑やったんだが、
さっきの反応で確信したんや。)
あっ、今日はいい天気ですねー。」
そこに、ウルティアがお茶を入れて
持ってきてくれた。
怪訝な顔をされると思って、
こちらの言葉に切り替えてくれたのだろう。
まぁ、かまをかけられたということか。
それに、俺は乗ってしまったんだな。
さすが、商人ということか…。
以後、気を付けよう。
ウルティアは、お茶を置き終わると、
「(どうぞ。
そのまま日本語で話してても、
かまいませんよ。)」
驚くインパルスとカイン。
「「(日本語しゃべれたんかい!!)」」
あっ、言葉がうつった…。
「(だって、私は元女神ですから。
それでは、向こうにいますね。)」
ウルティアは、部屋から出ていった。
それをポカンとした顔で見つめるインパルス。
そして、顔を俺に向けた時、
興奮して、変な顔になっていた。
「(ずるいでー!!
何、女神を奥さんにしてんねん!!
ナンバーより、そっちの方が断然いいやろー)」
相当、悔しそうだ。
「(仕方がないじゃないですか!
こっちも色々あったんですよ!)」
「(そんなん経過なんか関係あらへん!
ようは結果や結果!
なんて、うらやましゅう!
どうせ、女神から何か能力もらったんやろ!
言えや!何の能力や!?
それとも女神自身だけ手に入れたんかい!
それはそれで、羨ましすぎるで!!)
「(いやいや、
そんな簡単に自分の能力いえるわけないですよ。)」
あっ、能力もらったと暴露してしまった…。
「(かー、何か自分!
女神を手に入れて、
能力も手に入れて、
最高のシナリオを進めてるやないかい!
あー、話しが進まへん!
わいの能力を教えてやるさかい、
自分も教えろやっ!)」
あっ、目から涙が出ている。
血の涙が、出そうな素振りだ。
本当に悔しそう。
「(いや、教えてもらっても
自分のは言えませんよ!)」
情報漏えいは命取りになる。
いくら、これから仲間になるからなんていっても、初対面のやつには教えられない。
「(大丈夫や。
自分の能力があれば、あんさんが心配してるようなことは起こらんで。)
能力:宣誓と誓約」
急に能力名を言った時、
俺は緊張し、警戒した。
空中から、一枚の用紙が出てくる。
インパルスは、そこに文字を書いていく。
1.インパルスは、これから聞くカインの能力は誰にも話せない。
2.カインは、これから聞くインパルスの能力は誰にも話せない。
3.お互いの同意により、誰にも話せないことの内容を追加する。
「(こんなもんで、いいやろう。
俺の能力は絶対遵守をさせる能力や。
まぁ、紙に書く必要もないんやけど、
お互いの同意が必要やさかい、
普段は契約書スタイルにしとる。
他に追加したいことはある?)」
「(特にないですね。)」
まぁ、色々と追加したいことはあるが、
欲張りすぎは、よくないだろう。
それに、この文言だと抜け道はたくさんある。
警戒しすぎは、
良くないかもしれない。
「(じゃあ、ここにお互いサインしてや。)」
お互いに名前を書く。
「(よしっ。これでOKや!)
能力発動!
(これで、誰にも話せなくなったで。
さぁ、教えろやい!)」
観念するか…。
まぁ、バレても対策は立てられないしな。
俺は加護と大まかな能力のことを話す。
そして、誤解があると、行けないので、簡単に今までの経過も含めて話した。
「(なんや、それっ!
チートの権化やないかい!
羨ましすぎるで
悔しさを通りこして、
もはや、憎さや!
いやっ、憎さを通りこして尊敬するで!
自分もあやかりたいもんや。)」
特に異世界転移の能力は羨ましがられた。
やっぱり恋しいのだろう。
「(ホント大変だったんですよ。
そういえば、クロノスナンバーのことを聞いてましたが、ナンバーたち自身も他の人たちのことは分からないんですか?)」
「(うん、基本は知らんで。
12人いることは、当時の神殿への神託で授かったことにより判明してるんは、自分も知ってるやろ?
生まれた際、一般的にはステータスを神殿に奉納するのがこの国の風習やけど、
あえてステータスを偽造したり、奉納しなかったした人たちもおるんや。
まぁ、今となっちゃ、何人か有名なのがいるけど、能力は公表してるのと、絶対違うものもいるだろうしな。)」
「(そうだったのか。)」
そういえば、マリーナのステータスはどうだったんだろう。
今考えるとグリードの能力と差がありすぎる気がするぞ。
さっきの俺と同じ危惧をしたように、
情報の大切さを分かってた父は
本当のステータスと能力は隠したのかもしれなない。
「(まぁ、ワレもステータス偽造した方やな。
うちの、おとんは冒険者時代に策士として有名だっそうやから、隠したんやろ。
あっ、ここからはオフレコな!
これ、お近づきのしるしに、持ってきたで。
つまらなくないものですが、どうぞ!)」
うん?
酒場のあのダンディーなグランは冒険者で、策士として、有名だったのか。
なんか、似合うな。
って、オフレコ!?
なんだろう。
そう思ったやさき、
インパルスは袋包みから色々な本が出てくる。
この世界の色んな種族のきわどいエロ本だ。
エルフ、犬耳っこもいる。
「(むほー。
これはこれは、なかなかの品を。)」
やべっ。
思わず興奮してしまった。
鼻の下が伸びた自覚がある。
「(エロは万国共通やで!
エルフとか、最高やろー。)」
インパルスも興奮している。
まっ、お互いさまか。
「(分かってるじゃないか、インパルスさん!
もちろんオフレコにさせていただきます!)」
思わず、握手をしてしまった。
気を許しすぎだって?
しょうがない!
エロは万国共通なのだ!
この日、俺たちは色んなエロについて語り合った。
やっぱり、憧れとして意識したのはエルフや精霊みたいだ。
話しを始める前、俺とインパルスさんは友達になった。
話してる途中、俺とインパルス君は親友となった。
話し終わった後、俺とインパルスは心友となった。
帰り際、この島のことを2~3分で話し、方針を決める。
「(とりあえず、何をするにもお金が必要!
向こうの世界から、こっちで高く売れそうなものを買ってきて、インパルスが本土で売る。
金が増えたら、それに応じて、また考えよう!)」
「(ついでに、某街づくりゲームの攻略本と向こうのエロ本も買ってきて!
街づくりは、よく分からんからゲームと同じ感覚でやろうや!)」
◇◇◇
後の世の歴史書に、この日の俺とインパルスの出会いが歴史的瞬間と記されている。
カインと、インパルスは、政治思想・農政・建築・文化など、様々なことを話し合い、意気投合したと、記されている。
ある後世のエラい歴史家は言う。
この日が、もっとも広い意味での、
文化革命の転換点だったと。
ある後世のエロい歴史家は言う。
この日が、もっとも狭い意味での
エロ革命の転換点だったと。
この日を境に、世界は激動の時代へ加速していくのは、まだ誰も知らない。
次回、『17.元いた世界でのお買い物 』へつづく。