14.臨時集会
「よく来てくれた。」
グリードとの死闘から1週間ほど経ったある日、
街の顔役たちの臨時集会が開かれていた。
あれほどの惨事だったにも関わらず、
今頃に集会を行うこことしたのは、
葬式や事後処理対応で、
遅くなったのだろう。
そこに何故か俺は呼ばれたのだった。
大人たちの中心には、
いつも豪快であったはずのジャックが、神妙そうな顔で座っている。
「何かあったんですか?」
心当たりがないわけではない。
グリードの件だろう。
「これを見てくれ。」
そこには1枚の命令書がある。
くしゃくしゃだ。
大方、誰かが怒りまくって、
くしゃくしゃにしてしまったのだろうか。
えーと、なになに…。
…。
……。
!?!?
「何なんですか、これは!」
ルッソーニ宰相から、ジャックへの命令書だ。
日付からすると、俺たちがグリードと闘う前の日付になっている。
簡単に言うと、
グリードが俺を暗殺しに来るので、
よろしくって書いてあった。
それを何枚もの用紙を使って、
傲慢に書いてある。
どれだけ上から目線なんだ?
そして、場合によってはジャックはグリードと闘うように命令していた。
「なぁ、カイン。
ここにいる皆は、お前がここに来ることになった経緯を知っている。
確定した罰を受けた者に、新たな罰を与えるのは、どう考えてもおかしい。
お前は、もう俺らの家族として迎え入れている。
そんな、お前に向けた対応に、
俺らは皆、怒っているんだ。」
怒るのもおかしくないだろう。
この島にいる人たちは、
基本的に、皆、人がいい。
犯罪者の烙印を押されたはずなのにだ。
この島は、貴族からのこじつけで冤罪の可能性がある犯罪者であったり、
俺みたく20才未満の子供は、
貴族の連鎖責任を免れ、ここに来たような者たちだらけだ。
当然、島に来る人たちは連帯感も強くなるし、心根が優しい人が集まる。
皆、俺のことも暖かく見ていてくれたのだろう。
そんな俺に対して、
貴族は更に追い討ちをかけてきた。
しかも、よりにもよって、街が大虐殺の危険に合いそうな断罪の刃グリードを使ってだ。
みんな怒るのは当然だ。
「俺はもう我慢できん!
この、島を出よう!」
一人の若い男が発言する。
何人か賛同したようだ。
あまつさえ、国を攻撃してはどうかと言っているものまでいる。
誰かが言った。
「レオンハルト家がいた頃はこんなことなかったのにな。」
誰の発言だ?
まぁ、正しい発言だろう。
三つ巴の政争だった頃は、どこかが動き弱みを魅せれば、残りの2つが襲ってくる。
うかつに動けなかったはずだ。
今はルッソニー宰相派閥と王家派しかない。
大好きだった三国志を思い出す。
三つ巴か…。
ジャックは、黙っている。
どうやら、あらかたの議論が出揃うまで黙っているようだ。
「カイン。
君の考えはどうだい?」
年長者の男が話しかけてきた。
ダンディな髭だな…。
でもこの声は、レオンハルト家のことを発言した声と同じだぞ。
まぁ、採用されるかは別として、俺の意見を言ってみるか。
「俺は、この島を出ることはお薦めしません。
まず、まがりなりにも俺たちは犯罪者の烙印を押されています。
本土にいた場合、討ち取る機会は幾らでもあるのだから、危険でしょう。
軍だけではなく、ギルドも敵になる可能性があります。」
「じゃあ、このまま泣き寝入りするのかい?」
ダンディな年長者は、俺に次の発言を促す。
「いえっ。
泣き寝入りはしません。
この島は資源が豊富です。
あの謎の光の柱で、
海域は穏やかになりました。
おそらく貴族は、
この島の資源を狙ってくるでしょう。
それを渡さないように、
俺たちが活用すれば、
貴族への仕返しとしは十分ですよ。」
俺とジャックは、あの光の一撃は謎の一撃ということにしたのだ。
だって、2度と使えないし、説明するの大変だしね。
若い男は発言する。
「それだと、結局のところ、島に貴族軍がやってきて、より悲惨な目が出るぞ!」
俺は説明する。
「考えてみて下さい。
この島は海に囲まれているため、
本土の連中が得意な騎馬隊を使えません。
それに海域の気候がよくなったとしても、
海流は別です。
まだかなり乱れているので、大軍は起こせませんよ。
それに、あの光の恐怖もありますしね。
暗殺者が襲ったしっぺ返しだったと、
流言を流せば、
攻撃側の精神的な負担が大きくなるはずです。
常に頭上を気にするようになりますから、気が気でないでしょう。
つまり、この島は、天然の要塞としてなりえるのです。
下手に動くより、よっぽど安全ですよ。」
そう、この島はまさに海に浮かぶ天然の要塞なのだ。
本土の軍は、貴族軍・国王軍ともに海戦の経験は乏しい。
条件が同じなら、
数が少なくとも要塞がある分、
十分に戦えるはずだろう。
他の若い男が発言する。
「この島の資源って、何があるんだ?
魔獣の肉ぐらいしか思いつかないぞ。」
「個人的には、最大の資源は気候ですね。
稲作づくりに向いています。
それに塩や砂糖の精製にも向いています。
その他にも、山には様々な鉱石が埋まっていますよ。」
そう、グリードとの死闘の後、
俺はただ休んでいたわけではない。
訓練もしたが、この島のことを調べていたのだ。
「稲作?食べられるものなのか?」
「鉱石なんて、採れるのか?」
皆は口々に話し始めた。
「なるほど。
カイン君の頭の中には、
もうビジョンが出来上がっているんだね?
さすが、あのオリーブオイルとマルセイユ石鹸の制作者なだけあるね。」
みんな驚いた。
「あれらは、カインが作ったのか!?」
ようやく、ジャックが口を開く。
「みんな、どうだろうか。
俺はカインの意見は現実的で、1番の妙案だとおもう。」
「カインの意見に賛同する。」
みんな、同じ考えになってくれた。
「では、決定だ!
カイン 、君の意見だ。君が指揮をとれっ!
そうだな、
島の守りは、俺の自警団が中心となって、カインの指示に従おう。
生産や流通は、グランの息子のインパルスにでもさせよう。」
「酒場である俺の息子に勤まりますかね?
まぁ、この島で生まれたあいつは、
犯罪者の烙印とは無縁ですしね。
この島の本土との商品購入は、
あいつが取り仕切っていますし、
妙案でしょう。」
あっ、このダンディなおじさんは酒場の人だったのね。
俺は酒場に行けないから知らなかった。
それにしても、
ここの人たちは、年齢にこだわらず、
俺なんかの意見も聞いてくれて、
賛同もしてくれる。
なんて、素晴らしい人たちなんだろう。
「じゃあ、カイン!
あとはよろしく頼む!
よしっ、酒の時間だ!
じゃんじゃん、持ってこい!」
ん!?
まてよ!?
考えるのは、全部、俺に丸投げしてないか!?
あれっ?
もしかして押しつけられた!?
皆、体を動かすのは好きだけど、考えるのは苦手なのね…。
って、おい!
普通は大人が考えるのが好きで、
子供は体が動かすのが好きなはずだろう!
俺の叫びは、酒盛り始めた大人の笑い声に消えていった。
「よかった、よかった。
賢いやつがいてくれて」
「あのカインなら、大丈夫だ。」
皆、適当に話し初めているのが聞こえる。
俺は一人ため息をつき、
あきらめて、帰路についた。
おそらくだが、ジャックとグランの中では、
今日の流れは予定どおりだったのだろう。
三つ巴を連想させる発言。
俺は妹のマリーナを間接的に助けるには、
三つ巴の状況を作り出すのが望ましい。
犯罪者の烙印を押されてるし、
直接的には助けられないからね。
俺は家にたどり着く。
「ただいま、ウルティア。」
「おかえり、カイン。」
まぶしい笑顔で、ウルティアは俺を迎え入れてくれた。
ウルティアに軽いキスをすると、
ふと気付く。
ご飯のいい匂いがするのだ。
どうやら、俺の帰りに合わせて、
温かいご飯を用意していたようだ。
ウルティアは、いつも俺を裏から支えてくれる。
今日も、ウルティアとたくさんの話しをしよう。
今日のこと、これからのこと。
これから何が起こるか分からない。
でも、ウルティアの笑顔は、一生守ろうとおもう。
そして、俺はこの街の指導者となった。
次回、『15.【幕間】王城のクロノスナンバー達 』へつづく。