第6話 こうしてオレたちはブタと合コンをすることになった。
「……あ? なんだオマエら」
門番のブタはオレたちを見るなり警戒心をあらわにしてきた。
「お前らをボコりにきた。そんでさらわれた人たちを取り返しに来た。おとなしく返せばデコピンで許してやるよ」
「……本気でいってんのか? それともただの馬鹿なのか……まぁいいブヒ。こっちは今取り込み中ブヒ。要があるならまた出直すがいいブヒ。ったく、俺もやりたいってのにどうして門番なんか……ブヒィ!?」
脳天に一発。
「おお、容赦ない」
「ブタに話が通じるとは思わないからな。時間の無駄だ。ほら、よく言うだろ? 時は金な――」
「ならばさっさと行かないとですねー。置いていきますよー?」
「……コノヤロウ」
門番のブタを気絶させて洞窟へと侵入する。しかしここまで来ても他のブタの姿が見えない。こうも警備が手薄だと逆に不安になるぐらいだ。
「まさかこれは罠か?」
「考えすぎだと思いますけど」
「……ん? あんなところに金貨が……ぬぅ!? う、腕が抜けん!? これも罠なのかー!?」
「馬鹿にしか通じない罠です」
穴から手を出してフーフーする。このオレを罠にはめるとは、ブタのくせにやるじゃねぇか。
「しっ。奥から話し声が聞こえます。どうやら奴らみたいです」
「とうとうお出ましってわけか。ここは声を出さずに慎重に――」
「オ、オーク・ブタールです。趣味はキノコ集めと畑荒らしで……」
「ブタが合コンしてんじゃねぇよ!!!」
目の前のありえない光景に思わず突っ込んでしまう。
「ちょ、ちょっとタケルさん! 静かにって言ったでしょ!」
「だってありえないだろ!? なんでブタが5対5の合コンしてんだよ! しかも趣味が畑荒らしって! 初めて聞いたよ畑荒らし! もうそれじゃただのイノシシだよイ・ノ・シ・シ!」
「ですから静かにって――」
「おい」
ドスの聞いた低音ボイスが聞こえてくる。
「なんだてめぇら? こんなところでなにやってやがるブヒ?」
目の前には巨大な、ブタ。
「マ……マズイですよタケルさん……見つかっちゃいました……」
「大丈夫だシャル」
「……え?」
「オレに任せておけ」
まだだ、まだ終わりじゃない。こういう状況でこそオレの真価は発揮される。この絶望的な状況をひっくり返す最善の手がオレには……ある! さあ、オレの英知の結晶よ! 今この場で放たれるのだ!
「に、にゃ~ん」
「くせものだー!!!!!!」
「うぉおおおおおおおお!!!!」
ブタどもが一斉に立ちあがる。
「なにがオレに任せておけですか! 状況は悪化しているじゃないですか!!」
「ば、ばかな! オレの世界では万国共通の手だぞ!? それが通じないなんて! あ、そっか! ここは異世界だもんねっ!!」
「そういう問題じゃないです!!」
あれよあれよという間にブタたちに囲まれる。かごめかごめみたいだ。
「てめぇら見たことねぇ顔ブヒ。一体なんの用があってここに来たブヒ?」
「え、えーと、わたしたち各地を旅してる行商人でして、道に迷っていたらこんなところに――」
「道に迷ってこんな山奥まで来るブヒか?」
「え、えぇとぉ……」
「よし、お前は黙っておけシャル。状況が悪くなる」
「どの口が言いますか」
「ここはオレに任せておけ。最良の手がある」
「さっきもそう言って失敗しましたよね? デジャヴですか?」
「今度こそ本当に大丈夫だ。オレを信じろ」
濁りのないまっすぐな目でシャルを見つめる。シャルもオレの気持ちを受け取ったのか、
「タケルさんを信じるぐらいなら道端に落ちてる靴下を信じます」
ダメだ。全然受け取ってない。
「本当に本当だって。これで失敗したら今度からオレのことゴキブリって呼んでいいからさ」
「あなたに対する信頼度はもはや地面スレスレですがゴブリンさん」
「あれ!? オレの評価すでに人間より格落ちしてんの!?」
衝撃の事実である。
「……はぁ、本当にいい手なんでしょうね?」
「ああ。オレなりに状況を整理した結果、最善だと言われる手を考えた。間違いはない」
「そう言い切ってしまうことが逆に怪しいんですが……」
「お前はもっと人を信用した方がいいぞ」
「なんでしょう。今無性に誰かを殴りたい気分です」
「てめぇら。さっきから何をこそこそと話しているブヒ?」
「い、いえ! なんでもないです! あはは……」
愛想笑いを浮かべた後、くるっと回って険しい表情をオレに向けてくるシャル。
「……いいでしょう。今回だけタケルさんを信用します。その代わりちゃんとしてくださいね?」
「ふ、この後オレに泣いて土下座するお前の姿まで視えたぜ」
「あとで覚えてろよ無一文」
こうしてパーティーの命運はオレが握ることになった。
「それで、なにか弁解はあるブヒ?」
「なーに大将。簡単な話だ。オレたちは――」
「第7回合同コンパをここに始めまーす!!」
「ブヒイイイイイイ!!!」
こうしてオレたちはブタと合コンをすることになった。




