六刻
さて、少し頭を冷やして考えよう。窓に近寄る、及び窓から脱出を計るのはよろしくないことが判明した。
それ以前に考えなければいけない問題が一つ。ここから出てアレに遭遇する可能性があるならこのまま逃げ出すのは危険だ。見つかって取り囲まれたら一巻の終わりだろう、多勢に無勢過ぎる。何か手を考えないといけない。
――…物理的なもので対策できるのだろうか。少しだけ、この世ならざるものという可能性を考えてしまっている自分がいる。一瞬で消えた、宮原さんには見えていなかった、声が人のそれであるとは到底思えなかった、等々こんな馬鹿げた考えに至った理由は幾つかある。だが、純粋に自分と同じイキモノであると認識することに拒否感があった。嫌悪感と言ってもいいかもしれない。
いや、待てよ。もしかしてこれは大掛かりなドッキリなんじゃ、なんて。いくらなんでも現実逃避過ぎるか。
まとまらない考えは一旦放棄。
深く息を吐き出して両手を見遣る。俺の意思とは関係なく震える両腕に乾いた笑いが零れた。俺はまだびびってるらしい。だが、いつまでもアレに気をとられている場合じゃない。
「ここから出るのは、少し保留にしよう。…屋内を見て回ろうか」
ゆっくりと言葉を発し、声は震えていないことを確認しながら宮原さんに告げる。少女の不安げな表情が少しだけ和らいだのが見て取れたが、その代わり探るような視線を向けられた。
「もう平気ですか?」
「大丈夫って言い切れないところが情けないけど、このままじっとしていても仕方ないしね。念の為、この部屋で武器になりそうなものを探してから出ようか」
「分かりました」
「勿論、この部屋で待っててくれてもいい」
俺が武器という物騒な言葉を出したせいだろう、宮原さんがやや表情を曇らせていた。二人で行動しなければいけないという道理はないと、一つの提案を投げる。だが彼女は緩く首を振り、じっとしていられない性分なのでと明るく返してきた。
気を遣わせたかも、と一人反省している間に、宮原さんは部屋の中を物色しはじめていた。大分逞しい相棒を持ったようだ。
俺も後を追って室内を探った。