第28話 何言ってるんですかタケルさんウケる。
「さーて、これからどうしましょうかねタケルさん」
「ぶっちゃけ何も思いつかない」
「それはそれは。頼もしいお言葉です」
バカ王子の騒動から数日。王都を脱出したオレたちはシャルの店があるオルバニアへと身を隠した。バカ王子は早々と戴冠式を行い、レヴンレイギス王国を自らの手中に収めた。ベルの様子、前国王の安否など気になることは尽きないけれど、今のオレたちにはどうすることもできない。
「宣言通り、七商会も解散されましたしね」
「自由交易も白紙にされちまった。これまでの苦労が水の泡だ」
「八方ふさがりとはこのことですね。八宝菜でも食べますか?」
「めっさ笑える」
真顔でそう告げた。こいつなりの精一杯の励ましなんだろうけど。
「でもお金は必要ですからね。何らかの金策をしないとです」
「つってもなぁ。交易以外にできることなんてないんだが」
「あらま、交易もできないじゃないですか。何言ってるんですかタケルさんウケる」
シャルは文字通り爆笑していた。
「なにもお金を稼ぐ方法は交易だけじゃありません。色々試してみましょう。色々」
「いろいろ……?」
「さぁー寄ってらっしゃい見てらっしゃい! 世にも不思議なマジックショーの始まりですよー!」
シャルの掛け声に街の人々が集まってくる。こんなパフォーマンスは珍しいのかな。
「おいシャル。本当にこんなので大丈夫なのか?」
「わたしに任せてください!」
自信満々に胸を張るハット姿の女商人。ぶっちゃけ不安でしかない。そしてほどよく人が集まったところでシャルのショーが始まる。ちなみにオレは四角い箱の中に体だけ入れられている。
「ガ○ダム……」
「さぁーこれからご覧にいれますは世紀の大マジック! なんと! 今から! ここにいる箱人間が真っ二つになります!」
「なんとぉ!?」
歓声が上がる。オレからは悲鳴が上がる。
「どういうことだオイ! これじゃマジックじゃなくてただの処刑じゃねーか! 残虐マジックショーを催そうとしてんじゃねーよハゲ!」
「あはは、本当に真っ二つにするわけないじゃないですか。ちゃんとタネはありますよタネは」
「ほっ。やっぱそうだよな。で、具体的には?」
「痛いのは一瞬です」
「タネも仕掛けもありゃしない!」
そしてやっぱり真っ二つになる運命である。
「冗談ですよ。この箱は上下二つに分かれているんです。タケルさんは上の箱に足を曲げて入ればいいんです」
「あ、なるほどー……って、この箱随分ちっちゃいように見えるんだが? 多分直角にエビ反りしなきゃ……」
「さぁーショーの始まりです!!」
「うぉおおおおおい!!」
オレの悲鳴もむなしくショーが進行される。
「できなきゃ分裂しちゃいますよ? スライムタケルさん」
そんな不吉な言葉を残して。
「の~こ~ぎ~り~」
シャルが凶器を取り出した。オレを真っ二つにする道具だ。
「よいしょお!」
そして箱に歯を入れる。こいつめ、躊躇がない。
「そ~れ、ギーコーギーコー。みなさんも一緒に!」
民衆から手拍子が巻き起こる。人が切断されようというのにノンキな奴らだ。って、オレもそんな余裕かましてるヒマじゃなくて。早くエビにならなきゃ。
「う……ウゴゴゴゴ!」
刃が迫る。速度が弱まる気配はない。むしろ早くなってるのは気のせいだろうか。
「あははー! 切れちゃうぞー!」
シャルは笑顔だ。こいつめ、目が本気だ。
「うおおおおおお!!」
あ、できた。見事なエビの完成だ。そして箱は真っ二つに切られる。
「ジャーン! 見事に真っ二つになりましたー!」
民衆から歓声が上がる。ショーは見事成功だ。
「シャ、シャル。早くなんとかしてくれ……! この体勢結構きつい……!」
「もうちょっと耐えてください! これから元に戻すんですから!」
「そ、そろそろ限か――あっ」
足が出てしまう。黙り込む民衆。苦い顔のシャル。よくわかってない野良犬。そして分身するオレの下半身。一つは人形。もう一つはオレ。
「ケ、ケンタウルス」
空気が引く音がした。
「10シリルです」
「よく10シリルも入っていたな。世の中には物好きがいるもんだ」
「手品としては大失敗でしたけど、ショーとしては面白かったですからねぇ」
「うんお前爆笑してたもんな」
「お笑い路線なら案外いいとこいけるかもですよ?」
そう悪戯っぽく微笑むシャルは、本気で言ってるのかどうかわからなかった。
「とにかく、これっぽっちじゃ生活もままならねぇ。そういや、ブタやリルリラからの利益の分配はないのか?」
「回収できる日は決まっているんですよ。いわゆる給料日だと思ってください。ちなみに次の回収日は約ひと月後です」
きっとこの世界のことだから臨時ボーナスとか無いんだろうな。ひと月後にまとまったお金が入るとなると聞こえはいいが、逆に考えればひと月も待たないといけないということだ。それまでに干からびてしまう。
「あ、なんならこの間回収したお金使っちゃいますか? 今は銀行に預けていますが」
「オレたちの口座が凍結されてんの知ってんだろ。ったく、やりたい放題やってくれるよあのバカ王は」
「今じゃグリンゴッツ商会にも監視の目が入っていて自由に商売ができない状態ですからねぇ。ぶっちゃけウチもピンチです」
「社長のお前がこんなとこいていいのかよ」
「だってわたしたち、おたずねものですから」
王都では今やオレたちの顔写真入りのビラが配られている頃だろう。オルバニアにはまだ影響はないもののそれも時間の問題だろう。
「そろそろオルバニアも出ないといけませんね。捕まっちゃうのヤですし」
「つっても行くアテもないだろ。どうせならバカ王の目の届かないところがいいんだけど」
「……あ。それならありますよ。うってつけの場所が」
「うってつけ?」
「ええ。ここから南のブラン平原を超えて更に南下した位置にある小国モラリスですよ」
「モラリス? そこが一体なんだってんだよ」
「無知なタケルさんに才色兼備なこのわたしが教えてあげましょう! モラリスはレヴンレイギス王国の統治下にない独立国家です。なので、王さまも簡単には手を出せないはず、ということです」
「おお、そりゃいいじゃないか。なんか名前もカッコイイしな。よし、とりあえずそこに避難して――」
「あはは、タケルさん。盛り上がっているところ大変申し訳ありませんが、ぶっちゃけオススメはできませんね。モラリスは確かに隠れるにはうってつけの場所ですが、とても人が住めるようなところではありませんし」
「どういうことだ?」
「小国モラリス。別名、王のいない国」
シャルがにやりと笑う。
「そして未開の地でもある。安全な保障なんてありませんし、そもそも人が住んでいるのかどうかも不明です。それでもタケルさんは行こうと思いますか?」
シャルがオレの顔を覗いてくる。動揺しているのがバレてしまったのか。そんなことは百も承知という様子でシャルは目を細める。こいつはオレを試しているのだ。オレに、未開の地へ行く勇気があるのかと。
「……はは、愚問だな。オレにとってはこの国すべてが未開の地だ。今更一つや二つ増えたって変わりゃしねぇよ。そうだろ? シャル」
「ええ。まったくその通りです。やはり面白い人ですよ、あなたは」
お前も一緒に来るか? という野暮な質問はしない。そんなの言わなくてもわかっているから。
「行こう、未開の地へ」
「ところでタケルさん。ここからモラリスまではすんごく遠いですけど、大丈夫ですか?」
「へ? そうなの? ま、待て。食料やら装備やら諸々考えて……」
「ようこそ、グリンゴッツ商会へ。当店では後払いでの商品のレンタルも行っておりまして今手持ちがないあなたにも……」
まんまとハメられた気がする。
【今回の収支】
・ギャラ +10シリル
・レンタル代(予定) -50,000シリル
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合計 -49,990シリル
目標マデあと 3,947,890シリル




