第8話 ご先祖様に顔向けできません。
「ここで一つ提案ブヒ」
自己紹介が終わり突然ブタがそんなこと言い始めた。
「現時点でお気に入りの相手にこのホネつき肉を向けるブヒ。目当てのコがいないなら横に向けるブヒ。いいブヒか?」
「第一印象ってわけですね。これほどわくわくしないイベントがあるでしょうか」
「選ばれたらある意味地獄だな。でもシャルドネさんはかなり食いつかれていましたし、選ばれるんじゃないですか?」
「あはは、ご冗談を。ご先祖様に顔向けできません」
目が笑っていない。本気で嫌なようだ。
「それじゃいくブヒ!」
コト。コト。コト。
オレ、3票。シャル、3票。
「ふざけんなゴルァアアアアア!!」
「ん? どうしたブヒ?」
「どういうことだシャル!? お前はともかくどうしてオレに3票も入るんだ!? クワガタとしか紹介されてないのに!」
「知りませんよ! ですがいい気味ですフヒィ!」
「お前も同票だろうがァアアアアアア!!」
「まぁまぁ。嬉しいのはわかるけど少し落ち着くブヒ」
ぶち殺すぞこのブタ野郎。
「あれ? ブタールは横向きブヒ?」
ブタが肉を横向きにするブタに話しかける。
「僕はまだ……決め兼ねているブヒ。僕、思うブヒ。こういう第一印象で選ばれなかったコがかわいそうブヒ……」
「なにいいブタ気取ろうとしているんだよあのブタは。選ばれたら罰ゲームだぞこっちは」
「ブタじゃなかったらかっこいいセリフなんですけどねー。まぁ、ここで選ばれたところで大した問題にはならない――」
「次の投票で一番得票が多かったコには僕らからキッスを送るブヒ」
「一票1000シリルでどうですかタケルさん?」
「いや、買わねぇよ」
「違います。1000シリル払うのでもらってください」
「死んでも嫌」
互いに火花を散らす。罰ゲームのそのまた先に罰ゲームが待っているなんて思わなかった。次の投票までになんとかこの票を移さなければ。となると、ターゲットは……
「やらせませんよ」
「ちっ、勘付いてやがったか」
オレと同票のシャル狙いということになる。一票でもシャルに入ればオレの勝ちだ。
「どうやら同じ考えのようですねタケルさん。しかしもっと平和的な解決法はないものでしょうか」
「そうは言ってもな……あ、じゃあこっちが投票した票で一番多かったブタはどうなるんだ?」
「みんなにキッスをプレゼントするブヒ」
「横暴だ!!」
あまりの理不尽さに涙が出る。どちらにしろ誰かが犠牲にならないといけないということだ。
「他の方々はどうなんでしょうか」
「案の定だよ。みんな肉を横に向け……っ!?」
ありえない光景が目に入ってきた。こちら側の一人……ババァが。ババァが肉を向けている! ブタ相手に! 肉を向けている! しかもその狙いは……ブタール!!
「なにやってんだババァ!? なんであいつに狙いをつけてんの!?」
「わし……男らしい人が好きなの……ポッ」
ポッ。じゃねぇよ。相手は人じゃなくブタだぞ。ブタの怪物。なんで真面目に合コンに参加してるんだよ。
「あはは、まだまだお若いですねぇ」
「わしゃ生涯現役じゃ」
「見境ない!」
まぁいい。異常性愛者のババァはほっといてこちらはこちらの問題を解決しよう。問題はどうやってオレの票をシャルに動かすか、だ。きっとシャルも同じ思惑だろう。どうにかして頭のおかしいブタどもの心変わりを……
「お前どうしてシャルたんじゃないブヒ! シャルたんの方がかわいいブヒ!」
「お前の目は節穴ブヒ!? どう考えてもクワガたんの方がかわいいブヒ!」
「でもシャルたんはノーパンブヒ!」
「きっとクワガたんもノーパンブヒ!」
「シャルたんブヒ!」
「クワガたんブヒ!」
「おい。なんかオレにもノーパン疑惑がかけられているんだが」
「当然の報いです。ですが、これで票が動くことはなさそうですねぇ」
「コノヤロウ……」
奴らの意思は固い。どうやらそれぞれの持つこの票の変動は天地がひっくり返らないと無理なようだ。と、なると残された手は一つ。
((どうやってキザブタの票を相手に押し付けるかだ!!))
今一瞬シャルとレゾナンスした気がする。だがオレは譲らない。オレの貞操のためにも。
「じゃ、次はアピールタイムブヒ。我こそはと思う者は手を挙げるブヒ」
「はい!!」
シャルが勢いよく手を挙げる。
「おお、ノーパンのシャルたんはやる気まんまんブヒね。いいブヒいいブヒ!」
シャルめ、一体何を企んでいやがる。
「コホン、では僭越ながら……わたし個人、とは言っても特筆してアピールできることはございません……ですが! 隣にいるこの彼! 彼はわたしなんかよりもずっといいコです!!」
「っ!?」
こいつ、やりやがった!
「見た目は平凡な青年ですが、実は家事は完璧、気配りも良し、更に社交性もあるという結婚相手にするなら理想の相手なんです!! しかもノーパンです!!!」
「……(スッ)」
キザブタの肉がオレに向く。
「おいふざけんな! なんでオレの紹介してんだよ! おまけに嘘ばっかじゃねぇか!! ノーパン疑惑も加速してるし!!」
「そうです! 彼のこういう謙虚なところもポイント高いです! お買い得です!」
「人を商品みたいに言うな!!」
マズイ。このままではオレが最多得票に……!
「はいはい! 次オレ!」
「ちょ、まだわたしの番は終わってな――」
「こちらにいるこの彼女! 見た目も超絶美少女だし、スタイルもいい! オレなんかよりずっといいコですよ!!」
「な、なにを……!」
「知識も豊富で、料理も上手い! 性格も明るくてその上優しいし、すごくいいコなんです!!」
「ちょ、やめてください。なんか恥ずかしいです!」
「正に理想のお嫁さんなんです!!!」
「……(コトッ)」
キザブタの票がシャルに向く。
「ふぅ、やり切った……ん? どうしたシャル?」
「……もう。タケルさんはしんじゃえばいいです」
「ふはは! これも作戦だよ!」
「……しりません」
シャルは俯いたまま顔を上げようとしない。だけどプルプルして耳が真っ赤だ。相当怒っているらしい。
「タケル。ごちそうさま」
「は?」
オレはほっこり顔のチャボのそのセリフの意味がわからなかった。
「ふむふむ。これで現在の最多票はシャルたんブヒ。でもよく考えたら票の入らなかったコたちがかわいそうブヒ。そこで、ルールを変更するブヒ。一番票の多かったコ以外にキッスのプレゼントブヒ」
「こいつブスです!!!!!!!!」
「!?」
「顔もブスですが性格も超ブスです! ブスに人格がついて歩いているようなものです! ブスの代名詞、歩くブスとは彼女のことです!!!」
「……(コトッ)」
キザブタの票がオレに向く。
「ふぅ、これで罰ゲームは免れたか……」
「……」
「ん? どうしたシャ――」
「去ネ」
洞窟内にオレの悲鳴がこだました。




