第40話 ……シャル、お前今悪いこと考えてるだろ?
次の日。
大型契約の成立ということで、オレたちは一度モラリスへ戻ることに。ドリアードに話を通しておかないとな。そして到着するやいなや、ドリアードが誰かと話をしているのを発見した。オレたち同様、精霊の指輪を付けている男だ。
「あいつは……」
見覚えがある。記憶を必死にたどってみると、そいつの顔はほんの少し昔の記憶にあった。世紀の大悪党三角定規の取り巻きの一人だ。オレを馬車で引こうとしてたからしっかりと覚えている。でも、そんなやつがどうしてここに? そう疑問に思っていると、男はやがてドリアードとの話が終わったのか、その場を足早に立ち去っていった。
「そんなところでなにをしておるんじゃ。話は終わったから出てこい」
「バレてたのね」
あきれ顔のドリアードが迎えた。
「なんじゃ? 仕事が嫌になって逃げだしてきたのか?」
「ちげーよ。お前に報告することがあるんだ。な、シャル?」
「はい! 5000万の大型契約が成立しました!」
「ほほう、それは中々……」
……あれ?
「な、なんだよ。もっと喜ぶと思ったのに」
「そうじゃな。だが、先ほどもっと大きな契約が成立したからな。素直に喜ぶに喜べんのじゃ。ま、よくやったということだけは言っておいてやろう」
「……偉そうに。ま、いいさ。契約が成立したんだ、報酬とやらをいただこうか? 村で契約成立したものもあるから500万ちょっとか――」
「たわけが」
つるのムチでチョップされる。地味に痛い。
「うげっ!? な、なにしやがる!」
「あくまで契約が成立したという話だろう? 返済が完了するまでが仕事じゃ。当然、それまで報酬は出せん」
「んな!?」
「まぁ、そうですよね」
驚くオレと、頷くシャル。こうも反応が違うものか。
「投資後はしっかり取り立てんと、そのまま持ち逃げされる可能性もあるからの。しっかりやるんじゃぞ」
「くっ……わかったよ。ま、まぁそれはそれとして。さっきのやつ、何しにここに来たんだ?」
「同じく資金の投資話じゃよ。お得意様でな、よくここに来るんじゃ。それがどうした?」
「お得意様って……なあ、もう少しあいつのことを詳しく教えてくれないか?」
「客の個人情報を教えろってことか? そんなことできるはずがなかろう? そんなバカなこと言ってる暇があるなら、少し倉庫の整理でも手伝ってくれ。今日は泊めてやるからその代価じゃ」
「ちょ、そんなことしてる場合じゃなくて――」
「特に。倉庫の台帳な。あれの記入を忘れるなよ。あそこには客の重要な秘密が記載されているからな」
「――!」
「じゃな。童は少し寝る」
ドリアードは眠そうにあくびをして下がっていった。
「ラムジン・レヴンレイギス……5000万、と」
台帳の記載が終わり息を吐く。改めて文字にするとデカイ額だというのがわかる。
「どれどれ、見せてください」
「あ、ちょっ……」
シャルが顔を割り込ませてくる。シャルの小さな頭がオレの顔にぐりぐりと押し付けられる。わざとやってんじゃないかというほど強い。
「ほほーう。どうやらこの台帳にはこれまで取引をしてきた人たちの記録がされているようですね。あははー、こんな人たちまで取引してたんですね。おかしいと思ったんですよーちょうどこの時期あちらさんのお金周りがよかったですからねー」
「……勝手に盛り上がらないでくれるか? オレが見たいのは――」
「はいはい、わかってますよ。これでしょ?」
シャルがある一点を指差す。そこにあったのはサラミ・マッパーダカの名。そう、あの三角定規の名だ。
「あいつやっぱり……!」
「ふむふむ。これは面白いことになってきましたよタケルさん。この人、ここで取引したのは一回じゃないようです。その使用履歴を見ても……ほほう。軍事費に賄賂、隠し財産ですか。これはこれは世紀の大スクープですねぇ」
「あのヤロウ……ここで借りた金で悪さしてたってことか。だがこれだけの証拠があるんだ……これを騎士団の連中に見せればきっと!」
「なーにさらっと情報流出しようとしてるんですか」
「……ダメか」
「当たり前です。どんな畜生だろうと顧客には変わりありませんから。ただ――」
「ただ?」
「意図せずに情報が流出してしまったのなら、どうしようもありませんよねェ?」
「……シャル、お前今悪いこと考えてるだろ?」
「さぁ、なんのことでしょうね~?」




