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四刻

暗がりの中、そろそろと窓際へ忍び寄る。後ろから宮原さんが着いて来ている気配がして、少し落ち着かない。落ち着かないが、だからと言って何があるわけでもない。そのまま数歩足を進め、壁に手が届くかどうかというところで動きを止めた。深呼吸一つに軽い緊張を解すと平素と変わらぬ気安さでカーテンを捲る。


そこで気付いていれば、少しは身構えも出来ただろうか。

布の隙間から覗いている、暗闇の存在に。


「暗くて何も見えな、」


ざわりと暗闇が蠢く。

怪訝に思うのは一瞬だった。

目の前の暗闇に、かぱりと割れ目が入る。硬直する俺を置き去りにしてゆっくりと裂け目は大きくなっていく。徐々に露になる真っ赤な領域が、それが何であるかをこちらに示した。

やがて、何百という瞳がこちらを見返していた。


『ギ、ぎっきき が』


酷く耳障りな音だ。硝子を掻くような、雑音交じりで耳を塞ぎたくなるような音。何処から?なんて疑問に思う余地はなかった。眼前に広がる異様な光景に全身は総毛立ち、上手く呼吸が出来なくなる。ひっひっと短く息を吸い込みながらも何処か頭は冷静で、騒音が何かを囁いているようだと察する。意識を集中してはいけない、そう思いながらも何故か俺は耳をそばだててしまった。


『オ いし そ う 、 タ べた イ』


それはとても単純で、明快で。他の意味に捉えようもない、率直な食への欲求だった。

意味を理解するのと同時に強烈な寒気に襲われ、両腕を押さえる。子供のような無邪気さを持った言葉だったが、人が食する類のものを指して言っているのではないとわかる。

遠くに少女の声を聞いた。でも、反応すら儘ならない。嫌な汗が噴出す。


『き、キキキ…クくけけ』


奇妙な笑い声。

金縛りにあったかのように、俺は微動だにできなかった。上手くできない呼吸のせいか少しずつ意識が白み始める。


「荒城さん!」


強く後方に引かれ、体が傾ぐ。気絶しかけの俺は踏み止まる力もなく、そのまま尻餅をついた。痛みに遠ざかりかけた意識を取り戻す。同時に、暗闇にあった赤がその姿を消した。

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