12. vs.クロノスナンバー9 ②
◇◇◇
【ミドリーズ】
「バカ者が!!」
???
何故か父上に怒られている。
「どうされたのですか?」
「断罪の刃 グリードに暗殺指令を出した件だ!」
断罪の刃?
聞いたことがある。
確か南方のアルハン地方で、罪人10000人以上の人間を大虐殺した者だ。
「彼が断罪の刃?
そんな風に見えませんでしたが…
彼は罪人でしたよね。
何故彼は処刑されず、我が陣営にいるのですか?」
「捕まえることができなかったのだよ。
あやつは、戦闘狂だ。
強い相手と闘わすことを条件に、
我が陣営に招いたのだ。」
不可解だ。
何故、自分に報告がなかったのだろう。
知っておくべき案件ではないだろうか。
ルッソニー宰相はミドリーズが何を考えているか、手に取るように分かった。
「教えたら、お前は間違いなく品定めに行くであろう。
他の者を下に見るお前は、間違いなく奴と会えば戦闘になったに違いない。」
一理ある。
1対1なら、誰にも負ける気がしない。
断罪の刃の虐殺っぷりは有名だ。
そんな相手なら、俺も闘って名声を得たいと思う。
「強者と闘わせる約束をしていたのだ。
もし相手が弱かったら、それだけで恨みをかい、我が陣営に襲いかかってくるぞ!」
それなら、好都合だ。
俺は英雄として名声を手に入れられる。
頭の中で勝った後の賛美を想像し、俺はほくそ笑むのだった。
「ジャックに指示を出せ!
間に合わないかも知れないが、あやつは元Sランクの冒険者だ。
暗殺相手に不満を感じでそうなら、
相手をするようにとな。」
そうして、命令書が発行されたのだった。
◇◇◇
【グリード】
500メートルは飛ばされたなぁ。
夢中になりすぎちゃった。
久々に、いい一撃をもらったよ。
それほどの威力の一撃を受けたのにダメージはまったくない。
グリードは、空を見上げるように寝転がった。
ふと思い出す。
前の世界。
平凡な人生だった。
人と争ったこともない。
争いなんて苦手だった。
そして、争うことを知らないまま、
この世界にきた。
こちらの世界での親は処刑場の処刑係だった。
早くから、親の仕事を手伝い
無抵抗の罪人を来る日も来る日も斬り続けた。
僕は斬るのが上手かったので、
斬る係はどんどん任された。
そして、いつの頃からか、
断罪の刃と呼ばれ始めることとなる。
最初は抵抗があったものの、
無抵抗の人間を斬り続ける日々。
斬る技術が上達した。
新しい斬り方を思いつくと試してみる。
また斬る技術が上達する。
技術が向上するのは楽しかった。
そして、斬る技術が上限に達すると
人生が退屈になった。
抵抗する人間を斬りたい。
斬りたい斬りたい斬りたい…。
そして、ある日、我慢ができなくなった。
まず親と斬り合った。
なんて甘美な時間なのだろうか。
今でも斬った感触が忘れられない。
親と斬り合った後、
戦場に来た。
兵士がたくさんいる。
一人を斬ったら、
斬る対象がどんどん来てくれた。
敵も味方も関係なく、
ひたすら目の前にいる兵士を斬った。
楽しい。
ときたま思いもよらない抵抗を受け、それがまた、より一層楽しめた。
もっと強い抵抗をする人間を斬りたい。
グリードは、戦闘狂となり、
世界を渡り歩くのだった。
そして、幾つもの因果か重なり、
今、カインと闘っている。
正直、まだまだ物足りないが、
彼は実にいい。
まだまだ、伸び代がある。
彼の成長のために、
もう少しだけ本気を出してみるか。
◇◇◇
【カイン】
助かったのか?
いや、ジャックは戦闘態勢を崩していない。
まだ助かったとは言えないようだ。
『報告:機能を回復しました。』
ウィズ、ようやくか!
とりあえず現状を報告してくれ!
何故、新たに能力が必要となる事態になっているんだ?
『解:ありとあらゆる能力を創造しましたが、闘いを知らない者が想像し、創造した能力です。
想像の全て上を行かれました。
対抗するために、今の能力を統合または併用し新たな能力を創りました。
演算処理能力を大幅に超えたため、
いったん休止しましたが現在は回復しております。』
俺は軽く混乱している。
ウィズ、俺の能力はチート揃いのはずだ!
何故こんな一方的な展開になる?
『解:能力は、こちらが上回っています。
本来であれば、圧倒的にこちらが有利です。
ここまで一方的になるということは、相手の力の使い方が上手く、こちらが下手なだけです。』
なんなんだ、それは!?
性能だけで全てが決まるわけではないのか?
「ジャックさん!」?
武装した大人が何十人もくる。
「お前らは、撤退だ!
すぐに引き返せ!
ここは、俺が引き受ける!」
下手をすると全滅の可能性がある。
ジャックはそう考え、撤退の指示を出した。
その指示は正しいのだろう。
だが、それを許さない相手だった。
相手が悪すぎた。
シュッ!
影が通りすぎた。
「うわっ!!」
何人か悲鳴をあげ倒れている。
「このやろう!」
ジャックはグリードに斬りかかった。
そして、逆に複数箇所、一瞬で斬られた。
致命傷は避けているようだが、
見た目はすでにボロボロとなっている。
ウィズ、さっきの自動オートで、攻撃を仕掛けるぞ!
『提案:相手の能力上昇を感知。
先ほどよりも強くなっています。
想像を超える能力に対処するため、
半自動オートを推奨します。』
まだ強くなるのか!?
演算領域を半分のこし、
未知の攻撃に対する処理に使用するということか。
ウィズ、それで頼む!!
『了:半自動オートにします。』
サンダー!
俺は雷を剣に宿す。
くらえっ!
「雷鳴斬り!!」
雷速の一撃を放つ。
知感させず斬ってやる!
「君は面白い発想をするね。
それに、この闘いの中でも、
成長してるなぁ。
嬉しいなぁ。
楽しいなぁ。」
グリードは、剣で刀を受け止めた。
俺の刀は、ボロボロだ。
それだけで今の一撃の威力が分かるだろう。
???
防いだのか、あれを!?
雷速の一撃なんだぞ!
何なんだよ、こいつは!
「アースインパクト!」
ジャックは、満身創痍ながらも攻撃した。
本来、剣で防いだとしても、
振動によってダメージを与えられる攻撃だ。
剣で防ぐ。
振動による攻撃がグリードを襲った。
が、効いてない。
震動すらも、別次元に受け流しているようだ。
少しだけ、体を揺らし、
グリードは、姿を消した。
いや、俺が見えなかっただけなのだろう。
「次元五月雨斬り」
あさっての方向から声が聞こえる。
あらゆる方向から刃が全員を襲う。
ジャックは、致命傷を避けたものの、
大ダメージを負った。
かろうじて、目だけはグリードを追い続けているものの、しばらく動けそうにない。
武装した大人たちの何人かが巻き込まれて、
絶命した。
運良く、何人かは攻撃の範囲外なので生き残っている。
そして、俺は全て紙一重で避けた。
奇跡に近いと思う。
それほどの攻撃だったのだ。
いや、もしかしたら、そうなるように仕向けられたのかもしれない。
避けた瞬間、ほんの一瞬だけ、
俺は安心したのだろう。
いつの間にか俺はグリードを見失い、
そして、気がついたら、
グリードは俺の肩に後ろから腕を掛けていた…
「君とヤルのは興奮したなぁ。
でも、またまだ僕を満足させるのには、
足りないかな。
次は、もっともっと興奮する死合いをしよう。」
ニコッと笑い、
グリードは俺から離れ、姿を消してしまった。
チート能力を手に入れ、
有頂天になっていた俺。
完全無敵になったと思い、
舞い上がってた俺。
そんな俺の初めての対人戦は、
完全敗北で幕を閉じたのだった…。
次回、『13.追撃戦 』へつづく。