一刻
ブブブ…ブブ…
不意に響くバイブ音、俺は反射的に床を探った。大方、仕事の電話か、親からの安否確認だろう。人の安眠を妨害しやがるそいつを手中に収めるべく、適当な所へ指先を這わせる。
床じゃなければズボンのポケットか、シャツの胸ポケットか、それとも寝相が悪くて何処か離れたところに飛んでいったか。
しばらく彷徨った後、ようやく指先はかつりと確かな手応えを伝えた。中々見つからず苛立った心も幾分凪いで、指先で捉えたそれをしかと握り、手繰り寄せる。のだが、何故だか目的のモノは微動だにしない。蘇る苛立ちに力任せに引っ張ると、小さな悲鳴。は?と思う僅かな間に上半身へとずっしりとした重みが加わり息が詰まった。
「……いっ…」
「…っ…ご、ご、ごめんなさい!」
涼やかな、女性の声。
そこで一気に意識が覚醒して、先程のバイブ音は夢現の中で聞いた音なのだと知る。
夢遊病か、酔って記憶がぶっ飛んだのか、俺は何をした、最後思い出せる記憶は何だと必死に記憶の糸を辿った。しかし、思い出せるのは寂しい晩飯の記憶だけ。相手は誰だまだ夢見てるのかと依然混乱する頭の中、視線は自然と己の胸に沈んだ女性の姿に向いた。
「え?と、あ…だ…いじょうぶ、ですか?」
やはりというか、聞き覚えのない声からして予想はしていたが、見知らぬ女性だった。幼げな顔立ちと声色に年下だろうとは思うが、条件反射で敬語が口を出る。こくりと頷いて、女性は恥じらいながら俺の体から身を離した。
俺は一夜の過ちでも犯したのだろうか。この歳で流石にそれはないと思いたい、だが記憶がない。何がどうしてこうなったのか見当もつかない。
いや、それ以前に、少し、待って欲しい。ナニがあったのだとしたら、俺は社会的に終わるのではないだろうか。
目の前にいる女性、元い、少女は、どう見ても学生だった。