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ようこそ、異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語  作者: 蒼井 Luke
第4章 英雄の落日
112/120

112.港のように

「まさか、貴女が邪魔するとわね。アテナ!」

「そういうセレンこそ、私の邪魔をしないで欲しいな。」


セレンとアテナは対峙していた。セレンは、マリーナを倒した後、そのまま城へと向かっている途中にアテナから攻撃を受けたのだ。


「今の私は、貴女より圧倒的に強いわよ。」

「さっき、そういう相手と戦ってきたばかりなんだ。その程度で怯む道理はないよ。」

「貴女は、昔からいつもそう!大学にいた頃も、どこ吹く風で、どんな難題もクリアしていった。そういう貴女が大っ嫌いよ!」

「私は、もがき続けながら、答えにたどり着くセレンが大好きだったよ。」


アテナは大学時代を思い出す。

アテナは、いつも一人だった。完璧であるがゆえ、誰も近寄らなかったのだ。

アテナは、大学時代によく「ノートを貸して欲しい」と頼まれることが多々あった。

しかし、自分でやるべきものだと考え、誰にも貸さなかった。

そんな事を繰り返していたら、けち臭いと言われ、授業で誰も隣りに座ることもなくなった。

一人で過ごしていたのである。


そんなある日、隣りに座った女性が声をかけてきた。

アテナは、隣りに座られる時は必ずノートを見せて欲しいと言われていたため、またかとも思っていた。

案の定、声をかけてきた。


「お願い、教科書わすれたの!一緒に見させて!」

「あぁ、それなら構わないよ。」

「私の名前は、八枝夏凛!夏凛でかまわないわ。よろしくね。」


それから、夏凛はノートを借りたいと一言も言わなかった。

まぁ、期末テストの時に声をかけてくる可能性があったので、あまり信頼はしていなかった。


それから、他の授業でも時たま一緒になることがあった。

しかし、夏凛は自身の力で必死に頑張った。

記憶にある唯一、頑張れない分野は、恋愛方面だけだったように見える。


いつしか、夏凛とアテナは、大学時代で最も一緒に過ごす友達となる。

夏凛は、赤点ギリギリの科目もあった。しかし、頑張っていたのである。

誰にも怠惰などと呼ばれるような存在ではなかった。


こちらの世界へ来て、セレンとなった後、セレンはおかしくなり始めた。

いや、カインと出会ってからなのかもしれない。

セレンは、決して怠惰などではない。しかし、怠惰の魔王の後継者となった。

恋愛方面で怠惰の者など、たくさんいる。わざわざセレンが怠惰の魔王の後継者となるのは腑に落ちない。

もしかしたら、私がセレンのことを知らないだけなのかも知れない。

しかし、答えはすぐに分かった。


「私は知っている。アテナは、涼しい顔で努力をしていた!それに比べたら、私の努力なんて、何もしていないに等しい!私は、貴女が羨ましかった!」


セレンは、アテナへ攻撃する。セレンの攻撃は多彩だ。

能力『千差万別』によって、様々な攻撃へと変えることができる。

魔法をどんどん使っていく。


アテナは、先ほどのセレンの発言に衝撃を受けてしまい、躱すだけで精一杯だった。


「セレンが自身を怠惰と思わせてしてしまったのは、私自身だったのか!?」


その問いには答えてくれない。セレンは、必死に魔法を唱えた。


「火矢!水矢!風矢!」


アテナは、躱し続ける。二人は、空で戦っているため、セレンの多彩な魔法により気圧がおかしくなった。

そして、雨が降り始める。


「セレンは、バカだ。むしろ、私がセレンを羨ましいとさえ思うことが多々あったのだよ。」

「何を!」

「私は、友達がいなかった。こんな性格だから仕方ないだろう。でも、セレンは誰へだてなく友達になる。それは、とても素晴らしいことなんだよ。満里奈だって、その一人だろう?」


その時、満里奈が打ち込んだ楔が、よりセレンの精神に食い込んだ。

そして、パニックになる。


「うるさい!もういいわ!消えなさい!

『召喚!タイターン!』」


再び白い巨神がそこに現れた。そして、現れてすぐに攻撃を仕掛ける。

セレンに向かって。


セレンは慌てて防御するも間に合わず、その一撃を食らってしまった。

しかし、防御結界が機能し、即死は免れる。


「な、何を!?」

「その程度の精神力と神力で、我を操ろうなどと、不可能よ!我は我より強き者にしか従わん!」


セレンは、巨神に向かって、神力で言うことを聞かせようとする。しかし、神力が集まらなかった。


「どうして!?」


アテナは、セレンを鑑定する。そして、直感で気付いた。


「神力も、魔力も回復していない?減る一方じゃないか。」


セレンもアテナも知らない。『世界の理』が壊されたことにより、人の限界を突破するサポート力がなくなっていた。

人のポテンシャル以上の能力は使えない。だからこそ、今のセレンには、もう力が僅かしか残っていなかったのだ。


「滅せよ!」


巨神タイターンは、トドメの一撃をセレンに放とうとする。

しかし、アテナが立ち塞がった。


「うっ!」


アテナをもってしても、巨神の一撃は結界を破られてしまい受け止めきれるものではなかった。しかし、何とか直撃は避ける。

アテナもセレンも吹き飛び、地面に転がった。


「セ、セレン…。あれを元に戻せないのか?」

「ムリよ。もう終わりだわ。」

「まだだ、諦めるな!こんなとこで負けてしまっては、カインに会えないぞ!」

「カイン…。私はカインとどうしたいんだっけ…。」


セレンは意識を混濁してしまっている。

巨神タイターンは、再び二人へ一撃を放とうとした。

その一撃が二人に直撃する瞬間、時が止まる。


「まだよ!」


そこに先ほど敗れたばかりのマリーナが現れた。

白と黒の世界の中で、二人を救い出す。

しかし、セレンに致命傷を追わされたばかりの体である。

マリーナは、口から血を吐いてしまった。


「マリーナ!?大丈夫か?」

「かなり、限界ギリギリね。ったく、やっぱりほとっとけなくて、来ちゃったわよ。」


そんなマリーナを見て、セレンの顔は、涙ぐむ。

そして、セレンの中の楔がより一層ふるえ、セレンの中で砕け散った。

ソラトの紋章とともに。


「満里奈!満里奈!満里奈!よかった!本当によかった!生きててくれて、本当によかった!」

「こら、夏凛!離れなさい。恥ずかしいわ!」


セレンは、マリーナへ抱きつく。セレンは、まるで子供のように泣きじゃくっていた。

アテナは、そんなセレンを見て、思わず笑ってしまった。


「アテナも、ごめんなさい。本当にごめんなさい!」

「いいんだ、夏凛。もう、大丈夫のようだな。」

「えぇ。頭の中の霧が、一気に晴れたわ。私が間違えてた。本当にごめんなさい。」


セレンは二人に深々と頭を下げる。


「さて、このデカ物をどうするかしらね。時もあと少しで動き出すわ。何か妙案はある?」

「何とか神力を取り戻して、私が操るのは?」

「どうやって?」

「ウロボロスを呼ぶのはどうだ?」

「ウロボロスは、立て込み中で難しそうよ。私を助けた後、どこかへ行ってしまったわ。」

「後は、ソラトと戦わせて漁夫の利を狙うか、自ら帰ってもらうかね。」

「方法が問題だな。」


マリーナは、ほんの少しだけ目を瞑った。そして、二人に噓をついた。


「私の最強の一撃を放つわ。そのための魔力が足りないけど、二人の魔力を貸してもらえば何とか放てる。その方向でどうかしら?」

「自信ありそうだな。それならば、マリーナを信じて、その方向で行こう。」

「私も依存ないわ。」


そして、時が動き始める。

アテナとセレンは、残り僅かの魔力を後ろからマリーナへ渡す。

マリーナは、その魔力をもって、呪文を唱え始めた。


「我が名は、嫉妬の魔王アウレリウスなり。我が名に免じ、足りなき神力を我が命をもって放て!」

「なっ!?」

「えっ!?」

破滅カタストロフィ!」


巨神タイターンは、動きが止まる。その魔法は、かつて世界を崩壊せしめた一撃だった。

その魔法を知っているからこそ、動揺したものの、すぐにこの一撃に笑みすら浮かべそうになる。


「その魔法…。確かに発動はしているが、力不足も甚だしい!」


巨神タイターンに攻撃は当たっているものの、たいしてダメージを与えることはできていない。


マリーナは既に全力だった。だからこそ、焦る。これ以上の一撃はもう存在しないのだ。


「ダメなの?」

(諦めるの?)

「???」


マリーナは魔王アウレリウスと一体化している。しかし、人格のベースは常にマリーナだった。ここにきて魔王アウレリウスの意識が表面化してきたのだ。


(まったく…。ほんと、無茶するわね。この魔法には力が全然、足りないわ。貴女の魂だけでは足りない。仕方ないから、私の魂も使わせてあげる。)


マリーナは、声に出さなかった。ただ、心の中で思う。


(ありがとう。でも、なんで?)

(あなた、見ていてもどかしいのよ。だから、ただの気まぐれ。悠久の時を歩む者の、ただの気まぐれよ。じゃあ、行くわよ!)

(お願い!)


魔法の威力が一気に上がった。そして、本来の威力となる。


「バ、バカな!?」


巨神タイターンは、一気に光の渦に呑み込まれる。

そして、天まで光の柱が立ち、少しずつ体が消滅していく。


「ま、またもやクロノスに負けるのか…。くそーー!」


巨神タイターンは、消え去る。そして、マリーナは倒れてしまった。


「満里奈!」

「大丈夫か?何て無茶を。」


マリーナは、なんとか体を起こす。


「ジャパン国のグランさんとおなじことしちゃったかな…」


同じではない。グランは魂を力に変えた時、体が残った。

しかし、マリーナは光となっていく。足から少しずつ消え始めていた。


「ほんとはね、この後、海斗くんを助けたかったんだ。私は、対ソラトとの隠し球だったの。でも、海斗くんにもらった命。友達のために使うなら、悪くないわよね。」


マリーナから、魔王アウレリウスが顕在化する。


「お主は、よくやった。共に消えゆく者として、誇りに思うぞ。」

「最後の最後で話せたね。後継者ごと消えてしまうけど、いいの?」

「もちろん、ダメさ。だが、仕方ないさ。他の魔王は、後継者を残すのも悔しいし、後継者を作る制度を廃止してしまおう。そうだな。魔王を統べる魔王の名において命じる。後継者制度を、廃止せよ。今いる後継者は、魔女として扱うように。」 


その通達は、魔王たちへ自動的に流れた。つまり、魔王たちは、嫉妬の魔王アウレリウスが墜ちることを理解したのだ。


「夏凛、アテナ、後はよろしくね。海斗くん…、また会えたらいいな…。

海斗くんは海。

私は港。

海斗くんが船を出すなら、私が戻る場所になってあげたかったな…。」


そして、マリーナは光の粒子となって消える。

それはクロノスナンバーが始めて、墜ちたことを意味した。

クロノスナンバーたちにも、それが伝わる。


「そんな…。」

「バカが…。」


セレンもアテナも、力は残されていない。ただ、涙を流すことしかできなかった。

二人の戦いは終わり、あとは見守ることしかできない。


二人は大切な友達と、大切な人を失ってしまうことに後悔しながら、過ごしていくことになるのであった。


そして、マリーナを失ったことを理解したカインは、これから起こるであろう自分の運命に覚悟を決めるのだった。


(満里奈、ごめん。俺も、もうすぐ…。)



次回、『113.S級冒険者』へつづく。

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