第7話 穿いてないに決まってるだろ。
「ちゃうねん」
「え? なんですか? 話しかけないでくださいゴミ虫」
ダメだ。シャルドネさん完全に怒っていらっしゃる。
「よく考えてみろシャル。確かにブタどもがすんなりと受け入れるとは思わなかったけど、これで命拾いしたんだから結果オーライだろ。真面目に取り合わなくていいからここは隙を見て脱出するんだ」
「最善の手がこれですか……はぁ。でもそうですね。これでさっきよりかはいくらかマシな状況になったことは確かですし、一応感謝はします」
「ははは、素直じゃないなこいつぅ」
「ウイロウさん、そのナイフわたしに貸してくれませんか?」
まずい。こやつめ、フレンドリーファイアをしようとしてやがる。
「おいおい。勝手にそっちで盛り上がってんじゃないブヒ」
「お、おお。すまない」
今のこの状況。
テーブルを挟んでブタとお見合い状態である。こちらは人間7人に対しあちらはブタ7匹。なにこの地獄絵図。ちなみにこっちの構成はオレたちパーティを除くと、あとの三人は村人。幼女と若い女と老婆。対して向こうはブタ7匹。牧場物語である。
「ブヒヒ、まさか飛び入りで参加してくるとは思わなかったブヒ。だがそういうことなら大歓迎ブヒ! みんなで楽しくやるブヒー!!」
「ブヒイイイイイイイイ!!」
楽しんでいるのはブタどもだけである。こちらは完全にお通夜状態。さらわれてきた村人たちさえも恐怖というよりは戸惑いの表情が見える。まさか合コンのためにさらわれてきたとは思わなかったのだろう。うんオレでも思わない。
「てかなんで男のオレもこっちに座らされてるんだ? 普通男女で席別れるだろう?」
「オークは両刀が多いんです。なので性別など大した問題ではないと思っているのかもしれませんね」
「そこは一番気にしてほしかった」
「ではまず自己紹介から始めるブヒ」
「俺から行くブヒ!」
一番端のブタが勢いよく手を上げる。丸々太っておいしそうだ。
「うわー。なんか普通に始まっちゃいましたよ。どうするんですかタケルさん?」
「ここはあえて合コンに乗るフリをするんだ。例えば、そうだな。オレがそれぞれにニックネームをつける。それで親しみを持つことから始めるんだ」
「……不安しかありませんが」
「1番、ブタールだブヒ!」
「あいつはブタだ」
「2番、ブタペスト!」
「あいつもブタだ」
「3番、ブータン!」
「あいつこそブタだ」
「4番!」「5番!」「6番!」「7番!」
「ブタ」「ブタ」「ブタ」「ブタ」
「自己紹介は以上ブヒ!」
「……な?」
ドブシュッ。
「目がぁああああああ!!」
「なにが『……な?』ですか。刺しますよ」
「刺してる! もう刺してるぅ!!」
違うぞシャル。チョキは人の目に刺すために生まれたんじゃない……!
「全部同じじゃないですか。やる気あるんですか?」
「だってあいつらにブタ以外のニックネームが思い浮かばないんだもん。見た目同じだし」
「名前なんて覚えなくていいんですよ。こんなの始めっから真面目に参加する気ありませんから」
「じゃ、次はそちらの番ブヒ」
ブタどもに促される。
「……え?」
「まぁ合コンだったらそうなるわな。ほら、お前からだぞシャル」
「ちょ、わたしはそんな気なんて……」
「早くするブヒ」
「……はい」
ブタに一喝されてしょげ返ってしまう。ここは素直に演じていた方が得だろう。
「いいかシャル。穏便にいけよ? これはあくまで演技なんだから」
「わかってますよ。タケルさんとは違うというところを見せてあげます」
「キミ、名前は?」
「シャルドネです」
「シャルたんか」
「シャルドネです。たんは付かないです」
「うんうん。それでシャルたんはどんなパンツ穿いてるブヒ?」
「コロシテヤル」
「ストオオオオップ!!!!」
慌ててシャルの体を引き戻す。そしてすぐにその手に握ったフォークを取り上げる。
「シャルドネさん? 穏便にって言いましたよね? それなのにあなたは今このフォークで何をしようとしてたんですか?」
「すみません。ただでさえ不快な上にセクハラ発言までされたもんだから耐えきれませんでした」
「そこは深呼吸、な。あとはオレがやるからシャルは休んでおけ」
「……すみません」
「それで、シャルたんはどんなパンツを穿いてるブヒ?」
「しつこいぞブタ。シャルがどんなパンツ穿いてるってそりゃあ――」
「タケルさん?」
「穿いてないに決まってるだろ」
「……」
ビシッと何かがひび割れる音が聞こえた。
「ダ、ダメでござるシャル殿! スプーンは人の目をくり抜くためにあるんじゃないでござる!」
後ろが騒がしいな。しかしオレのナイスアイディアでどうにかこの場は切り抜けられそうだ。
「……(な? 上手くいっただろ?)」
「……(ブチコロス)」
シャルにアイコンタクトをしたつもりが、返ってきたのは殺意だった。いくらブタとの合コンだからってそんなに怒らなくてもいいのに。
「ブッヒッヒ! シャルたんはノーパンブヒか。いいねいいね~。じゃあ次のコ行ってみるブヒ!」
「クソ虫さんの出番ですよ」
「おかしいな。こっちには人間しかいないはずだけど」
コホン、と一つ咳払いをする。横からシャルの視線を感じる。
「……(いいですか? 絶対に変なこと言っちゃダメですからね?)」
任せておけ、とウィンクをする。実はオレ、こういうことは得意だったりする。コツとしては初対面の相手でも気軽に打ち解けられるように適度な笑いで場を和ませなくては。あ、もちろん本名は隠してね。シャルは緊張しててその辺りのことは気が回らなかったみたいだけど。オレは違う。
「ぼくの名前はクッガータ・ケール☆ 好きな食べ物はトンカツ、得意料理はトンカツ、今一番食べたい物はトンカツだよ☆」
ボディに重い一撃が飛んできた。
「な、なにをする……!」
「今わかったんです。タケルさんにお口は必要ないって。できるものなら切り落としてやりたいです」
「そしたらどこからご飯食べればいいの!?」
『飢え死にしろ』。その時のシャルの目は確かにそう言っていた。
「えっと、クワガタ……クワガたんブヒね。了解ブヒ」
「待て。いつからオレは黒光りする昆虫になったんだ?」
「次の人の番なので座ってくださいクワガ……ゴミクソ虫たん」
「さっきよりひどくなってるよ!? ねぇ!?」
こうしてオレの叫びもむなしく、合コンは進んでいくのだった。