第11話 王立騎士ってのはみんな変態なのでしょうか?
エルフ鎮圧からしばらくして、オレたちは馬車に乗りレヴンレイギス王国へ向かっていた。
「お前は知ってたのかよ」
「なにがです?」
「とぼけるなよ。ベルのことだ」
「ベルベット・レヴンレイギス様。その麗しい容姿で国の内外から絶大な人気を誇る姫ですね。山奥に引きこもっていない限り誰でも知っていますよ」
「しかしなんでそんな姫様があんなド田舎にいたんだ?」
「それはあたしが国を逃げ出したから」
向かいに座るベルが口を開く。
「逃げ出した?」
「そ。城に閉じこもるのは性に合わなくてね。外の世界を見たいと思ったのよ」
「とんだおてんば姫だ」
「まったくですよ」
馬車の窓から騎乗中の隊長が顔を見せた。
「そういや、あんたは?」
「申し遅れました。王立騎士団団長のラキーテと申します。姫様にはホント困ったものです。逃げ出したのも今回が初めてじゃないんですよ? もう何度お父上が心配したことか……」
「お父様が心配してるのはあたしの権力でしょ。大事な縁談の最中だもんね。いなくなったら困るわ」
「またそうやって意地を張る……お父上は本当に心配しているのですよ?」
「ふん、どうだか」
「あまり親子仲はよろしくないようだな」
「王族ですからねぇ。権力争いやらなんやら庶民にはわからない世界があるんでしょう」
「なるほどなぁ。と、そういやあのあとエルフたちはどうなったんだ?」
「駐留軍を残してあります。こうやって拐引のことが明るみに出たことで、しかるべき処置を取られるでしょうね」
「人身売買してるような連中だもんな。一歩間違えればオレたちも商品にされてたというわけだ」
「そうですねぇ。わたしのような美少女なら買い取り手数多でしょうが、タケルさんは……よくて肥料でしょうね」
「おい。まだウ○コ扱いする気か」
「ふ、愉快だなキミたちは」
オレの真隣に当然のように座る色男に視線を向ける。
「……誰だてめぇ?」
「ふふふ、お茶目はよせよ。キミの親友、ブタールに決まってるだろ?」
「ブタール……? どこかで聞いたことあるような……」
「オーク族のブタールさんですね。合コンしてたあの」
「馬鹿な。オレは目がおかしくなってしまったのか? オレの記憶の中でのブタは確かにブタだったはずだが」
「今の時代、オークが人間に化けれなくてどうする?」
「その時代の流れにびっくりだよ」
「変身することで容姿も口調も変わるんですね。その姿だったら合コンも少しは楽しめたでしょうに」
「ありのままを見て欲しかったのさ。シャルたん」
「二度とシャルたんと呼ぶんじゃねーです」
笑顔で懐からナイフをちらつかせるシャル。間に挟まれるオレの気持ちにもなってほしい。
「で、その擬人化ブタ野郎がどうしてここにいるんだ?」
「彼もある意味姫様救出の立役者ですからね。あなた方ともども武勲を与えるために連れてこいとのご命令です」
「そういうことさ。かわいい女の子の頼みなら断るわけにはいかない。それが紳士だからね」
「殴りてぇ……」
この際細かいことは水に流そうってことか。どこまで都合のいい奴だ。
「ま、そういうわけだからあんたたちには城で褒美をやるわ。感謝なさい」
「偉そうに……お前を助けたのも偶然だっての」
「偶然でもやったことは同じよ……あの時のあんた、少しかっこよかったんだから」
「え? なんだって?」
「う、うるさい。なんでもないわよ」
「んふふ~タケルさんもやりますねぇ」
「なんの話だよ」
「いえいえ~。まぁ本来の報酬以上の物がもらえそうなのでよかったですね、ということです!」
「お姫様の褒美だもんな……一体なんだろうか」
「豪華な食事」
「美女軍団」
「虫」
「お御足」
「おい、いくつか変な物が混ざってたぞ」
「後半二つ、でござるな」
「ええ~、いいじゃん虫!」
「虫はチャボか……じゃあお御足ってのは――」
みんなの視線がラキーテ隊長に向けられる。
「……うぉっほん。間もなく到着します。下車のご用意を」
淡々と言う隊長に変態の資質を見出した気がする。
「ラキーテ。あんたあとで覚えてなさいよ」
「それはなんというご褒……いえ、謹んでお受けします」
「あはは。王立騎士ってのはみんな変態なのでしょうか?」
「言ってやるなシャルよ」
男には色々ある。そう思うことにした。
「ほら、タケルさん見えてきましたよ」
シャルが馬車の外を指さす。そこにはオルバニアよりも大きな都市があった。
「おぉー……」
「ようこそおいでくださいました。ここがレヴンレイギス王国の王都シャンディです」




