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第3話 何事も小さなことからコツコツとですよ。

 そこはギルドとは名ばかりの酒場のようなところだった。というか酒場だった。乱雑に並べられた机の前で昼間っから酒をかっ喰らい、そうかと思えば向こうの方では喧嘩をしている。とんでもないところに来てしまったものだ。

「冒険者ギルド『太陽のしっぽ亭』です」

「居酒屋しっぽの方がいいんじゃないか?」

「ここはお酒を売っているだけじゃないんですよ。ほら、これ」

 そう言ってシャルは大きな掲示板の前に立った。たくさんの羊皮紙が張り付けられている。

「どれどれ、ええと……『ペットをさがしています』『労働力大募集』『筋肉に興味はありませんか』……なんだこれ?」

「仕事の斡旋ですよ。こうやって求人を出しているんです。クエストってやつですね。物にもよりますが、ひとつひとつ拘束される時間も少なく、簡単に賃金が手に入るのですぐにお金が欲しい人たちには人気なんです」

「ほほう。つまりシャルは俺にここで仕事を探せというのだな? あのぼろっちい本を買うための資金を稼ぐために」

「ご名答でございます。好きなクエストを自分で選べますし、どうです?」

「こっちの世界に来ても仕事、仕事か……まぁいいや。ふむふむ……いや、ダメだシャル。これはダメだ」

「なにがです? こんなにたくさんあるのに」

「5シリル、10シリル、12シリル……どれも安すぎる。こんなんじゃいつ本を買えるかわかんねぇよ」

「何事も小さなことからコツコツとですよ。まずは第一歩を踏み出さなきゃ」

「ううむ……」

 確かに今の俺は今日の晩飯にも苦労する身。お金がなけりゃ元の世界に帰るどころか、生きることさえできない。シャルの言うように仕事を受けるしかないのだ。

「あ、これなんかどうです? 『キノコ10個納品』そんなに難しくないですし、報酬も20シリルとそのテのクエストにしては破格ですよ」

「いいや、俺はこっちにするね。『ゴブリン盗賊団退治』報酬はなんと1000シリル!」

「あー、それはおすすめしませんね」

「なぜだ商人」

「単純に戦闘力の問題です。そもそもあなた戦えるんですか?」

「……ス○ブラなら」

「剣は扱えるかって聞いているんです。そうでなければ簡単にやられるだけですよ。とても達成などできませんって」

「それは……」

「おらぁ!」

 突然目の前をイスが横切る。なにやら男が大声で叫んでいるようだ。

「喧嘩みたいですね。巻き込まれたら面倒なんで目を合わせないようにしましょう」

「……あ? なに見てんだてめぇ」

「ああもう。言ってるそばから……」

 目が合ってしまったのだから仕方ない。

「好きです。付き合ってください」

「あ、ああんっ!? きゅ、急にそんなこと言われても困るっつーか、こういうことはちゃんと手順を踏んでから……」

「なにガチに受け取ってんだよ。お前ホモかよ。ホモくんかよ。冗談に決まってるだろキモチワルイ」

「てめぇえええええ! 乙女の純情を弄びやがってええええええ!!」

 ぶち切れられた。ツッコミどころは多々あるが、状況を悪くしてしまったことには変わりない。こっちはただお茶目しただけだというのに。

「マスター、ここの箒借りるぞ」

「あ、ああ。何に使うんだい?」

「自己防衛」

 男の拳が飛んでくる。それを箒でいなして横に流すと、虚を突かれて目を丸くする男のがら空きの胸に向かって突きを出す。男はぐえっとうめき声を上げてその場に倒れた。

「ふぅ……」

「わわわ、見かけによらず強いんですねタケルさん」

「じいちゃんが剣術の師範でな。小さいころから嫌でも稽古つけられたんだ。その経験がまさかこんなところで役に立つなんてな」

「それだけやれれば討伐系のクエストもできそうですね。それだったら――」

「あ、あの!」

 不意に話しかけられた。さっきそこで倒れている男に絡まれていた少年だ。

 耳が……尖って――る?

「うわぁ! と○がりコーン!」

「何言ってるんですかエルフですよ」

「さすが異世界……で、どうした坊や?」

「あの……ボク、女の子です……」

「え……マジで? そ、それはすまなかったなお嬢ちゃん。オレになんか用かい?」

「さ、さっきは助けてくれてどうもありがとうございました。ボク、上げられるものなにもないけど……お礼だけは言わせてくださいっ」

「いいよ礼なんて。絡んできたのはあっちだしな。一体何があったんだ?」

「ちょっとこちらが出してる報酬の件で揉め事になりまして……あの、そのことで一つお願いがあるんですけど……」

「お願い?」

「あなたの腕を見込んでお願いします! どうかボクたちの村を救ってください!」

 エルフの少女はケータイのパカパカのように大きく腰を折って頭を下げた。

「エルフの村ってことはエド村ですよね。そこで何があったんですかぁ?」

 シャルがわざとらしく首を傾げる。

「オークの野盗が現れたんです。あいつら、毎日のように村へ降りてきては食料や女性たちをさらっていって……やりたい放題なんです。このままではボクたちの村が壊れてしまいます! お願いします! 助けてください!」

「ふむふむ。エド村のオークたちの噂は本当でしたか」

「シャル、お前知ってたのかよ?」

「噂は嫌でも耳に入ってきますからねー。で、エルフのお嬢さん。いくらです?」

「いきなり金の話かよ! そもそもオレまだ受けるとか言ってねぇし!」

「何をするにもまずはお金ですよ。で、いくらなんです?」

「この守銭奴め……それに人助けにお金なんて――」

「前金で2000、成功報酬で3000です」

「ふむ、討伐系のクエストにしては悪くない数字ですね。どうします、タケルさん」

「バカヤロウ。やるに決まってるじゃねぇかこんちくしょう」

「ほら。金は簡単に人の心を動かす」

「半分は優しさだ」

「でも半分はお金なんですね」

 ああいったらこういうシャルに反論できない自分が悔しい。だが合わせて5000か。他のチンケなクエストと比べても大分おいしい話である。

「ほ、本当ですか!? ありがとうございます!」

「いえいえ。ただしきっちり払ってもらいますよ」

「そこはきっちりしてんのな」

 こうしてオレの初クエストが決まった。


「申し遅れました! ボクの名前はリルリラ・リグルです」

 それから舌を噛みそうな名前のエルフちゃんに話を聞く。さっきは男たちの倍額の報酬を要求されたということや、エド村はここからちょっと遠いところにあるなど。また、オークは種族の中でも戦闘に特化した種族ということで、生身の体ではキツイということも。そういうわけで、オレとシャルは早速いただいた前金で装備を整えるということに。

「その前にタケルさん。仲間はどうします?」

「仲間?」

「ここは酒場なので仲間を雇うこともできるんですよ。一人じゃ厳しいようなら雇うのも手ですよ。やはりお金はかかってしまいますが」

「だいじょーぶだいじょーぶ。オレの腕前みたろ? オレたちだけで十分だって!」

「わかりました。タケルさんがそういうなら。一人で頑張ってください~」

「え? お前一緒に戦わないの?」

「依頼を受けたのはタケルさんなので♪」

「……それならなんでついてくるんだよ」

「興味本位です」

「こいつ……」

 まぁいい。最初からこいつの戦闘力には期待してなかったし。こうしてオレはオーク退治の準備を進めることにした。


【今回の収支】

 

 ・オーク退治(前金)  +2,000シリル


 ――――――――――――――――――

 合計            +2,000シリル

 

 目標マデあと      3,998,000シリル

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