序章 不運少年のいつものこと
序章 不運少年のいつものこと
今日も、また。
車に轢かれかけるところから、神嶋大翔の一日は始まる。
「うぉ――っ、ととぉ!」
大きな声とともに、大翔は横に吹っ飛んだ。
こんなことに慣れているというのも大変に不本意なのだけれど、実際そうなのだから仕方がない。ブロック塀にぶつかる勢いで逃げた大翔の脇を、すれすれで白い車が走っていく。
「もう、いい加減にしろよ! 謝るくらいしていけっていうの!」
しかし、大翔の叫びが車の運転手に届くことはない。昨日も今日も晴天なのに、なぜかある水たまりのうえを走って、まるで轢かれなかった大翔を嘲笑うかのように、水しぶきをあげていく。
「どわーっ、泥だらけじゃねぇかよ!」
辛うじて轢かれずにすんだが、その代わりにとでもいうように、跳ねあがった水がまともにズボンにかかった。泥だらけになってしまったけれど、家に引き返して着替える時間的余裕も、また替えのズボンもない。
「新品なのに……」
濡れてしまったズボンが気持ち悪いけれど、どうしようもない。特に今日は、決して遅刻はできないのだから。
「仕方ない」
ズボンのことは諦めて走り出す大翔の頭上、桜の花びらが舞う。ひらひらと、ピンクの雨のような花びらが降る中、大翔はあまりものの入っていないバックを鳴らしながら走る。
神嶋大翔、今日から高校一年生。
それは、入学式の日の出来事だった。