第30話 喧嘩なら売りますよ。1000シリルです
植物の中から現れた幼女は、くあ~っと大きな欠伸をして眠そうに目を擦った。食べられている……わけではないよな?
「それで……何者なんじゃ貴様らは。童に何か用か? 言っておくが、童はまだ眠いのじゃ。要件なら手短に……ぐぅ」
「寝たー!?」
「ふぉう、すまぬすまぬ。ついうとうととしてしまってな。ええと、甲斐性ナシと性悪娘と言ったか?」
「まだ自己紹介はしていない……!」
初対面で中々のレッテルを貼られてしまった。中々に図太い幼女だ。
「む、そうか。ならば名乗られよ。そうでなければ貴様らをなんと呼んでいいのかわからぬぞ。石と草でよいか?」
「よいわけないだろう。オレはタケル。で、こっちはゼニ・ゲバ子――」
「なんですって?」
「痛い痛い痛い痛い。冗談ですジョークですお茶目です! こっちはシャル、シャルドネねぇさんだッ!」
「タケルと……えぇい、メンドクサイのぅ……やはり石と草でよい。うむ、そうしよう」
「自己紹介させた意味は……?」
とんだ気まぐれ幼女である。次はこっちが質問する番だ。
「それで、キミの方こそ誰なんだ。どうしてキミみたいなちっちゃい女の子がこんな辺境にいるんだ。しかも植物に食われて」
「タケルさん。おそらくアレは食べられているのではなく、宿しているからで――」
「わかってる。言葉の綾だよ。で、どうして宿っているんだ?」
「なんじゃ質問の多いやつじゃのう……こっちだってまだ名しか聞いておらぬのに。不公平じゃ。そっちが一つ答えたのだからこっちも一つ答えてやる。そうじゃなぁ……」
しばらく考えるそぶりを見せる草食系、いや、草喰系幼女。やがてぽん、と一つ手を叩いた。
「童の好きな食べ物じゃ」
「そんなどうでもいい情報いらねぇ!!」
「スライムじゃ。はい終了」
「ちくしょおおおおお!!」
大事な質問の機会を失ってしまった。色々と聞きたいことがあったのに。
「あ、そういえば。わたしスライム肉持ってますよ。はいどうぞ」
「む、まことか」
シャルからスライム肉を受け取った幼女はもきゅもきゅと咀嚼する。スライムと分かっていながら食えるなんておかしい。てか植物が肉食ってんじゃねぇよ。シャルもそんなもん持ち歩いているんじゃねぇよ。
「うぷ。うまかった。礼を言うぞ、草」
「あはは、できれば別の呼び方で呼んでもらいたいのですが?」
「ほれ、駄賃じゃ」
そう言って金貨袋を取り出す。
「ええ草です! わたくしめは草でいいです! どうぞ草と呼んでください!」
プライドもクソもない。
「さっきのもそうだ。どうしてキミみたいな少女がこんな大金を持っているんだ?」
よくよく考えればおかしなことだらけだ。ひと気のない沼地、どこからともなく現れた幼女、そして金貨袋。警戒せざるをえない状況だ。
「なに、大したことではない。ただ、金回りがいいだけじゃ。ところで貴様らは……いや、もはや言う必要もない。国に追われて来たんじゃろ?」
「っ! なんでそのことを……!」
「ここに来る者は大体そうじゃ。行き場を失いたどり着いた地……この先のモラリスにはそんな連中がゴマンといるぞ」
「だが、モラリスには人は住んでいるのか?」
「いないこともないが……その多くは人ではないからな」
「え?」
「自己紹介が遅れたな。童は木の大精霊ドリアード。この平原を収める主であり、モラリスの住人じゃ。以後よろしく頼む」
そう言ってドリアードはペコリと頭を下げた。
「……おい。この幼女今なんて言った? 大精霊? ドリアード??」
「まぁ、そうだとは思いましたが」
「気づいてたのかよシャル。いつからだ?」
「そんな、気づいたのはほんの最初からですよー」
ケタケタと笑うシャル。喰われてしまえばいいのに。
「大精霊ドリアード。失礼を承知でお願いします。わたしたちをモラリスへ連れて行ってくれませんか?」
「おお、もちろんいいぞ……と、言いたいところだが。貴様らは本当にモラリスにとって害はないか確かめさせていただく必要がある。モラリスには童が認めた者しか入れないのじゃ」
「タケルさん、ドンマイです」
「なぜ励まされたんだ?」
「タケルさんの不細工具合はどこへ行っても害でしかないです。だから……ドンマイ!」
「ぶんなぐるぞ」
「ほれ、じっとしておれ。今から触診を始める」
「触……診……?」
ドリアードから伸びたツタがオレとシャルの両方に絡みつく。そのままツタはうねうねと動きオレたちの体をまさぐり始める。
「ちょ……これ結構くすぐった……い!」
そうしている間もツタは二本、三本と増えていく。やばい、変な声でそうになる。
「……あん!」
今のはオレじゃない。
「だ……だめです……そんなとこ……! だめですってばぁ……!」
ツタに絡まれ身をよじるシャルドネさん。ツタはシャルの胸や腰、首まで伸びている。
「ふむふむ。草、貴様なかなかよい体をしておるな。どれ、もう少し触らせよ」
二次性徴が終わってしまったのか、永遠の幼児体型ドリアードは恨めしそうにシャルの触診を続ける。エロイ。すごくエロイ。すでにオレの触診は終わっている。しかしこういう趣味は無かったオレでも思わず反応しそうになる。いやどこかとかじゃなくて。
「ちょ、タケルさん見ないでください……! 怒りま……あぅ!」
「HAHAHA。随分余裕がないようですねシャルドネさん。大丈夫、オレがしっかり見守ってやるから安心しな」
「このキチ……くぅ!」
やがてシャルも解放される。息も絶え絶えだ。
「はぁ……はぁ……はぁ……!」
「シャルドネおねぇちゃん、だいじょぶ?」
「……タケルさん。200万シリルです」
「そんなたけぇの!?」
見物料というやつだろうか。しかし当然そんな金は持ち合わせていない。
「スンマセン。お金無いっす」
「…………」
ペコン。
ヘナヘナパンチを足に受ける。
「……だったらこれで許してあげます」
本気で殴る元気もないけど、このやるせない気持ちを精一杯形にしたシャルだった。
「うむ、貴様ら二人とも問題は無いようじゃな。入国を許可しよう」
「やったね」
「しかし貴様ら、他の者とは違うナニカを感じたの……一体何者じゃ?」
異世界人です。なんて当然言えず。咄嗟に出た言葉は――
「私は神だ」
全知全能発言である。
「ほう、神か。一体何を司る神なのじゃ?」
「貧乏神です。この世のありとあらゆる貧乏を司る無一文神です。ね、タケルさん」
「それでこっちは強欲神です。この世のありとあらゆる欲望を司る性悪女神です。な、シャル」
「喧嘩なら売りますよ。1000シリルです」
「買うんじゃなくて売るのかよ。いいだろう、買ってやるよ」
「はっはっは。面白い奴らじゃのう」
軽快に笑うドリアード。どうやら神発言は信じてなさそうだ。
「うむ、貴様ら……いや、お主らとはもっと話がしてみたくなった。モラリスへ案内しよう。そこでスライム茶でも飲みながら話そうではないか」
「いや、スライム茶は結構です」
「ではゴブリンティーじゃ」
「ゲテモノティーしかないんですかそこは」
もれなく腹を壊しそうである。
「じゃ、童が不在の間留守を頼むぞ」
と、ドリアードは沼に向かって声をかける。すると、沼の中からずぶずぶと巨大な植物モンスターが顔を出した。ドリアードいわく、我が眷属らしい。
「名前はペコじゃ」
随分かわいらしい名前である。したなめずりする様はその名前に相応しいかもしれない。
そんなペコを残してオレたちはドリアードの後をついていくことに。
「モラリスに着く前に。モラリスがどんなところか少し説明をしてやろう」
ドリアードはそんなことを言い出した。
「お主らは、モラリスがなんと呼ばれているか知っておるか?」
「未開の地?」
「王のいない国?」
「それはあくまで建前じゃ。モラリスの本当の別名は――」
ドリアードは振り返って指を一本立てた。
「世界銀行、じゃ」




