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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

アイデア短編

寡黙な男と喋らない少女

作者: せおはやみ

「貴様っ俺を誰!」

「終わりだ……」


既に勝負は着いていた後であった。

壁に突き刺された男と突き刺し睥睨する男。

互いの体に残る複数の傷跡を見るに、激しい戦いだったのが判る。

無表情に佇む男は、刀を拭い鞘に戻した。

一見すれば殺すのを諦めたかの様に見えるが、既に相手は虫の息。

治療が不可能な今、男が助かる見込みは無い。

目を細めている男が相手に止めを刺さないのは単純な理由からだ。

敢えて苦しみを長引かせる。

そして己が手によって、より大きな苦しみを与える事。

抜き手に構えた右手が相手の胸部へと突き刺さった。

侵食していく魔の気配。

何故か貫かれたにも関わらず死ねない。

握られた心臓が動き続け、痛みのみが永遠に続く。

永劫の苦しみが続く事に恐怖し、泣き喚き殺してくれと懇願するが無視され続ける。

「殺せ」

「何故殺さぬ」

「今更の躊躇か!」

「何が望みだ!」

「頼む」

「お願いだ、殺してくれ」

「俺が愚かだった」

「私が愚かでした」

「殺して下さい」

苦痛を与えきったとばかりに、男は微笑み手を引き抜いた。

心臓が抉り取られた瞬間、漸く死を迎える事が許された。


だが惨殺されたのは、その男だけでは無い。

周りを見渡せば一面に地獄が広がっている。

謁見の間に詰める騎士や貴族、その全てが殺されていた。


静寂と死の匂いが篭る広間。

その死から発する匂いを全て喰らいつくすモノ。

そして闇が男の体へと集まる。


何かを呟く声は小さく聞き取れない。

闇に紛れ男は姿を消した。


帝国の一部地方とはいえ、一夜にして領主の城が燃え落ちた。

火災を止める兵の姿もなく、事件は謎に包まれる。

そして真相が究明される事はなかった。

男が一人その地から旅立ったのを知る者は居なかった。



◆◇◆          ◆◇◆          ◆◇◆



街道を進む一人の男がその場面に遭遇したのは偶然に過ぎない。

峠を通り過ぎる細い道で迂回路も無い。

旅人は必ず通るからだ。

後少し遅ければ証拠は何も無いままに、身包みを剥がれた遺体は谷底に捨てられて、残る者は奴隷として売られただろう。

だが、山賊の襲撃も終わろうかというタイミングで男が追加された。


――運が悪い。なんて場面に出くわしたんだと。

腰を抜かした男は動けなかった。

――村へと帰る為、出稼ぎ先からの道を急いだだけなのに……。


「おいおい、追加で一人谷底へご案内だ」

「へへへ、見ちまったのが運の尽きだな」


山賊が目撃者を一人残らず始末し、拠点を何度も変えていた為だろう。

この峠に山賊の情報など無かった。


出稼ぎの男は()()から逃れる為にと急いでいた筈なのだが、こうして死に直面していた。


「ま、運が悪かったと思って死にな」


そうして振り下ろされた剣は男の目の前に突き刺さった。

――何が?

死を覚悟して目を瞑っていたのだが、土に突き刺さる音で目を開けて不思議に思う。

何故振り下ろされた筈の剣が土などに刺さっているのか。


次の瞬間、首から血を噴出した死体が出稼ぎの男に倒れこんできた。

男は一生懸命に手と足を踠かせて後ずさった。

死が平然と転がる世の中だけあって逞しい。

這い出して立ち上がった男は山の中へと走り出した。

山賊たちが突然の襲撃に気を取られている隙にと。

自分の命を助けるには逃げ出すのが最良だと知っている。

他の全ては放り投げていくのが常識の世の中だった。



流石の山賊も仲間が突然死亡した事で慌てていた。

何に攻撃されたかが不明だが、原因はわかっている。

逃げた男が来た方向から現れた黒衣の人物によるものだと。

だが下手に動けない。

目を合わせたが故に。

動けば死ぬ。

それだけは間違いないと本能が訴える。


緊迫した空気に耐え切れなくなった一人が槍を投げつける。

次の瞬間に槍は()()()()の頭を吹き飛ばしていた。

投げられた槍を掴み、更に投げ返す。

そんな事は人間に出来る筈が無い。


「ま、魔族!」

「いや魔物かっ!」


釣られるように恐怖に飲まれた山賊は攻撃を仕掛けた。

逃げられない。

死にたくない。

ならば!

人数に任せて掛かればと20人からの山賊が一斉に動いた。

その時にグァっと何かが渦となって巻き上がったのは怒りの感情によるものか。

突如として黒衣の人物の足元から影が刃となって山賊を襲う。


一瞬にして20人の男たちが死亡したが、全てはその影に消える。


『まあまあだな……』という声

全ては夕闇に飲まれていく。

『チッ』黒衣の人物の方から聞こえた声を聞いた者は居なかった。



◆◇◆          ◆◇◆          ◆◇◆



三日後、街道の町。

一人の少女がオドオドとしながら黒い外套の裾を掴んで歩いている。

少女は先の山賊襲撃の生き残りだった。

問題は身寄りが一人も居なかった事。

全員があの場所で死亡していた。

少女は震えて馬車の奥に隠れていた。

そして状況を知り目の輝きを失ってしまった。

同時に言葉も。

死ぬならば仕方が無いがと思いつつも黒衣の男は連れ歩いた。

金も全て持たせたが、そのまま放置すれば死んだだろう。


何故連れ歩いているのか。

『既に復讐する相手もこの世には居ない、生きたいか、それとも……』

そう問いかけた結果として生きる事を選んだのは少女自身だったからだ。

死を望む可能性がある問いかけ。

死んで両親が喜ぶのかなどとも云っていない。

故に少女が生きる事を選んだ理由まで男は知らないが、こうして着いてきている。

――着いてくるならば面倒を見てもいい。

そう男は思っている。

相変わらず一言も発しないが……。

――もしかすれば衝撃の余りに言葉を失ったかもしれんな。

己が無口な事を棚にあげ、そんな事を思っていた。

無言のやり取りを繰り返して二人は街道を進み、この町へと到着した。


自身を振り返り、その少女に思う所が有ったのかもしれない。

とにかく、そうして寡黙な男と喋らない少女の旅が始まった。

読んで下さってありがとうございます。

こういったチョットダークなヒーローの需要は御座いますか?

ええ、文章能力ではありませんよ・・・・・・。


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