テスト
投稿したい小説がミスしないか心配でテスト投稿しました。
一応、昔書いた短編です。
空は薄暗く、山際にはすでに夜の世張りが下りてきていた。もうすぐ始まる夜の世界、白いカーテンの向こうに揺れて、消灯時間を告げる音楽が静かに鳴り響く。帰る人々の足音に、切なさを感じるのは貴方もまたその中に加わってしまうことを知っているから。
病室の窓を慎重に閉じて振り向いた貴方がさよならと言うのを僕は死刑を告げられる囚人のように不安と緊張の中で待っていた。
明日僕はここにいることはできるだろうか。
僕という存在が、いつまで存在していられるだろうか。
僕という存在が、ただの肉片になってしまう前に僕が僕という存在であり続けられるという保証もなく、明日、この場所で、僕の顔をした僕ではない誰かが何食わぬ顔をしてここに存在するのではないだろうか。
僕の不安に揺れる瞳をあなたは黒曜の瞳で見つめて、そして額に口づける。
そして名残惜しげに話し始める。
僕が僕の前世であなたにしたという物語。貴方が貴方の来世できいたという星々の伝説。
僕の過去は貴方の未来に出会い、物語を紡ぎ、僕は僕が知らない、僕がしたという物語を彼女の口から告げられる。
何も不思議なことはないのだと、貴女のたおやかな白い手が僕の枯れ木のようにひび割れた手に重なる。
天空の星々が巡り巡るように、人もまた巡り巡る。巡りの中で出会う光が、過去のものか未来のものなのか。
過去と未来が出会ったからこそ語られるこれは貴方と僕の12星座物語。
宵闇に一番星が輝いた。
一つ目の星座
Geminiの追悼
白い卵、産み落とされた。
白い卵、2人の子供。
白い卵、永遠の兄。
白い卵、瞬きの弟。
白い卵、ひび割れた。
白い卵、壊された。
白い卵、やっと生まれた。
白い卵、いつまでも一緒。
白い卵、永久に一緒。
白い卵、嘘はいけない。
白い卵、いつかさよなら。
白い卵、それが運命。
白い卵、涙にくれた。
白い卵、うつろな瞳。
白い卵、運命呪った。
白い卵、狂ってしまった。
白い卵、たくさん殺した。
白い卵、真っ赤な道は誰のため?
白い卵、たくさん死んだ。
白い卵、空を向いた。
白い卵、輝く星屑。
白い卵、やっと見つけた。
白い卵、いつまでも一緒。
白い卵、永遠に一緒。
白い卵、いなくなった。
白い卵、誰もいない。
白い卵、星がきれいね。
※※※※※※※※※※※※※
浮気性な最高神は今日もこりずに恋をした。その腕を白い翼に変えて、清らかな乙女の元へと飛び立った。乙女は美しい白鳥の虜。身を任せればたちまち愛が生まれた。十月十日ののち乙女は一つの卵を産み落とす。
雛鳥は殻の中でどんな夢を見る?
それは楽しい夢かしら。
それとも悲しい夢かしら。
生れる前の雛の夢。
夢から目覚めるのは殻の中と外、どちらかしら?
乙女は卵を温める。まだ見ぬ我が子を夢見ながら。乙女は歌い続ける。まだ見ぬ我が子に思いをはせて。
乙女の歌が途絶えたとき、亀裂が走り、殻は予定調和の崩壊を始める。
生れたのは人の子供。
生れたのは神の子供。
正反対の運命を抱えた二人で1つの子供。
※※※※※※※※※※※※※
血潮が脈打つ音が聞こえる。
それは僕の鼓動と重なって、まるで時計のように規則正しく、しかし命の力強さを感じさせるようにはっきりと情熱的に脈打ち、自分以外の音に揺さぶられた僕は僕の意識を目覚めさせた。
目覚める前、世界と一つだった。ただ漠然とした恍惚で満たされた夢の時間が終わり、赤いまどろみの中。僕は僕を認識することで、世界から僕という存在に閉じ込められ、二度と同じになれないことが悲しくて泣いた。
隔離された個の存在は孤独だった。始まりがあれば、終わりがある。始まりから終わりが近いほど不幸と称賛されて、始まりから終わりが遠いほど不安がちりのように蓄積される。世界であったころには始まりも終わりもなかったのに。
そして赤のまどろみの中にある天井。
殻の内側。
この殻が壊れてしまえば、僕は一つの生命となる。
恐ろしかった。
生とは呪われたものだ。生き物はそれに執着し、損なうことに怒り、失うことに怯え、たとえ悲しみや苦しみの中であっても決してそれを手放すことができない。そんなものに囚われ続けて、あそこに居るのはいやだった。
すべてがまどろみの中で終わってしまえば、どんなに幸せだろうか。ここは全て満ち足りている。欠けているものなどないのだ。僕はこのまますべてがこのままでいてほしいと願い、固く目を閉じざした。
ぬくもりが触れた。世界だったころには決して触れられない他者という存在が僕に触れた。
僕が目覚めた瞬間、君もまた目覚めた。
君は違うと言った。そして僕を抱きしめてくれた。初めて触れる体温は、涙が出るほど愛しかった。
君が大丈夫だと言うから、僕は目を開いた。
君が笑うから、光を見たいと思った。
君が生きることを望むから、僕はこの殻を叩いた。
君が殻を壊すから、僕も外へ出ようと思った。
初めて見る日の光はとても綺麗で、悲しいわけでもないのに涙があとからあとからとめどなくこぼれた。まるで世界は僕たちを祝福しているように輝いて見えた。
ここに2つの体が合った。2対の脚と2対の腕。僕たちはお互いの顔を初めて見た。
「ポルックス。」
僕は名前を呼ばれて卵から一人の人間となった。
「カストル。」
君は僕に呼ばれて卵から一人の人間となった。
一つだった二つになって、そして僕たちは出会った。
※※※※※※※※※※※※※
天上の最高神が地上の乙女に恋をして、白鳥に姿を変えて交わった結果、生まれたのが僕とカストルだった。僕たちは一つの卵から生まれた双子だった。しかし僕たちに似ているところはどこもなかった。
カストルは怒ったり泣いたり、悔しがったり笑ったり、まるで空のように、めまぐるしくその表情を変えた。彼の笑顔は青空で、彼の怒りは嵐のよう。激しくもすぐに過ぎ去ってしまう。僕は感情を表にすることは苦手で、まるで大地に物言わぬ存在だった。僕の怒りは地震にも似て、怒りに一度でも身を震わせれば何度も何度も震え続けた。
彼はよくしゃべった。遠い、海の向こうの知らない世界の話。荒々しい波を友とする海の兄弟の話、木と語らい、石版に不思議な文字を刻む森の賢者の話、狼と共に生き天を崇める草原の民の話、まるで鳥が歌うことを宿命づけられているかのように、カストルは夢や希望を語り続けた。僕は小鳥が羽を休める止まり木のようにその声をいつまでもいつまでも聞いていた。僕はカストルがいなければ、まるで波間を漂う小舟のように、生きていることの不安や懊悩に揺れ続けなければならない。
カストルのいない日々は気だるく、常に何かぼんやりとした不安に怯えていた。カストルの話を聞いているとき、僕の心から黒い影が消え、心穏やかで幸せな気持ちになった。
僕たちの容姿はとても正反対だった。僕の目は稜線のように細く長くのび、抑揚のない顔立ちと低く形のいい鼻梁と相成ってとてもオリエンタル的であった。カストルの目は大きく高い鼻梁とほりの深い顔立ちで、とてもオクシデンタルだった。
僕たちの考え方も正反対だった。カストルは母を捨てた父を憎悪し、僕はカストルと出会わせてくれた父に感謝していた。カストルは日常に闘争を好み、僕は日常に平穏を愛した。
カストルは僕を失わないと安心していて、僕はカストルを失うことを常に怯えていた。
カストルは僕の気を知ってかしらずか、残酷なほど僕のことなどそっちのけで戦いにでかけてしまう。僕が止めても咎めても、カストルは僕の下に留まってくれなかった。僕は仕方なく彼についていく。
血の匂いがする戦場はいつも死がはびこっていた。
剣を受ける盾が鳴らす金属音。はじけるのは火花なのか敵の頭か胴体か。矢の飛翔する音に悲鳴に雄叫び、阿鼻叫喚。鼻につくのは血臭と傲慢な兵士の態度。
僕はいつも考える。生きるとは、死に向かうことなのだろうか。死を意識したとき、初めて人は生を実感できるという。僕は生まれる前、生きたくないと願ったが、それが死にたいとつながることはなかった。生を否定することは死を肯定することではなく、生を肯定することは死を肯定することなのだろうか。殻の中でカストルは生きたいと言った。そして死の匂いが蔓延するこここそが、より生を実感できる場所だという。そういうカストルの横顔を、僕はひどく遠く感じた。
生きたいと願ったカストルが死のそばにいて、生きたくないと願った僕が死から遠いところにいる。それは釈然としない真実だった。
カストルに襲い掛かる弓矢を叩き落として、僕は思う。
僕の身体は人より早い。僕の力は人より強い。僕の身体は人より丈夫にできている。僕は戦場で負った傷が人の何倍も速く治っていく様子を見た。
ならばカストルは。
カストルはどうなのだろう。カストルは死など望んでいない。彼が望むのは純粋たる生であり、その鼓動をより感じられる死に近づきたいだけで、死そのものになりたいわけではなかった。しかし、生はいずれ死になり替わる。生と死は表裏一体。
あれだけ眩しく生きているカストルはいずれ・・・・。僕はそれを考えるとまるで真冬の家に投げ込まれたかのような寒気を感じた。
僕は誰かがカストルを傷つけぬように必死で戦った。戦えば戦うほど彼は死に近づき、その生命は力強さを増してく。その輝く様な命の躍動の中に、僕がないがしろにしたものが、カストルが最も厭うもの、それのひたひたという足音が聞こえた。
それは僕しか聞こえない幻聴だった。だけど僕は死も生と同じぐらいいやらしく不安をかきたてる恐ろしいものだと思った。
カストルが失われなければいい。僕たちは老いを知らなかった。二人で永久に過ごせればいい。一緒ならばどんな苦しみも悲しみも耐えてみせる。だからお願い、月の女神よ、二人を永遠に引き裂かないで。
ずっと一緒にいさせてほしいと僕は毎晩、月に祈った。
祈った相手が月だったのは、どこかその風貌が僕に似ている気がしたからだった。寂しげで不安げで、決して力強くないくせに月はいつも星を圧倒していた。僕は共感と憧憬を同時に持てる相手として月を慕っていただけで、決して全ての命を育む太陽を月より下位と見下したわけではない。それなにの、その矢は太陽に向けて放たれたという。
人の作った弓矢が、神が作った太陽に届くわけもなく、なすすべもなく重力に引っ張られてそのまま地上に落ちるだけ。しかし日輪からやってくる弓矢に誰も気づかなかった。皮肉にも白鳥の尾羽から作られたその矢はカストルの赤い心臓を貫いた。さよならを告げることなく、瞬く間にカストルは失われた。
僕はカストルを失ってしまった。
ならば誰がカストルを得たのだろう。
僕は誰からカストルを取り返せばいいのだろう。
墓守が、三途の川の舟守に渡す銀貨をカストルの指に握らせる。日に焼けた肌は血の気を失い、バラ色の頬は蝋のように青白く、鍛え抜かれた身体は熱を失い、その心音は二度と鼓動を刻むことはなかった。森の女妖精たちが君の死を嘆いた分だけの花を送り、僕は涙の代わりにそれで棺を満たした。
花に抱かれ、眠るように死んでいる君は、誰もよりも美しかった。それは不死の僕が持ちえない永遠に手に入れられない美しさだった。
僕は理解したのだ。僕が生きたくないと願う理由は、僕は最初から死を与えられていなかったからだ。死のない人間が生きることができようか、いや、できるはずがない。
僕と君がもつ皮肉な補完的関係。僕は永遠であり、君は瞬きだった。
君の瑞々しい身体が、灰となり煙となったあと、やっと僕から涙がこぼれた。その涙は決して悲しみの涙ではなかった。それは君を奪ったものに対する激しい怒りと妬みだった。
僕の怒りは大地を震わせた。
僕の妬みは街を焼いた。
なぜ僕たちはこんなに正反対に生まれてしまったのだろう。どうして誰もカストルに与えられたものを僕にもくれようと思わなかったのだろう。
僕の怒りはカストルと同じものをもつ人々に向かった。死にふれれば与えられるだろうか?生に触れれば恵んでくれるだろうか?
その脈打つ心臓を突き刺し、えぐり、叩き潰す。熱い血潮を頭から浴びても不死の身体は死ぬことのなく、ましてや生の喜びもしらず、殺せば殺すほど僕が手に入れられないものを手にする者たちに僕は激しく嫉妬した。殺しても殺しても殺したりない。僕がほしいものを目の前でちらつかせる彼らを許せなかった。僕は屍を積み上げて、進んだ。狂わんばかりの嫉妬と羨慕で頭がおかしくなりながら、僕は進むしかなかった。
悔しくて泣いた。カストルを奪った不条理とやらに。
妬ましくて泣いた。僕には与えられなかったものに。
羨ましくて泣いた。僕もほしかった。
僕たちが生れた日のように、僕の双眸は涙を流す。僕にはこの世界が僕を呪っているように見えた。カストルを失い、生きても死んでもいない僕を世界は嘲笑っていた。
感情的な涙は、いつしか流れるのをやめて瞳は大きな穴が開いたような大きな空虚となった。
僕のこの生きていない身体は、何も生み出さない。夢や希望の物語をきらきらと瞳を輝かせて語ったカストル、戦場で生き生きと風のように駆け抜けるカストル。僕のぽっかりと空いた胸の穴をふさいでくれた僕の片割れ。どうして君は僕から損なわれてしまったのだろう。僕はどうしてカストルを失わなければならなかったのだろう。
全知全能の神が僕たちの父ならば、どうか僕にカストルを返してください。僕は不完全だ。壊れてしまった。補われなければならない。
どれほど長い間祈っただろう。
空を見上げると、星が輝いていた。
その瞬きは、鼻の奥がつんとなるほど懐かしさにあふれていた。
ああ、そうか。
「カストル、そこにいたんだね。」
僕はカストルを見つけた。
僕たちは二人で一つ。一つで二人。同じ卵から生まれた同じ人間。
最初から欠けてなどいない。
その瞬間、弓矢が僕の心臓を貫いた。
それでも僕はとても幸せだった。
星はとても綺麗だ。
貴方は語り終えてふと微笑みを浮かべた。
その目と同じ黒曜の髪。
消灯時間が過ぎようとしていたが、僕は貴方の目を見つめたままずっと押し黙っていた。
「ポルックスが存在し続けることで、カストルは生き続ける。貴方が存在し続ける限り私は・・・・。」
彼女の姿は陽炎のように揺らめいて、そして消えた。
僕は貴女に微笑んだ。
黄金の髪の美しい貴女。貴方はその緑の瞳で僕に微笑む。
夜が来ようとしていた。
Fin
テスト用ですが、ここまで読んでくれてありがとうございます。