13.追撃戦
グリードが去った後、
しばらく俺は動けなかった…。
いまだに背筋が凍っているような感覚がある。
「お前ら、大丈夫か!
重傷者から、ありったけの回復薬を飲ませろ!
助けられるだけ助けるんだ!!」
ジャックは動ける部下に指示を出す。
だが、そんなジャックも生きているのが不思議なくらい血を流してる。
『提案:この者たちに回復魔法を使うことを提案します。』
はっ、そうだ。
回復魔法が使える俺が動かなくては。
「ジャックさん、俺は回復魔法が使えます。
使わせて下さい。」
ジャックは、うなずく。
「頼むっ!」
俺は回復魔法を使った。
部位が離れた箇所も再生される。
俺は能力を出し惜しみしなかった。
だが 、死んだものは、当然生き返らない。
周りの大人たちは俺の回復魔法を見て、
驚いている。
「なんて、魔法だ…。」
口々に驚きの声を出していた。
しばらくすると、生きているものの体は回復した。
だが、精神的な疲れか、誰もそこを動けなかった。
ただ、一人、ジャックを除いて。
ジャックは、全員の顔を見渡し、
真面目な顔をして言った。
「とりあえず、飲むかっ!」
俺は驚く。
「ジャックさん、こんな時でも酒ですか?」
ジャックはどこからか酒を取り出し、
飲み始めた。
そして、豪快に笑って、ジャックは言う。
「俺は酒がなければ、死んでしまう体質なんだよ。
ガッハッハ。」
周りの大人たちが一斉につっこむ。
「そんな体質ありませんから!!」
誰もが死を覚悟した死闘だっただろう。
全員、精神的に相当追い詰められたはずだ。
そんな戦闘の後にも関わらず、
いつもと変わらぬ姿でいるジャック。
なんて、心を支えてくれる存在なのだろうか。
全員がジャックを慕うのが分かる気がする。
そんな中、俺は恐ろしい可能性に気づいてしまった。
グリードは、どこに消えたか分からない。
街に行ったかもしれない。
もしかしたら、ウルティアを襲っているかも知れない。
「ウルティアっ!!」
俺は慌てて、街へ走りだした。
後ろの方で何か言っている。
だが、そんなこと気にするもんか。
ウルティア、無事でいてくれっ!!
ようやく街が見えてきた。
おかしい!
静寂すぎる…。
俺は、焦った。
「頼むっ、無事でいてくれっ!」
街に着く。
そこには、誰もいない。
どういうことだ!?
「ようやく追い付いた。
坊主、お前は、早いな!」
ジャックは息を切らせ、追い付いた。
部下は置いてきたようだ。
「ジャックさん!
街の皆がいないんです。」
慌てる俺を見て、
ジャックは胸を張って答えた。
「大丈夫だ。
街の皆は、丘の神殿にいる。
お前のところの嬢ちゃんが、
結界が張ったから、大丈夫だろう。
結界が破られれば、一目で分かるしな。」
誇らしげに言うジャック。
どうやら、街の皆を避難させておいたらしい。
そしてウルティアが結界を張ってくれたようだ。
確かに丘の神殿にはここからでも分かるぐらいに結界が張ってあるのが見える。
だが、俺はまだウルティアの顔を見るまでは安心できない。
『報告:グリードが沖に出るのを確認。
今なら、一矢報いることが可能です。』
『推測:グリードは、結界を張ったウルティアに興味を持つ可能性大です。』
『提案:グリードに一撃を与え、興味をそらさせることをお勧めします。』
なんだって!?
可能なのかそんなこと!?
確かにあの結界を張る存在にグリードが興味を持つかもしれない。
それはマズい!
ウルティアを危険な目に合わせてなるものか!!
「ジャックさん、グリードが沖に出たようです。
今なら、一矢報いることができます!
追いましょう!」
ジャックは驚いた。
グリードを感知したこともだが、
何より、ついさっき殺されかけた相手に、
もう顔を合わせようとする俺の精神力にだ。
「無謀だと言って止めるべきなのかも知れないな。
だが男には無謀でも立ち向かわなければいけない時がある。
お前にとって、今なんだな!」
俺は先程の闘いで自信を失いかけていた。
ここで一矢報いらない限り
俺は一生グリードに勝てない気がする。
何よりウルティアに危険が及ばないよう、
俺に注意を向けることが大事だ。
『提案:港へ向かって下さい。』
「とりあえず港へ!」
俺とジャックは港へ向かい、
海辺に着いた。
ジャックは俺が何をするか聞いてこない。
俺が失敗し、グリードとの戦闘になった時に備え、精神を集中させているようだ。
『報告:半自動オートを開始します。』
その瞬間、俺は何をやるか理解した。
ウィズ、お前ってやつは…。
それでも俺はウィズの提案を飲むしかない。
「グリード!
俺の意地、見せてやるぞっ!!」
遠いところへ声を届けるため、
魔素を含めた声で、グリードに叫ぶ。
「グリード、お土産だ!
次に会う時を楽しみにしておけ!」
魔素を含んだ声は、この海域を荒らす。
覚えてるだろうか、
この海域は地球の台風が笑えるほどの暴風雨であることを。
それを更に荒らしたのだ。
そう、これからやることに気づかれないようにするために。
スキル水操作!
スキル風操作!
俺はこの海域の風雨を操作し、
王国全土の空に水の膜を作っていく。
『報告:指輪の封印を解除します。
指輪に封印されていた神力を使い、
足りない力を補完します。』
予備の神力を使うことになるのか。
ユニコーンに叱られるか!?
だがウルティアを守るためだ。
理解してもらおう。
王国全土に水の膜ができあがる。
そして、そこに凹凸を作る。
水でできたレンズだ。
ここまできたら何が起こるか分かるだろう。
水で作ったレンズの焦点を一カ所に集めるのだ。
角度の演算をウィズが行い、
実際に角度を調整していく。
食らえっ!
『「光よ、集まれ!!
サンレーザー!!!!』」
本来、王国中を照らす太陽からの光が上空で屈折される。
王国中から、太陽の光が消えた。
ただ一カ所、いや一点を除いて。
そして、グリードが乗った船を中心に、
光の柱が舞い降りた。
周囲の海水は、一瞬で蒸発する。
辺りの雲は、その衝撃で吹き飛んだ。
その光の柱は、王国全土から見えただろう。
そして、魔素を含んだ風が、
王国中に吹き荒れるのだった。
人々は恐れる。
神の天罰があの地に起こったのではないかと。
◇◇◇
【ジャック】
何が起こった!?
坊主が何かしたのは、
なんとなく分かる。
水と風を操作したのだろう。
だが、これはなんだ!
光の柱!?!?
初めてみるぞ!?
光の収束が終わる。
光の柱があった場所に海の水がなくなっていた。
やばい!
波が来る!!
グリードの反撃に備えて精神を集中させていたジャックは、
波に対して攻撃を行い街を守るのだった。
◇◇◇
【グリード】
なんか、あの神殿に結界が張ってあるなぁ。
さっきまでなかったのに、
どんな人が結界を張ったんだろう。
あぁ、さっさと島を出て失敗したかなぁ。
どうぞ、快適におかえりくださいって感じで、
乗ってきた時の船が整備されているんだもん。
つい船に乗って出航しちゃったよ。
やっぱ、あの結界を見に戻ろうかなぁ。
あれ??
港にカイン君がいる???
「グリード、お土産だ!
次に会う時を楽しみにしておけ!」
凄い魔素の量が飛んできた。
お土産??
なんだろう。
???
マズい!
何か分からないけど、マズい気がする!!
「ディメンションワールド!」
思わず、僕のもつ最強の能力を使ってしまった。
平行世界に自分のコピーを残し、
いつでも復元や共闘できる能力だ。
別世界の僕と好きな時に好きな場所から攻撃できる能力。
そして、お互いに体を補完できる能力だ。
コピーを残し、本体のほとんどが吹き飛んだ。
影響が平行世界まで及ぶ。
しかし、光の柱は、そんなに長く続かなかった。
もう少し長かったら、死んでたかも…。
でも、もうこの攻撃を受けることはないだろう。
平行世界まで影響が出たってことは、
神力でも使ったのかな??
指輪から神力の力を感じたけど、
これほどの威力なら、使い切っているのは間違いない。
人に神力を集めることはできないし、
これが最後の一撃だろう。
船も合わせて復元するかぁ。
ここから泳いで帰りたくないしね。
あれ!?
少し髪が焦げてる!!
お土産は焦げってこと!?
もしかして、僕が結界を張ってる人を気にしてたから、
嫉妬したってこと??
恋い焦がれたの!?
僕に気があるに違いない!
そうだったんだね。
あーーー!!カイン君!!!
僕も好きだよ!
僕はもう君に夢中さ!
また殺し合おうね。
手を振ろう。
◇◇◇
【カイン】
ウィズ、やりすぎじゃね?
一矢報いるレベルじゃないだろう、これ。
『報告:髪の毛を一本、
焦がすことに成功しました。』
マジか…。
あれだけの力を使って、
ダメージそれだけ!?
『確認:グリードの能力、
ディメンションワールドを確認しました。
能力の解析と対策を準備しますか?』
ウィズ、頼む!
「…ン!
イン!!
カイン!!!」
ジャック がとんでもなく、まぬけな顔で声をかけてきた。
「なんだったんだ、あの光の柱は??
あれは、何が起こったんだ??」
俺は説明する。
「結界を張ってるのは、俺の妻です。
グリードの性格を考えると強力な結界を張った相手に興味をもつ可能性がありました。
妻に興味を持たれたら困るので、
奥の手を使ったのですが、
原理は、俺もよく分かりません。
一生に一度しか使えないので、
もう使えない能力ですよ。」
俺の説明に納得しないジャック。
でも、ジャックは頭の切り替えが早い。
納得はしていないものの、
追及は止めてくれたようだ。
でも、これだけ早く切り替えられた理由は分かっている。
グリードが、めちゃめちゃこっちに向かっては手を振っているからだ。
気になって仕方がない。
ハートでも飛び交ってそうだな…。
とりあえず心から思う。
早く消えてくれっ!
はぁ~、とにかく今日は疲れた。
とりあえず、ウルティアを神殿まで迎えに行こう。
◇◇◇
この日、多くの人々が東の空に光の柱を見た。
あの方向は流刑地の島がある方向だ。
人々は、考える。
あれは、人の手で引き起こせるようなものではない。
神の怒りなのだろう。
何に対しての怒りなのだろうか。
自分たちに、その怒りが振りかからないのを祈るばかりだった。
そして、神の一撃の結果なのかもしれない。
風雨が荒れ狂っていた島の海域は、
この日を境に一変し、
穏やかな海域へと変わったのだった。
次回、『14.臨時集会 』へつづく。