第5話 あ、それはスライムです。
「ようこそおいでださいますた」
耳の尖った口調の拙い長老に出迎えられた。
「なぁシャル。あれ、いくらぐらいするかな?」
「さすがタケルさんお目が高い。そうですねー大体3000シリルぐらいですか」
「成功報酬と同じ値段か、なるほど……」
「お、お二人とも大丈夫でふか?」
「あーだいじょぶだいじょぶ」
「なんでもありませんよー」
そう言いながらオレたちの視線は長老の持つ宝石付きの杖に釘づけだった。
「リルリラ、本当にこの方々が……?」
「はい! とーっても強いんですよ! きっとオークたちをやっつけてくれます!」
「大丈夫ですよぉ。きっちり報酬分は働きますから。ね、タケルさん」
「長老。その重そうな杖よりもっと良い物があるんだが。これはそこで拾った木の棒なんだけど」
「わぁ、聞いてない」
シャルに背中を叩かれようやく気付く。
「お、おお。任せておけ。小汚いブタどもなんかオレがまぶして揚げておいしいトンカツにしてやるよ」
「あはは、グローい」
「オレ、料理は得意だぜ?」
「そういうこと言ってるんじゃねーです」
「……で、そのオークとやらはどこにいるんだ?」
「この村から少し登った山奥の洞窟でふ。ここ数日でもう何人もの女や子どもたちが連れ去られてしまいまふた。嘆かわしいことでふ」
「シャル。入れ歯とか持ってない? 長老の歯の隙間がヒューヒューいってて話に集中できないんだ」
「黙って聞きましょう」
「わひらもできるだけのことはしまふた。しかし力で劣る分どうひようもないのでふ。このヒューまではヒューこのむヒューヒューヒュー!」
「待て待て待ておじいちゃん、落ち着いて。興奮し過ぎてもはや穴あきの風船みたいになってるよ。オレの腹筋が壊れる前にちゃんと落ち着いて話してくれ」
「それならこのリルリラにお任せください! まぁ、要約するとこうですね。か弱い私たちに脳筋馬鹿に抗う術はありません。脳筋馬鹿には脳筋馬鹿に相手してもらう方が効率がいい、ってことです!」
「……悪意は無いんだろうな」
「子どもは純粋ですからねぇ」
エルフっ子の黒い一面を見たところで、オレは自分が何をすべきか理解できた。要はあいつらの住処に行ってボコすとともにさらわれた奴らを救出すればいいってことだろ? なにも難しいことはない。
「すぐに出発しますか? タケルさん」
「そうだな。ここにいてもしょうがないし、さっさと済ませてしまおうか」
「しゅこし待たれよ。せっかく来たのだ。ひょくじの一つでも食べてはいかがでふか? リルリラ!」
「はい! どうぞ勇者様!」
出てきたのはシチューのようなドロリとした食べ物だった。匂いはまぁ、おいしそうかな?
「据え膳食わぬはなんとやら、ですよ」
「……そのことわざこちらでも使えるのね。じゃあ一口だけ……ん」
匙を取って一口だけ口に運んでみる。
「どうですか勇者様! おいしいですか?」
「思ったより全然いけるな……この肉ってなんの肉だ?」
「あ、それはスライムです」
「ぶふぉう」
口から盛大に吹き出した。マーライオンみたいに。
「スライム!? スライムを食べさせられてんのオレ!?」
「はい! おいしいでしょう? スライムの肉は歯ごたえがあってとってもおいしいんです! 中には毒があるところもありますが、確率は5分の1ですし!」
「くっ……これじゃ肉というよりはロシアンゼリーじゃねぇか……ウイロウ、チャボ。後は食っていいぞ」
「残飯処理でござるか……」
「これも契約……うっ!? ぐふぉう」
「チャ、チャボ殿ぉおおおおおおお!!」
「タケルさん、仲間が一人減りましたが」
「あとでポーションでも飲ませておけ」
「50シリルです」
「寝とけばそのうち起きる」
腹ごしらえならぬ腹下しが済んだところで、ようやくオレたちは出発することに。
「よし。いくかオーク退治。ウイロウもチャボも準備はいいか?」
「大丈夫でござる」
「お星さまが見える」
「チャボ殿がヤバイでござる」
「混乱を治すスターハーブならありますよ。30シリルです」
「よし。何も問題ないな。いくぞ」
「え、ちょっ」
「しゅっぱつしんこーです!」
「シャル殿まで!? チャボ殿はどうすれば!?」
「あはは~死んだおばあちゃんが見える~」
「チャボ殿ぉおおおお! 戻ってこおぉおおおおい!!」
ウイロウの声は遠くまでよく響いた。
【今回の収支】
・ポーション(取り消し) 0シリル
・スターハーブ(取り消し) 0シリル
・ウイロウの心労 priceless
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合計 0シリル
目標マデあと 3,998,300シリル