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episode<日常>

レシピを調べて実際に作ってからなので時間が掛かりました。

尚、今回友人に言われて書き方変えているので読みにくいかもしれません。

 始まりの街アインの露店市はプレイヤー、NPCの両者が互いに鎬を削る戦場だ。

 このゲームの世界ではNPC相手にスキルだけでは相対出来ない。──何故ならNPCもスキルを有しているからだ。

 確かに容易にスキルを習得し、幅広く手を広げる事も出来るプレイヤーという存在は反則敵だ。だが、だからと言って長年続けた─と言う設定の─職人達、清濁を掌でもてあそぶ商人諸君、地道な努力で得た経験で挑む戦士達からすればそんな付け焼き刃での相対は楽ではないが勝てぬ相手ではない。


 そんな戦場で戦うのはけして商人職人のみではなく、所謂主婦も戦い続ける武士だ。 主婦達が欲する食材は消耗品、冷蔵庫やらが完備された現代日本やらとは違い、その日の内に、最悪足の早い物なら半日未満で鮮度が、味が、何より腐敗が進む。

 だからこそ、直感と経験に裏打ちされた高速の買い物術を駆使しつつ、奥様ネットワークで露店市のランキングを無自覚に作成していた。

 そんな奥様ランキングの中で堂々一位の青果店──<大地の籠>に一人の客が並んでいた。

 質素な服を着た長身の男で、長い黒髪を紐で結びながら、木製の買い物籠を足下に置いている。無駄のない身体は細身ながら逞しく、然り気無く列を抜かそうとした奥様方を自然な動作で妨害して譲ることはない。鋭く威圧するような視線は常に店内に向いており、品定めをしながら素早く動けるであろうルートを模索していた。

 歴戦の主婦(もさ)達をして尋常ではないと思わせる男は、結び終えた髪から放した手で籠を持ち上げて、──同時に開店(かいせん)した。

「おおお……!!」

 熱気と怒声が店を満たす。

 バッファローの群れの如く、情け容赦のない大進行は止まる事を知らない。

 競り負けて押し退けられる者、押し退けた先の商品が既にない現実、倒れ転がる商品が無惨に踏み砕かれ、他人の籠から盗み取り抑えられる者も多数。ようやく精算所についた勝者も息絶え絶えの状態だ。


「いやはや、中々に骨が折れるな」


 平然と、額に汗を浮かべることなく精算所を後にする吸血鬼は口先だけの謙遜を呟いた。籠には瑞々しく輝く野菜の数々、どれも飛び抜けて素晴らしい、店側が遊びで混ぜた最高級品の物ばかりである。

 勝者のみが座れる休憩用のベンチで寛ぐ吸血鬼に、先に辿り着いた主婦(ライバル)が声を掛けた。

「初顔なのにやるじゃない、辿り着くとは思わなかったわ。──おまけに狙っていた物まで全部取られるなんて」

「なに、慣れているんでな。──そちらこそ先着数名の高級食材は一通り手に入れただろう」

「それは貴方もでしょうに、……どうやったの? 貴方結構後ろだったわよね?」

 結構と言えど前から数えて15番ほどの位置にいたのだが、こと買い物に置いて順番とはあらゆる中で必然の結果を生み出す。だと言うのにソレを入手し、一番手である彼女よりも、ゆったりと移動していた吸血鬼が入手出来たのが理解できない。

 その疑問に誇るでもなくつまらなそうに吸血鬼が返答した。

「強いて言えば周囲のおかげだな。わたしは足が早い方ではないし、位置も確かに良いとは言えない。だが後方には焦る猪に前方には足を引き合うハイエナ共だ。利用してくれと言わんばかりでな」

 獰猛に笑い、

「だから走り出す直前に僅かな隙間を開けた。途端に無理矢理入ってくる猪の勢いが開店同時に走り出そうとしたハイエナと接触して一時的に混乱が生じた。後はその場を早々に抜けて僅かに空いた隙間に身体を捩じ込めば、まあ、後は他人の阻害をしながら止まらずに前を抜いていけばいいだけだ」

 言うは容易い、だが実行するのは極めて厳しい。巻き込まれる可能性が高く、他人がどのように動くのか、ソレを見切らねばならない。

 目利きに至っては言うまでもない。止まらずに動き続けるのなら判断は一瞬且つ、失敗は許されない。無数に並ぶ商品群から唯一を発見してかっさらうなどほぼ不可能に近いだろう。

 しかし現実における悪夢のようなタイムサービスを常に乗り越えた男からすればこれはあまりに容易い。地元スーパーにて価格破壊レベルのタイムサービス卵Lサイズ10個入り一パック58円時など怪我人当たり前の争奪戦だ。一袋300円の野菜詰放題など5分足らずで消えるものだ。国産牛三割引きのタイムセールなど最早何が起こるか分からない。一度だけ病院送りになった奥様を見たことはある。……ちなみにその奥様は次のタイムセール時に他を圧倒し、その際に唯一張り合ったのがこの男だ。

「……馬鹿なの?」

「誉め言葉として受け取ろう」

 ともかくこれで会話は終了だと立ち上がり出口を目指す吸血鬼は、眩しそうに、鬱陶しいと陽光に目を細めた。

 迎えに来た虹色の精霊を頭に乗せて店を去った吸血鬼は、まっすぐに北へと立ち去った。



 ◆



 料理は愛情だ、なんて都合のいい言葉がある。しかしこれは作る側の理論である。食べる側からすれば愛情よりも味と安全性が第一で愛情は隠し味程度で問題ないのだ。

 レシピとは、先人が残した偉大なデータであり、後人の道を照らし支えるカンテラのようなもの。余計な手間隙などしなければ余程の事がなければまずそれなりの味になる。

「分かるか、分かったならどうして料理直前に全てを鍋に叩き込んで火に掛けるなんて常軌を逸した行動に出たのか説明しろクソッタレ。──そもそも寸胴用意してんだよ、錬金鍋いらねぇから」

「いやだって、鍋って万能なんでしょう?」

「用途が違えば器具に万能性なんてあるか、あってたまるか。そもそも下拵えは? 切り込みは? 味付けは素材の味を活かしますってか、あん?」

「いやあの、──てへぺろ☆」

 鈍い音がする。

 頭を抑えて転がる耳長を蹴り出して厨房を閉め切ったジョージは、籠から取り出した食材を台に並べ、手始めに鍋を火に掛ける。巨大な寸胴の中身は水、塩も僅かながらに入っているそれは沸騰を待って放置された。──煮沸が完了すれば後はパスタを入れ、茹でるだけ。アルデンテにするためにフライパンで炒める時間も考慮し、トングでザルへと移した。この時パスタはしっかりと水を切り、パスタに空気を吸わせる事が重要だ。

 次は、と鼻唄混じりにむね肉をそぎ切り─厚みのある食材を削ぐように切る事─、切り取ったものを1㌢角の棒状に切って、醤油、酒、塩胡椒を揉みこむ。先程購入したキノコ類─舞茸、シメジ、エリンギ─の内、エリンギは棒状に切り、それ以外は小房に分ける。

 料理道具セットから魔動コンロ─使用者のMPで稼働するコンロ─を取り出し、フライパンを熱し、バターを投入する。先程のキノコ類を軽く炒めて端に寄せ、むね肉に片栗粉をまぶして空いたスペースにて焼く。7割程火が通れば、醤油、酒、味醂、生姜の絞り汁を入れて少し煮詰める。パスタも入れて味を絡ませ、──汁が少ないと感じた場合は煮汁を足すことで調整し、煮絡めれる。

 最後に皿に盛付け、好みでネギなどを掛けて完成した。


【料理】キノコと鶏むね肉の和風パスタ/一級品<空腹度+15「自然回復助長」「腹持良」>

バター風味のキノコと鶏むね肉の和風パスタ。

数種類のキノコとバターの香りが食欲を掻き立てる。


「──さて、と」

 ジョージは出来上がったパスタを盆に乗せ、腹を空かして待ち構えているであろう耳長のもとへと移動した。

 しかし、居間には誰もおらず、ただ急須と湯飲みがポツンとあるだけ。──何かがキレた音がする。擬音で例えるなら、ブチッ。

「センナアァッ!! テメェ、飯いらねぇのかッッ」

 ドタドタと、

「ハイ! すいませんでしたッ!!」

 現れた耳長は煤だらけ、通った廊下は煤まみれ。手には赤と緑に変化を続ける液体入りの試験瓶が握られ、不規則に輝きだし、

「あ」

「あ?」

「──やっばい、失敗した」

 大爆発して昼食は消し飛んだ。当然だが、飯は抜きだった。



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