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ようこそ、異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語  作者: 蒼井 Luke
第4章 英雄の落日
101/120

101.決戦前夜①

連合軍は、その数を膨張させていた。

大敗を期してしまったため、各国は挽回のために人数だけを集めさせたのだ。

軍人だけでなく、多くが民間人だった。

それは、人類史上、最も愚かな軍として記録される。


しかし、連合軍だけではない。

この時、ローマ帝国軍も同様の問題を抱えてしまった。

連合軍を見限った国が数だけ揃えるために、人を集めたのだ。


両軍は、連合軍が一方的に負けた後、戦うことができなかったため、ただひたすら、戦力増強を行い人が集まってしまったのだ。


戦えなかった理由は、ただ一つ。

教会の介入が原因だった。聖騎士エレナがこの戦いに参加していることがバレてしまい、協会が仲裁へと入ってきたのだ。

教会はオルヴィスの世界に住む人々にとって、心のよりどころの一つである。

その言葉は無下にはできなかった。


しかし、教会としては仲裁へ働きかけたという事実だけがあればよく、実際に互いの軍を行き来しただけで、仲裁活動は終わってしまう。

まさに無駄な時間だったのである。


ただし、聖騎士エレナだけは違った。

教会より、強制帰還の命令が下ったのである。

教会としては、天下分け目となる戦いに介入はしたくなかったのだ。

むしろ、教会としては、ローマ帝国軍が勝つと思っており、ローマ帝国軍にエレナがいたら見逃していたかもしれない。


エレナは反発した。教会としては、クロノスナンバーであるエレナを手放したくない。

しかし、このままでは協会が介入した軍が負けるというのも聞こえはよくない。

そのため、教会の他の聖騎士をローマ帝国軍へ派遣し、バランスを取る。

教会とは、俗世にまみれた一派であることの証明だった。


アテナもカインも内心、各国の対応に呆れつつも、互いの状況から許容するしかない。


アテナにとっては、連合軍から離反させるため、離反した国を厚遇した。その噂は連合軍に伝わり、離反が相次ぐ。

しかし、離反した国の兵数は少ない国が多かった。そのため、恰好をつけるために、平民を動員したのだ。アテナは腹立たしく思いつつも、家臣たちの説得もあり受け入れるしかない。

まだまだ離反者を出すために、必要なことなのである。


一方のカインは事情が異なる。

前回の敗戦で、総司令官はカインとなった。またもや別の者を総司令官にしようとしたのだが、各国の部下たちが声を大にして、カインにするよう申し入れがあり、受け入れざるをえなかった。


後世では、この頃から国王の発言権が弱くなり、民衆の声が強くなり始めたのだと評されるのだが、当の本人達は違ったことを考えていた。


それは、連合軍は敗北する可能性が高く、仮に敗戦したとしても責任を総司令官に取らせようとしたのだ。

残った国王は、現時点でローマ帝国軍に寝返れば少なくとも今は優遇されるものの、アテナの性格から戦後は冷遇されると考えたのだ。

むしろ、最後まで敵として戦った方が友好を結べると判断したのだ。


そして、カインはそんな各国の国王へ対して指示を出した。


「各国の首脳に告ぐ。私と共に前線へ出てもらう。」

「「「はっ!?」」」


各国の首脳にとって、戦争とは支持を出すものである。

それは、ボードゲームに似たような感覚だったのだろう。

総司令官の指示は逆らえない。かといって、今から離反しようものなら、後ろから討たれてしまう。


各国の首脳は慌てた。そして少しでも自身の防御網を厚くしようと、自国の平民を呼び寄せた。


総司令官といえど、各国の軍隊編成の内容までは口を出せない。

何より、民衆も望んで自国を守るために参戦してきたのがやっかいだった。


カインにとって、いや、民主主義にとって、自主を否定することはできない。

カインは、許容するしかなかった。


その様子を見て、ソラトは嬉しくてたまらない。

カインは、人類史上で初めて、人を殺した存在だ。

そして、その後悔から極度に人を殺すことを恐れた。

そのカインが、戦争という舞台で大量に人を殺すことになる。

笑いが止まらなかった。


ソラトにとって、カインとは、もっともっと苦しめたい存在だったのだ。

そして、ソラトの悪意がばらまかれる。

両軍に悪魔を忍ばせ、不安を煽ったのだ。


「この戦争に負ければ、大量虐殺が待っている。」

「もし負ければ、犬畜生まで身分を落とされる。」


こんな風に人々の心に不安を植え付けていった。

悪魔界で、大量に使役した悪魔たちは、カインやアテナにバレないよう、ひっそりと活動を続ける。


人々は不安と絶望に包まれ、半狂乱に近くなっていく。

こうして、両軍は統率が取れない状況へと向かっていった。

そして、互いが示し合わせたかのように、総力決戦する日が決まる。

その日こそ、天王山であり、第一次オルヴィス大戦の収束日となる。


その前夜、カインは動き回っていた。


「さぁ、明日が決戦だ!今日は、ジャパン国が料理を振るおう!

その名もジャパン国特製『カツ丼』だ!」


グランは、ギリギリ間に合った。

商品を受けとる時、グランは、げっそりしていたのは言うまでもない。

徹夜で頑張ったのだろう。それもそのはずだ。

カインが注文したカツ丼100万人前は、あまりにも無茶な注文であった。


「カイン…。どんなS級ランクの任務よりも辛かったぞ!」

「ほ、報酬に色をつけさせていただきます。」


食材を収納袋で受け渡し、グランはそのまま寝てしまった。

よっぽど、大変だったのだろう。当面、起きそうになかった。


そんなカツ丼を各国に配る。


「カツ丼かぁ。験担ぎにいいな!食べてみようぜっ!」

「おー。」


箸が浸透していないため、スプーンで食べる。

まずは、卵と玉ねぎをからめ、ご飯をとともに口へ運ぶ。


「はふっはふっ。熱い!けど、めちゃくちゃ旨いぞ!」


次はカツだ。

カツは一口で食べれないため、かぶりつく。肉汁がぶわっと出てきた。

その脂は甘く、そして溶けていく。

思わず、にやけてしまう。


その組み合わせは、飢えたお腹を存分に刺激を与え、次の一口へと猛スピードで食べさせる要因となった。


皆、あまりの美味しさに夢中で食べていく。そして、あまりの美味しさに涙が出た。


「皆、明日の戦いだが、必ず生き残ろうな!」

「あぁ、絶対に勝とう!」


こうして、連合軍の士気はあがったのだった。

カインが公言していたとおり、胃袋を掴み、心を掴んだのだ。

そして、この験担ぎは、この戦いの後も継続されていくこととなる。

カインは、その光景を見て、ほんの少しだけ満足したのだった。


カインは、そんな光景を横目に自身のテントへ戻る。

最後の戦略を練るつもりだったのだ。


夜も更けていく。

そんな最中、人影がカインの寝所に近づいていく。

誰にも見つからないように、気配を消し、カインのテントへと向かっているようだった。

その人影に、新たな人影が近づく。


「こんな深夜にどこへ行くんだい?」

「きゃっ!あっ、インパルス様ね。カイン様のところへ行くつもりよ。」

「そうか。エレナ、カイン様は忙しいんだから、あまり手を煩わせるなよ。」

「もちろんよ、わたっ…。」


インパルスからエレナへ剣の鞘による一撃が入る。

エレナは、それを軽く避けた。


「ひどいじゃない、何をするの?」

「俺は普段、エレナのことを学級委員長と呼ぶ。それに反応をしないなんて、エレナじゃないな。」

「あら?二人だけの秘密の呼び名があったのね。」

「いや、もちろん嘘だよ。」

「もちろん、私もだけどね。」


エレナは、剣を構えた。その動作は優雅な動作である。

そんな、エレナに対して、インパルスは懐から道具を出す。


「悪いが、ここは人が多いんでね。別の場所へ移させてもらう。」


インパルスは、転移の魔法が込められた魔石を使い、二人を荒野へと転移させた。

あたりには誰もいない。

思う存分、力を出せる場所であった。


「デートのお誘いにしては、味気なさすぎじゃなくて?」

「デートなんて言ったら、本物のエレナへ怒られるからな。」

「あら?私は本物よ。ただ、二重人格のようになっているだけよ。」

「色欲のエロエロボディさんは、とうとう二重人格を作り出したか。」

「あらっ、そんな風に私を見てくれていただなんて、光栄ね。」

「はぁ。俺にそんなことを言われているのに、全くいつものエレナが出てこないとはな。」

「当然よ。さて、あなたの相手をする時間が惜しいわ。さっさと倒されなさい。」

「俺を倒して、カインのところへ行く気だろ?させんよっ。」


インパルスは、再び一撃を放つ。『音速』の称号を持つに相応しい一撃だ。

しかし、エレナには通じない。


「その程度で私は止められないわよ。

いいわ。骨の髄まで恐怖を味合わせてあげる。」


エレナから魔王の気が放たれた。それだけでも、空気が震える。

しかし、エレナはそれだけでは終わらない。


「能力『宣誓と誓約』

私を光速へっ!」

「なっ!?」


それは音速を遥かに超える速度であった。

音速は0.3435Km/秒で進むとしたら、光速は29万9792.458Km/秒の速さである。

比較の対象になど、なるはずもない。


インパルスには、エレナの攻撃を見ることすら叶わなかった。

薄れゆく意識の中で、エレナを見て、意識を取り戻す。


エレナはボロボロだった。

人が光速で動くのだ。いくらクロノスナンバーといえども耐えられるはずがない。

全身から血を出している。服も破れ破れの状態で、あらわだった。

しかし、インパルスは、からかう余裕もない。

何故なら、エレナの姿を見たインパルスは、激怒したからだ。


「お前、エレナの体を何だと思っているんだ!」

「私の体よ。私の体をどう使おうと勝手でしょ。」

「ふざけるな!その体はエレナの体だ!」

「私はエレナ自身よ。それにしても、こだわるわね。もしかして、私のことが好きなの?」


インパルスは、言葉に詰まる。

好き?愛情とは違う。でも、友情とも違う。

嫌いじゃない。この感情を何と言っていいか、言葉が見つからない。


「あらっ、隙だらけね。」

「好き?」


エレナの光速の一撃がまたインパルスを襲う。


「あらっ、この体はしばらくダメね。少し休むとしましょうか。フェンリル、来なさい。」


エレナの体は、インパルス以上にボロボロだった。

そして、エレナはフェンリルとともに姿を消した。


「ま、待てっ。」


インパルスは倒れつつ何とか声を絞り出す。しかし、そのまま気を失い、荒野で倒れた。そして、あまりのダメージにしばらく起き上がることができなかったのだ。

インパルスは、ローマ帝国軍と連合軍の最後の戦いに参加することが叶わなくなった。



次回、『102.決戦前夜②』へつづく。

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