繰り返される非日常、その日常。
日中快晴だったせいなのか、今のような時間帯になると目に刺さるといった比喩が合う程、空が赤く染められる。毒々しい空日差しは教室の窓を通すと、柔らかいそれに変えられ差し込んでいた。
その暖かな光の差す教室で、一人、艶やかな長い黒髪の女子生徒がウンウンと唸りながら机に突っ伏している。彼女がいる場所は窓際の一番後ろの直射日光が当たる位置ではあるが、それはカーテンによって遮られているため暑くないはず、けれどその額は酷く汗ばんでいた。
「遅くなってごめん、って、ミヤコ?」
突然扉を開けて声をかけたのは、優しい顔立ちの少年だった。部活着なのだろうタンクトップで汗を拭うと、ミヤコと声をかけた少女に近付いた。
「ミヤコ、ミャコ、ミャーコ!起きて、遅くなってごめんね。」
ミヤコの肩を優しい手つきで揺すると、ミヤコは眠そうに瞼を持ち上げた。夢見が悪かったせいだろう、少し顔色が悪いが、本人は気にせずに微笑みかけた。
「アオ君、おはよ。」
「おはよ、じゃないよ。もう夕方だよ、朝からずっと授業中も寝てたよね?さすがに寝すぎだコラ。」
コツりと額に少年の拳骨があたると、ミヤコはバツの悪そうな顔で不貞腐れた。アオ君と呼ばれた少年は可愛いけどと呟きながら、一瞬でミヤコの唇に自分のそれを重ね合わせ、ようとして突然手に遮られる。
「ダメ。」
ミヤコの手だった。
不満げに口を尖らせると、気性の大人しいアオが珍しくその目に怒りを滾らせ、その手を睨みつけた。
「今日ぐらい、少しぐらいいいと思うけどなぁ。」
小さな声で1年記念日なのに、と付け足した。
ミヤコとアオは幼馴染みだった。家も隣で、幼稚園、小学校、中学校、高校と同じ道を辿ってきた。ミヤコの親が離婚し父親が出て行った時も、母親が新しく再婚相手を連れてきた時も、アオが足を怪我して陸上を止めた時も、自暴自棄になって荒れてた時期も、お互いに寄り添って来たのだ、異性として意識するのも時間の問題で。
そして、周囲の人々公認でやっと付き合ったのは去年のこの日。周りに押されるようにアオが告白して、ミヤコも自分の想いを告白した。晴れてジレジレカップルとされたミヤコとアオは祝福を受けるはずだったが、それからミヤコはインフルエンザになり一週間休んだおかげか、興奮冷めた祝福を受けたことをアオはホッとしたのを覚えている。
けれど、幼馴染みという障害のせいか、今まで恋人らしい事はしたことはない。せいぜい、一緒に出かけるとかその程度であった。
気性の大人しい、と言ってもアオも男子高校生な訳で、人並み(それも思春期)の性欲はあるもので、せめてキスだけでもしてみたいと考えているのは、仕方のないことだ。
「それでも、ダメなの。だって汚い、汚いよ。」
アオがこういう事を言うたびにミヤコは拒否してきたが、さすがにアオもこの言葉には傷ついたのか、塞いでいたミヤコの手を払う。
「俺、ミヤコが潔癖症とかそういうのないと思ってたんだけど。」
「私。」
そう言って立つと、日差しを防いでだカーテンを開け、窓を開けた。
「汚いのは私。」
強い風だった、そのせいでミヤコの声が聞き取れずアオはただただ悲しそうなでも少し嬉しそうな顔を見つめる。ミヤコは構わず何かを喋っているようだが、風に煽られたカーテンの音でアオには何も伝わらない。
急に何で窓を開けたのかとか、どうして窓枠に足をかけているのかとか、そういう細かいことは気にならなかった。アオはただ。
「私ね、死ぬならこの日だって決めてたの。全部、綺麗になれる気がするから。」
「待って、ミヤ……っ!」
振り返りざま美しく微笑んだ彼女が死のうとしているのだと、理解した。呆然と見てたせいで、アオはミヤコが震えているのを見逃した。
ありがとう、そうミヤコの口が動いてるのを見た瞬間、彼女はアオ1人を教室に残し空へ飛び出した。
助ける、というより、追わなければいけない、そう直感したアオは体の赴くままにミヤコの手をとるーー。
「え……。」
「あ……。」
カチリ。
誰のせいでもない、強いていえばミヤコがいくら華奢といえどそれなりに体重があったことだろうか。
ミヤコを引き上げようとしたアオはミヤコの代わりにオレンジとネイビーがせめぎ合うパレットに投げ出されたのだった。
「アオ君っ……!!」
そうして、2人の物語は振り出しに戻るのだ。
謎ですよね、すみません、私も謎です(><)
これは序章?で、三部作目指してます!
(連載にするには期間が空いてしまうと思ったので。。。)
今は謎ですが、次回作で何となくわかると思います。