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申し訳ありません。操作ミスして一回消してしまいました。
今夜行う作業を終え、ガス栓やコンセント等々の確認を終え、勉強もすべからず終わらせた。
寝室の電気を小玉にして、本体の電源が入ったのを確認してからゴーグルを装着。スイッチをスライドすると「NOW loading…」と青緑の文字が瞬いて……。
──意識が覚醒する。
そこレンガで作られた街並みだ、犇めくように人が騒ぐ中、俺はポツンと立っていた。
笑えるくらいに騒がしい中、色々な輩が楽しげに─中には鬱陶しげに周囲を眺める者もいるが─騒いでいるのだが、ああ、なんと言うか案外大人しいもんだな。
ゲーム開始時なんぞ騒がしく暴走するもんだと思っていたんだが、どうにも周囲の人々は一切冒険だと言う雰囲気ではなく、むしろ遊園地のアトラクションを並び待つかのように興奮と退屈が同居した様子だ……何故だ?
ふむ、とりあえずアイリス撫でとこう。──うん、癒された。
「むむむ、その精霊は<アルカンシエル>の特典ではござらんか」
戯れる俺達の隣から突然声が掛けられる。明らかに不審者な格好をしていたのでスルーしていたのだが、向こうから話し掛けて来ようとは。
こう言う時は気付かない振りをするのが賢明だ。
変質者 スルーをすれば 怖くない 逆上しても タマとりゃ終わる
「あの、わ、拙者の事スルーでござるか。こんなにも堂々と話し掛けているのに、やっぱり影薄いでござるか? せめて、せめてゲームぐらいでは目立とうと頑張ったんでござるが」
なんか公衆のど真中で体操座りして泣き始めた。……流石に可哀想かもしれない。
しょうがないと溜め息を吐いて黒尽くめの変質者へと話し掛ける事にした。見た目こそ忍者モドキのコスプレイヤーだが、中身は打たれ弱いようなので多少は優しくしてやろう。ただし変な行動をしたら蹴り倒す。
「すまんな、格好が格好だったんで変質者かと思ってな」
「ゲームの格好で変質者は酷すぎま、でござる!」
「ああ、あと挙動不審なのも原因の一つだ」
「ゴブフッ」
「ついでに言うならいきなり話し掛ける前に前置きをしろ。友人じゃねぇんだ、フレンドリーに返してやる義理はねぇ」
「……すみませんでした、でござる」
ござる口調無理矢理だな。まあ、どうでもいいが。
「で、さっき何か言ってたみたいだが何のようだ?」
「あ、あので、ござるよ? その子は<アルカンシエル>の特典精霊のアイリスちゃんでしょ、はござらんか」
「ああ、そうだが──有名なのか?」
アイリスに聞くと小首を傾げられた。そりゃそうか、現実の事なんぞ知りようがねぇわな。
「拙者は<アルカンシエル>は毎週購入しているから知っていただけでござる。容貌が最新刊にて発表されもしやと思い声を掛させていただいたのでござる」
「なるほど、じゃあなんだ。さっきから──正確にはお前に話し掛けられた辺りから感じる視線は嫉妬か何かか?」
「わた、拙者と同じ理由でしょござろう。かわいいは正義、異論は許さない」
「認めないじゃないのか? ……あと、その口調慣れてないだろう」
「な、なんの事でしょう?」
既にござる口調すらなくなっていた。残念かつ半端すぎる忍者キャラに溜め息を吐きたくなるところだ。せめて演じるのなら演じきろ。役者が舞台で中途半端な演技をするほど見ていて残念なものはないぞ。
「ところで用事は終わりか?」
「あ、はい、アイリスちゃんが見れて嬉しかったです」
「そうか、じゃあ俺は友人の気配がするんでな、そっちに行く」
「け、気配? よく分かりません、分かりませぬがさよならでござる」
「ああ、じゃあな似非忍者」
「似非!?」
驚いた似非忍者の頭をじゃあなと軽く叩いて「ほべ」──あ、力加減ミスった。
痛みで呻く似非忍者に悪いと両手を合わせる。流石に痛かったのか膨らんだ頬を指でつつきながら、
「すまんな、詫びとして何か要求があるなら一度だけ聞こう。だから許してくれ」
「あ、ならアイリスちゃんくだ」
「──は?」
「す、すみません、調子に乗りました。──あの、いきなり何かをと言われても困るのでまたの機会でもいいですか?」
「問題ねぇが、また会えるとは限らんだろうに」
「あの、でしたらその、……フレンド登録を」
「フレンド登録?」
「えっとメニューを開いていただければ」
言われるままに開くと<真白からフレンドの誘いが来ています/受け入れますか YES or NO>と記されたウィンドウがメニューを隠すように現れた。とりあえずYESを選択すると、どうやら成功したらしくフレンド数1と小さなウィンドウがメニューに重なるように存在するようになっていた。
「これでいいのか?」
「はい、またなにかあったらお願いします」
「おう、じゃあな」
◆
一閃は中身の残念さはさることながら見てくれだけは上等である。
普段は学生服か、コスプレか、下着姿のせいで意識する価値もないが、着飾ればやはりそれなりを越えている。
さて、ここまであのバカの見てくれを誉めちぎったのだが、──どうして現実でも仮想でも絡まれてるんだろうなぁ?
女性の彫刻が抱えた水瓶から水が溢れる噴水に腰を据えた耳長の周囲には4人、なんか不自然な顔が特徴的な男が囲むように並んでいる。
聞こえてくる言葉は所謂ナンパらしい。どこかで聞いたことがあるような内容に溜め息を吐きながら、とりあえず一番騒がしい男の肩を叩いて「ぐぎぃやぁ!?」──すまん。
悲鳴のせいで視線が俺に集中する。今回は俺が悪いし、とりあえず態度だけでも悪びれるとしよう。
「すまんな、力加減を間違えたらしい」
「いぃ、いいがぁらッ! はなぜよおぉッ!」
「ああ、すまんな忘れていた」
とりあえず肩から手を放して泣きながらこちらを睨む犬耳男に満面の笑みで誤魔化すと何故か蒼白になって震え始めた。──別に現実でなし、そこまで怖がる必要もないだろうに。
「い、いきなり何なんだよ!?」
「いや、ただソレの友人なんで退いてくれないか頼もうとしただけなんだが」
「ゆ、友人!? 嘘だろ、美人局かよ!?」
「────あん?」
あー、うん。
確かにそう見えるかもなぁ。見た目上等なクソッタレだからなぁ。
はは、──ああ、まったく。
「喧嘩売ってんなら買うぜ餓鬼共」
「「「ヒイィッ!?」」」
何故か周囲で面白そうに眺めていたプレイヤー連中も一歩下がった。笑いかけた相手は腰抜かしてる。──いや、ゲームのキャラに怖がんなよ。
怯えている彼等の横を、わざとらしく重々しい足音を響かせ進みながら、呆れている友人に声を掛けた。
「待たせたな」
「……えっと、名前は?」
「吸血鬼のジョージだ、お前は?」
「耳長のセンナちゃんです、よろしくね」
「おう、よろしくな」
だらしなく笑う閃のアバター─耳長らしく鋭い耳が特徴的だ─は何とも機能的な出で立ちだ。
言ってしまえば作業服。機能性重視で洒落っ気もないグレーの上下。試験瓶が複数収納されたホルスターを腰に装着しており、肩から腰に下ろす類いの収納袋は各種道具が綺麗に整頓されていた。。何とも動きにくそうに見えるが、案外動きを阻害する事はないらしい。
「それはそうとこれからどうする? 今から外に行くと人が多いからオススメしないよ?」
「ふむ、ならゆっくり出来る場所でも紹介してくれ」
「オッケー、なら私の工房に行きましょう」
腕を取ろうとするセンナの後頭部に拳を叩き付け、呻く馬鹿を引き摺りながらとりあえず指示された方向に移動していく。
周囲の視線は戦々恐々、囁く言葉は阿鼻叫喚。
自然と分かれる人並みを悠々自適に歩き続けるのだった。
精霊/アイリス
属性/虹
種族スキル/<魔力生命体>
固有スキル/<虹魔法>
ステータス/STR0/VIT0/DEX0/AGI100(LVUP+10/内ボーナス7)/INT60(LVUP+5/内ボーナス2)/MMD20