119.受け継がれる想い
一人の少年が本のページをめくる。
5才にも満たない年齢だ。
「民主主義国家 初代首相カイン・レオンハルト。
え~っと、功績は…。
民主主義国家の基礎を築き上げ…。
フィーナ国を解放し…。
奴隷解放し…。
連合軍総司令官として…。
その功績は、農業や食文化など幅広く…。」
少年は夢中でその本を読む。
子供でも分かりやすい伝記である。子供が興奮するような仕様だった。
その本を読み切ると、少年は目を輝かせた。
「凄い!凄い!僕も、カイン・レオンハルトのようになりたい!父さんの書いた、この本の人は本当に凄いよ!」
少年は、部屋を駆け回る。
時折、棒切れを振り、剣を振る真似をする。
「いつか、僕もカイン・レオンハルトのようになるんだ!」
そんな中、下の階から声が聞こえた。
「カイ~、ご飯よ-。」
「はぁい!お母さん、すぐ行きまーす。」
風に揺られ、本のページが最後までめくられる。
そこには、作者のあとがきが記されていた。
『カインが去った後、世界に平穏が訪れた。英雄が去ったことに酷く落胆した人々は、喪に服した。人と人との争いは、ほんの一時だけでも無くなったのである。しかし、人は忘れる生き物であるということを思い知らされた。だからこそ、カインが平和を望んだ精神を引き継ぐため、運動が起きたのである。次代に平和を託すために。私も最後まで、闘おう。彼の心友である私がその役割を担おう。平和とは誰かに与えられるものではない。平和とはその時代に生きる人たちが努力し続けることで手に入れられるものである。私も、次の世代へ平和という名のバトンを渡す。それが、最後に心友の傍にいてやれなかった私の贖罪だ。』
インパルスは、カインの意志を受け継ぎ、民主主義国家ジャパンの第二代首相として、平和を目指す。
後世の歴史家は、インパルスが民主主義国家を運営していく姿を高く評価する。
しかし、歴史は皮肉を生む。
民主主義を愛したはずのインパルスは、自身の子が独裁者として君臨することになるのだ。
そして、新たな伝説と歴史が始まる。
…。
……。
………。
それは、虚無の中の出来事だった。
一人の女神がつぶやく。
「カイン。一人になんて、絶対にさせない…。私が…。」
その声は、虚無の空間へと溶けていく。
第一部、完。
次回、新章『第5章 新たな伝説の始まり』へつづく。