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ようこそ、異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語  作者: 蒼井 Luke
第4章 英雄の落日
100/120

100.神龍リュクレオン

【リュクレオン】


「ここを、出してくれっ!」

「死ぬと分かっている後継者を、むざむざ出すわけないでしょう。この戦いが終わるまでら大人しく静観していなさい。」


リュクレオンは、牢屋に閉じ込められていた。柵越しに父である龍王と会話する。リュクレオンには、その柵を壊すことはできなかった。


「柵を壊そうとしても、無駄ですよ。その柵は、私の力を注いでいます。

あなたが私を超えることができない限り、壊すことはできません。」

「父上、頼むから出してくれっ!儂はカインを助けたいんじゃ!」

「カイン…。神の福音を拒みし者か…。なおさら、行かせるわけには行きません。龍族は、あの者とは別の道を歩みます。」

「龍族が同じ道を歩まなくてもよい。儂はカインを助けたいだけなんじゃ。」

「あなたは、自身の立場を忘れたのですか?あなたは、龍王の後継者なのですよ。あなたが歩む道と龍族が歩む道は同じ道であるということを自覚なさい。」


龍王は頭を抱えていた。未来から来た者の発言がなければ、龍王はリュクレオンを送り出していただろう。

龍王は、リュクレオンを監視していた。だからこそ、全ての会話が筒抜けだったのだ。

そして、何よりもリュクレオンを出すことができない理由は、『リオン』という未来から来た少年の存在だった。

リオンは龍人だ。そのリオンが語った未来は、龍族の滅亡だった。

それとともにリオンが迫害された未来へ、龍族を歩ませるわけには行かなかったのだ。


「これより、龍族な人との交流を断ちます。人の世がどう変わるか見定めて、龍族は動くとしましょう。」

「父上、龍族の滅亡を防ぐために積極的に動くべきじゃ!そのために、儂が率先して、この戦いに挑ませてくれっ!」

「死ぬと分かっている子を戦地に送り出す親はいませんよ。」


リュクレオンは、唇を噛み締めたせいか、唇から血が出ていた。

唇だけではない。檻を壊そうと、何度も挑んだのだ。

爪や体から血が出ていた。


その状態のリュクレオンに龍王は、悲しく思いながらも、心を鬼にして檻に閉じ込めている。

そんな龍王に対して、客人が現れた。


「龍王さま、客人です。」

「どなたですか?」

「精霊王アリエルさまです。」

「また、随分、大物が突然の来訪ですね。リュクレオン、あなたはそこで頭を冷やしていなさい。」


リュクレオンは、一人、取り残される。

何度、檻を壊そうと挑戦しても壊せなかった。それは、龍王を超えることができないことの証明だった。

しかし、カインを救うためには、超えなくてはならない壁だった。


リュクレオンは、精神を集中する。

普段のリュクレオンは、精神がよく乱れた。それは、幼い頃からの生活に起因する。


リュクレオンは現龍王の後継者として生まれた。当然、大事に育てられる。

健康な食事、安全な環境…。つまり、温室育ちなのだ。

しかし、そのポテンシャルは、温室でなくても充分に生きていけるものだった。

もともと、龍族は誰もがそのポテンシャルを持っている。しかし、リュクレオンはどの龍族よりもポテンシャルが上だった。

炎龍イグニールが炎を吐く。炎龍なのだ。その炎はどの龍よりも上のはずである。

しかし、リュクレオンはその炎に負けない炎を吐くことができたり、努力せずとも強かったのである。

天才と呼ぶに相応しい存在だろう。

凡人にはできないこと。秀才ができることを軽く上回ってしまうことができることこそ、天才の証明だった。

そして、リュクレオンは増長していく。


リュクレオンは、龍王の城を飛び出した。

それは、何もかもが新鮮な日々であった。見たこともない土地、見たこともない空、見たこともない食事、見たこともない敵…。

リュクレオンは、日々を楽しんだ。


そんな折、カインと出会う。

リュクレオンにとってカインは不思議な存在だった。カインはその能力で何でもできる。

しかし、行く道は、リュクレオンからしてみれば何もできない人と共に歩み、自ら檻の中にいて足かせをつけるような道だった。


高見の見物でもしよう。

リュクレオンは、暇つぶしにカインと契約した。しかし、その契約は一心同体の契約と言いつつ、偽りの契約であった。

ただ、感覚が繋がるというだけの契約だ。

当然、いつでも契約破棄ができるリュクレオンにとって都合のいい契約であった。


最初はどうだか分からないが、確実にカインはそれに気づいていた。

当然だろう。いつでも自由に出たり入ったりできるのだ。

気づかないわけがない。

だが、カインは何も言わなかった。

そして、そんなカインと歩む道が楽しいと思えるようになっていたのだ。

まるで、カインは物語のヒーローだった。


しかし、残念な事にカインは人である。

数千年も生きる龍にとって、カインは一瞬のような時間しか生きることができない。

それだけが寂しかった。


だが、嬉しい誤算が起きる。

カインは神族となった。半神半人だが、神族と呼んで問題ないだろう。神族とは不滅である。長い時をカインと歩めることが嬉しかった。


しかし、未来から来た者は、そんなカインが死ぬと話す。

神とは不死である。あり得るはずがない。

だが、知っている。ゼリアンは神を殺せたことを。そして、そのゼリアンが使っていた『神威の剣』が行方不明となっていることを。


死なせない。

死なせたくない。

カインは、我が友は、絶対に死なせない!


リュクレオンの精神から、雑念が消えていく。

明鏡止水とも呼べる領域まで達した瞬間、リュクレオンの力は肥大した。


「龍の咆哮!」


檻へ全力の一撃が放たれる。

その瞬間、檻は音を立てて全壊した。


「おかしい…。」


リュクレオンの一撃は、全壊した檻へと当たったのである。

つまり、先に檻が全壊したのだ。本来であれば、檻は抵抗した後、全壊するはずだ。

その瞬間、おかしな気に気づく。

檻の中からは外の気配が分からなかったのだ。


「何故、魔王の気が充満しているのだ!?」


リュクレオンは、焦ってその気の中心へと向かっていった。

その中心は龍王の間から流れ出ていた。

嫌な予感しかしない。


龍王の間の扉を開ける。

その目に焼き付いたのは、精霊から繰り出された手刀で貫かれる父である龍王の姿であった。


「何者じゃ!」


リュクレオンは、その精霊を攻撃する。しかし、あっさり躱された。

いや、攻撃がすり抜けた。


「り、リュクレオンよ、逃げろ…。」

「今、助けます!」


手刀を収めた精霊は、リュクレオンに向き直る。

龍王は倒れ込み、気を失った。


「おや、あなたの気は感じなかったのですが、不思議ですね。

まぁ、いいでしょう。あなたもここで死になさい。」

「一体、何者じゃ!?」

「私の名前は、精霊王アリエル。そして…。」


精霊王アリエルの姿が変質した。その姿は、他の魔王と同じように妖艶となる。


「強欲の魔王アリエルですよ。」


圧倒的な魔力が放たれた。それは、ラクリアが可愛らしく見えてしまうほど、他の魔王とも圧倒的な力の差だった。


「なんという、魔力…。」

「おっと、いけない。」


魔王アリエルは、精霊王アリエルへ姿を戻す。


「龍王さまっ!」

「リュクレオンさま、何ということを!」

「なっ、者ども、この精霊が犯人だぞ!」

「精霊なぞ、おりません!リュクレオンさまが、ご乱心されたぞ!」


リュクレオンの周りに、どんどん衛兵が集まってくる。

衛兵の先には、精霊王アリエルがほくそ笑んでいた。

衛兵たちは、龍王をリュクレオンから守るように壁を作る。


「貴様っ!」

「リュクレオンさま、大人しくして下さい。」


龍王へ回復魔法をかけようにも、衛兵が邪魔をして対象が見れない。

龍王は致命傷だったため、急がなくては命が危険となる。


(マズい!このままでは、父上の命が危ない!)


リュクレオンは、追い詰められていた。

おそらく、長い生の間で、これほど追い詰められたのは初めてだろう。


衛兵がリュクレオンを取り押さえるため、捕縛魔法をかけていく。

リュクレオンは魔力で出来た紐でがんじがらめになってしまった。


ふと精霊王アリエルを見ると、極大魔法を唱えようとしていた。

衛兵たちは自らの魔法の魔力に隠れてしまったため、魔力が集まりだしていることにすら気づかない。

その一撃は、衛兵も巻き込み龍王をトドメをさす威力だった。


「撃たせてはマズい!」


しかし、束縛の力が思ったより強く、動けない。

魔王アリエルより、必殺の一撃は放たれた。

龍王の間は、光に包まれた。


その瞬間、リュクレオンの世界は、いや、視界は白と黒に変わった。

その時の中では、誰も動いていない。いや、ただ二人を除いてだ。


「やぁ、こうして面を向かって話すのは、初めてだね。僕の名前は、ウロボロス。君にお願いがあってきた。」


少年の恰好をしたウロボロスが、リュクレオンの前に現れた。


「時の魔神が何のようじゃ?」

「つれないね。君を助けたいんだよ。」

「取引きをしたいの間違いじゃろう。それで、要件は何だ?」

「確かにそうだね。」


ウロボロスは笑った。的を射ていたのだろう。


「取引きしよう。僕の力を君に貸す。だから、そこにいる魔王アリエルの意識を奪って欲しい。」

「魔王アリエルは操られているのか。操者は、ソラトか。」

「その通り。ほとんどの魔王が奪われてしまってね。正直やり返したいんだが、手持ちの駒がないんだ。」


それは、衝撃の事実だった。ソラトの側には魔王がいるということだ。

戦いに勝つには困難を極めるのが目に見えた。


「困難な道じゃの。だからといって、お主の力は借りん!」

「そのままじゃ、全員、死ぬよ?今のままの君じゃ、何も守れやしない。」


ブチッ。


その瞬間、ついにリュクレオンは本気の本気で切れた。


「どいつもこいつも…。

もう、許さん!許さんぞ!!」


リュクレオンは、天才である。

天才とは、凡人から理解に苦しむ存在である。

神になるために、リオンと色々と考えた。

強くなるために、明鏡止水の心になった。

今あるのは、純粋な怒りだけだ。明鏡止水が『静』なら、今は『動』の感情だった。

その心は乱れに乱れた。もはや、取り乱したといっても過言ではない。


リュクレオンは天才であるがゆえ、感覚で答えに辿り着いた。


「バカな!?力が膨れ上がっていくだと!?」

「うぉー!!!!」

「これは、神力?そんな!?ありえない!」

「吹き飛べ-!」


白と黒のコントラストの世界は、リュクレオンの気によって、崩壊した。

世界に色が戻る。


魔王アリエルの一撃が放たれた瞬間へと戻る。


「させんっ!」


リュクレオンは、魔王アリエルの一撃を消し飛ばした。

衛兵たちが驚く。


「なっ!?魔王だと!?」

「リュクレオン様は乱心されていたのではなかったのか!」

「も、申し訳ありません!」


衛兵たちは、その事実に取り乱した。突然、魔王が現れたように感じたのだ。しかし、リュクレオンの姿を見て、更に取り乱す。


リュクレオンは、黄龍である。しかし、今のリュクレオンは、黄龍ではない。

その姿は、『光龍』だった。


「よいっ。龍王を回復する。」


リュクレオンは右手を龍王へかざす。龍王は、一気に回復した。そして、目覚める。


「り、リュクレオンなのか!?リュクレオンから、神力を感じる!?」

「父上、話しは後です。まずは、この痴れ者を倒す。」


魔王アリエルは、狼狽えた。


「そんな!?あり得ない!

まさか、神龍となったの!?」


魔王アリエルは、一目散に逃げ出そうとする。


「させんよっ。」


リュクレオンは、逃さない。


「消えよっ。『龍の息吹』!」


リュクレオンの一撃は、魔王アリエルを瀕死の状態まで追い込んだ。


「わ、私が死ねば、精霊たちは暴走するわよ。見逃して、もらえないかしら?

…。

うっ、頭が…。

私としたことが取り乱したわ。あなたを殺します。」


魔王アリエルの瞳には、逆さ十字の紋章が現れた。


「愚かな。ソラトに操られた者の末路か。滅びるがよい。」


魔王アリエルは、リュクレオンから放たれたトドメの一撃を受ける。


「あれっ?私は何故、こんなところにいるのかしら?

あぁ、そうか。わたしは…。」


魔王アリエルは、光の粒子となって、消滅した。

リュクレオンは、それを見届け、そして龍王や衛兵へ向き直る。


「儂は、カインを助けるために、カインの元へ向かいます。父上は、龍族を守るため、結界を張り、しばらく隠れて下さい。」


龍王は、頭を垂れた。


「神龍の仰せのままに従いましょう。」


そして、龍王とリュクレオンは、改めて目を合わせた。

龍王は、何か言いたげだったが呑み込み、たった一言だけ口に出す。


「ご武運を。」

「行ってきます。」


神龍である『光龍リュクレオン』は、現世へと向かうのだった。


本来であれば、強欲の魔王アリエルが消失した瞬間、強欲の魔王の後継者であるウィズが強欲の魔王となるはずであった。それは、そのままウィズも操られてしまうことを意味していた。

しかし、ルミナの計略により、ウィズは未来へと時空転移させられてしまっている。

こうして、カインがウィズに裏切られる未来は回避された。



【ルシファー】


どれだけ、倒しただろうか。

眼前には、悪魔たちの群れが広がっていた。

ルシファーの後ろにはサタナキアがいる。

しかし、サタナキアも満身創痍だった。


「君たちは、まだ天使や人間寄りだね。」

「だから、何だ?」

「私は人間でなく、カイン様寄りなだけですよ。」


ルシファーとサタナキアは、問いに応える。

問いかけた相手は、ソラトだった。


「悪意に振り回されない君たちは、邪魔な存在なんだ。さぁ、そろそろ堕ちるがよい。」


ソラトから、悪意が放たれた。

そして、ルシファーとサタナキアは、意識が薄れていき、動けなくなる。


「さぁ、冥界への門は壊した。これで、クロノス神もハーディス神も出てくるのに時間がかかる。

さぁ、始めようか。悪意に満ちた戦いをね。

あーはっはっは!」


ソラトは高らかに笑うのだった。


(ミカエル…。)

(カイン様…。)


ルシファーとサタナキアは、薄れゆく意識の中で大切な人を思い浮かべつつも、完全に意識を失った。


そして、二人は深淵と出会うこととなる。



次回、『101.決戦前夜①』へつづく。

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